「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 62(2012), No.1

特集=「インドのいま」

2012年 年頭のご挨拶

会長 小野寺夏生

 明けましておめでとうございます。

   2012年のスタートにあたり,一言ご挨拶を申し上げます。
 3.11大震災での地震と津波の爪痕は深く,福島第一原子力発電所の大事故と相まって,今なお被災地の方々の苦難,苦闘が続いております。本会会員の中にも被害を受けられた方がおられると思います。改めてお見舞いを申し上げるとともに,本年には速やかな復興が進み,被災地のみならず全国に元気が戻る年になることを願っております。
 本協会は幸い大きな影響を被らずに済みましたが,それでもいくつかのできごとがありました。3月11日当日は,前年の情報検索能力試験の合格者を祝う会(東京)の開催日でしたが,当然中止となりました(本年の祝う会で,このときの合格者もお招きすることにしています)。翌日の大阪での会は行われましたが,協会本部からの出席はできませんでした。3月に開催予定だった「著作権処理実践セミナー」も一旦中止されましたが,関係者のご努力で9月に開催することができました。また,本誌の印刷会社にも被害があり,4月号のお届けが10日前後遅れました。しかし,その後は会員諸氏のご支援・ご協力を得てほぼ順調に諸事業を遂行し,新しい年を迎えることができました。
 公益法人に関する制度の改正による移行の問題については,今後公益事業と併せて収益事業への展開も進める必要があること,本協会の場合税制面で大きな不利はないこと,行政官庁への対応が著しく減ずること等の理由で,本協会では一般社団法人への移行を選択いたしました。昨年5月27日の通常総会でこれについて同意をいただき,新しい定款案についても承認されましたので,その後事務的な作業を進め,内閣府に必要申請書類を提出しております。順調に進めば,この4月1日に「一般社団法人情報科学技術協会」に移行いたします。新法人に移行しても,協会の活動や会員の皆様の参画に大きな変化が生ずるものではありません。しかし,定款ではいくつかの点でやや重要な変更があります。昨年の総会でこれらにつき説明しておりますが,移行が認可された後に,本誌やホームページで改めてご説明いたします。
 本年も,会誌「情報の科学と技術」の編集と刊行,情報検索能力試験の実施,各種研修会・講習会の実施,(独)科学技術振興機構との共催による情報プロフェッショナルシンポジウムの開催等の事業を,それぞれの委員会と会員諸氏のご協力を得て進めて参ります。事業計画に掲げた遠隔地会員へのサービス拡充についても,研究委員会等で検討を進めているところです。これらにつき,皆様のご意見・ご要望を積極的にお出しいただけると幸いです。
皆様の本年のご活躍を念じつつ,年頭のご挨拶といたします。

特集 : 「インドのいま」の編集にあたって

 インド-この大国を知らない人は,おそらくいないでしょう。そして,多くの人はインドと聞いて,どんな国であるか,何かしらイメージができるでしょう。
 インドは世界第2位の人口を誇り,その数は10億人を超えます。数多の言語,宗教,民族からなる,その多種多様な文化は,これまでも世界中の人々を魅了してきました。また,近年の経済成長は目を見張るものがあり,BRICsの一員として,新たに注目を集める存在となっています。
 誰もが知っていて,イメージができる,世界の中でも存在感を増しつつある国,インド。しかしながら,われわれインフォプロの間に,インドの図書館や出版の現状,インド情報の調べ方が広く知れ渡っているとは言い難いと思われます。そこで,本特集では,インドに係る業務に携わっている方々に,その業務内容をはじめ,インドの出版事情や図書館や書店の様子,インド情報の特徴,その探索方法などをご紹介いただきました。
 西願博之氏には,インドの出版事情に加え,国立国会図書館におけるインド資料収集とインド情報へのアプローチ方法をご説明いただきました。坂井華奈子氏には,アジア経済研究所図書館における資料収集の特徴と,その過程で接したインドの図書館や書店についてご紹介いただきました。Kaushik Ghosh氏には,現地インドより,学術図書館における電子リソース導入の傾向について,コンソーシアム活動の紹介を交えながら,ご報告いただきました。徳野肇氏には,インド特許情報の近況とインド特許の検索方法について,ご解説いただきました。
 今回の特集では,インドの現状を伺い知ることができるばかりではなく,インド情報の特徴とその接し方についても言及してくださっており,日本国内における図書館活動の参考にもなる内容となっております。本特集が,知っているようで知らないインドを知るきっかけとなれば幸いです。
(会誌編集担当委員:權田真幸(主査),野田英明,小山信弥,高久雅生,森嶋桃子)

インドの情報源とその利用

西願 博之
さいがん ひろゆき 国立国会図書館関西館アジア情報課
〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
Tel. 0774-98-1376 (原稿受領 2011.10.31)

