「情報の科学と技術」2017年3月号 (67巻3号). 特集= 図書館員のメンタルヘルス:part 2

特集:「図書館員のメンタルヘルス:part 2」の編集にあたって

年度末が近付き,仕事が忙しくストレスが溜まっていると感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。働く人の多くがなんらかのストレスを抱え,メンタル不調はもはや誰にでも起こり得る身近な問題のように感じられます。弊誌では2010年10月号で「図書館員のメンタルヘルス」という特集を一度組んでおり,大きな反響をいただきました。第2弾である今号では,メンタルヘルス問題への対応だけでなく,メンタルの不調を起こさないためのスキル,望ましい職場環境や働き方などにも目を向け,一歩進んだ形でメンタルヘルスについての理解を深めたいと考えました。
筑波大学の橋本佐由理氏には,総論としてメンタルヘルス問題と取り組みの現状を概括し,さらに遺伝子レベルで規定され性格のコアである気質と,気質理論の活用について解説いただきました。淑徳大学の小川恵氏には,保健衛生学の視点からストレスのメカニズムを解説し,ストレスへの対処法やメンタルヘルス問題の予防についてメンタルヘルスリテラシーの観点から論じていただきました。関東学院大学の千錫烈氏には,ストレスの大きな要因となりうる図書館における問題利用者の抑止策や対応策について執筆いただきました。本田技研工業株式会社の小林由佳氏には,臨床心理士の立場から,職場のメンタルヘルスケアについて,ポジティブメンタルヘルスの観点から論じていただきました。
また,メンタルヘルスという重いテーマの中で,少し気軽に読めてストレス解消に役立つような記事があっても良いのではないかという思いから,今号では,通常の論文記事のほかにコラム記事を3本組み込みました。認知行動療法研修開発センターの大野裕氏には認知行動療法を使ったストレス対応のコツについて,八洲学園大学の竹田葉留美氏にはリフレーミングという手法を使って物事をポジティブに考える方法について,池田貴儀氏にはストレス軽減やリラクゼーションの手段として日常の中で簡単に実践できるヨガと呼吸法について紹介いただきました。なおコラムについては,内容に合わせて「ですます調」としている記事もあります。
本特集で,メンタルヘルスについての理解が深まり,読者の皆様のストレスマネジメントや周囲へのケアに役立つと同時に,ちょっとしたストレス解消にも繋がれば嬉しく思います。

(会誌編集担当委員:吉井由希子(主査),田口忠祐,中村美里,長屋俊)

気質理解によるメンタルヘルス不調の予防と人間関係ストレスの軽減

橋本佐由理 情報の科学と技術. 2017, 67(3), 98-103. http://doi.org/10.18919/jkg.67.3_98
はしもと さゆり 筑波大学
〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学 総合研究棟D510 E-mail: hasimoto@taiiku.tsukuba.ac.jp        (原稿受領 2017.1.18)
人には,性格のコアと言われる気質があり,それは遺伝子レベルで規定されているため,一生変わらないものである。メンタルヘルス不調を予防するには,自分の気質の良さを理解し,その気質の弱点を補うためのセルフケア法を知ることが有効である。また,労働者の強いストレスとなっている人間関係の問題は,気質の違いによるものが大きい。人間関係の改善や対人ストレスの軽減のためには,自分とは異なる気質を持つ他者を理解し,他者との関わり方を知ることが必要である。そこで本稿では,気質理解によるメンタルヘルス不調の予防法と人間関係ストレスの軽減法を紹介する。
キーワード:人間関係ストレス,メンタルヘルス,気質,ストレスマネジメント,セルフケア

メンタルヘルスリテラシーからみたストレスマネジメント

小川  恵 情報の科学と技術. 2017, 67(3), 104-109. http://doi.org/10.18919/jkg.67.3_104
おがわ さとし 淑徳大学総合福祉学部 教育福祉学科
〒260-8701 千葉県千葉市中央区大巌寺町200 E-mail: ogawas@soc.shukutoku.ac.jp
(原稿受領 2016.11.27)
精神保健学の視点から,職務の負担が生み出すメンタルヘルスの問題を,就労環境から受ける生理学的影響と心理社会的負担感の影響から分析した。仕事忌避感が自己中心性を招き,対人ストレスと捉えることが,職場の緊張を増す構造を検討し,メンタルヘルスリテラシーの視点からうつ病とバーンアウトを予防する働き方を考察した。負担感は必ずストレスコーピングを招くが,準備がいる良いコーピングより容易な悪いコーピングを無自覚にとる結果,不適切な生活習慣が疲労蓄積や生活習慣病を生むメカニズムを見,ストレスマネジメントの基本を健康生活習慣とコーピングの自覚と選択であるとし,これを図書館員固有のストレス構造において検討した。
キーワード:健康増進,メンタルヘルスリテラシー,ストレスマネジメント,健康生活習慣,ストレスコーピング,良いストレスコーピング,悪いストレスコーピング,バーンアウト,リアリティショック型バーンアウト,アイデンティティ喪失型バーンアウト

