2015. 07 特集= 特許調査の現状と課題

特集 : 「特許調査の現状と課題」の編集にあたって

平成27年3月23日より,国が提供する無料の特許検索サービスとして,「特許情報プラットフォーム(英語名:Japan Platform for Patent Information,略称:J-PlatPat)」の提供が開始され,多様化が進む特許情報の利用や情報入手の利便性が期待される一方で,サービスを中止する商用データベースなどもあり,特許調査を取りまく環境は変化し続けています。また,少子化による国内市場の縮小,研究開発や生産拠点の国外移転を見据え,国内の特許情報と同様に,海外の特許情報活動の重要性がますます高まってきています。このような状況の中で,現時点での「特許調査」の状態がどのようなものであるか,また,どのような課題を抱えているのかをインフォプロの視点から考察してみるというのが今回の特集です。
下川氏には,総論としての特許調査の現状と課題について論じていただき,各論としては,各技術分野の特許調査の現状と課題について知財担当者,弁理士,サーチャーとしての視点から論じていただきました。
アズテック株式会社の静野氏には権利調査における現状と課題について,株式会社ソシオネクストの矢野氏には電気分野の侵害防止調査について,株式会社三菱化学テクノリサーチの北川氏には化学分野における侵害予防調査について,株式会社ネットスの田中様には海外特許調査の現状と課題について,株式会社パトロ・インフオメーシヨンの沖様には,データベースや検索システムの現状と課題について論じていただきました。
今回の各論は,侵害予防調査を中心に論じていただきましたが,開発時の動向調査や出願前の新規性・進歩性調査,あるいは無効資料調査などにも共通の課題があるように思います。
情報量が多く,難解な分類やキーワードを駆使して情報にアクセスする各種の特許調査において,今回の特集が皆様のご参考になれば幸いです。
なお,本特集は2014年7月の「情報の科学と技術64巻7号,249(2014)」に続き,情報科学技術協会パテントドキュメンテーション委員会と会誌編集員会のコラボレーション事業として企画いたしました。
(パテントドキュメンテーション委員会(主査))

特許調査の現状と課題

下川 公子
しもかわ きみこ 味の素株式会社知的財産部
〒210-8681 神奈川県川崎市川崎区鈴木町1-1
Tel. 044-244-7182        (原稿受領 2015.4.21)
国内では,(独)工業所有権・研修館INPITから提供されてきたIPDLに代わって本年3月からJ-Plat-Patが提供されるようになった。海外では欧州特許庁(EPO)が商用データベースであるGlobal Patent Index(GPI)の提供を始めている。国内の商用データベースでは,PATOLISのサービスが昨年終了し,そのほかの提供会社間では再編の動きがあった。海外の商用データベースはコマンドラインのシステムを残すのはSTNのみになり,このSTNも数年のうちに新プラットフォームへ移行予定である。中国のCNIPRが,昨年から日本国内で日本版を有料で提供するようになり,生死情報で限定できることが新しい。ASEAN諸国や南米の特許情報は,各国特許庁の元データが整備されていないため,データとしてはまだまだ不十分である。これらのデータの整備については,各国特許庁の努力と日本の特許庁からの教育,支援が望まれる。特許分類はIPCよりも細分化されたCPC(Cooperative Patent Classification)が2013年からEPOと米国特許商標庁(USPTO)で付与が開始され,この動きは中国,韓国などに広がろうとしている。日本の特許庁はCPC採用の意向を示していないが,ユーザーとしては単一の特許分類で調査できることが望ましい。最後に,現在の海外商用データベースとそれを使う側の問題点についても述べる。
キーワード:特許情報,各国特許庁データベース,商用データベース,特許分類,CPC,ベンダー,INPADOC,グローバル・ドシエ

特許調査,特に権利調査における現状と課題

静野 健一
しずの けんいち アズテック株式会社 調査事業部 弁理士
〒103-0012 東京都中央区日本橋堀留町1-7-7
Tel. 03-3639-6718        (原稿受領 2015.4.20)
特許調査,特に権利調査は,企業の海外展開の加速,世界の特許出願件数の増加,技術の高度化・複雑化を背景に,近年その重要性・困難性を増してきている。権利調査は,概念を調査するという特殊性から出願前調査等とは全く異なる調査アプローチがとられ,完全網羅的な結果を得ることは困難である。また,調査にあたっては,リスク許容度や掛けることのできるコスト等を明らかにし,実施技術,特許文献双方についてリスク評価を行い,合理的・効果的な調査設計を行うことが求められる。本稿では,権利調査の特殊性を説明し,その基本的なアプローチの紹介をするとともに,権利調査に関する現状の課題について取り上げた。
キーワード:特許調査,権利調査,侵害予防,FTO,パテントクリアランス,知財リスク,特許リスク

