「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 62(2012), No.5

特集=「情報サービスとユニバーサルデザイン」

特集 : 「情報サービスとユニバーサルデザイン」の編集にあたって

 今月の特集は,「情報サービスとユニバーサルデザイン」です。弊誌ではこれまで,「情報バリアフリーとしてのユニバーサル・サービス」(59巻8号),「バリアフリーとユニバーサルデザイン」(50巻3号)等の特集を組んでいます。「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」が特定の人々にとっての障壁を取り除くだけのものではなく,より広く,可能な限り多くの人が利用しやすい環境をめざす概念であるという認識が社会に広がる中で,図書館や情報分野におけるユニバーサルデザインの意義について考察してきました。近年の新たな展開として,Webアクセシビリティが,サービスそしてデザイン上の課題として問われていることもあり,インターネット環境へのアクセシビリティ研究は目覚ましい進展を遂げています。しかしながら他方では,利用者への提供のあり様によって格差が存在し続けていることも事実です。本特集ではユニバーサルな情報アクセスの実現について日々研究・活動なさっている方々にご執筆をお願いし,最近の技術の発展や傾向について個別の進展状況を解説していただくと共に,多様性を担保する情報サービスのあり方について,その課題を検討していただきました。
 はじめに,総論ではIBMフェロー・浅川智恵子氏に,ご自身の専門である視覚障害者・高齢者・非識字者などの印刷体情報へのアクセスに困難を持つ方々をとりまく環境の変化を中心に,海外の事例紹介も含め,将来の展望など,総論にふさわしく幅広い問題を論じていただきました。つづいて,実際にユニバーサルアクセスの実現のために活動されているお二人の方に,現状と課題のご報告をお願いしました。お一人目は「ユニバーサルな情報社会の促進」を目的としてご活躍のNPO法人ハーモニー・アイ・馬塲寿実氏です。情報環境が大きく変化する中で,いわゆる情報弱者を中心に情報アクセス支援の実績を積まれた経験から,デバイスのユーザビリティとコンテンツのデザインという2つの側面において,現状の評価や今後の課題についてご指摘いただきました。お二人目は日本障害者リハビリテーション協会の野村美佐子氏です。野村氏にはマルチメディアDAISY教科書についての紹介をお願いしました。マルチメディアDAISY教科書の普及の実態,成果,そして課題についての解説と,制度上の問題やEPUB3との連携も含め,将来への期待を込めた提言をいただきました。最後に宇都宮大学・鎌田一雄氏には,ご専門であるヒューマンコミュニケーションの分野からの情報活動の支援といった視点での論考をご執筆いただきました。視覚に障害を持つ方への情報コミュニケーション支援を例として,ユニバーサルデザインが特定の人たちへのデザインを超えた情報環境の構築を実現するためには,「人の要因,社会的な要因」を考慮する必要があることをご指摘いただいています。
 多様な情報サービスを実現するためのユニバーサルデザインを検討する一助として,本特集が図書館・情報分野に携わる多くの方々の参考になれば幸いです。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),小山信弥,白石啓,松下豊,森嶋桃子)

アクセシビリティ向上のための情報技術とユニバーサルデザイン

浅川 智恵子
あさかわ ちえこ 日本アイ・ビー・エム(株) 東京基礎研究所
〒135-8511 東京都江東区豊洲5-6-52
(原稿受領 2012.2.27)

 障害者にとって,情報技術は教育や就労をはじめ社会参加の機会を劇的に拡大させる重要な手段である。文字認識や音声合成といったインターフェース技術,パーソナル・コンピューター,Web,ソーシャル・ネットワークといった製品・サービスの登場により,障害者の情報アクセス環境は大きく変化してきた。本稿では,視覚障害をはじめ印刷された情報の利用が困難な障害を持つ人々を対象としたアクセシビリティ技術を中心に,それらの技術がユーザーの情報アクセス環境へもたらしてきたインパクトを振り返り,高齢者や非識字者などを対象とした新しいアクセシビリティ研究における将来の展望を述べる。

キーワード: アクセシビリティ,文字認識,音声合成,Web,ソーシャル・コンピューティング,障害者,高齢者,非識字者,モバイル

だれもが参加可能な情報社会のユニバーサルデザイン

馬塲 寿実
*ばば ひさみ 特定非営利活動法人ハーモニー・アイ
〒135-0042 東京都江東区木場3-14-11サニーハウス木場公園205
Tel. 044-571-6717(原稿受領 2012.2.24)