図書館における問題利用者への抑止策:リスクマネジメント・利用規則・ホスピタリティ

千  錫烈 情報の科学と技術. 2017, 67(3), 113-120. http://doi.org/10.18919/jkg.67.3_113
せん すずれつ 関東学院大学 社会学部
〒236-8502 横浜市金沢区釜利谷南3-22-1 E-mail: sen@kanto-gakuin.ac.jp        (原稿受領 2017.1.3)
図書館は不特定多数が利用する施設であり安心安全でなければならない。しかし,近年の図書館では迷惑行為や犯罪行為を行う「問題利用者」が問題となっている。本稿では①リスクマネジメントやリスクアセスメントの策定によるリスク対応の可視化,②利用規則による抑止,③図書館職員のホスピタリティを向上させるサービスコードの3つの方策を示して問題利用者の抑止策について検討していく。さらには実際に問題行動が起きた際の対応策として,遭遇する確率が高い怒った利用者を事例として挙げ,6つの対応スキルについて紹介する。
キーワード:図書館,問題利用者,問題行動,リスクマネジメント,リスクアセスメント,危機管理,利用規則,ホスピタリティ,怒りへの対処法

職場のポジティブメンタルヘルス:個人と組織のwell-beingを高めるアプローチ

小林 由佳 情報の科学と技術. 2017, 67(3), 123-127. http://doi.org/10.18919/jkg.67.3_123
こばやし ゆか 本田技研工業株式会社人事部人事ブロック 臨床心理士 東京大学医学系研究科精神保健学分野
〒107-8556 東京都港区南青山2-1-1 E-mail: yukakoba@m.u-tokyo.ac.jp        (原稿受領 2017.1.17)
働く人のメンタルヘルスケアにおいて,これまで事業所の取組みは徐々に広がっているものの,不調を呈した一部の人に向けた取り組みのみでは全体の悪化に歯止めをかけることは難しいことが実態からも示されてきた。不調者対応に加えて,今後は組織全体の健康度を向上させることによって,働く人の働きがい,幸福,生産性,不調者の減少につなげていくポジティブメンタルヘルスの観点が重要となる。組織全体の健康度を向上させるためには組織の心理社会的資源を個人と組織の両面から高めることが必要であり,この取り組みを通して多様な人材(立場,性別,年代,健康状態など)が受け入れあえる状態を目指していくことが望まれる。
キーワード:ポジティブメンタルヘルス,組織資源,職場環境改善,ストレスチェック,ウェル・ビーイング

営業活動支援のための情報提供の検討

3i研究会 第3期大阪Aグループ 都築 涼香*1,大森 照夫*2,山本 光三*3,岡 紀子*4,杉山 典正*5,出口 哲也*6,仲 美津子*7,松原 智子*8 情報の科学と技術. 2017, 67(3), 130-134. http://doi.org/10.18919/jkg.67.3_130
*1つづき さやか コーデンシ株式会社
*2おおもり てるお 東洋紡株式会社
*3やまもと こうぞう 山本情報技術研究所
*4おか のりこ OKA情報技術コンサルテーション
*5すぎやま のりまさ 大阪工業大学 知的財産学部
*6でぐち てつや 神鋼リサーチ株式会社
*7なか みつこ 住商ファーマインターナショナル株式会社
*8まつばら ともこ 株式会社アイピックス
〒611-0041 京都府宇治市槙島町十一の161 Email: s-tsuzuki@kodenshi.co.jp        (原稿受領 2016.9.30)
本研究は,新市場参入を検討している営業部隊のための効果的な情報分析に関するものである。下町ロボットと名付けられた仮想の会社は高感度加速度センサーを製造販売しており,これを武器に成長が期待される介護・支援ロボット市場へ参入するケースを想定した。加速度センサーの販売先として可能性が高い企業6社を選定し,具体的な営業活動をイメージしながら必要な情報を収集・分析した。本稿では,従前の情報分析の提供先としてあまり馴染みのなかった営業部隊に着目し,営業部隊の営業戦略支援のための具体的な情報提供手法について報告する。
キーワード:営業活動,新規市場参入,介護ロボット,加速度センサー,顧客分析,情報提供

次号予告

2017.4 特集=「研究評価」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論「研究評価の拡大と評価指標の多様化」
  • 各論1「研究分析・評価ツールの比較とその活用」
  • 各論2「論文の評価指標(IF,h-index,Altmetrics等)」
  • 各論3「大学での検討事例・具体例」
  • 各論4「横浜国立大学における研究力分析の取り組み」
  • 各論5「英国における研究評価事業」
  • 連載:情報分析・解析ツール紹介

など