電気分野における特許調査の現状と課題

矢野 純一
やの じゅんいち 株式会社ソシオネクスト 知財法務統括部 特許部 弁理士
〒601-8033 京都府京都市南区東九条南石田町5 京阪バス十条ビル
Tel. 080-9815-2215        (原稿受領 2015.4.17)
特許情報は権利情報および技術情報の二面性を持ち,侵害防止調査は権利情報の調査であり,特許解析は技術情報の調査である。電気分野には一つの開発製品に関連して極めて多数の特許が存在するため,権利情報の特許調査,技術情報の特許調査いずれにも大きな困難が伴う。
電気分野における権利情報調査としての侵害防止調査の一手法について紹介するとともに,その問題点について述べる。また技術情報調査の一例として事業戦略提言につなげた特許解析を紹介し,このような活用における問題点についても述べる。
キーワード:電気分野,特許係争,特許情報,調査効率化,特許解析,事業戦略

化学分野における特許調査の現状と課題

北川 道成
きたがわ みちなり 株式会社 三菱化学テクノリサーチ 九州センター
〒806-0004 福岡県北九州市八幡西区黒崎城石1-1
Tel. 093-643-2546        (原稿受領 2015.4.17)
化学分野の出願では重要な技術用語である化学物質はキーワード検索可能な化学物質名や分子式だけでなく分子構造を図で表した構造式で表現される事がある。また化学物質名の表記は揺れがみられる。化学分野の特許調査では他の分野で行う同義語・上位概念・特許分類使用による網羅性確保の他に,化学物質が索引されたデータベースと全文系データベースを併用することで網羅性を上げる事が可能である。一方でこれらデータベースへの収録基準,索引基準を理解し適切な検索を行わないと十分な網羅性を確保できない。本稿では特に侵害予防調査についてプレサーチインタビュー・データベース選択・予備検索・検索式作成・結果出力までのプロセス毎に現状と課題を記載した。
キーワード:特許調査,化学,侵害予防調査,化学物質,化合物名,網羅性,収録基準,索引基準

海外特許調査の現状と課題

田中 志帆里
たなか しほり 株式会社ネットス 国際部
〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場1-15-14
Tel. 06-6261-2990        (原稿受領 2015.4.20)
昨今では,日本企業が考える市場は海外にまで広がっており,海外の競合他社の重要性も増していることから,日本企業には世界を見据えたグローバルな知財戦略が求められている。その結果,特許調査においても,様々な国を対象としたグローバルな調査が必須となってきている。そのようなグローバルな調査を効率的に行うには,現時点で使用可能なデータベースの特色や,現状で可能な調査内容,問題点を把握しなければならない。本稿では,最も重要性が高いと考えられる中国での調査を中心に,海外特許調査の現状と課題を解説する。
キーワード:海外特許調査,グローバル,データベース,中国,現状,課題,知財戦略

データベース,検索システムについての現状と課題

沖 砂緒理
おき さおり 株式会社パトロ・インフオメーシヨン
〒105-0002
Tel. 03-5470-1930        (原稿受領 2015.4.19)
特許調査のなかで,新規性調査,無効資料調査,及び侵害調査は主なものである。近年,データベースの質の向上に加え,得られる特許情報も増加している。本稿では,特許調査に使用するデータベースの概略,有料又は無料データベースの使い分け,経過情報,審査書類情報,引用文献などの利用方法などを,新しくリリースされたJ-PlatPatから得られる情報を含めて紹介する。また,無効資料調査におけるEspacenetおよびEuropean Patent Registerの活用法などを紹介する。データベース,検索システムにおける課題についても述べる。
キーワード:特許情報,新規性調査,無効資料調査,データベース,J-PlatPat,Espacenet,検索システム

クラウド上に設置した図書館情報システムを用いた授業実践

今井 福司1),岡本 和之2),椎名 伸光2),関 乃里子2)
1)いまい ふくじ 白百合女子大学文学部共通科目
2)おかもと かずゆき,しいな のぶあき,せき のりこ 株式会社ブレインテック
〒182-8525 東京都調布市緑ヶ丘 1-25 白百合女子大学文学部共通科目
Tel. 03-3326-5319        (原稿受領 2015.5.1)
本事例報告では,クラウド環境に設置した図書館情報システムを用いた授業実践とその効果について述べる。図書館業務において,図書館情報システムは今や不可欠なシステムであるが,大学の授業において図書館情報システムを扱った実践はそれほど多く見られない。本実践においては,実際の業務で使用される図書館情報システムをクラウド環境に設置することで,多くの受講生が同時に操作し,演習を行うことが可能になった。また,授業後の受講生に対するアンケート結果では,図書館情報システムについて,敷居が高い,困難であるとのイメージが,身近に感じられた,簡単にできる事が分かったとのイメージへと変化していたことが分かった。
キーワード:図書館情報システム,図書館情報技術論,司書課程,情報資源組織演習,ICT

IPI-ConfEx2015およびIPI-Award受賞式に参加して

パテントドキュメンテーション委員 桐山 勉
きりやま つとむ INFOSTA パテントドキュメンテーション委員会
〒503-0983 岐阜県大垣市静里町 728-3
Tel. 0584-91-4617        (原稿受領 2015.3.30)

次号予告

2015.8 特集=「ISOと標準化」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論:ISO国際標準化の意義と手順
  • 各論1:TC46
  • 各論2:TC37
  • 各論3:SIST
  • 各論4:日本における標準化の歴史的経緯

など