平成14年1月25日

社団法人 日本複写権センター 理事長  半田正夫 殿
学術著作権協会 会 長  石川六郎 殿
(株)日本著作出版権管理システム  代表取締役  金原  優 殿
文化庁 長 官  河合隼雄 殿
社団法人 経済団体連合会 会 長  今井  敬 殿

社団法人 情報科学技術協会
 会 長  近江  晶

著作権集中管理事業団体の統合化のための要望(提言)

 さまざまな経緯を経て、文化庁、出版関連団体、経団連などの支援によって平成3年9月に、わが国唯一の著作権集中管理機構として社団法人日本複写権センターが設立されたことは、誠に意義深いことでありました。
しかしながら、同センター設立後10年を経過した現況を見るとき、同センターは社会や産業界に対し、その機能をほとんど果たしていないと言わざるを得ない状況にあります。
 このため、正常で効率的な情報流通を研究し、情報の利用技術の普及活動をも重要な使命としている当協会としましては、この状況を看過することができませんので、著作権集中管理の正常化・公正化のために、下記のとおり要望(提言)する次第であります。
文献複写につきましては、企業等の調査・研究活動の根幹に位置している重要な業務でありますので、関係機関におかれましては早急に問題解決に当たっていただきたく存じます。
 

要望(提言)
現在、内外の雑誌・図書などの著作権集中管理事業者として、社団法人日本複写権センター、学術著作権協会(学著協)、株式会社日本著作出版権管理システム(JCLS)の3団体が鼎立している。この事態は利用者の利益を著しく損なうものであり、とりわけ、「わが国のコピーに関する著作権処理を一括して行う唯一の機関」として誕生した同センターの設立の趣旨と目的に相反するものである。
したがって、同センターが中心となって早急にこれら3機関の統合を図り、現状の利用者不在の事態を解消すべきである。
同センターは、米国の著作権集中管理団体であるCCCとの間で、文献複写に関する双務協定締結の交渉に当たっていたが、平成13年10月にCCCは、同センターが定めている複写料金1ページ当たり2円という価格を不当として、交渉の打ち切りを通告してきた。
同センターは、この現実を見据えて事態の改善のために、現行の複写許諾の課金システムの根本的な見直しを早急に行うべきである。
(特記事項)
文献複写利用者の企業等においては、文芸書・一般書の複写利用はほとんどない。
文献等の複写は、欧米先進国はもとより、わが国にあってもSTM(Scientific,Technical and Medical)と称される医学を含む自然科学系出版物がそのほとんどを占める。わが国の調査・研究開発にともなう文献調査は、大学図書館の資料購入費総額の相当な部分が洋書の購入に充てられていることにも見られるように、欧米の学会・商業出版社の学術・専門出版物への依存度が高い。これら出版社では、例えば米国化学会では雑誌の1論文の複写サービス料金を一律に3,480円、ドイツの商業出版社のSpringer社では同様に3,890円と決めている。日本と双務協定を結ぶとこれら出版社は、内国民待遇の適用を受けてページ当たり2円の複写利用料収入しか得られなくなる。これがCCCが複写権センターとの交渉に応じられなかった最大の理由となっている。
同センターが、1ページ当たり2円を適用できない、いわゆる白抜きRといわれる「特別扱い」という日本のSTM系出版物の集中管理を放棄したことによって、新たにJCLSが設立されたという経緯がある。このJCLSの設立により、大部分の利用者が同センターとの「包括許諾契約」の中には、もともと複写利用率の高いSTM系出版物が含まれていない、という事実を知るところとなった。学著協の管理著作物である学協会出版物を除けば、利用者はもはや同センターと「包括許諾契約」を締結する意味がなくなった。
文献複写の最も中心となるSTM系管理著作物の管理を自ら放棄してしまったことが、現在の混乱の主因となっていることを、同センターは強く認識し、反省すべきである。
同センターの設立に際し、利用者を代表したのが経団連であったとの経緯がある。今日の事態を招いた責任の過半は、企業などの利用者がほとんど利用することのない文芸書・一般書を複写の中心に置いた文化庁にあると言わざるを得ないが、企業活動における文献複写と情報流通の実態を把握できなかった経団連が利用者代表として機能しなかった責任も大きいものがある。
2001年10月施行の「著作権等管理事業法」では著作権者の保護とともに、利用者の保護規程が定められているが、同法に則り管理事業者は、今後、企業などの情報管理部門の集合体である当協会および専門図書館協議会のような機関を利用者代表と定め、事業の運営を図るべきである。
 そもそも、著作権の集中管理機構は、利用者の便宜のための機能を第一義にすべきであったが、同センターの設立当初から利用者不在の状況であった。権利者および著作権管理事業者は、複写利用の実態を利用者の立場に立って理解する必要がある。

 現在、利用者は集中管理機関が三者三様の利用契約の締結を迫ってきた場合の対応に苦慮しております。複写権センターに至っては、設立10年になるのにその管理著作物の個々の内容さえ明示していません。契約者はどの出版物に対して複写利用の権利があるのかも分からない状況です。
 このような利用者不在の混迷状況を招いたのは、偏に同センターの当事者能力の欠如によるものと言わざるを得ませんが、同センターの構成員でもある学著協ならびに著作者団体連合、またJCLSの母体でもある出版者著作権協議会にもその責任の一端があると考えます。
 本要望書は、社団法人日本複写権センター、学術著作権協会、株式会社日本著作出版権管理システム、文化庁ならびに社団法人経済団体連合会に送付いたしました。
貴機関では、これに対してどのように対処していただけるのか、ご多用のところ恐縮ではありますが、きたる平成14年2月末日までに書面によりご回答賜れば幸甚に存じます。
 

以上

「社団法人 情報科学技術協会」について
当協会はこれまで50余年にわたり、科学および技術に関する情報の生産、管理、利用に関する理論・技術の調査研究ならびに開発とそれらの普及を通じて、わが国の産業および科学技術の進歩発展に寄与してきた文部科学省認可の学術団体です。
協会の構成メンバーの中心が企業・図書館等の情報管理部門およびその担当者であることから、これまでその使命の一つとして、情報検索技術の普及とそれに付随する学術情報を中心とする文献複写を含む情報の流通に関して深い関心を持ち、特に文献等の複写権処理に関して調査研究を行うとともに、問題解決のため協会内の「著作権委員会」、「複写権問題検討会」を中心に活動を行っています。