 本稿の前半では,インドの出版事情をめぐって,電子書籍/印刷書籍,多言語出版,政府系出版者/民間出版者,書籍流通,書籍小売業などのトピックを取り上げ説明する。あわせて,出版者が組み込まれている法定納本制度,納本図書館の一つであるインド国立図書館にも言及する。本稿の後半では,情報源の利用という観点から,国立国会図書館(NDL)が所蔵するインド刊行資料の概要を述べる。特に政府系刊行物については,ウェブ上でのアクセス方法にも触れる。最後に,NDL利用者と資料・情報の結びつきを下支えしている,NDL関西館アジア情報課の選書業務,コンテンツ作成業務を紹介する。

キーワード: インド,電子書籍,法定納本制度,インド国立図書館,ブックフェア,オンライン書店,国立国会図書館,アジア言語資料,政府刊行物,機関リポジトリ

インド 現地資料の収集

坂井 華奈子
さかい かなこ 日本貿易振興機構 アジア経済研究所 図書館 資料整理課
〒261-8545 千葉県千葉市美浜区若葉3-2-2
Tel. 043-299-9712 (原稿受領 2011.11.10)

 アジア経済研究所(アジ研)は,開発途上国・地域の政治,経済,社会に関する社会科学分野の基礎的総合的研究を行う研究機関である。研究活動の現地主義に対応し,アジ研図書館でも現地刊行の現地語の資料を重視し,現地に根ざした資料収集を行っている。特に,現地書店との直接取引による購入,現地研究機関や大学,政府機関等との資料交換,直接現地を訪問しての資料収集活動が特徴的である。本稿では,インドの現地資料収集について,アジ研図書館のこの特徴ある資料収集活動を基にご紹介してみたい。また,後半では2007年にデリーを訪問して資料事情に関する現地調査を行った際の体験についても触れる。

キーワード: インド,資料収集,書店,図書館,資料交換

インド学術図書館における電子リソース導入の傾向

Kaushik Ghosh*1, 的場 美希 訳*2
*1カーシュック・ゴシュ オックスフォード大学出版局 グローバルアカデミックパブリッシング部 リージョナルセールスマネージャー 東南アジア担当
Oxford University Press Plot No. 1-5, Block GP, Sector V, Salt Lake Electronics Complex, Kolkata 700 091, India
*2まとば みき オックスフォード大学出版局グローバルアカデミックパブリッシング部東京オフィス部長
(原稿受領 2011.11.15)

 インド学術図書館における電子リソース導入の歴史と経緯を,様々なコンソーシアムの設立と共に説明する。2000年から現在までに設立されたコンソーシアムを,工学系研究機関・大学・化学/生物系研究所・医学・カレッジなどのセクターに分けて,評価している。これらのコンソーシアムの多くは国の省庁や州政府主導の施策により,電子リソース導入に成功している。今後は電子書籍やインド発の学術雑誌出版などでますます図書館や出版関係者の役割が重要になってくるであろう。

キーワード: インド学術図書館,コンソーシアム,電子リソース,ジャーナル,電子書籍

インド特許情報の近況とインド特許の検索方法

徳野 肇
とくの はじめ (株)三菱化学テクノリサーチ
〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6 麹町東急ビル4階
Tel. 03-5226-0940(原稿受領 2011.11.4)

 BRICsの1つとしてその経済的発展の脚光を浴びるインドであるが,2002年,2005年の特許法改正により,特許情報,特許調査の面からもさらに重要となってきている。最近のインド特許の概要についての各種調査結果からは,インド特許の件数が増加していることが報告されており,その内訳では,エレクトロニクス関連の出願が多く,また,海外からの出願比率が70〜80%を占めているようである。このようなインド特許に関して,各種データベースの収録状況を示し,またインド特許庁のデータベースを主に,検索方法と検索時の注意点について報告する。

キーワード: インド特許,特許調査,データベース,検索方法,特許出願件数,審査官数

連載:たまに使う各国特許庁Webサイトの紹介(4)
 たまに使う各国特許庁Webサイトの紹介:シンガポール編

浅野 敬司
あさの けいじ (株)発明通信社 調査部 国際課
〒101-0047 東京都千代田区内神田1-12-2
Tel.03-5281-5518(原稿受領 2011.10.12)

 近年,諸外国のウエブサイトは,ますます発展しており,特許検索における無料の有用なデータベースを提供している国もある。今までは,諸外国の特許情報を入手することさえ困難であったが,最近はかなりの国の特許庁が日本特許庁の電子図書館(IPDL)に近いサービスを提供している。今や,知的財産においても,新興国が注目を浴びている。今回は,これらのなかでも,特に注目度の高い,シンガポール特許庁の検索データベースについて記載する。シンガポール特許庁の検索サイトを示し,データ項目,検索方法,権利状況の入手方法を説明する。

キーワード: シンガポール特許庁,特許検索,特許情報,検索サイト,検索方法

投稿:2011年図書館国際セミナー
 「進化する学術情報環境と図書館の未来」

Rush G. Miller*1, Brian E.C. Shottlaender*2, Jay Jordan*3, 平原 禎子*4, 廣瀬 絵里子*5
*1ラッシュ・G・ミラー Hillman University Librarian and Director, University Library System, University of Pittsburgh
*2ブライアン・ショットランダー The Audrey Geisel University Librarian, UC San Diego Libraries
*3ジェイ・ジョーダン OCLC President and Chief Executive Officer
*4ひらばる よしこ (株)紀伊國屋書店 OCLCセンター
*5ひろせ えりこ (株)紀伊國屋書店 ライブラリーサービス部
〒153-8504 東京都目黒区下目黒3-7-10
Tel. 03-6910-0516(原稿受領 2011.11.29)

