2013. 12 特集=情報の収集と発信

特集 : 「情報の収集と発信」の編集にあたって

2013年の最後を締めくくる12月号の特集は,「情報の収集と発信」をテーマにお届けいたします。
「新しい情報を届ける」ことはインフォプロにとって従来から重点サービスであり,現在では情報の速報性・多様性の観点から,対象をインターネット上の情報源に広げたり,提供方法をウェブ上のツールにしたりすることも重要になっています。インターネット情報源の内容もまた多様化しており,「求める情報を,できるだけ手間をかけずに,もれなく収集する」ための方法を常に模索し続けているのが現状です。同時に,収集した情報の中から,真に有益なものを探し,信頼性を判断し,発信する姿勢も必要とされています。
本特集は,ウェブを中心に,またそれ以外の手段も含め,図書館員をはじめとするインフォプロに必要な情報収集と発信の姿勢について検討する手がかりを得ることを目的に企画しました。
東京大学の橋元良明氏からは,本特集の前提として,インターネットという画期的なメディアの広がりが,人々の情報への接し方,特にコミュニケーション系の情報受容に与えた影響について論じていただきました。一方発信については,情報の発信への技術的なハードルが低くなった一方で,内容の質に問題がある点について言及していただいています。
コミュニケーション情報の増大が指摘された総論を受けて,1つ目の各論では,慶應義塾大学・深見嘉明氏から,研究者としてのご自身の経験も踏まえ,ウェブでの情報収集がコミュニケーションのあり方にどのように変化を与えたのか,その現状を解説していただきました。コミュニケーションのあり方が変わる中で,図書館が情報収集プロセスで果たしうる新しい役割についても言及していただいています。
続く2つの各論では,より具体的な情報収集と発信のポイントについてご紹介頂きました。1つ目はご自身が図書館系ブロガーであり,様々なメディアでの情報発信に積極的に携わっている同志社大学の佐藤翔氏に,国内の図書館系ブログやニュースサイトの近年の変化,ご自身の普段の情報収集や情報発信についての考え方などをもとに,情報の取捨選択の重要性について解説していただきました。2つ目は情報発信の一側面として,特に近年注目を集めるソーシャルメディアでの広報について,効果的な広報の方法や,いわゆる「炎上」などを防ぐ危機管理にどのように取り組めばよいかを,株式会社電通パブリックリレーションズ・細川一成氏に論じていただきました。
最後に東海大学・竹之内禎氏より,情報発信と情報倫理について重要な議論を提示していただきました。情報を扱う機関である図書館や情報サービス部門が,より信頼性の高い情報サービスを提供するために留意すべき問題点を,理論的背景に触れつつ具体的にお示しいただいています。
以上,様々な観点から,変化の只中にある情報の収集と発信に関わるトレンドについてご執筆いただきました。この場をかりて御礼申し上げます。本特集が読者の皆様のこれからの「情報の収集と発信」のお役にたてば幸いです。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),小山信弥,齊藤泰雄,中村美里)

新たな時代の情報の受容と発信

橋元 良明
*はしもと よしあき 東京大学大学院情報学環
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-5937(研究室)    (原稿受領 2013.9.20)
インターネットは,1)それまでのメディアでやりとりされたすべての情報種を受発信でき,受信情報の編集・保存も容易であること,2)ほとんどの地域で国家等の「制度」の制約を受けないこと,3)情報の発信に大きな資本力を必要とせず,対価なしで多くの情報を受容できること,等の点で画期的なメディアである。橋元研究室で継続的に実施している「日本人の情報行動調査」によれば,2012年には,10代においてネット利用時間がテレビ視聴時間を上回った。ネットの普及により情報の受容という側面では,コミュニケーション系情報の受容量が増え,それによって個々人の「主観的現実」の多様化・個性化が進行した。また,関心領域の狭小化などの現象も進みつつある。一方で,若年層の文字情報の受容量はむしろ他の年層より多くなっている。情報の発信という側面では,誰もが自分の作品や意見を発信でき,音楽や文芸の世界でも変化の兆しがある。しかし,CGMはアクセス数やリンク数が評価の基準になることが多く,既存のメディア経由のものと比べ,質的な面では不安定である。
キーワード:インターネット,「日本人の情報行動」調査,情報の受容と発信,関心領域の狭小化,消費者形成型メディア(CGM)

