2014. 1 特集=情報リテラシー

特集 : 「情報リテラシー」の編集にあたって

2014年最初となる1月号の特集は「情報リテラシー」です。
「情報リテラシー」という用語が提唱されてから数十年以上の月日が経ちました。いまやその用語は広く周知され,「情報リテラシー教育」の意義もまた広く認識されています。情報リテラシー教育の大きな特徴の一つは,正課の授業に限らず,図書館が主体となって関与し得る/すべきである,とされている事です。その結果,学校図書館や大学図書館の新たな使命として,情報リテラシー教育が活発に行われているのが現状です。
しかし,様々な現場で行われるそれぞれのアプローチは,内容の多様化のみならず,質の多様化も招来しているように思われます。さらに,情報と通信を取り巻く技術の変化は,絶えず新たな情報リテラシーを要求します。情報リテラシー教育に関わる多くの図書館員は自問自答し,努力を重ねる日々ではないでしょうか。実際に,欧米の図書館界にはこれまでの「情報リテラシー基準」を更新しようという動きが見受けられます。そこで本特集は,あらためて情報リテラシーを再考し,その意義を問い直し,今後の方向を見極める事を目指しました。
総論として,青山学院大学准教授の野末俊比古氏に,前提となる論点を整理し,「これまで」と「これから」を論じて頂きました。館種を問わず幅広く論じて頂いた事で,図書館と教育の見地から「情報リテラシー教育」の現状と展望を俯瞰する事が可能となっています。
東京大学の井田浩之氏からは,日本の大学図書館を念頭に,情報リテラシー教育の現状と問題点を追及していただきました。大学図書館の関与に対するプリミティブな問いを通して,「『知識創造型』の情報リテラシー教育」と,そこで果たすべき大学図書館の役割が投げかけられています。まさに「情報リテラシーを再考し,その意義を問い直」す論となっています。
九州大学の兵藤健志氏からは,北米の高等教育における情報リテラシーのこれまでの定義や,最新の議論を論じて頂きました。日本でも多くの大学図書館が参考とするACRL『高等教育のための情報リテラシー能力基準』成立に至る経緯から,同基準の2014年改訂に向けた見直しの動き,加えて2013年のACRL報告書『学術コミュニケーションと情報リテラシーの交点』まで論じて頂いており,引かれた多くの文献と共に,北米の情報リテラシー教育の動きを包括的に掴む事が可能となっています。
早稲田大学教授の佐渡島紗織氏からは,アカデミック・ライティングという観点から情報リテラシーについて考察して頂きました。「根拠を明確にして論じる」リテラシーがあって初めて,「情報を探す」ニーズと行動が生まれます。佐渡島氏の論を読むと,その重要性を痛感すると共に,早期に着手すべき教育課題にも関わらず,大学の初年次教育に頼り切っている日本の問題がよく理解できます。
トムソン・ロイター社の矢田俊文氏からは,データベースの利用者教育の盲点と,調査研究を行う人材育成の方向について論じて頂きました。データベース作成過程に何が起きているか,という点はエンドユーザーには見えにくく,その為に起きる錯覚や間違いも多くあります。インフォプロにとってはこの齟齬をどのように解消するかが課題となりますが,データベース会社のノウハウを通して,この点に多くの具体的手法を提示頂いています。
以上,今号では「情報リテラシー」の原理的な再考,高等教育における「情報リテラシー教育」の位置づけ,企業やユーザーの現場における利用者教育と人材育成まで,多様な論文をご寄稿いただけました。この特集が「情報リテラシー」に関わる現場の人々に刺激的かつ実践的な議論を惹起し,前に進む一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:長谷川敦史(主査),權田真幸,齊藤泰雄,立石亜紀子,中村美里)

情報リテラシー教育の「これまで」と「これから」~図書館におけるいくつかの論点~

野末 俊比古
*のずえ としひこ 青山学院大学教育人間科学部教育学科
〒150-8366 東京都渋谷区渋谷4-4-25
Tel. 03-3409-8111        (原稿受領 2013.11.28)
情報リテラシー教育の「これまで」の動向と「これから」の方向性について,“情報リテラシー(教育)観”を軸としながら整理・検討した。次のような“大きな流れ”としてまとめた。「マルチメディアの視点からからトランスメディアの視点へ」「情報源の評価から情報の評価へ」「理念としての情報リテラシー(教育)から戦略としての情報リテラシー(教育)へ」「目的・目標としての情報リテラシー(教育)から手段・方法としての情報リテラシー(教育)へ」「『ツールを(で)教える』から『プロセスを(で)教える』」へ」「“教える”情報リテラシー教育から“教えない”情報リテラシー教育へ」
キーワード:情報リテラシー,情報リテラシー教育,情報リテラシー観,トランスメディア,情報評価,情報利用プロセス

