2015. 02 特集= 情報専門職の将来

特集 : 「情報専門職の将来」の編集にあたって

インターネットの普及と,それを支える技術の進展は,人々の情報入手経路を大きく変容させました。統計,調査レポート,レファレンスブック,時には論文や専門書まで,これまで「情報専門機関」の物理的介在が必須であった情報へ,個々人が直接アクセスできる環境が出現したのです。このような流通経路の変化は,利用者に情報入手の利便性をもたらすと同時に,情報の過多,情報の偏在,情報の格差といった問題も引き起こしています。必要な情報をどのように選別するのか,組織にとってコストをかけるべき情報とは何か。これまで意識されにくかった問題が顕在化してきた,とも言えます。
このような時代において「情報専門職」に求められる役割とは何でしょうか。バーソン・マーステラ社の豊田恭子氏が今号においてご紹介された「エンベディッド・ライブラリアン」は,企業におけるインフォプロのあり方の一つの例として,大変示唆に富むものです。利用者が直接情報を入手する時代であるからこそ,情報専門職がプロフェッショナルとして力を発揮する,という構造がよく現れています。
一方,情報専門職がプロフェッショナルである上で,資格や学位によってその専門性を担保し,明示する事は重要な意味を持ちます。当協会においては,2014年11月より認定試験の制度を新たにし,名称も「検索技術者検定(旧:情報検索能力試験)」と変更しました。専門図書館協議会では,目下「認定インフォプロ制度」が検討されています。明治大学准教授の青柳英治氏は同協会にて認定資格検討小委員会に所属されていますが,今号では総論として,情報専門職のコンピテンシーや現状を幅広くご執筆いただきました。日本医学図書館協会においては,創設10年を超えた認定資格「ヘルスサイエンス情報専門員」について,同資格の改訂を含む「専門職能力開発プログラム」が検討されています。また,同協会では新たな研修制度の導入も控えており,今号ではこれらについて,順天堂大学図書館の城山泰彦氏,ならびに慶應義塾大学准教授の酒井由紀子氏にご執筆頂きました。その他,大学図書館支援機構による「大学図書館業務実務能力認定試験」(2009年~)や,日本図書館協会による「認定司書」事業(2010年~)など,情報専門職に関連する認定資格や試験は,近年になって整備が進む傾向にあります。
専門性の担保を学位の面から見ますと,これまで図書館情報学の人材を輩出してきた大学に加え,2011年度には九州大学大学院が「ライブラリーサイエンス専攻」を,2015年度には同志社大学大学院が「図書館情報学コース」を開設しました。今号では,世界における「図書館情報専門職」の認定資格制度について,放送大学教授の三輪眞木子氏にご執筆頂いており,教育の質保障と国際化に向けた学位や資格の相互認証という観点から概観頂けました。
また,九州大学大学院の「ライブラリーサイエンス専攻」については,図書館情報学だけでなく,アーカイブズ学なども含めた広義の「ライブラリー」に関する専門教育が実施されています。このアーカイブズの世界に目を向けると,我が国におけるアーキビストの専門性確立は,他の先進国に比しても満足できる状況にはありません。日本アーカイブズ学会会長の石原一則氏からは,日本における文書館の専門職員について,その歩みを整理していただいた上で,2012年より始まった「日本アーカイブズ学会登録アーキビスト」制度の概要と今後の展望をご紹介いただきました。
以上,今号では,多様な方面から,情報専門職の将来を考える為の論考をご執筆いただきました。本特集が,「情報専門職の将来」についての議論の基盤となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:長谷川敦史(主査),小山信弥,齊藤泰雄,立石亜紀子,長屋俊)

情報専門職の現状と今後

青柳 英治
あおやぎ えいじ 明治大学文学部
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
        (原稿受領 2014.11.21)
本稿は,専門情報機関に勤務する情報専門職の現状と今後の方向性を検討することを目的とする。そのために,情報専門職を定義した上でそれを取り巻く環境について述べる。次に,情報専門職が従事している職務内容,それらの遂行に求められる知識・技術,ならびに遂行が期待される職務上の成果を提示する。最後に,情報専門職の質保証を認定資格制度の観点から検討する。その結果,情報専門職の今後の方向性として,情報専門職自身のみならず親機関の構成員が有する知識の共有化を支援すること,情報専門職のキャリア形成を図っていくことの2点の必要性を指摘できた。
キーワード:情報専門職,専門図書館員,職務内容,コンピテンシー,養成,教育訓練,認定資格制度,キャリアパス

企業における情報専門職のこれまでとこれから:エンベディッド・ライブラリアンの台頭と今後の課題

豊田 恭子
とよだ きょうこ バーソン・マーステラ
〒005-0022 札幌市南区真駒内柏丘6-3-3
toyoda_kyoko@nifty.com     (原稿受領 2014.11.24)
筆者が20年前に外資系金融機関で運営していたビジネスリサーチセンターでの仕事と,現在,広報エージェンシ-で行っている仕事とを比較しながら,企業における情報専門職の役割が,情報収集から情報選択に移行していることを確認する。加えて,現在,アメリカで注目されているエンベディッド・ライブラリアンに光をあて,彼らが生まれてきた背景と,彼らを受け入れる利用者側の変化について考察する。最後に,これからの情報専門職の役割として,フィルターバブルに風穴をあけることを提言する。
キーワード:企業図書館,情報専門職,インフォプロ,情報収集,情報選択,エンベディッド・ライブラリアン,フィルターバブル

