「情報の科学と技術」2017年6月号 (67巻6号). 特集= 海外における日本研究

特集:「海外における日本研究」の編集にあたって

日々図書館サービスに携わっていると,時々思いもかけず遠く海外から所蔵資料についての問い合わせが届くことがあり,一瞬驚かされることがあります。あるいは,目録も公開されていない特殊文庫資料についての照会が外国の図書館から届き,その探索に四苦八苦するということもありました。そして,そのようなことがあると,海外では日本に関する様々な研究が行われていて,多種多様な資料が求められているのだなと,当たり前のことを痛感させられます。(日本の研究者や学生が,いろいろな国で刊行された資料を求めて図書館に相談に来ることを考えると,それは当たり前のことではありますが。)
一方で,海外で日本研究を志す研究者は減少傾向にある,日本と比べ中国や韓国の資料(電子コンテンツ)は入手しやすい(=日本資料は入手しづらい)といった話を聞くことも最近は多くなりました。ただ,そういった危機感を感じつつも,問題が大きなものであるだけに具体的な対応策や改善方法については茫洋としていると感じている人も多いのではないでしょうか。
そこで,海外における日本研究の最新動向を中心として,海外の日本研究あるいは日本研究支援に様々な立場で携わっている方の“いま”を捉えることにより,日本研究に従事する人への支援の在り方を考えられる特集を企画しました。
総論には,『本棚の中のニッポン』の著者でもある国際日本文化研究センターの江上敏哲氏に,海外における日本研究の現状等について的確にまとめていただきました。それに続き,チューリッヒ大学の神谷信武氏にはチューリッヒ大学アジア・オリエント研究所図書館における日本研究支援の実際について,(株)ネットアドバンスの田中政司氏には,「ジャパンナレッジ」の海外販売戦略を中心とした日本資料の海外受容について,北海道大学附属図書館の相原雪乃氏には,グローバルなILL/DDサービスを実現するためのGIF(Global ILL Framework)プロジェクトについて,国際交流基金ライブラリーの栗田淳子氏には,海外の日本研究支援等を事業の中心とする国際交流基金の取り組み及びライブラリーでの研究支援について,東京国立近代美術館の水谷長志氏には,海外日本美術資料専門家(司書)の招へい事業であるJAL プロジェクトについて,それぞれ執筆いただきました。
今回の特集で,海外における日本研究の現状をお伝えでき,そして日本研究支援において自分にできることは何か?ということを考えるきっかけになりましたら,委員一同大変嬉しく思います。

(会誌編集担当委員:中村美里(主査),長屋俊,久松薫子,水野翔彦)

海外における日本研究と図書館:概観および近年の動向・課題と展望

江上 敏哲 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 284-289. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_284
えがみ としのり 国際日本文化研究センター
〒610-1192 京都市西京区御陵大枝山町3-2 E-mail: egami@nichibun.ac.jp        (原稿受領 2017.3.22)
本稿では,海外における日本研究と図書館について概説する。前半では,海外における日本研究,図書館とその周辺について,それらがどのような意味を持つかを概観する。後半では,特に近年の動向と事例・文献を追いながら,現状と課題,今後の展望を考える。そのキーワードは,在外資料,デジタルアーカイブ,ポータル,ウェブ・スケール・ディスカバリー,デジタルヒューマニティーズ,和本,コラボレーション,研修,アジア,英語/ローマ字であり,それらは「日本研究とは何か」という問いにつながる。
キーワード:日本研究,日本研究図書館,アウトリーチ

チューリッヒ大学における,日本研究支援の現状

神谷 信武 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 290-295. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_290
かみや のぶたけ チューリッヒ大学アジア・オリエント研究所図書館
Zürichbergstrasse 4, 8032 Zürich, Switzerland E-mail: nobutake.kamiya@aoi.uzh.ch        (原稿受領 2017.3.21)
チューリッヒ大学アジア・オリエント研究所図書館(以下AOI図書館)は,スイス国内で最も日本関連リソースを収集・所蔵している図書館と言える。AOI図書館は大学図書館に属するため,学内の日本研究者のサポートをすることは当然であるが,日本学を学ぶ学生への支援も重要な目的として考えている。この論文では,上述の研究・教育の支援へのAOI図書館の具体的な取り組みを,リソース収集,検索システムの質の向上,情報リテラシーという3つの観点から詳述する。
キーワード:チューリッヒ大学,日本学支援,ディスカバリーシステム,情報インフラストラクチャー

海外における日本語電子資料の課題と展望~ジャパンナレッジの視点から~

田中 政司 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 296-300. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_296
たなか まさし 株式会社ネットアドバンス
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-30 E-mail: m-tanaka@netadvance.co.jp        (原稿受領 2017.3.21)
日本語の電子資料の少なさについてはすでに様々な場所で議論がなされている。著者は「ジャパンナレッジ」の運営に携わって今年で18年を迎えるが,その間,海外の図書館,日本資料に関わる方々から,資料の充実について切実な要望を受けてきた。一方で,国内の出版社とのやり取りを通じ,ビジネス的な側面から電子化が思うように進まない実態も目の当たりにしてきた。ちょうど両者の間で,妥協点を見出すような仕事をしてきたのではないかと感じている。そうした立場から,海外における日本語電子資料の課題と展望を述べさせていただきたい。
キーワード:電子資料,ジャパンナレッジ,データベース,海外,日本語,ディスカバリー,MARC,メタデータ,AAS,EAJRS

