「情報の科学と技術」2017年4月号 (67巻4号). 特集= 研究評価

特集:「研究評価」の編集にあたって

2017年度の始まりは「研究評価」特集でお届けいたします。

平成25年度から開始した文部科学省の「研究大学強化促進事業」の中では,2000年以降の日本の論文数等の国際的シェアの低下を背景に,大学等における研究体制・研究環境の改善,研究マネジメント改革などによる国際競争力の向上が課題として挙げられています。また,各大学や研究機関においても,研究資金獲得のために研究活動を様々な角度から「評価」し,成果を内外にアピールできる形にすることが求められており,科学研究費助成事業(科研費)をはじめとした外部資金の積極的な導入,研究経営システムの強化を軸とした人材育成戦略に高い関心が集まっています。
一方,インパクトファクターへの偏重を代表例に,適切な評価指標を設定することの困難さについては,これまでも様々な指摘がなされてきました。2008年に日本学術会議 研究評価の在り方検討委員会から出された報告書においては,ピアレビューの限界,評価対象に応じた適正な評価基準,公正性・透明性,基盤整備の観点が挙げられています。新たな事実を追及する「研究」という行為は,誰がどのように評価すべきなのでしょうか。

今回の特集では,「研究評価」の意義や歴史を改めて振り返りつつ,現状を把握し各機関での研究支援に結びつけたい,という趣旨のもと,6人の方々から論考をいただきました。総論として,林隆之氏(大学改革支援・学位授与機構)から研究評価対象の拡大,評価指標の多様化について論考をいただきました。続いて,佐藤郁哉氏(同志社大学商学部)からは,研究評価事業が研究の現場に与える影響につき,英国の事例をもとにした論考をいただきました。鳥谷真佐子氏(金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構)からは,さまざまな研究力分析・評価ツールの概要や特性とその限界について詳細なご解説をいただきました。孫媛氏(国立情報学研究所)からは,研究評価のための指標とその限界についての論考をいただきました。森倉晋氏(電気通信大学研究推進機構)と矢吹命大氏(横浜国立大学研究推進機構)からは,単科大学と総合大学というそれぞれ異なる立ち位置から,研究評価の現場における特徴的な実践例をご紹介いただきました。

本特集が,研究支援部門の方々のみならず広く関わりのある方々にとって,「研究」そのものへの理解を深めつつ,今後の評価のあり方を考える一助となることを期待します。

(会誌編集担当委員:南山泰之(主査),小山信弥,吉井由希子,水野翔彦)

研究評価の拡大と評価指標の多様化

林  隆之 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 158-163. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_158
はやし たかゆき 独立行政法人大学改革支援・学位授与機構
〒187-8587 東京都小平市学園西町1-29-1        (原稿受領 2017.1.21)
研究評価は,過去には研究者個人の研究業績や研究プロジェクトをピア(同分野の専門家)が科学的知識の妥当性から評価することが中心であった。しかし,研究活動自体が多様化するとともに,機関や組織による研究マネジメントの重要性が増し,研究成果による社会・経済的効果も期待されるようになる中で,研究評価の対象は拡大し,評価指標は多様化している。本稿では,研究評価の現状を概観することを目的に,研究評価の種類,大学等の機関の研究評価が導入された政策的背景,研究評価の方法の考え方,指標の多様性の必要性,インパクト評価の導入と課題,研究マネジメントへの活用について説明する。
キーワード:研究評価,指標の多様化,運営費交付金,実績に基づく資金配分,研究のインパクト,研究経営

英国における研究評価事業:制御不能の怪物(モンスター)か苦い良薬か?

佐藤 郁哉 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 164-170. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_164
さとう いくや 同志社大学商学部
〒602-8580 京都府京都市今出川通烏丸東入        (原稿受領 2016.12.9)
本稿では,公的研究資金の選択的配分の前提としておこなわれる研究評価事業によってもたらされる意図せざる結果について検討する。英国の研究評価事業を事例として取り上げ,同事業が研究活動テーマや方法論の均質化に結びついていく可能性について見ていく。焦点をあてて検討するのは,商学・経営学の領域における論文化の傾向である。この領域では,研究評価事業に際して提出される研究成果においてジャーナル論文の占める比率が急速に増加していった。これは,同領域が偏狭な業績主義によって席捲され,「ジャーナル駆動型リサーチ」が優勢になってしまう可能性を示唆するものである。
キーワード:英国,研究評価制度,RAE,REF,意図せざる結果,偏狭な業績主義,論文化

研究分析・評価ツールの比較とその活用

鳥谷 真佐子 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 171-178. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_171
とりや まさこ 金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構
〒920-1192 金沢市角間町 金沢大学角間キャンパス本部棟4階 E-mail: toriya@staff.kanazawa-u.ac.jp        (原稿受領 2017.1.23)
大学等研究機関の研究力分析・評価には,抄録・引用文献データベース,研究力分析・評価ツール,研究者プロファイリングツールという,大きく分けて3つにカテゴライズされるサービスが利用されている。これら3つのカテゴリに属する各種サービスについての比較紹介を行い,3者の関係性について説明する。また研究力分析・評価を行うにあたっての実質的な課題や可能性,今後必要な機能などについて考える。最後に,研究力分析・評価結果を活用し研究力強化を進めるための,機関内での情報の整備や研究力強化施策への展開について論じる。
キーワード:研究力分析,研究評価,計量書誌学,URA,研究分析ツール

