2013. 5 特集=医学系データベース

特集 : 「医学系データベース」の編集にあたって

 現在の情報環境において,多くの職種でインフォプロであることが求められており,関連データベースに習熟することは必須技能の1つと言えます。その中 で,本特集では,医学系データベースについて取り上げ,大学,企業,病院などで医学医療情報を扱うインフォプロの一助となることを目指しました。また,総 論はもとより,各論同士も相互理解が深まるような構成を試みています。
総論の鈴木氏には,各論を踏まえて,医学分野・医学系データベースの特殊性を中心に概説していただきました。大波氏には,バイオサイエンスデータベース センター(NBDC)の取り組みの現状と各種ツールを医学関連のものに絞ってご紹介いただきました。NBDCは,以前,当誌で取り上げた文部科学省「統合 データベースプロジェクト(ライフサイエンス分野の統合データベース整備事業)」と「バイオインフォマティクス推進センター事業(BIRD)」を一体化し て推進しています。
小嶋氏には,EBM(根拠に基づく医療)を意識した文献検索についてPubMedを使用した例を述べていただきました。EBMを実践するための5つのス テップのうち,インフォプロが関わることを期待されているのは「情報収集(文献検索)」と「情報(検索結果)の批判的吟味」になるかと思います。EBMの 手法を用いた診療ガイドライン作成が増えていることから,氏の特定非営利活動法人日本医学図書館協会(JMLA)「診療ガイドラインワーキンググループ」 での活動事例を併せてご紹介いただいています。
浜田氏には,医中誌のシソーラスである医学用語シソーラスとPubMedのMeSHとの関連性について述べていただきました。検索についても付記してい いただいており,より実践的な内容となっています。岡田氏論文,見学会報告と併せて読んでいただければ,医中誌webへの理解が深まり,小嶋氏論文と併せ てお読みいただければ,MeSHへの理解も深まるものと思われます。
本特集では,先行して研修委員会と合同で「医学中央雑誌刊行会見学会」を開催しました。最近,辞書編纂を題材とした小説が人気を博し,映画化もされまし たが,医師の尼子四郎氏が個人事業として始めた「医学中央雑誌」にも同じようなドラマが実際にあったと推測されます。索引方針には,そのデータベースの個 性が出ますが,最終的にインデクシングを行っているのは人間であり,作成事業者側からの風景を見ることもデータベースをより深く理解することにつながると 考えました。実際に見学会を終え,岡田氏の医中誌への提言を読むにあたり,ユーザー側の情熱もまた,データベースを形づくっていくものと期待されます。研 修委員会の報告は,見学概要と共に雑誌がデータベースになるまでの流れをまとめており,是非,岡田氏論文と併せてお読みいただきたい内容となっています。
このたびの特集は5月号ということで,新任で医学系図書館などに配属された方にも興味を持ってもらえる内容になるよう,心がけました。取り上げたデータベース自体は,医学のみならず周辺分野を広く含むものであるため,関連分野の方にも参考にしていただければ幸いです。
なお,見学会の開催にあたり,特定非営利活動法人医学中央雑誌刊行会の皆様に見学会場の提供から講演まで,大変お世話になりました。ご執筆いただいた岡田氏を始めとする参加者の方々,見学会開催に尽力いただいた研修委員会にも厚くお礼を申し上げます。
(会誌編集担当委員:池嶋千夏(主査),小山信弥,松下豊,森嶋桃子 協力:研修委員会)

医学と医学分野のデータベース

鈴木 博道
すずき ひろみち (財)国際医学情報センター
〒160-0016 東京都新宿区信濃町35 信濃町煉瓦館
Tel. 03-5361-7086(原稿受領 2013.03.18)

医学もデータベースも,きちんと定義し説明するのは難しいものである。天文学や理論物理学については日常会話にのぼることがほとんどないであろうが,医 学医療については話題となることは多い。データベースなどのIT関連用語は身近で触れることは多いものの,きちんとした説明をするのは誰にでも出来ること ではない。医学分野の特性,特殊性を踏まえて,いわゆる医学分野のデータベース概要と利活用について紹介をする。

