「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 63(2013), No.6

特集=「デジタル時代の図書館建築とその施設・設備」

特集 : 「デジタル時代の図書館建築とその施設・設備」の編集にあたって

 21世紀に入り,インターネットはもはや日常生活において不可欠な存在である。知の社会的な保存と利用を使命としてアーカイヴズ,図書館,博物館等は古くから存在しているが,これらが収集・提供する資料はデジタル時代に対応して,電子的資源が大幅に増加している。知的生活の一部を担う図書館建築は,このような背景を踏まえて機能的な再検討が進んでいる。
 デジタル資料の利用が加速度的に進むアメリカの図書館界においてさえ,「閲覧室が不要になった」という報告はまだない。日本においては,東日本大震災以後の被災地における被災者からの知的欲求の中に図書館の重要性を指摘する発言が多数あり,図書館という<場(place)>があらためて見直されている。
 一方,高等教育とその評価手法が変化したアメリカでは,個人を超えてチームやグループでの活動をベースにした学習形態が定着しつつあり,これに対応した図書館設計が様々に検討されている。
 このように,図書館の資料および利用者行動がデジタル時代に合わせて変化するなか,それに沿った図書館建築そして読書空間の在り方を検討し,その最先端の姿を「不易」と「進歩」の観点で捉えることを本特集では試みていただいた。
 はじめに,植松貞夫氏に「デジタル情報時代の図書館建築,その可能性と課題」(総論)を世界規模で展望いただく。続く各論(記載は順不同)で,中原マリ氏に近代の名建築を誇るアメリカ建築史からみた図書館の動向を「建築の重みと情報の重み」と題して近代から今世紀へと展開いただいた。中井孝幸氏には建築計画と空間設計の基本である動線調査の成果を踏まえ「利用行動からみた「場」としての図書館に求められる建築的な役割」を報告いただき,公共建築おける動線の重要性を再認識させている。益子一彦氏の「デジタル化時代の図書館空間」と中村研一氏の「人とメディアのインターフェイスが生み出す空間」の2論文では設計に関る利用と運営をいかに調和させ,建築家と図書館関係者との満足度を高めるかを議論いただいた。最後になったが五十嵐太郎氏には「建築家は情報化をどう意識しているか」と題して,自らの研究室が東日本大震災で被災しながらも,建築家として被災地の調査にあたり,得た知見をもとに図書館建築を再検討する要点を提示いただいた。いづれも著者諸賢の力作である。読者諸氏に批判的に(critical)接していただければ幸いである。
(会誌編集担当委員:松林正己(主査),上野友稔,權田真幸,立石亜紀子,中村美里)

デジタル情報時代の図書館建築,その可能性と課題

植松 貞夫
うえまつ さだお 筑波大学図書館情報メディア系教授
〒305-0051 茨城県つくば市二の宮2-4-1
(原稿受領 2013.3.25)

 本論は,デジタル情報時代に図書館が勝ち残っていけるために,図書館と図書館建築がどのような方向を目指すべきかについて取りあげた。米国で物理的な図書館は消滅するとの論が刊行されてから30年が経過した。大学図書館にあっては学術雑誌とその利用に関する限り「ぺーパレス時代」が到来し,その予測は半ば正鵠を得ていたといえる。この消滅論を巡る議論の中で登場してきた「場としての図書館」論について検証するとともに,代表的な第三の場タイプの図書館を紹介した。最後に,図書館像としてA.アンニョリの掲げる「屋根のある知の広場」論を基礎に,利用者を獲得できる図書館建築像についてまとめた。

キーワード: 図書館建築,場としての図書館,知の広場

建築の重みと情報の重み

中原 まり
なかはら まり 米国議会図書館アジア部日本課
101 Independence Ave., SE Washington, DC 20540-4810 USA
Tel. +1-202-707-2990(原稿受領 2013.3.25)