個人による情報収集からコミュニティベースの論点設定へ~ウェブ技術の進化による価値創造プロセスの変化~

深見 嘉明
*ふかみ よしあき 慶應義塾大学SFC研究所 次世代Web応用技術・ラボ 上席所員(訪問)
〒252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
Tel. 0466-49-3557         (原稿受領 2013.9.1)
2013年7月にGoogleはRSSリーダー,Googleリーダーのサービス提供を終了した。変わって情報収集ツールとして活用されているのが,TwitterやFacebookなどのタイムラインインターフェイスをもつサービスである。用いられるツールの変化により,情報収集はコミュニケーションと一体化して,論点の創造まで一気通貫になされるようになった。タイムラインインターフェイスは,コミュニティベースでの価値創造を一般化,ならびに迅速化したのである。本論文では,ソーシャルネットワーク上のタイムラインが実現した価値創造プロセスの変化と迅速化について,筆者の経験に基づいて分析するとともに,その対処について考察する。
キーワード:ウェブ技術,タイムライン,論点設定,コミュニケーション,価値創造

図書館系ブログ・ニュースサイトと情報の取捨選択

佐藤 翔
*さとう しょう 同志社大学社会学部教育文化学科
〒602-8580 京都市上京区 新町今出川上ル 同志社大学渓水館315号
Tel. 075-251-3454        (原稿受領 2013.9.24)
図書館公式ブログやTwitterの普及により,発信される情報の量が増え,それらを網羅的に追うことは難しくなっている。その中で従来以上に情報の取捨選択の重要性が増している。図書館系ニュースサイトは読者に代わって一次ニュースからの取捨選択を担う,エージェントとなりうるものである。読者は自身の嗜好をはてなブックマークやTweetを通じてフィードバックすることで,ニュースサイトを自分に適したものへと育てていくことが可能である。
キーワード:ブログ,ニュースサイト,情報収集,情報発信,カレントアウェアネス・ポータル

情報発信と効果的な広報

細川 一成
*ほそかわ かずなり 株式会社電通パブリックリレーションズ/WOMマーケティング協議会
〒104-0045 東京都中央区築地5-6-4
Tel. 03-5565-8429        (原稿受領 2013.9.20)
ソーシャルメディアの本格普及をきっかけに,生活者を取り巻く情報環境は大きく変わった。広報・情報発信の業務も,かつてのマスパブリシティに大きく比重が置かれたものから,ソーシャルメディアでどのように情報を拡散させるかという視点が重視されるものに変わってきた。また,ソーシャルメディアで非難・批判が殺到する「炎上」も注目され,ソーシャルメディアでの危機管理の重要性も叫ばれている。本稿では,ソーシャルメディア本格普及を迎えた現代の情報環境を読み解き,新しい広報の考え方について紹介する。
キーワード:広報,PR,ソーシャルメディア,ソーシャルリスク,パブリシティ,ソーシャルクライシス

情報発信と情報論理 ~基礎情報学の観点から~

竹之内 禎
*たけのうち ただし 東海大学 課程資格教育センター
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1
Tel. 0463-58-1211        (原稿受領 2013.10.9)
本稿では,基礎情報学の観点から,図書館・情報サービスの一環としての情報発信において,留意すべき情報倫理の問題として,4つの点について論じた。第一に,情報の受け手は「心」であり,心は「自律的システム」であるため,同じ情報(刺激)を受け取っても,一人ひとりの心に形成される意味内容は異なっている。第二に,高齢者,障害者などの利用に配慮した「情報のユニバーサルデザイン」への配慮が必要である。第三に,情報発信の内容に含まれる人格への配慮が必要である。第四に,歴史研究,科学研究における定説と異説の存在を考慮することが必要である。
キーワード:情報発信,情報倫理,基礎情報学,HACS,ユニバーサルデザイン,アクセシビリティ,表現の自由,思想・信条の自由,定説と異説

次号予告

2014. 1 特集=「情報リテラシー」
(特集名およびタイトルは仮題)

        • 総論:情報リテラシー教育の現状と展望
        • 各論1:情報リテラシー教育の現状と展望
        • 各論2:日本の高等教育における情報リテラシー教育の理論的諸問題
        • 各論3:アカデミック・ライティング教育と情報リテラシー
        • 各論4:データベース会社から見る利用者教育のデザイン
        • INFOSTA Forum(277) など

など