「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 62(2012), No.11

特集=「データベース構築の今」

特集 : 「データベース構築の今」の編集にあたって

 今月の特集は「データベース」について取り上げます。
 私たちは日常で様々な情報を利用し,データベースに蓄積された多くのデータも活用していますが,データベースでどのように管理されているかなどについては意識することが少ないのではないでしょうか。
 本特集はデータベースで管理されたデータとインターネット上に存在するデータとの違いを明らかにしたい,データベースの価値について再認識してもらいたいという思いから企画いたしました。しかしRDBの技術は1970年代でほぼ確立され,データベースへの関わり具合も人により様々であり,どのような内容にすればいいか大いに悩みました。編集を終えた実感としては,データベースの内容について扱いながら,私たちはどのように膨大な情報と関わっていけばいいのかについて考える一面も持った特集になったのではないかと思います。秋の夜長のひととき,思いをめぐらせてみられるのもいいかもしれません。
 東京大学生産技術研究所の喜連川氏からは,本特集の総論として,これまでのデータベースの流れ,データベースを取り巻く要素を振り返っていただき,技術的,サービス的観点からのデータベースの最新の動向,課題について論じていただきました。
 東芝ソリューション(株)の服部氏,谷川氏,近藤氏からは,RDBとXMLDBとの比較,XMLDB構築の事例などを通してXMLが持つ高い柔軟性を活かしたXMLDBの可能性について論じていただきました。
 国立情報学研究所の大向氏からは,国内最大規模の学術論文検索・提供サービスであるCiNii Articlesのシステムデザインとデータモデルについて,CiNii Articlesがいかにして高い性能要件を達成し,信頼性の高い情報サービスの提供を行っているか解説いただきました。
 静岡大学附属図書館の杉山氏,森内氏,高橋氏,森部氏からは,全国に先駆けて行われた図書館の館内システムの全面クラウド化についての事例報告,クラウド上でのデータの管理などについて解説いただきました。
 ネクスト(株)の清田氏からは,ビッグデータを扱うための分散型コンピューティングシステムの仕組み,図書館などの機関がどのようにビッグデータと向き合うべきかについて論じていただきました。
 今後,ますますデータの活用が進展していく中で,本特集が少しでもデータベースの価値を再認識し,またこれからのデータベースのあり方といったことにも関心を持ってもらえる契機となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:齊藤泰雄(主査),池嶋千夏,白石啓,森嶋桃子,松下豊)

総論 : データベースの過去・現在・未来

喜連川 優
きつれがわ まさる 東京大学生産技術研究所
〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
(原稿受領 2012.9.10)

 データベースは1950年代の米国における軍事データを収集し蓄積するデータ(data)の基地(base)に由来し,1970年にE.F.Coddによってリレーショナルデータベースの考え方が発表され,現在広く利用されている。最初に現在までのデータベースの流れ,データベースを取り巻く要素(DBMS,E-Rモデル,データベース設計,正規化,SQL)を振り返り,データベースの必要性を再確認し,技術的,サービス的観点からのデータベースの最新の動向,課題について論じる。

キーワード: データベース,データマイニング,ストリーム処理,ストレージシステム,クラウドコンピューティング,ビッグデータ

適用事例から見るXMLデータベースの活用メリット

服部 雅一,谷川 均,近藤 雄二
はっとり まさかず,たにがわ ひとし,こんどう ゆうじ
東芝ソリューション(株) プラットフォームソリューション事業部
〒183-8532 東京都府中市武蔵台1-1-15
Tel. 042-330-6088(原稿受領 2012.8.21)

 電子政府をはじめとして,電子取引,事務データ,新聞記事など様々なデータを汎用的に表現する仕組みとして,データ構造の柔軟性を特長とするXML(eXtensible Markup Language)の活用が進んでいる。企業内においても,XMLの活用範囲が広がるにつれ,XMLデータをそのままの形式で管理し利活用したいというニーズが高まっている。そのニーズに対応できるのが「XMLデータベース(XMLDB)」である。本稿では,XMLが持つ高い柔軟性を活かしたXMLDBについての基本思想や操作方法を述べるとともに,ドキュメント管理アプリケーション開発の事例を通してXMLDB活用のメリットについて議論する。

キーワード: XML,データベース,文書管理,ドキュメント管理,ネイティブXMLデータベース

CiNii Articlesのシステムデザインとデータモデル

大向 一輝
おおむかい いっき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2585(原稿受領 2012.9.10)

 学術情報サービスにおいて,コスト面での制約がある中で大量のアクセスを高速に処理するためには,サービスが備えるべき機能を精査し,その機能の実現に適したシステム設計を行う必要がある。CiNii Articlesでは月間3500万〜5000万のアクセスに対応するため,機能要件を検索と書誌表示に限定し,高速な検索エンジンと単純な処理のみを行うRDBを組み合わせることで性能要件を達成した。また,書誌IDを維持・管理するシステムを構築することで信頼性の高い情報サービスの提供を行っている。

キーワード: システムデザイン,検索エンジン,データベース管理システム,ユニークID,名寄せ

クラウドを使用した静岡大学附属図書館のシステム構築

杉山 智章*1, 森内 文*2, 高橋 里江*1, 森部 圭亮*1
*1すぎやま ともあき, *2もりうち ふみ, *1たかはし りえ, *1もりべ けいすけ
*1静岡大学附属図書館
*2元静岡大学附属図書館
〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836
Tel. 054-238-4477(原稿受領 2012.8.20)

 クラウドコンピューティングの普及とともに,クラウドを使用した図書館向けサービスや,機関単位でのクラウド化の事例がみられるようになった。静岡大学では,プライベートクラウドとパブリッククラウドの両方を活用した情報基盤の更新が行われ,附属図書館でも機関リポジトリや図書館業務システムなど,システムの全面パブリッククラウド化を達成した。その際,データの保全性を高めるためのバックアップや事業継続のためのリストア手順の確認を行った。クラウドによる効果はこれまでの機器・設備管理からの解放などがあげられる。一方,停電時の対応など,実際の運用を通して危機管理意識の重要性を再認識した。

キーワード: クラウドコンピューティング,情報基盤,図書館業務システム,リポジトリシステム,データ管理

ビッグデータ時代の情報インフラのあり方を考える
-RDBMSと分散型コンピューティングシステム-

清田 陽司
きよた ようじ (株)ネクスト 技術基盤本部 リッテル研究所
〒108-0075 東京都港区港南2-3-13 品川フロントビル
Tel. 03-5783-3689(原稿受領 2012.8.27)

 現代のさまざまな情報サービスの基幹システムとして利用されているリレーショナルデータベースシステム(RDBMS)は,トランザクションやセキュリティなどの重要な機能を備えている一方,大規模Web情報サービスのログデータなど,テラバイト〜ペタバイト規模のいわゆるビッグデータの活用についてはいくつかの課題を抱えている。ビッグデータを扱うため,Hadoopや分散型Key-Value Storeなどの分散型コンピューティングシステムが普及しつつある。本稿では,分散型コンピューティングシステムの仕組みと,役割に応じたRDBMSと分散型コンピューティングシステムの使い分けについて解説する。また,ビッグデータ活用の流れの中で,図書館などの機関がどのようにビッグデータと向き合うべきかについて考察する。

キーワード: Big Data,RDBMS,分散型コンピューティング,Hadoop,分散型key-value store
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