 紀伊國屋書店では,2007年より毎年海外から講師を招致し,大学図書館経営層の方々を対象とした国際ラウンドテーブルを開催している。5回目となる2011年はその規模を拡大し,OCLCとの共催で,広く図書館関係者に向けたセミナーを催すこととなった。ピッツバーグ大学図書館長のRush G. Miller氏,カリフォルニア大学サンディエゴ校図書館長のBrian E.C. Shottlaender氏,そしてOCLC会長兼CEOのJay Jordan氏を講師にお迎えし,早稲田大学図書館の後援を得て,同大学大隈記念講堂にて講師3名の講演およびパネルディスカッションが行われた。本稿は,講師3名の講演内容をそれぞれ和訳し要約したものである。

キーワード: デジタル時代,図書館の変革,図書館の使命,ネットワーク効果,次世代技術サービス,WEST,Hathi Trust,テクノロジーのトレンド

セミナー報告:「特許マップ利用の考え方とその事例シリーズ」
 〜第2回 総論 テキストマイニング+ビジュアル化型マップの考え方〜

パテントドキュメンテーション委員会

 2011年の9月から始まった「特許マップ利用の考え方とその事例シリーズ」の第2回セミナーについて報告する。
研修:特許マップ利用の考え方とその事例シリーズ:第2回
  総論 テキストマイニング+ビジュアル化型マップの考え方
講師:安藤 俊幸氏/花王(株)
日時:2011年10月12日(水)13:30〜17:00
場所:総評会館(東京都千代田区)
参加人数:32名
 第1回目の鶴見隆氏の「特許マップの考え方」に引き続いて,大量のデータを処理できるとされている「テキストマイニング+ビジュアル化型マップの考え方」について主としてフリーソフトのテキストマイニングツールtermmiと統計解析言語Rを組み合わせた特許情報の解析,可視化手法を詳細かつ具体的に安藤俊幸氏に解説いただいた。
 テキストマイニング+ビジュアル化型マップについては,10年程前から大量のデータを用いた解析に適していることから何種類ものツールが提供されている。しかしながら,実際に使用してみると思ったような結果がでないとか,何故そのような結果になるのか説明ができない等の問題点も指摘されている。これらは,一つには内部でどのようなことが行われてその結果が出されるのかといった部分がブラックボックス化されていることに起因しているのではないかと思われる。今回の講義においてこのあたりのことが明確になればという期待で聴講させていただいた。  講義は,まず特許情報の解析パターンの説明と市販のテキストマイニングと可視化ツールの概要説明があり,その後以下の第1部特許公報間の解析・可視化,第2部発明者,特徴語のネットワーク分析,第3部公報(文書)の自動分類の順で説明がなされた。
1)特許公報間の解析・可視化
 テキストマイニングと可視化の手順としては,ダウンロードした検索データをもとにして,自然言語処理(特徴語抽出)を施し,数値化の前処理を行った上で可視化・マップ化を行うことになる。ここで自然言語処理にtermmi,可視化・マップ化に統計解析言語R,数値化・データ整形に講師自作のプログラムを使用して,termmi,Rの入手先からインストール方法をも含めて,カラーマッピング表示までの具体的な説明があった。これらの一連の説明によりクラスタリング(何らかの観点の類似度により似た文書をまとめること)は用いる観点によって結果が異なってくること,また類似度の計算式6種類のどれを採用するかによっても結果が異なることがよく理解できた。
2)ネットワーク分析
 ネットワーク分析は数学のGraph理論に基礎を置いており,関係のパターンをネットワークとして捉え,その構造を記述・分析する手法である。この手法についても発明者のネットワーク分析を例にとって具体的に作成方法が説明された。分析対象が発明者の場合には関係は共同発明者の関係となり,Rによって分析する前に検索したダウンロードデータの整形が必要となり,発明者マトリックスを例えばExcelマクロ等で作成することになる。ネットワーク分析の分析対象としては,発明者の他に出願人,ファミリー,サイテーション,語(形態素),特徴語,特許分類,公報等が考えられる。
3)公報(文書)の自動分類
 第3部のこの項目は,現在検討中とのことであったが,読まずに特許公報を分類することを支援する目的で,特許分類,特徴語,発明のカテゴリーを利用した自動分類についての説明があった。自動分類は自己組織化マップを利用した競合学習によって行われる。今後の成果を期待したい。
 講義は,第1部を中心に詳細な説明がなされたが,数式やプログラミング言語やそれに関連した専門用語が次々と出てきて戸惑った聴講者も多かったようである。しかしながら,質問の時間をオーバーして多数の質問があり皆さんの熱意がひしひしと伝わってきた。今回のセミナーによりテキストマイニング+ビジュアル化型マップについての理解が深まったのではないかと思う。
(臼井裕一委員 記)
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