「情報の科学と技術」2016年6月号 (66巻6号). 特集= 分類をみつめなおすpart2

特集:「分類をみつめなおすpart2」の編集にあたって

今月号の特集タイトルは「分類をみつめなおすpart2」です。
2008年2月号の特集「分類をみつめなおす」から約8年ぶりに,分類を特集することとなりました。当時の前書きには,次のように書かれています。「分類の思想は現在も,また今後も,情報の整理・利用にとって価値のあるものなのではないでしょうか。もっとわれわれの気づいていない活用の可能性があるのではないでしょうか。この特集では,分類の思想についてあらためて見つめなおしたいと考えました。」
さまざまな分野で,その内容に応じた分類が存在し,情報を整理・利用する際に大きな役割を果たしています。一方,社会のネットワーク化に伴い,従来の統制語による分類ではなく,ユーザーが自然語で自由にタグを付与するソーシャルタギングに代表されるフォークソノミーや人工知能による分類など,新しい技術が生まれ新たなサービスへとつながっています。今回は2008年2月号に続き,情報分野における分類をみつめなおし,あらためて分類の意義や利活用を考えることを目的に企画を立てました。
総論では,筑波大学の緑川信之氏から,映画や血液型などを例に分類の全体像と区分原理についてご考察いただき,オントロジーと分類体系の比較を通して,「分類」という言葉が意味する多様性について論じていただきました。
つづいて,総務省政策統括官(統計基準担当)付統計審査官室の岩橋正樹氏と,角田特許事務所の角田朗氏からは,既存の分類について解説していただきました。岩橋氏にはふだん私たちが何気なく利用している4つの標準統計分類(日本標準産業分類,日本標準職業分類,日本標準商品分類,疾病,傷害及び死因の統計分類)について,各分類の「考え方」を中心にご説明いただきました。角田氏からは特許分類について,その必要性から各国の事情,実際に分類を活用する際の注意点まで基本から実務に役立つ内容をご執筆いただきました。
また,科学技術・学術政策研究所の小野寺夏生氏より,論文データベースの収録記事における代表的な主題分類の解説とその比較,そして情報分析を指向した主題分類の内容と課題について,詳細に分析していただきました。
最後に,広島市立大学大学院の難波英嗣氏からは,学術論文を3種類のカテゴリに自動分類するという事例をもとに,人工知能を使った文書分類についてご紹介いただきました。
本特集が,情報を「分ける」ことに興味・関心のある方にとって,少しでもお役に立てれば幸いです。

(会誌編集担当委員:畑野繭子(主査),長屋俊,福山樹里,古橋英枝,南山泰之)

分類をみつめなおす:区分原理に注目して

緑川 信之 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 254-259. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_254
みどりかわ のぶゆき 筑波大学図書館情報メディア系
〒305-8550 つくば市春日1-2 筑波大学春日エリア
Tel. 029-859-1365 E-Mail: midorika@slis.tsukuba.ac.jp        (原稿受領 2016.3.21)
分類といってもその意味するところは多様である。まず2章で分類の全体像を概観した。3章では,分類の最も基本となる区分原理について,血液型の分類,学問分類,生物分類を例にして考察した。4章では,ネットワーク時代における分類を考えるために,オントロジーを分類体系と比較して検討した。その結果,オントロジーにおいても区分原理が基本であることが明らかとなった。このように,分類においてもオントロジーにおいても最も基本となるのが区分原理であるが,区分原理自体については深く検討されて来なかったように思われる。区分原理に焦点をあてた総合的な研究が期待される。
キーワード:分類,区分原理,学問分類,生物分類,分類体系,オントロジー

公的統計の作成・表示に用いる標準統計分類

岩橋 正樹 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 260-265. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_260
いわはし まさき 総務省政策統括官(統計基準担当)付統計審査官室(統計基準・産業連関表・調査技術担当)
〒162-8668 新宿区若松町19-1
E-Mail: miwahashi@soumu.go.jp        (原稿受領 2016.3.22)
個人も企業も政府も,直接的あるいは間接的に社会全体とかかわりを持ち,日々,意思決定を行っている。適切な意思決定には,正確な情報に基づく状況判断が欠かせない。政府は,国民にとって合理的な意思決定を行うための重要な情報である公的統計を作成し提供している。日本標準産業分類などの標準統計分類は,各種公的統計相互の比較可能性を高め,統計の利用向上を図ることを目的に定められた統計分類である。
キーワード:産業分類,職業分類,商品分類,生産物分類,疾病分類,統計法