研究評価のための指標:その現状と展望

孫  媛 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 179-184. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_179
そん えん 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2 E-mail: yuan@nii.ac.jp        (原稿受領 2017.2.20)
研究開発や資金獲得における世界的な競争激化を背景に,国,研究機関,研究者個人等さまざまなレベルで,研究成果の定量的な評価が行われている。そのためにインパクトファクター,h-index,分野標準化した指標など多様なビブリオメトリックス指標が開発され,世界中で広く利用されている。一方,ICTの著しい発展により情報流通形態が大きく変化し,論文のダウンロード数やソーシャルメディアでの取り上げられ方等によって研究の影響度を指標化するオルトメトリックスへの注目と期待が高まっている。本稿では,いくつかのビブリオメトリックス指標と利用時の注意点を紹介した後,オルトメトリックスとその問題点について考察する。
キーワード:研究評価,ビブリオメトリックス,引用統計,インパクトファクター,オルトメトリックス,論文単位の評価指標,ソーシャルメディア

横浜国立大学における研究力分析の取り組み-科研費採択状況に着目した分析事例の紹介

矢吹 命大 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 185-189. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_185
やぶき のぶひろ 横浜国立大学研究推進機構
〒240-8501 神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-5共同研究推進センター内 E-mail: yabuki-nobuhiro-gw@ynu.ac.jp        (原稿受領 2017.1.20)
横浜国立大学は理工系,人文社会系,教育系及びその融合型の学部・大学院で構成される医学系部局を持たない中規模総合大学(学生数約1万人,教員数約600人)である。URAが設置されて以来,研究IRへの取り組みも活発に行われ,引用文献データベースを用いた大学の強み・特徴の分析が行われてきた。一方,横浜国立大学の研究活動には,引用文献データベースでは見えづらい分野も多々含まれているため,そういった分野も含めた分析を可能とする視点が求められていた。本稿では,この課題への取り組みとして,広い研究分野を網羅し,他機関の動向も知ることができる科研費の採択状況に着目した分析事例を紹介し,その有効性と限界を論じる。
キーワード:Institutional Research,研究IR,研究力評価,科学計量学,科学研究費助成事業,データ共有,オープンデータ,URA

電気通信大学における研究力評価システム構築への取り組み

森倉  晋 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 190-193. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_190
もりくら すすむ 国立大学法人 電気通信大学 研究推進機構 研究企画室
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1        (原稿受領 2017.2.13)
大学等の研究力を強化するためには,研究者の能力の強化や育成に加えて,研究施設や設備の拡充と研究支援体制の強化,十分な研究資金の獲得,さらには産業界との共同研究を通じた技術移転など,研究体制や研究環境の整備,および研究マネジメントの改革が不可欠である。本論文では,電気通信大学の経営理念や基本方針等に基づき,大学のミッションを果たすために取り組んでいる“研究力評価システム”の構築について報告する。まず,研究システムをモデル化し,研究力は将来への期待値である“研究遂行力”と,過去の実績である“研究成果”の相乗効果で表現されることを提案した。それぞれの構成要素を可能な限り定量的に評価することで,組織全体の研究力を明確化することが可能となる。
キーワード:大学,研究力,評価システム,研究遂行力,研究成果,指標

次世代ニーズを予測するための解析手法の研究~シャンプー開発を例として~

3i研究会 第3期大阪Bグループ 酒本 裕明*1,法宗 布美子*2,有賀 康裕*3,左右内 敏浩*4,丹 美幸*5,都築 泉*6 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 194-201. http://doi.org/10.18919/jkg.67.4_194
*1さけもと ひろあき 堂島特許事務所
*2のりむね ふみこ 住友化学株式会社
*3ありが やすひろ インパテック株式会社
*4さうち としひろ 特許業務法人R&C
*5たん みゆき 田岡化学工業株式会社
*6つづき いずみ HITサービス研究所
〒530-0002 大阪市北区曽根崎新地二丁目5番3号 堂島TSSビル4階 E-Mail: hsakemoto@dojimapat.jp        (原稿受領 2016.9.30)
商品開発ではニーズの把握が非常に重要である。そのため,将来のニーズ(例えば次のブーム)を予測する手法が今後益々必要とされる。そこで,本研究では,次世代商品ニーズの予測手法を確立することを目的とした。題材には身近な商品であるシャンプーを選択し,次に来るシャンプーブームを予測した。今回,各年代に発生したブームについて,出願件数の経年変化の数値に対して統計処理を行なう手法を試みた。その結果,いずれのブームにもブーム発生以前に前兆となるシグナルが確認された。この手法を用いて,種々の手法により抽出したニーズ候補を評価し,次世代商品ニーズ群の選定を試みた。
キーワード:ニーズ予測,将来予測,次世代ニーズ,予測手法,解析手法,シャンプー

次号予告

2017.5 特集=「第13回情報プロフェッショナルシンポジウム」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 特別講演を聴講して
  • トーク&トークを聴講して
  • 3i研究発表を聴講して
  • ポスター発表を見て
  • プロダクトレビュー
  • 連載:情報分析・解析ツール紹介

など