キーワード: 医学医療,データベース,Evidence Based Medicine

JSTバイオサイエンスデータベースセンターにおけるデータベース統合への取り組みと医学分野での利活用の紹介

大波 純一*1, 佐藤 恵子*1, 白木澤 佳子*1, 高木 利久*1*2*3
*1おおなみ じゅんいち, さとう けいこ, しろきざわ よしこ, *1*2*3たかぎ としひさ
*1独立行政法人 科学技術振興機構 バイオサイエンスデータベースセンター
〒102-0081 東京都千代田区四番町5番地3
*2東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学専攻
〒277-8568 千葉県柏市柏の葉5-1-5
*3大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所DDBJセンター
〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
(原稿受領 2013.2.20)

バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)に平成23年4月に設置された組織であり,ライフサイエ ンス分野のデータベースの統合を推進している。NBDCでは,Integbioデータベースカタログ,生命科学データベース横断検索,生命科学系データ ベースアーカイブなどのサービスや,ファンディングによって開発されたサービス(新着論文レビュー,領域融合レビュー,統合 TV,TogoDoc,BodyParts3D/Anatomography,生物アイコン,Allie,inMeXes等)をポータルサイトから無償で 公開している。本稿ではNBDCの取り組みと各サービスを利用した医学関連データベースへのアクセス方法やツールの活用例を紹介する。

キーワード: データベース,ライフサイエンス,医学,統合化,横断検索,データベースカタログ,アーカイブ

EBMを意識したPubMedの検索:
JMLA診療ガイドラインワーキンググループの活動

小嶋 智美
こじま さとみ 特定非営利活動法人日本医学図書館協会 診療ガイドラインワーキンググループ
(原稿受領 2013.2.18)

本稿では,EBMを意識したPubMedの検索について,JMLA診療ガイドラインワーキンググループの活動で得た知見と実例を交えて解説する。 Advanced Searchは,BuilderとHistoryにより検索式を作成することができる。Filterは,検索結果の絞り込みに用いる。Detailsで, 検索の実際を確認する。検索フィールドの指定には,タグを用いる。My NCBIで,検索式や文献を保存する。MeSHを検索に用いる時は,索引情報やルールに留意する。検索担当者に必要なのは,PubMed・MeSH・ EBMの知識と共に,依頼者と協同して作業を行う姿勢である。

キーワード: PubMed,文献検索,EBM,MeSH,診療ガイドライン

医学用語シソーラス:MeSHとの関連性

浜田 雅美
はまだ まさみ 特定非営利活動法人 医学中央雑誌刊行会
〒168-0072 東京都杉並区高井戸東2-5-18
(原稿受領 2013.2.20)

医学中央雑誌刊行会は,国内の医学および関連領域の文献データベースを医中誌Webにて提供している。データ内容は,1. 書誌事項,2. 抄録,3. 索引データに大別される。索引データを付与することで,特定の主題について記述された文献が,効率的に検索される。索引作成は,専門のインデクサーが1つ 1つの文献に目を通し,主題となる概念を抽出し,それを適切な索引語に置き換えて付与することにより行われる。索引やシソーラスを理解することはそれほど 容易でないことから,医中誌Webではシソーラスを意識しなくとも,それが検索に活かされるような機能の充実も図ってきた。しかし,索引データの意味を 知って頂くことで,検索の多様性は広がるものと考える。この索引データについて「医学用語シソーラス」を中心に,米国国立医学図書館が発行するシソーラス 「Medical Subject Headings」(MeSH)との比較に焦点をあてて述べる。

キーワード: 索引作成, シソーラス,Medical Subject Headings,情報の蓄積と検索,データベース,医中誌Web,医学中央雑誌

見学会を通して見えた医学中央雑誌について

岡田 英孝
おかだ ひでたか 東京医科大学図書館本館
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1
(原稿受領 2013.1.16)

医学中央雑誌について,医学中央雑誌刊行会の見学会を通じて得られた見解を元に以下の観点から論じた。1.記事の採択を現在行なっているが,できれば収 録雑誌の全ての記事を採択するのが望ましいこと。2.インデクシングは再現率を高めるように付与されているので,利用の際はそこに留意すること。システム 上の検索機能も合わせて活用すること。3.一次資料の入手まで考慮に入れた展開が必要なこと。4.会議録の取り扱いについて今後も協議して望ましい提供が できること。5.撤回記事は更なる充実が望まれること。明確な解決策が難しい問題もあるが,時代の変化にあわせた改善が望まれる。

キーワード: 医学中央雑誌,医中誌Web,文献検索,文献提供,インデクシング,撤回論文,訂正記事