2015. 09 特集= コレクション構築の現在

特集:「コレクション構築の現在」の編集にあたって

2015年9月号の特集は「コレクション構築の現在」です。
図書館にとってコレクションとは,あらゆるサービスの根幹を支える最も重要な要素であり,首尾一貫した方針のもとにコレクションを構築し,維持することは,各図書館のサービス方針を決定していくことと同義です。一方,電子資料の増加と情報インフラの整備は図書館資料を巡る状況に影響を与え続けており,新たな手段や設備を考慮する必要が生じています。米国の大学図書館を見れば電子書籍が急速に普及し,今や新規受入資料における電子書籍の冊数は紙媒体の2倍に及んでいます(NCES. Academic Libraries 2012:First Look. 2014)。また,出版点数の増加による各図書館の書庫狭隘化の問題も,依然解消していません。本特集ではインターネットや電子資料の普及を前提とした新たな潮流を見据えつつ,現在の図書館が抱える資料選択,コレクション構築の課題を取り上げ,「コレクション構築の現在」を考える特集を目指しました。
日本大学の小山憲司先生には,大学図書館を中心としたコレクション構築の現状について総論として幅広く語っていただくとともに,その課題を明らかにしていただきました。
各論では,まず横浜国立大学の立石亜紀子様,お茶の水女子大学の餌取直子様,千葉大学の庄司三千子様に,三大学が共同で実施したPDA(Patron-Driven Acquisitions)実験の経緯についてお書きいただきました。大阪大学の森石みどり様からは「シェアード・プリント」の概要と米国における事例について,詳細にご紹介いただきました。実践女子大学の伊藤民雄様からは,ERDBプロジェクトの一端を支えるJJRNavi構築の経緯を中心に,日本における電子ジャーナル管理についてお書きいただきました。共同保存図書館・多摩の堀渡様からは,東京多摩地区の公共図書館における共同保存構想を,カーリルとの共同研究などにも触れつつお書きいただきました。
PDAとシェアード・プリントについてはここ数年米国で普及した分野です。しかし,例えばPDAをどのように活用すべきか,あるいは旧来の選書基準とどのように両立し得るか,といった議論は米国でも緒に就いたばかりです(北米の最新の事例と議論については,例えば今年度(2015年度)の『College & Research Libraries』誌から,76巻4号のUrbano氏らの論文(「Library Catalog Log Analysis in E-book Patron-Driven Acquisitions (PDA): A Case Study」)や,同誌76巻2号のGoedeken氏とLawson氏の論文(「The Past, Present, and Future of Demand-Driven Acquisitions in Academic Libraries」)をご参照ください)。一方,日本ではほとんどこの2つの事例がなく,今回寄稿いただいた両論文が今後の議論の土台となることと予想されます。さらに大学図書館の蔵書構築における電子ジャーナルの問題,公共図書館における共同保存の問題をご寄稿頂き,「蔵書構築の現在」を考えるに足る充分な内容が揃いました。図書館サービスの基盤整備としての蔵書構築が再考されるとき,本特集を参照いただければ幸いです。
(会誌編集担当委員:長谷川敦史(主査),立石亜紀子,中村美里,鳴島弘樹)

デジタル時代のコレクション構築:大学図書館を中心に

小山 憲司
こやま けんじ 日本大学文理学部
〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
E-Mail:koyama.kenji@nihon-u.ac.jp        (原稿受領 2015.7.4)
本稿は,情報通信技術の発達に伴うコレクション構築の現状と課題について,国内の大学図書館を中心に検討した。その結果,情報通信技術はオンライン出版物をはじめ,電子的に提供されるコンテンツの増加をもたらすとともに,多様な提供方法を開発しつつあることが確認された。一方,今なおハイブリッド図書館の時代にあるなか,冊子体資料,電子資料のいずれにも対応しつつ,コレクションを維持・管理することが図書館に求められていることも明らかとなった。情報通信技術によって,より電子的な情報入手の環境が整備されつつある現在,利用者の情報利用行動をも考慮した情報アクセス環境を整備していく必要がある。
キーワード:コレクション構築,大学図書館,情報通信技術,電子資料,ハイブリッド図書館