「知識創造型」の情報リテラシー教育の構築に向けて

井田 浩之
*いだ ひろゆき 東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻生涯学習基盤経営コース 図書館情報学研究室 博士課程
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学教育学部棟
Tel. 03-5841-3976        (原稿受領 2013.10.16)
本稿では,学習者の知識創造を可能にする情報リテラシーの条件として,(1)学習者の情報リテラシー能力を向上させるための「問い」を共有するプラットフォームの必要性,(2)情報リテラシーのスキル的側面を考えたときに,「脱文脈」化されたスキルに意味があるのか,換言すれば,学習者にとっての情報リテラシー能力とは知識創造に結びついていること,(3)学習者の情報探索行動のメカニズムが解明されていない中,情報行動に制約をかける取り組みへの疑問を呈する。今後情報リテラシー教育を図書館側が牽引するには,カリキュラム,教育内容,その評価方法を含め,学習者の視点で一からデザインすることが求められていることを指摘する。
キーワード:情報リテラシー教育,概念変化,知識創造,transliteracyトランスリテラシー,汎用的スキル,実践データを蓄積できるプラットフォームの構築

米国における情報リテラシー教育の現状と展望: ACRL高等教育のための情報リテラシー能力基準を中心に

兵藤 健志
*ひょうどう けんし 九州大学情報システム部情報基盤課
〒812-8581 福岡市東区箱崎6-10-1 九州大学中央図書館
Tel. 092-642-4291        (原稿受領 2013.10.21)
本稿では,ACRLが2000年に発表し,また,2014年に改訂を予定している『高等教育のための情報リテラシー能力基準』を軸として米国の高等教育における情報リテラシーのこれまでの定義や最新の議論を概観する。併せて,情報リテラシーの展開に学術コミュニケーションという新たな視点をもたらした2013年のACRLによる白書『学術コミュニケーションと情報リテラシーの交点:変わりゆく情報環境へ向けて戦略的協同を創造する』を紹介する。
キーワード:情報リテラシー,高等教育のための情報リテラシー能力基準,米国図書館協会,大学・研究図書館協会,大学図書館,学術コミュニケーション

アカデミック・ライティング教育と情報リテラシー-《情報を再定義》し意見を構築できる学生を育てる-

佐渡島 紗織
*さどしま さおり 早稲田大学 留学センター
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1-7-14
Tel. 03-3207-1454        (原稿受領 2013.10.19)
本稿の目的は,アカデミック・ライティング教育において情報リテラシーに関する問題はどのような点にあるかを検討し,今後,求められる指導の方向を示すことである。国語科教科書や小論文演習教材などをみると,日本の小・中・高・大学と受験塾では,情報を自分の文章にどのように取り込むかの,十分な指導,一貫した指導がなされていないことがわかる。引用・参考文献明記の学習を通して,《情報を再定義させる》学習をさせることが必要である。それによって,多様な立場・意見を検討した上で自身の立場を確立し,明確な意見を発信できる学生を育成したい。
キーワード:アカデミック・ライティング教育,情報の再定義,剽窃,引用の指導,参考文献明記の指導,国語教育,国語教科書,意見を持つ学生

データベース会社から見る利用者教育のデザイン

矢田 俊文
*やた としふみ トムソン・ロイター コンテンツ&アプリケーション・スペシャリスト
〒107-6119 東京都港区赤坂5-2-20 赤坂パークビル19階
Tel. 03-4589-3133        (原稿受領 2013.10.21)
Google世代もしくはGoogle時代のインフォプロがおちいり易い「情報リテラシー」の盲点に留意し,調査研究を行う人材を育成するためには,どのような教育を設計し,どう実行するべきか。データベース会社のノウハウを通して,利用者教育のデザインと具体的手法について論じる。急増するエンドユーザに必要な「情報リテラシー」を伝え,利用者対応で疲弊しない,サステイナブルな知識と人材育成の方法を議論する。
キーワード:利用者教育,学術データベース,情報リテラシー

次号予告

2014. 2 特集=「オープンソースソフトウェア」
(特集名およびタイトルは仮題)

        • 総論:オープンソースソフトウェアとはなにか
        • 各論1:OSSのソフトウェア開発,実装,および運用の事例
        • 各論2:OSSと図書館サービス
        • 各論3:OSSのライセンス,著作権,コピーレフト
        • 各論4:OSS導入によるシステム構築とその注意点
        • INFOSTA Forum (278)

など