「情報の科学と技術」2015年12月号 (65巻12号). 特集= オープンデータ

特集:「オープンデータ」の編集にあたって

2015年最後となる特集号は「オープンデータ」です。
データを技術的・制度的な面から自由に使えるデータを増やし,データの公開を促進していくこのオープンデータという取組みは様々な分野で注目を集めています。
本特集では先行する政府・地方自治体でのオープンデータに関する動向を総論としてまとめていただきました。続く各論では,学術情報流通の分野での動向,データ利用におけるライセンスの国内外動向,歴史資料のデジタル化とオープンデータ化に関する論考,データ公開事例として政府統計のオープンデータ化,人文学資料のオープンデータ公開事例及び活用事例についてそれぞれご執筆いただきました。
日々,<データの海>を回遊しているインフォプロにとって,このオープンデータという潮流は新しくもあり,実はいつも身近にあった課題/可能性を再認識するきっかけともいえるでしょう。データを生み出し,共有・活用しているみなさまにとって,本特集が少しでもお役に立てれば幸いです。
(会誌編集担当委員:長屋俊(主査),中村美里,鳴島弘樹,畑野繭子,南山泰之)

オープンデータの動向とこれから

庄司 昌彦 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 496-502.
しょうじ まさひこ 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授
〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル2階
Tel. 03-5411-6735 E-Mail: shoji@glocom.ac.jp        (原稿受領 2015.11.9)
近年,公共財としてのデータを増やして幅広い活用を促す「オープンデータ」に関する政策と運動が世界的に広がり続けている。本稿ではまず,オープンデータとは何かという定義やそれを裏付けるための利用規約をめぐる議論を紹介する。そして,オープンデータに関する国際組織の動向や国内外の政府・自治体の政策動向,企業・市民社会組織における利活用の具体的事例を紹介する。最後に,インターネットの普及とともに広がってきた「オープンな文化」の社会的・文化的な意味などを述べ,オープンデータをめぐる議論をもっと社会的な文脈で捉えていく必要性があると指摘する。
キーワード:オープンデータ,オープンの定義,政府標準利用規約,準オープンデータ,オープンガバメント・パートナーシップ,オープンの文化

学術情報流通とオープンデータ

大向 一輝 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 503-508.
おおむかい いっき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2585        (原稿受領 2015.11.2)
オープンデータは制度面ならびに技術面における再利用性が確保された情報公開の枠組みであり,学術情報流通分野でも国内外で積極的に取り組みが進められている。本稿では図書館による書誌・典拠の公開をはじめとして学術コミュニティ,デジタルアーカイブなどのオープンデータの事例を紹介する。また,既存のデータベースをオープン化する際に必要となるライセンシングに関して実例を通じて議論する。
キーワード:学術情報流通,オープンデータ,書誌,典拠,デジタルアーカイブ,ライセンス

CC 4.0時代のオープンデータとライセンスデザイン

中川隆太郎 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 509-514.
なかがわ りゅうたろう 弁護士(骨董通り法律事務所)
(原稿受領 2015.10.30)
2000年代半ば以降,欧米を中心として世界的にオープンデータ政策が活発化するなかで,著作権やEUのデータベース権などをめぐり,各国で様々なライセンスデザインの取り組みが重ねられている。本稿では,オープンデータとライセンスデザインというテーマについて,まず前提として,なぜパブリック・ライセンスが基本形となるか説明したうえで,議論の中心となるクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやEUのデータベース権について紹介しつつ,従前の状況を敷衍する。そのうえで,CC 4.0の登場によりオープンデータとライセンスデザインの問題が新たな局面を迎えていることを指摘し,最後に「CC 4.0時代」における今後の展望と課題を論じる。
キーワード:オープンデータ,著作権,ライセンス,パブリック・ライセンス,クリエイティブ・コモンズ,データベース権,パブリックドメイン

