「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 55 (2005), No.12

特集=「国立大学法人化」

特集:「国立大学法人化」の編集にあたって

平成15年7月に「国立大学法人法」が成立し,国立大学は平成16年4月に法人化され,文部科学省が設置する国の行政機関から国立大学法人へと生まれ変わりました。国立大学法人は,国が財政的に責任を持つ独立行政法人の枠組みを基に,自主・自律という大学の特性を加えた新しい法人制度です。  現在,国立大学の法人化という「出来事」から1年8か月が経過し,実際に国立大学というシステムはどのように変化したのでしょうか。本会誌の読者の皆様の中には「法人化」により様々な環境の変化に直面された方もいらっしゃると思います。また,国立大学にお勤めではない読者の皆様の中にも,国立大学の法人化に関心をお持ちの方も多くいらっしゃることでしょう。  本特集では,歴史的経緯を含めた法人化の「全体像」を最初にご紹介し,図書館の「運営」,「統合」,「職員」,「評価」そして「知財戦略」といった様々な観点から現状について解説をしていただきました。法人化後1年8か月を経過した国立大学ならびにその図書館をとりまく現状をご理解いただく上での参考になればと思っております。 (編集担当委員:深澤剛靖,及川はるみ,大田原章雄,高島有治)

総論:平成の教育改革:国立大学法人化と評価文化

川口 昭彦
かわぐち あきひこ 独立行政法人大学評価・学位授与機構 評価研究部長・教授
〒187-8587 東京都小平市学園西町1-29-1
Tel. 042-353-1822(原稿受領 2005.10.31)

国際的な競争社会において,日本の国立大学が,それなりの地位を確保するために,法人化が実施された。法人化の目的は,国の組織から切り離すことによって,自律的な環境の下で,それぞれの戦略を立てて,特色を出し,お互いに切磋琢磨することによって,国際競争力のある個性輝く大学作りを目指すことである。このように,従来に比べて大学自身の裁量に任される部分が拡大したカウンターパートとして,第三者評価制度が導入された。法人化と定期的な第三者評価の実施によって,国立大学に抜本的な改革が期待されている。

キーワード: 国立大学法人化,第三者評価,機関別認証評価,国立大学法人評価,組織改革,意識改革

法人化後の図書館運営について

諸富 秀人
もろとみ ひでと 広島大学図書館
〒739-8512 東広島市鏡山一丁目2-2
Tel. 082-242-6202(原稿受領 2005.9.26)

国立大学の法人化が図書館の運営にどのような変化や影響をあたえているのか。法人化後1年余りを経過した今,主として広島大学図書館を例としてその現状と課題を検証する。はじめに,法人化とは何かを考察し,法人化に伴う大学運営組織の改革のありかたを記述した。また,各国立大学図書館および図書館長の大学運営組織の中での位置付けを法人化前後で比較し,図書館の今後を考えた。最後に,法人化後の広島大学図書館の現状と課題を詳述し,法人化を期として実施した図書館運営組織の抜本的な改革と,改革後の組織の運営の現状および評価と課題およびその解決の方向性を考えた。

キーワード: 国立大学の法人化,運営組織の改革,組織のフラット化,オフィス制度,リーダーシップ,図書館のミッション,マネジメント,グループ制,人材育成とキャリアパス

山梨大学附属図書館における大学統合と法人化

大友 敏明
おおとも としあき 山梨大学附属図書館長
〒400-8510 甲府市武田4-4-37
Tel. 055-220-8060(原稿受領 2005.9.26)

山梨大学附属図書館は,平成14年10月に旧山梨医科大学附属図書館と統合し,その後法人化を経験した。大学統合と法人化という2つの要因は,図書館に, (1)図書館資料の集中管理,(2)資料費配分構造の見直し,(3)電子資料費の共通経費化などの懸案の改革を実行する絶好の機会を生んだ。現在,増築・改修計画と資料の仲介システムの検討が進められる一方で,学習用図書費の数値目標の設定,電子資料費の傾斜型予算配分など資料費の配分構造の見直しが決着した。一連の改革は,統合によって生じた摩擦を法人化という外的ショックが吹き飛ばし,いっきに2つの附属図書館をひとつにした。

キーワード: 山梨大学附属図書館,大学統合,法人化,電子ジャーナル,共通経費

国立大学の法人化と図書館職員

長坂 みどり
ながさか みどり 京都大学附属図書館
〒605-8501 京都市左京区吉田本町
Tel. 075-753-2612(原稿受領 2005.9.26)

国立大学図書館は,国立大学の法人化に伴う人事,組織,管理,運営等の改革・再編成や近年の情報社会の急激な変化に伴う様々な課題に直面することになった。これらの課題に,従来図書館が積み重ねてきた知識や経験で対応することが困難になってきた。さらに,大学図書館は,学術情報基盤として大学の教育・研究等責務遂行に高度で専門的な関わりが求められている。このような状況で国立大学図書館職員がどのように変わろうとしているのか,京都大学図書館および国立大学図書館協会の法人化後の変化・取組を検証する。

キーワード: 国立大学法人化,京都大学附属図書館,国立大学図書館協会,大学図書館職員,業務改善,人材育成,能力開発,サブジェクトライブラリアン

大学評価と図書館評価

永田 治樹
ながた はるき 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
(原稿受領 2005.10.14)

大学図書館の評価は,大学という枠組みにおいて実施されねばならない。これまでこの自明な枠組みの設定に難渋してきたが,近年の大学評価の展開が,それを解消する契機となる可能性が高い。本論では,先行する米国の地域認証機関の基準や,ARLとACRLの図書館評価のあり方を概観し,大学コミュニティに結びついた図書館評価について論述する。また,成果評価の現状を紹介するとともに,その際に実践と研究とをつなぐ必要性を示唆する。

キーワード: 大学評価,大学図書館,成果評価,「新しい尺度」,情報リテラシー評価,エビデンス・ベースト・ライブラリアンシップ

国立大学の法人化と知財戦略

下田 隆二
しもだ りゅうじ 東京工業大学イノベーションシステム研究センター
〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259-S2-4
Tel. 045-924-5803(原稿受領 2005.9.12)

大学の知的財産の活用への社会の期待を踏まえ,国立大学の法人化と同時に,教員の発明を個人に帰属させるという個人帰属原則から,法人に帰属させるという機関帰属原則への転換がなされた。この転換の必要性を説明するとともに,進みつつある大学の知的財産管理・活用のための体制整備の現状について触れる。さらに,法人となった国立大学が知的財産の管理・活用のための戦略を考えるにあたって重要な検討課題となる,何を目的として知財管理を行うかという大学のポリシーの明確化の必要性,効率的な大学のマネジメント体制の重要性,企業文化と大学文化の調和の重要性などを指摘する。

キーワード: 国立大学法人,国立大学,知的財産,特許,戦略,機関帰属,技術移転,産学連携,大学知的財産本部,TLO

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