「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 59 (2009), No.5

特集=「インフォプロ:過去・現在・未来」

特集 :「インフォプロ:過去・現在・未来」の編集にあたって

 インターネット時代の到来とともに,「サーチャー(情報検索技術者)」という言葉は次第に「インフォプロ(情報専門家)」という表現にとって変わられてきています。このインフォプロという言葉には,サーチャーでは捉えられない広がりが感じられる一方,それが指す実像はあいまいになっているという面もあるように思われます。
 サーチャーという言葉は古くからありましたが,その客観的な尺度の一つとして,本協会が1985年から開始した「データベース検索技術者認定試験」を挙げることができます。それは,この試験が俗に「サーチャー試験」と呼ばれていたことからも明らかです。この試験が「情報検索能力試験」と名前を変えたのは 2003年のことですが,それより2年早い2001年に,本誌では『INFOPROへのHOP! STEP!』という連載が掲載されています。インターネットの爆発的な普及は2001年と言われていますので,2000年代初頭に,情報検索環境の大きな変化があったことは確かなことといえそうです。
 本特集では,これらの歴史を背景に,インフォプロを改めて考えてみることにいたしました。第5回情報プロフェッショナルシンポジウム(INFOPRO2008)でも,トーク&トークとして「どうするインフォプロ!」というパネルディスカッションが盛況となるなど,インフォプロのアイデンティティが強く問われる時代になっています。本特集では,「情報検索能力試験(旧データベース検索技術者認定試験)」を起点として,さまざまなお立場から,インフォプロの姿を描いていただきました。
 本特集は,ベテランのインフォプロにとって,アイデンティティを整理する上での一助となると思いますが,これからインフォプロを目指す方にこそ,ぜひ読んでいただきたいと思います。
補足:過去には本誌52巻3号(2002年3月号)で「サーチャーの意義」を,42巻9号(1992年9月号)で「職業としてのサーチャーを考える」を特集しています。これらの特集と比較することで,サーチャーとは違うインフォプロの姿を浮かび上がらせることができるかもしれません。
※過去の本誌記事は,協会WebサイトまたはCiNiiからご覧になることができます。
(会誌編集担当委員:木下和彦(主査),大田原章雄,田中法子)

情報検索能力試験25年の歴史からわかること

山ア 久道
やまざき ひさみち 中央大学文学部
〒192-0393 東京都八王子市東中野742-1
Tel. 042-674-3744(原稿受領 2009.2.23)

 まず,1985年から情報科学技術協会(以下INFOSTA)が実施する情報検索能力試験の受験者数の推移を,同時期の社会状況を示す諸指標と関係付けて分析した。ついで,出題された問題について,5年おきに分析した。その結果,2級の受験者数は,同時期のデータベース業参入企業数や研究開発費の伸び率と相関があり,1級の受験者数は,2級受験者数に1年のタイムラグで同一の傾向を示していることがわかった。問題内容では,中期には検索技術に集中し,開始当初と最近は情報流通全体に出題範囲が伸びている傾向が見られた。今後の方向として,(1)2級を中心に考えること,(2)データベース事業者との共存共栄を図ること,(3)単なるサーチ技術ではなく,より広い情報取り扱いの専門性を試す方向にシフトすること,の3点を指摘した。

キーワード: 情報検索,サーチャー試験,受験者数,出題傾向,検索技術,情報流通,歴史分析,将来展望

「サーチャーの会」の設立から現在まで,そしてさらなる前進へ

原田 智子
はらだ ともこ 鶴見大学文学部
〒230-8501 神奈川県横浜市鶴見区鶴見2-1-3
Tel. 045-581-1001(原稿受領 2009.3.4)

「サーチャーの会」の設立経緯と活動内容を振り返り,今後の活動展望について個人的見解を述べる。本会は,情報科学技術協会が1985年に開始した「データベース検索技術者認定試験(現情報検索応用能力試験)」2級および1級の合格者が集まり,サーチャーを社会的に認識させ,データベース産業界への提言などを目的に1987年に設立された。現在は「情報検索基礎能力試験」合格者や会員の推薦者も入会できる。年1回の総会,年3〜4回の定例会,分科会の開催,ニュースレターの発行,Webサイトの公開などの活動を行っている。今後,試験実施への協力,職場でのインフォプロとしての活躍,後継者の育成・教育,人的ネットワークの拡大が期待される。

キーワード: サーチャーの会,サーチャー,インフォプロ,データベース検索技術者認定試験,情報検索能力試験,情報科学技術協会,試験合格者,設立経緯,活動内容

インフォ・スペシャリスト交流会(IS Forum)

仲 美津子
なか みつこ 住商ファーマインターナショナル(株)
〒541-0041 大阪市中央区北浜4-5-33 住友ビル本館7階
Tel. 06-6222-3964(原稿受領 2009.2.23)

 関西・西日本のインフォスペシャリスト(サーチャー)の会,インフォ・スペシャリスト交流会(IS Forum)の20年にわたる研究会,分科会,Webサービスプロジェクトチーム等の活動紹介と会員の変遷を紹介する。現在IS Forum Webで一番アクセスの多いコンテンツは「情報検索能力試験簡単テストゲーム」である。会員は1994年には企業の研究技術情報部門中心であったが,2006年には企業の知的財産・特許部門中心へと推移した。