特許分類について

角田  朗 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 266-271. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_266
つのだ あきら 角田特許事務所
〒130-0022 東京都墨田区江東橋4-24-5協新ビル402
Tel. 03-6659-9420 E-Mail: tsunoda@tsunoda-patent.com        (原稿受領 2016.3.22)
初めて特許業務に関わる方や,これから本格的に特許調査に取り組む方に向け,特許分類とはどのようなものか平易に解説した。特許分類をイメージしやすくするため,特許分類を生物学の分類と比較した。次に,国際特許分類についてその概要を説明した。我が国独自の特許分類であるFI,ファセット分類記号,Fタームについても,国際特許分類と比較しながら,その概要を解説した。分類付与の実際についても説明した。加えて,外国の特許分類であるCPCとUSクラスについても簡単に紹介した。最後に,特許分類の調べ方と分類を使って検索する際に,知っておくべき注意点を解説した。
キーワード:国際特許分類,IPC,FI,Fターム,特許分類の付与,発明主題

論文データベースにおける主題分類-情報分析への利用の視点から-

小野寺夏生 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 272-276. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_272
おのでら なつお 文部科学省科学技術・学術政策研究所
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-2
Tel. 03-6733-4910 E-Mail: nt.onodera@y5.dion.ne.jp        (原稿受領 2016.3.17)
論文データベースの収録記事に付与される主題分類は検索キーとして使われる他,情報分析において重要な役割を果たす。主要なデータベースで使われている主題分類の概要を示し,その中でも情報分析によく利用されるWeb of Science Core Collection,Essential Science Indicators,Scopusの3つの分類の特徴を述べるとともにそれらの比較を行う。その後,情報分析を指向して提案された主題分類について解説する。それらは,人的な考察に基づく分類とアルゴリズム的な分類(主に引用関係による)に大別される。
キーワード:データベース,主題分類,情報分析,学術雑誌,論文,引用データ

人工知能による文書分類

難波 英嗣 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 277-281. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_277
なんば ひでつぐ 広島市立大学大学院情報科学研究科
〒731-3194 広島市安佐南区大塚東3-4-1
Tel. 082-830-1584 E-Mail: nanba@hiroshima-cu.ac.jp        (原稿受領 2016.3.28)
近年,人工知能はコンピュータ囲碁や将棋,自動車の自動運転など,様々な分野で目覚ましい発展を遂げており,その成果をインターネット,新聞,テレビなどで目にする機会も少なくない。自然言語処理(NLP)は人工知能の一分野であり,人間が日常的に使っている言葉(自然言語)をコンピュータに処理させる技術のことを指す。人間が文書を分類する作業を,コンピュータで自動化することは,自然言語処理における代表的な研究課題のひとつである。本稿では,コンピュータによる文書分類に焦点を当て,様々な研究事例やその仕組みを紹介する。
キーワード:自然言語処理,文書分類,機械学習,フィルタリング,k近傍法,ナイーブベイズ分類器

企業における経営課題の解決施策提案~ドラッグストアチェーンA社を事例として~

米陀 正英1),井脇  俊2),小泉 真理3),今野奈津子4)
高野奈菜子5),原田 雅子6),山根 深一7),宮城島匡章8) 情報の科学と技術. 2016, 66(6), 282-288. http://doi.org/10.18919/jkg.66.6_282
1)よねだ まさひで 科学技術振興機構
2)いわき まさる 綜研化学株式会社
3)こいずみ まり 筑波大学大学院
4)こんの なつこ 株式会社ジー・サーチ
5)たかの ななこ ダイキン工業株式会社
6)はらだ まさこ 旭化成株式会社
7)やまね しんいち 東レ株式会社
8)みやぎしま まさあき 株式会社日本能率協会総合研究所
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ        (原稿受領 2016.3.18)
企業の経営課題解決において,企業内部で解決が困難な場合に外部の第三者が依頼を受けて問題を解決するケースがある。その場合,社外の立場ならではの既存概念に縛られない提案力が求められる。そこで我々は,社外コンサルタントとしてドラッグストアA社から依頼を受けた想定で,データベースと分析ツール等を利用して情報収集および課題整理を行い,課題解決を支援することを試みた。
実施範囲は,①調査・情報収集,②課題の明確化,③仮説構築,④仮説検証,⑤解決策提案までとした。現状分析のための情報をデータベースから収集することで,業界,自社,競合の状況が整理される。次に分析ツールにより財務や経営戦略の観点から企業課題を明確化し,公開情報のみに基づくシナリオ分析で課題解決策を提案した。
キーワード:課題解決,ドラッグストア,データベース,分析ツール,財務,市場占有率,M&A,新規事業,ブランド,商標

次号予告

2016.7 特集=「特許訴訟を調べる」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 最近の動きと特許調査または発明の開示との関係
  • 知財審判・訴訟情報調査入門~無料入手可能なソースを中心に
  • 医薬・化学分野の判例情報の活用について
  • 特許訴訟情報の取得
  • 米国特許訴訟判例の調査方法と判決文の読み方
  • 3i研究会報告
  • 連載:インフォプロのための著作権入門,情報分析・解析ツール紹介

など