「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 59 (2009), No.4

特集=「ファクトデータベース」

特集 :「ファクトデータベース」の編集にあたって

 今日の実験技術の進化に伴い,日々膨大な研究結果としてのファクトが生み出されています。その研究結果はダイレクトにWebに発信され,様々なファクトデータベースが登場し情報が流通しています。また,それらのデータの発信者は従来のデータベース作成機関だけでなく,研究者自らがその役割を担うようになり,そして,そのデータを自由に利用するのもまた研究者自身である状況が登場しています。
 一方で,伝統的なファクトデータベースもWebの進化とともにその姿を柔軟に変え,ファクトを入手するためだけの目的から,得られたファクトデータに付加価値を与えうる機能,エンドユーザーライクなインターフェイスでの提供など進化を続けています。研究者だけでなく情報担当者もその機能を充分に活用して,研究活動を進めていくことが求められていると考えます。
 このように,変容し広がりを見せているファクトデータベースを考えるためには,旧来の「ファクトデータベース」という単語の定義ではその全容を捉えられなくなっているのではないでしょうか?
 本特集では,Web時代のファクトデータベースとはどのようなものなのかを探るために,研究者・研究機関という,データの作成者でもありユーザーでもあるお立場,また伝統的なファクトデータベース作成者というお立場の方々に,現状のプロジェクト・実際の検索事例など,具体的な事例をご紹介いただきつつ論じていただきました。
 ファクトデータベースを取り巻く現状についての理解の一助になれば幸いです。
(会誌編集担当委員:加藤麻理(主査),木下和彦,服部綾乃)

ファクトデータベースの発展

時実 象一
ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
Tel. 0532-47-4467(原稿受領 2009.1.26)

 ファクトデータベースは技術の発展とWebの普及により新しい段階を迎えている。ゲノミック・プロテオミック分野,天文学,GISなど,従来と比較にならない大量のデータが得られるようになった。XMLなどの記述言語,メタデータ,オントロジー,データマイニングなど新しい手法が発展している。科学技術データを研究者が自由に利用できるためのアクセス問題,大量のデータの長期的保存などの議論が始まっている。伝統的な商業データベースも拡充を続けている。小規模な各種データベースについては国立国会図書館のDnaviや各種ポータルが役に立つ。

キーワード: ファクトデータベース,科学技術データ,XML,メタデータ,オントロジー,セマンティックウェブ,データマイニング,オープンアクセス,長期保存,商業データベース,NCBI,NIMS,CODATA,Science Commons

ライフサイエンス統合データベースセンターと統合データベースプロジェクト

坊農 秀雅
ぼうのう ひでまさ 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター
〒113-0032 文京区弥生2-11-16東京大学工学部12号館
Tel. 03-5841-7957(原稿受領 2009.1.20)

 近年,これまでの塩基配列決定法を改良した高速DNAシーケンサーやDNAマイクロアレイといった大量にデータを産生する実験装置の普及によって, DNA塩基配列や遺伝子発現プロファイル情報が利用可能となっているものの,そういったデータを解釈して医学生物学的に新たな知見を得ることがそのデータの大量さ故に困難になってきている。そのような状況下で,文部科学省による「統合データベースプロジェクト」が平成18年度から5年間の年限プロジェクトとして立ち上げられた。本稿では,そういった研究を支えるインフラとして機能しつつある同プロジェクトとそれの中核機関であるライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS:Database Center for Life Science)に関して紹介する。

キーワード: データベース,ゲノム,DNA,アノテーション,横断検索,全文検索,統合データベース,動画,解剖,クリエイティブ・コモンズ

ファクトデータを用いた解析

船戸 奈美子
ふなと なみこ (社)化学情報協会
〒113-0021 東京都文京区本駒込6-25-4 中居ビル
Tel.03-5978-3601(原稿受領 2009.1.20)

 ファクトデータは,自社のデータベースや商用のデータベースを用いて調査が行われており,研究開発や企業活動に伴う様々なシーンで活用されている。通常ファクトデータは,参考情報や分析目的で使用される頻度が高いが,本稿ではそれ以外の活用方法や,ファクトデータを集積することによって,新たに見えてくる付加価値について検討するため,ファクトデータからわかる物質やその文献情報の解析をSTNやSciFinderを用いて行った。その結果,ファクトデータベースで検索可能なデータや利用ツールが限定されるものの,物質の構造情報やその用途,関連企業などの競合情報がある程度得られることがわかった。

キーワード: 物性データに基づく解析,付加価値,構造解析,競合解析,文献解析,STN,SciFinder,STN AnaVist

NIMS物質・材料データベースとその検索エンジン

山ア 政義,徐 一斌
やまざき まさよし,しゅう いーびん 独立行政法人物質・材料研究機構データベースステーション
〒153-0061 東京都目黒区中目黒2-2-54
Tel. 03-5768-7601(原稿受領 2008.1.26)

 独立行政法人物質・材料研究機構のデータベースステーションがNIMS物質・材料データベースを2003年4月にインターネットによって公開してから6年が経過した。この間に利用登録ユーザは約7倍の42,000人に増加し,毎月のアクセス数もシステム全体で100万件を超えるまでになった。本報告では物質・材料の研究機関であるNIMSでのデータベース構築と公開に対する取り組みおよびMatNaviとその検索システムについて紹介する。

キーワード: 材料データベース,構造材料強度データシート,高分子データベース,統合検索エンジン,インターネット,相互リンク

Reaxys(リアクシス)−合成化学者のための新しいファクトデータベース−

鈴木 直子,海附 玄龍
すずき なおこ,うみつき げんりょう エルゼビア・ジャパン
〒104-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布ビル4F
Tel. 03-5561-5034(原稿受領 2009.1.30)

 Reaxysは,合成化学者のためのワークフローツールとして開発された化学分野の新しいファクトデータベースである。本報では,Reaxysについて,その背景,開発の経緯,活用例について紹介する。序論では,化学分野のデータベースについて概説を試みる。この中で,Reaxysの前身であり,コンテンツとしてReaxysに包含されるCrossFire Beilstein,CrossFire Gmelin,Patent Chemistry Databaseについて,その歴史と現況についても概観する。さらに,Reaxysが,何を目指して,どのように開発されたかについて要点を述べる。最後に,具体的な活用の一例を紹介する。

キーワード: Reaxys,リアクシス,化学データベース,反応データベース,ファクトデータベース,合成化学,有機化学,無機化学,有機金属錯体

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(13)
Ringdoc(薬学情報サービス)の導入と実施例,そして日本のユーザ会の歩み

西川 隆也
にしかわ たかや 元塩野義製薬褐、究所
〒636-0012 奈良県北葛城郡王寺町本町5-9-20
Tel. 0745-73-5185(原稿受領 2009.01.29)

 医薬品開発情報システムであるRingdocの導入は,まずマニュアル検索から始まった。そして,コンピュータによるバッチ検索を経て後に,オンライン情報検索に発展する。この流れについて,一企業における利用の経緯を述べる。その間,Ringdoc利用のノウハウから得られた知識で,社内研究情報システムの開発を行った。そしてRingdoc導入した1964年から1990年前半までリングドック日本部会の活動を表にまとめる。

キーワード: 医薬品開発情報システム,Ringdoc,マニュアル検索,バッチ検索,オンライン検索,研究情報システム,リングドック日本部会,PIAJ
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