PDAで変わる選書の未来
-千葉大学・お茶の水女子大学・横浜国立大学三大学連携プロジェクトの取組み-

立石亜紀子*1,餌取 直子*2,庄司三千子*3
*1たていし あきこ 横浜国立大学 図書館・情報部図書館情報課
*2えとり なおこ お茶の水女子大学 図書・情報課
*3しょうじ みちこ 千葉大学 附属図書館学術コンテンツ課
〒240-8501 神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-6 横浜国立大学附属図書館
Tel. 045-339-3209 E-Mail:tateishi.akiko@ynu.ac.jp        (原稿受領 2015.7.16)
千葉大学・お茶の水女子大学・横浜国立大学の三大学連携プロジェクトの一環として,2015年4月~9月にかけて実施中の電子書籍PDA実験について報告する。三大学は規模や大学の特徴が異なり,選書方針,電子書籍の収集状況,蔵書構築における課題などにも違いがみられる。一方で,和書の電子書籍購入を促進したいという共通の課題があり,丸善(株)の協力のもと,連携事業として実験に取り組むことになった。2015年5月末時点で,電子書籍に対するニーズの把握,利用促進効果などの成果が得られた。今後の課題としては,購読決定の条件について,提供側と図書館側の両者が納得できる適切な条件の設定が挙げられた。
キーワード:電子書籍,PDA,利用者主導型購入方式,選書,大学連携,蔵書構築,広報

シェアード・プリント:米国の大学図書館における冊子体資料の共有と保存

森石みどり
もりいし みどり 大阪大学情報推進部情報基盤課
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-32        (原稿受領 2015.6.30)
米国の大学図書館では,拡大するアクティブ・ラーニング・スペースを確保する手段の一つとして,シェアード・プリントが進められている。電子リソースの普及により利用の少なくなった冊子体資料を,共有の蔵書として保存する取り組みである。本稿ではシェアード・プリントについて,用語の整理やシェアード・ストレージとの比較を通じ,その特徴を示す。また,複数のシェアード・プリント・プログラムに共通する運用ポリシーをまとめ,日本におけるシェアード・プリント実施の必要性や,実施の際に検討すべき点を考察する。
キーワード:シェアード・プリント,シェアード・ストレージ,共同保存,蔵書の共有,重複資料の整理,運用ポリシー,アクティブ・ラーニング・スペースの拡大,スペース回復

オープンアクセス時代の蔵書構築とサービス

伊藤 民雄
いとう たみお 実践女子大学
〒150-8538 東京都渋谷区東1-1-49
Tel. 03-6450-6817        (原稿受領 2015.6.7)
大学図書館には4つの機能(学習図書館的機能,研究図書館的機能,貸出し図書館的機能,参考調査図書館的機能)があるとされる。蔵書構築等の図書館活動はその4機能のバランスを取りながら,なおかつ保存機能を四則演算のように組み合わせて行われるべきである。筆者はボランティアで2008年から4機能を損なうことなく,また費用コストや物理的スペースを必要としないで,中小規模の大学図書館のパワーアップを図るために,日本語のオープンアクセス及びフリーアクセス可能な電子ジャーナルの検索システムに三度挑戦した。当時を回想しながら,電子ジャーナル情報の維持管理についての方策や問題点を述べる。
キーワード:オープンアクセス,蔵書構築,情報サービス,電子ジャーナル,ナレッジベース,電子ジャーナルAtoZリスト

公共図書館の蔵書構築と共同保存事業
―各館書庫からの除籍をどのように進めていくか?

堀   渡
ほり わたる 特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩
〒182-0011 東京都調布市深大寺北町1-31-18
E-Mail:depo_tama@yahoo.co.jp        (原稿受領 2015.7.1)
公共図書館で資料請求に応える予約サービスは,各館の蔵書蓄積と円滑な図書館間相互貸借がそれを支えている。現在,全国の県立図書
館には県内蔵書を一括検索できる横断検索サイトが整備され,他館の所蔵調査が容易になっている。
書庫の有限性からどの館でも除籍を日常化していかざるを得ない。除籍か保存かの判断に,他館蔵書を調べ,地域内の希少資料は互いに
残し,提供のためタイトル維持を図る考えがある。県内の希少タイトルを集約し残そうとする幾つかの県立図書館の実践に注目したい。
東京都多摩地域には市町村立図書館の中にそれをすすめる提案があり,支援するNPO法人の活動がある。NPO法人が研究してきた共同
保存図書館の意義と可能性について。
キーワード:公共図書館,資料保存,除籍,書庫,共同保存,予約,相互協力,県立図書館,NPO

次号予告

2015.10 特集=「データ分析によるサービス改善」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:データ分析に基づいたサービスの改善
  • 各論1:データ分析によるサービス改善のカーリルの取り組み
  • 各論2:リンクリゾルバのデータ分析によるサービスの可能性
  • 各論3:データ分析からサービスの改善へ

など