 本稿では,だれもが参加できる情報社会の実現をめざし活動しているNPOハーモニー・アイの活動を紹介し,それを通し見えてきた,現状の情報環境のユニバーサルデザインの様々な課題を明らかにする。そして,今後より多くの情報弱者も含むだれもが,情報社会の恩恵を受け,社会参加実現へ向けて必要と思われることを,ITを利用し情報を発信し運営する人々,制作者・開発者および情報弱者の市民を支援する人々それぞれの立場の方々へ向けて,期待することを述べていく。

キーワード: 情報,ユニバーサルデザイン,アクセシビリティ,デバイス,アプリケーション,障がい者,高齢者,ICT

マルチメディアDAISYを活用した電子教科書

野村 美佐子
のむら みさこ (公財)日本障害者リハビリテーション協会
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-21-2
Tel. 03-5273-0796(原稿受領 2012.2.28)

 DAISY(Digital Accessible Information System)は,日本語で「アクセシブルな情報システム」と訳し,プリントディスアビリティ(印刷物を読むことに障害)がある人々の情報のアクセスを支援するデジタル録音図書の国際標準規格である。本稿では,読むことが困難な人々に有効であると注目を集めているマルチメディアDAISY教科書について紹介し,ボランティアによる提供活動の現状,成果および課題を示す。さらにすべての人の活動参加を保障するユニバーサルデザインの観点から,EPUB(Electronic PUBlication)とDAISYの連携によるアクセシブルな教科書への期待を概説する。

キーワード: マルチメディアDAISY教科書,アクセシビリティ,読むことが困難な児童生徒,ボランティア,DAISY4,EPUB3,ユニバーサルデザイン,合理的配慮

情報アクセスとコミュニケーションのための情報通信技術

鎌田 一雄
かまた かずお 宇都宮大学 大学院 工学研究科
〒321-8585 宇都宮市陽東7-1-2
Tel. 028-689-6242(原稿受領 2012.2.20)

 情報アクセス,コミュニケーション環境の構築において情報通信技術の果たす役割は大きい。本稿では,情報アクセス,コミュニケーションなどの情報活動をメッセージの作成,伝達,提示という流通の視点から述べる。情報環境の構築をメッセージ流通から目指すという立場から,技術的なデザイン要因だけではなく,情報機器を使用する人の要因をも考慮したアプローチを述べる。一つの事例として,テキストと音声との間のメディア変換を利用する文書の代替的な音声通報サービスを説明する。情報環境の構築に対する,技術的なデザイン要因と情報機器を使用する人の寄与などの課題も述べる。

キーワード: 情報アクセス,コミュニケーション,メッセージ,メディア変換,情報環境

投稿:国際子ども図書館子どもOPAC
〜児童向けOPACのモデルケースを目指して〜

橋詰 秋子
はしづめ あきこ 国立国会図書館国際子ども図書館
〒110-0007 東京都台東区上野公園12-49
Tel. 03-3827-2045(代表)(原稿受領 2012.3.28)

 「国際子ども図書館子どもOPAC」は,小学生向けインターフェイスによる蔵書検索システムで,国立国会図書館の支部図書館である国際子ども図書館の所蔵資料を検索することができる。「国立国会図書館サーチ」のシステムの一部として2011年に開発され,識字や各種知識の習得段階にある児童が無理なく使えるように,大人向けのOPACには無い,様々な機能や工夫を盛り込んでいる。「国際子ども図書館子どもOPAC」について,児童図書館サービスのためのツールという開発コンセプトとともに,年齢層別の3つの検索メニューや案内キャラクターなどの特徴的な機能を紹介する。

キーワード: 児童,子ども,図書館目録,OPAC,国際子ども図書館子どもOPAC,国際子ども図書館,国立国会図書館,児童図書館サービス

連載:たまに使う各国特許庁Webサイトの紹介
〜連載の中休み〜

臼井 裕一
うすい ゆういち (社)情報科学技術協会 理事
〒236-0005 横浜市金沢区並木1-14-18-101
Tel.045-771-2352(原稿受領 2012.3.6)
ページの先頭へ Copyright (C) 2012 INFOSTA. All rights reserved.