キーワード: IS Forum,IS Forum Web,サーチャー,インフォスペシャリスト,関西,西日本,情報検索能力試験,サーチャー試験,ゲーム

企業知財部門で感じるインフォプロ

中村 文胤
なかむら あやつぐ 日本新薬(株)知的財産部調査課
〒601-8550 京都市南区吉祥院西ノ庄門口町14
Tel. 075-3210-9087(原稿受領 2009.2.23)

 情報検索能力応用2級・1級試験受験の動機と勉強方法,資格取得が仕事や心情面に与えた影響について述べるとともに,今後の情報担当者のあり方について述べる。情報担当者としてサーチャーが担ってきた役割は,インターネット環境の発達により大きな影響を受けている。サーチャーが今後も情報担当者として活躍するためには,自己のスキルを磨くだけでなく,インフォプロとして変化する必要がある。サーチャーとインフォプロの違い,サーチャーがもつプライオリティー,目指すインフォプロの姿について,業務や経験を通じて考える点を述べる。

キーワード: インフォプロ,サーチャー試験,情報検索能力応用試験,肉体労働,知識労働,ヘンペルのカラス

情報の「探し手」から「使い手」へ 〜公共図書館で感じるインフォプロ〜

稲田 聡子
いなだ さとこ 山梨県立図書館
〒400-0031 山梨県甲府市丸の内2-33-1
Tel. 055-226-2586(原稿受領 2009.3.3)

 「司書」が「インフォプロ」となることで,どのような景色が眼前に広がったのか。今回は公共図書館に勤務する「システムライブラリアン」が直面した事例を挙げながら,その景色を描いていきたいと思う。「インフォプロ」のスキルには「利用者中心検索」など「司書」以上のものがあるが,実際はその能力を活かせず,「司書」ゆえの壁を感じることもある。だが,それを打破するためには,やはり「インフォプロ」の知見を持ち続けることが必要である。一方で,「司書」の徹底したサービス精神など,「インフォプロ」が公共図書館でこそ学べる事項も多数あると言えるだろう。

キーワード: 公共図書館,司書,インフォプロ,システムライブラリアン,利用者中心検索,「司書」ゆえの壁,情報の「探し手」,情報の「使い手」

インフォプロを育てる 〜大学における知財情報教育の経験から〜

都築 泉
つづき いずみ 大阪工業大学 知的財産研究科
〒535-8585 大阪市旭区大宮5-16-1
Tel. 06-6954-4244(原稿受領 2009.2.16)

 筆者は2005年4月から現職で勤務し,大学において,学部生および社会人を含む専門職大学院の院生に対して,特許情報検索を中心とした知財情報検索およびその周辺分野に関わる講義や演習を担当している。また,本学に勤務する以前はデータベース情報を提供する側,あるいは利用する側で勤務し,企業における知財情報担当者の方々の業務と関わっていた。本稿では,従前の勤務経験と現職における学生への知財情報教育の経験から,大学における知財情報教育を行う場合の問題点,課題,目標等を鑑み,知財情報を中心としたインフォプロを育てるための試行錯誤を含めた取り組み,とりわけ情報科学技術協会(INFOSTA)が実施する情報検索能力試験への取り組みについて紹介し,あわせて今後の情報検索教育の方向性についての私見を述べる。

キーワード: インフォプロ,情報検索,特許情報,情報検索教育,情報検索能力試験

投稿(解説):オープンアクセス〜機関リポジトリの最近の動向〜

時実 象一
ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
Tel. 0532-47-4467(原稿受領 2008.2.6)

 オープンアクセスのさまざまな動きのうち,機関リポジトリに関する部分の最近の動向を開設した。大学の機関リポジトリは展開が一段落し,今後の方向を模索しており,一部の大学では義務化の動きがある。ドイツMax Planck研究所のeSciDocリポジトリは付加価値が高く興味深い。米国NIHの「公衆アクセス方針」は,論文の提出がこれまでの「要請」から「義務」に変更され,これが実施された2008年4月から提出数が大幅に増加した。出版社側はこれに納得せず,9月には「研究成果公正著作権法案」を提出し,公衆アクセス方針を覆そうと試みているが,現在のところ成功していない。

キーワード: オープンアクセス,機関リポジトリ,研究助成機関リポジトリ,公衆アクセス方針,NIH,PubMed Central

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(14)
日本ファームドック協議会の思い出

吉田 郁夫,新倉 克明,竹内 一明
よしだ いくお,にいくら かつあき,たけうち かずあき
〒240-0023 横浜市保土ヶ谷区岩井町242
(原稿受領 2009.3.11)

 Derwent社の医薬関係特許情報サービスFARMDOCのサービスが1963年に開始されると,わが国の製薬各社は積極的に導入し,そのユーザ会日本ファームドック協議会(JFA)を1966年に結成した。JFAでは製品の品質の検討,カードや磁気テープの利用方法の研究,価格の交渉などさまざまな活動をおこなった。オンライン検索が始まるとオンライン検索サービスの比較研究もおこなった。当初はオンライン検索の提供サービスは不十分で,冊子体やカードに頼る時代が長く続いた。

キーワード: Derwent, FARMDOC,JFA,日本ファームドック協議会,オンライン検索,ユーザ会,カード検索,磁気テープ
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