GIF(Global ILL/DD Framework)プロジェクトの現在について

相原 雪乃 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 301-304. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_301
あいはら ゆきの 北海道大学附属図書館
〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目        (原稿受領 2017.3.21)
GIF(グローバルILL/DDフレームワーク)プロジェクトについて,日米,日韓間の現在の運用状況をGIFプロジェクトチームの活動内容や統計グラフと共に報告する。日米間では日本からの依頼件数が,日韓間では韓国からの依頼件数が受付件数を上回っている。さらにISOプロトコルの更新を機に見直しが図られた本プロジェクトについて,関係組織における検討の経緯と示された今後の方向性について報告する。
キーワード:大学図書館,国立情報学研究所,国外ILL,GIFプロジェクト,北米日本研究図書館資料調整協議会,韓国教育学術情報院,国公私立大学図書館協議会,連携・協力推進会議

日本研究支援と図書館サービス:国際交流基金の活動から

栗田 淳子 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 305-308. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_305
くりた じゅんこ 独立行政法人国際交流基金ライブラリー
〒160-0004 東京都新宿区四谷4-4-1        (原稿受領 2017.3.21)
海外での日本研究を支援する日本の機関はいくつか存在するが,政府関係の機関のひとつとして独立行政法人国際交流基金があげられる。本稿では国際交流基金が実施する日本研究支援事業の概要を紹介し,機関に付設している図書館の活動ならびに研究者と日本情報の仲介者として日本の情報提供・情報アクセスへの課題について考察する。
キーワード:日本研究,日本情報,国際交流基金図書館,情報仲介者

JALプロジェクト「海外日本美術資料専門家 (司書) の招へい・研修・交流事業」2014-2016:3年間の総括としてのアンサー・シンポジウムおよび 「提言」 への 「応答」 としての 「提案」 について

水谷 長志 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 309-314. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_309
みずたに たけし 東京国立近代美術館
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1 E-mail: takeshim@momat.go.jp        (原稿受領 2017.3.18)
東京国立近代美術館は国立新美術館,東京文化財研究所ほかと2014-2016年にわたりJALプロジェクト「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」を行い,プロジェクト最終日には,「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」をテーマとするワークショップを開催した。結果,海外からの日本への要望を踏まえ,日本からの情報発信をより高める方策について,一層の努力と議論の必要を確認した。2016年のWSを踏まえてのアンサー・シンポジウム(2017年2月3日開催)が貴重なステップとして機能し,「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」を策定して,3年間のJALプロジェクトは収束した。
キーワード:JALプロジェクト,海外日本美術資料専門家,日本研究,日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言,日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案,東京国立近代美術館

『見せる場』としての東京オリンピック~Open Dataでココまでできる~

3i研究会 第3期東京Aグループ 原田 雅子*1,大久保 三四朗*2,高 仁子*3,田村 隆生*4,森 敦子*5,山口 恵美子*6 情報の科学と技術. 2017, 67(6), 315-321. http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_315
*1はらだ まさこ 旭化成株式会社
*2おおくぼ さんしろう 株式会社ジー・サーチ
*3たかし ひろこ 昭和電工株式会社
*4たむら たかお 出光興産株式会社
*5もり あつこ メタウォーター株式会社
*6やまぐち えみこ 株式会社 日本電気特許技術情報センター
〒101-8101 千代田区神田神保町1-105神保町三井ビル E-Mail: harada.mw@om.asahi-kasei.co.jp        (原稿受領 2016.10.21)
オリンピックの経済効果は,競技会場新設や観戦関連消費等の「直接効果」よりも,都市インフラ整備や観光需要増加による「間接効果」が大きいと試算されている。そこで本稿は,東京オリンピック組織委員会のプロジェクト長から要請を受けたプロジェクトメンバーという設定で,東京オリンピックを『見せる場』として,インフラ輸出,観光需要を増加すべく,体験・体感を通して訪日外国人にアピールすべき日本技術・文化を検討した。アピールすべき日本技術・文化の選定は,「マーケットイン」の視点で訪日外国人のニーズを重視した。ニーズ抽出にはグローバルなオープンデータを活用し,対応する日本技術シーズは特許・学術文献解析と企業情報から選定,文化シーズについては日本政府のクールジャパン戦略や各省庁の情報から選定し,日本技術・文化の体験・体感方法までを総合的に検討した。
キーワード:オープンデータ,テキストマイニング,特許解析,学術文献解析,ニーズ/シーズ,オリンピック,訪日外国人,東南アジア,中国,インフラニーズ,防災,ヒートアイランド,観光需要,日本庭園

次号予告

2017.7 特集=特許情報と人工知能(AI)
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論
  • ビッグデータ時代における特許情報調査への人工知能の活用
  • 人工知能エンジン「KIBIT」を用いた自然言語処理と特許調査への応用
  • AIの要素技術としての機械学習,その特許情報への適用
  • 機械による特許分析の課題とアプローチ

など