歴史資料のデジタル化とオープンデータ化の実際と理念

福島 幸宏 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 515-518.
ふくしま ゆきひろ 京都府立図書館
〒606-8343 京都市左京区岡崎成勝寺町9 京都府立図書館
Tel. 075-762-4655 E-Mail: fukusima-y@nifty.com        (原稿受領 2015.11.12)
歴史資料のデジタル化とオープンデータ化について,いくつかの事例を想定しつつも,その課題を抽出して広く援用できるように論じる。
まず,その対象をなるべく広げることを主眼に,歴史資料とは何かについて論じる。次に,デジタル化の一連の作業段階に応じて留意すべき点を述べる。すなわち,対象資料決定の段階,資料の整理・メタデータ付与の段階,実際のデジタルデータ作成の段階,公開の段階である。
キーワード:歴史資料,文化資源,デジタル化,東寺百合文書,メタデータ,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

政府統計におけるオープンデータの取組み

西村 正貴 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 519-524.
にしむら しょうき 独立行政法人統計センター統計情報・技術部共同利用システム課
(原稿受領 2015.10.8)
政府が実施する統計調査の結果は,利用条件が不明確なところがあったが,原則自由に利用できるデータとして提供しており,従来からオープンデータだったと言える。統計データの提供は,政府が実施する統計調査の結果を一元的に提供する政府統計の総合窓口(e-Stat)の運用が開始されたことより,利便性が向上したが,より統計データを取得しやすくするために,API機能などの新たな機能の提供を開始するなど,オープンデータの取り組みをさらに進めているところである。本稿では,政府統計におけるオープンデータの取り組みについて紹介する。
キーワード:統計,政府統計,オープンデータ,API,GIS,LOD(Linked Open Data)

人文学資料オープンデータの可能性と現状

橋本 雄太 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 525-530.
はしもと ゆうた 京都大学大学院文学研究科
E-Mail: yhashimoto1984@gmail.com        (原稿受領 2015.10.1)
学術領域におけるオープンデータの活用に関する議論が盛り上がりを見せつつあるが,構造化データが扱われることの少ない人文学分野においては,必ずしもオープンデータの効用は明らかではない。本稿では,従来の文化資料デジタル化事業との対比から,人文学資料のオープンデータ化には①資料活用の多様化,②研究成果の再利用促進,③情報探索の効率化,といった意義があることを指摘する。続いて,国内外で提供される人文学資料のオープンデータ化事例を概観し,オープンデータを活用したアプリケーションの開発事例として拙作『近デジリーダー』を紹介する。最後に,人文学分野におけるオープンデータの普及に向けた諸課題を展望する。
キーワード:オープンデータ,デジタル人文学,デジタルライブラリー,デジタルアーカイブ,linked data

国会会議録フルテキスト・データベース Web API開発の背景とその利用状況分析

川瀬 直人,清水茉有子 情報の科学と技術. 2015, 65(12), 531-536.
かわせ なおと,しみず まゆこ 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(代)        (原稿受領 2015.9.1)
国会会議録検索システムでは,データの公開や利活用を促進する動きを背景に,2014年12月にWeb APIによる検索機能の提供を開始した。その開発背景を説明するとともに,Webサーバのアクセスログから2015年6月までの利用状況を分析した。その結果,まだ利用はそれほど多くないが,検索語を指定しての利用よりも期間だけを指定した利用が主であること,短期間の利用者が多いことから,データセットを収集することを目的とした利用が多いことが推察された。また,こうした利用状況や国会会議録を利用した過去の研究,本APIの特性から,日本語コーパスとしての活用や国会審議に関する計量的研究への活用が期待される点を示し,今後の国会会議録Web APIの利活用を展望した。
キーワード:国会会議録,Web API,ログ分析,利用分析,利活用

次号予告

2016.1 特集=「中東の科学技術動向」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:中東情報の動向
  • 各論1:イスラーム地域資料について
  • 各論2:トルコの学術図書館ネットワークと学術情報流通
  • 各論3:中東の出版・メディアの状況について
  • 各論4:中東の特許情報
  • 連載:情報検索検定問題解説シリーズ 第3回目

など