ヘルスサイエンス分野にかかわる情報専門職

城山 泰彦*1,酒井 由紀子*2
*1きやま やすひこ 順天堂大学図書館,JMLA認定資格運営委員会委員長
〒113-0033 東京都文京区本郷2-2-26
Tel. 03-3813-3111(内線3245)
*2さかい ゆきこ 慶應義塾大学文学部,JMLA認定資格運営担当理事
(原稿受領 2014.11.19)
2003年に創設されたNPO法人日本医学図書館協会の認定資格制度「ヘルスサイエンス情報専門員」の背景,現況,現在行われている広報活動等について述べる。新たに承認され,2016年の開始を予定している「専門職能力開発プログラム」についても,定義された知識とスキルおよびモデル活動に基づいた新研修制度および新認定資格制度の計画を含め報告する。
キーワード:日本医学図書館協会,認定資格制度,ヘルスサイエンス情報専門員,継続教育,研修機会,専門職能力開発プログラム

アーカイブズ専門職について-学会登録アーキビスト施行2年-

石原 一則
いしはら かずのり 日本アーカイブズ学会会長
〒105-0004 東京都港区新橋1-5-5 国際善隣会館5階
Tel. 082-830-1540          (原稿受領 2014.12.7)
本稿の目的は,日本アーカイブズ学会が2012年に開始した日本アーカイブズ学会登録アーキビスト制度の現状と課題とを整理し,今後の展望を述べることにある。はじめにアーカイブズ学会が設立される以前の文書館の専門職員に関する論議をたどる。次に2004年の日本アーカイブズ学会の設立とその後の学会によるアーキビスト制度の提案準備について述べる。そして学会登録アーキビストに関する規程の核心部である資格要件の構成について触れ,おわりに登録アーキビスト及び日本アーカイブズ学会の課題と展望について論じる。
キーワード:アーキビスト資格,登録アーキビスト制度,日本アーカイブズ学会,アーカイブズ学,公文書館法

海外における「図書館情報専門職」の質保障とコンピテンシ

三輪 眞木子
みわ まきこ 放送大学教養学部
〒261-8586 千葉県千葉市美浜区若葉2-11
Tel. 03-3561-2320        (原稿受領 2014.11.24)
本稿では,海外における図書館情報専門職の入門レベルの資格認定制度を論じている。北米,英国,オーストラリアの認定制度と,アジア・ヨーロッパにおける制度導入の動向を紹介したうえで,国際図書館連盟(IFLA)の教育訓練分科会で進められているLibrarian資格の国際的な相互認証に関する議論の中で,図書館情報専門職教育プログラムの認証が,規範的評価に基づく質保障システムから,学習アウトカムに基づく方法に移行していることを確認した。また,学習アウトカム測定の根拠となるコア・コンピテンシの重要性を指摘し,一例として米国図書館協会(ALA)の図書館学コンピテンシを紹介した。
キーワード:図書館情報専門職教育;資格の国際的相互認証;学習アウトカム測定;国際図書館連盟;ALA図書館学コンピテンシ

大学図書館における開館日数の増加から見える社会的ニーズ-夜間大学院設置との関係-

宮川 良男*1,本間 通正*2,狩野 延枝*2
*1みやかわ よしお,*2ほんま みちまさ,*2かのう のぶえ *1東京理科大学学術情報システム部図書館事務課,*2葛飾図書館事務室
〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
〒125-8585 東京都葛飾区新宿6-3-1
Tel. 03-5228-8133(神楽坂図書館)
Tel. 03-5876-1541(葛飾図書館) (原稿受領 2014.8.7)
国内の多くの大学図書館では1993-2013年の間に,開館日数が増加している。その理由には主に昭和61年(1986)に文部科学省から一般の人が利用できるようにという指導がなされたことと,平成元年(1989),平成5年(1993)に,夜間大学院の設置基準が改正されたことが起因していると考えられる。休日開館を行った大学では,社会人の大学院生が支障なく学べるように改善された。特に国立大学で改善率が高かった。夜間大学院の設置と大学図書館間の年間開館数の間には強い正の相関関係があることが分かった。
キーワード:大学図書館,休日開館,夜間大学院,年間開館日数,地域連携

来た,見た,やってみた-大人の夏休み体験学習inウィー東城-

中村 美里(本誌編集委員)
なかむら みさ 国文学研究資料館
〒190-0014 東京都立川市緑町10-3
Tel. 050-5533-2986        (原稿受領 2014.11.6)
弊誌2013年8月号の書店特集(「当世“書店”気質」)がきっかけで,「NPO法人本の学校」主催の「書店人教育講座(通称:春講座)」に講師として参加した私は,そこで初めて佐藤友則店長と知り合い,広島県庄原市東城にある書店「ウィー東城」の存在を知った。その書店で展開されているサービスに興味を持った私は,2014年8月の2日間,夏休み体験学習としてウィー東城でアルバイトをさせてもらうことにした。この2日は,書店の基本的な仕事を体験させてもらったほか,ウィー東城で行われている地域密着型サービスを体感することができ,この経験は図書館サービスを考える上でも大変勉強になるものだった。
キーワード:書店,地域密着型サービス,図書館サービス,体験学習

次号予告

2015.3 特集=「第11回情報プロフェッショナルシンポジウム」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 特別講演を聴講して
  • トーク&トークを聴講して
  • プロダクトレビューに参加して
  • 3i研究会報告

など