 20年ほど前から急速に発展した電子技術と昨今のデジタル時代の到来は,情報世界に旋風を巻き起こした。図書館のインフラの整備はもとより,利用者が図書館に要求する空間やサービスが変化し,それに対応して図書館の用途変更が余儀なくされたり,またその結果として,新しい図書館建築意匠が提案されたりと,その影響は広範である。本稿は,図書館建築の歴史的経緯を踏まえながら,現在の図書館に見られる傾向と新しい図書館建築意匠との関係を分析・考察することを目的とする。また,建築歴史意匠学研究者ならびに図書館司書である筆者の視点から,このデジタル時代が研究自体に与える影響を指摘する。

キーワード: 図書館建築,建築歴史・意匠,米国議会図書館,ニューヨーク公共図書館,大学図書館,公共図書館,用途変更,デジタル時代

利用行動からみた「場」としての図書館に求められる建築的な役割

中井 孝幸
なかい たかゆき 愛知工業大学工学部建築学科
〒470-0392 愛知県豊田市八草町八千草1247
Tel. 0565-48-8121(原稿受領 2013.3.21)

 公共図書館と大学図書館では,利用者層や利用内容,提供しているサービスも異なるが,アンケート調査や行動観察調査から,利用者が図書館という「場」に何を求めて利用しているのかを整理し,図書館計画への示唆を得ることを目的としている。 公共図書館では,図書の貸出が主な利用ではあるが,館内での滞在的な利用も多くなっている。少数ではあるが人ごみに紛れることで匿名性を確保して,落ち着きを求めている利用者も見受けられた。 大学図書館では,個人で集中して勉強する場としての利用が多いが,会話を伴う学習形態も増えている。静かな場所とにぎやかな場所,アナログとデジタル資料など,利用者は図書館サービスを適切に使い分けている。

キーワード: 公共図書館,大学図書館,利用行動,座席選択,居場所形成,図書館像,建築計画

デジタル化時代の図書館空間

益子 一彦
ましこ かずひこ 三上建築事務所
〒310-0062 水戸市大町3-4-36
Tel. 029-224-0606(原稿受領 2013.3.21)

 図書館の空間はその時代における知識・情報のありかたを示すものだった。デジタル情報化が進行した未来にあっても図書館という場所が必要となされるのであれば,図書館の本質は空間に還元されるはずである。そのときの基準は人間の身体である。その望み得る図書館空間を実現しようとするならば,建築家の存在は不可欠である。その建築家をどう選ぶかが課題となる。

キーワード: 知識・情報,デジタル化,モニター,身体,空間,建築家

人とメディアのインターフェイスが生み出す空間

中村 研一
なかむら けんいち 中部大学工学部建築学科
〒487-8501 愛知県春日井市松本町1200
Tel. 0568-51-1111 内4331(原稿受領 2013.3.27)

 建築家として設計した3つの図書館(フランス国立図書館,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスメディアセンター,西町インターナショナルスクール八城メディアセンター)での経験から,図書館を設計するプロセスについて主に西町での経験を説明している。どのような図書館を目指すかというヴィジョンを建築家とクライアントが共有するために,図書館建築の歴史を知の体系のメタファーという観点から概観し,マニエリスム期のミケランジェロから現代のコールハースまでの代表的な図書館の特徴を説明して,フランス国立図書館コンペやせんだいメディアテークコンペがその後の図書館建築に与えた影響を考察して,図書館の未来の姿を考察する。

キーワード: 建築家,設計プロセス,ビルディングタイプ,フランス国立図書館,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスメディアセンター,西町インターナショナルスクール八城メディアセンター,せんだいメディアテーク

建築家は情報化をどう意識しているか

五十嵐 太郎
いがらし たろう 東北大学大学院工学研究科
〒980-8577 仙台市青葉区片平2-1-1
(原稿受領 2013.4.9)

 この論考では,情報化の時代において建築家がどのように図書館のデザインを提案しているかをとりあげた。とくに1995年以降,伊東豊雄や古谷誠章を含む,建築家たちは,新しい図書館の可能性を開拓している。彼らは,デザインを通じて,透明性,情報の可視化,変化し続ける空間,そしてビルディングタイプの融解といったテーマを表現した。

キーワード: 建築家,図書館,東日本大震災,柔軟性,情報の視覚化
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