Vol. 55 (2005), No.9
特集=「サブジェクトライブラリアンは必要か」


特集「サブジェクトライブラリアンは必要か」の編集にあたって

 「サブジェクトライブラリアン」という呼称はいったいどのように訳せばいいのであろうか?主題分野別の情報専門家?主題司書?専門司書?専門図書館員?
 日本では金沢工大図書館が設置したサブジェクトライブラリアンを想像する方も多いにちがいないし,企業情報センター等で活躍する情報専門家を思い浮かべるかもしれない。
 今回の特集では,サブジェクトライブラリアンとはいかなるものなのか,様々な取り組みを通してその姿を俯瞰していきたいと考える。
 また専門的分野を支援する図書館,大学図書館,企業情報センター,公共図書館などの事例から,それぞれのサブジェクト(主題分野)に対する位置づけ,方向性,課題などを考察しまとめていただいた。
 「図書館」とひとくくりにしているものの,支援母体の多様性やその設置目的も多岐にわたることから,サブジェクトラブラリアンの後ろ姿は図書館の数だけあるように思える内容となっている。
 図書館員にとって図書館業務の専門性の追求と主題知識の獲得は,図書館員の付加価値や評価向上として位置づけられているとも言われているが,こういった枠組みばかりでなく,利用者支援や設置母体支援に必要な専門性や主題知識の獲得意欲は,むしろ問題点や課題を見極める力によって醸成されるものかもしれない。利用者満足をインセンティブとしたライブラリアンこそ,サブジェクトライブアリアンなのかもしれない。
 それぞれの立場で訳文をあてはめて頂ければ幸いである。
(編集担当委員:北島由紀子,及川はるみ,大田原章雄,木下和彦,荘司雅之)


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サブジェクトライブラリアンとは何か:その導入がもたらすもの

薬師院 はるみ
やくしいん はるみ 金城学院大学文学部
 〒463−8521 名古屋市守山区大森2−1723
 Tel. 052-798-0180(原稿受領 2005.6.10)
 
 本論は,主題情報を専門に扱う司書の問題について検討する試みである。この存在は,近年日本でも話題となっており,大学図書館等では,情報的環境の激変と,利用者ニーズの多様化に応えるため,その導入が不可欠だともいわれている。ただし,そこには,競争的環境に置かれる中,図書館の付加価値を高め,それによって司書の地位を確保しようとの意図が潜んでいることもまた事実である。けれども,内外の先駆的事例を検討する限り,それは,少なくとも現状のままでは,司書の専門職制度を実現する突破口になるとは考えにくい。むしろ,主題専門の司書を導入するにあたっては,それによって司書職制度が後退しないように留意すべきなのである。

キーワード:サブジェクトライブラリアン,大学図書館員,専門職,職業統制理論,国立大学法人化

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医学情報専門家としての医学図書館員の新しい役割

諏訪部 直 子
すわべ なおこ 杏林大学医学図書館
 〒181-8611 東京都三鷹市新川6-20-2
 Tel. 0422-47-5511 内線3321(原稿受領 2005.6.20)
 
 医学図書館とは,主にその母体組織に所属する医療従事者,医学研究者および学生に生命科学分野の学術情報を提供するサービス機関である。Evidence-based Medicine,診療ガイドラインの策定,一般市民の医学情報ニーズの高まりなど,医学を取り巻く環境は変化している。この変化に伴い,医学図書館のサービス対象や医学図書館員の専門職としての業務は広がりつつある。本稿はこれらの医学界の変化を概観し,それに対応して新しく生まれた医学図書館員の活動と業務を解説する。さらに専門的な知識と技術を身につけるための医学図書館員育成の現状について述べ,その専門性とはどのようなものなのかについて考察する。

キーワード
:医学図書館,医学図書館員,医学情報,Evidence-based Medicine,診療ガイドライン,患者図書館
 

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特徴的主題分野における活動:リーガルライブラリー
―法律研究所の図書館業務と法科大学院における研究支援―

加藤裕子
かとう ひろこ 中央大学 法科大学院 教育研究支援室
 〒162-8473 東京都新宿区市谷本村町42-8
 Tel. 03-5368-3620(原稿受領 2005.6.27)

 専門分野の特性を活かした図書館業務とは何かを考えるきっかけとして,大学における法律専門の研究図書館において,最近の学術情報の多様化,高速化,電算化等図書館業務の変化にどう対応してきたかを紹介する。また,法科大学院の開設に際し,蔵書・データベースの選定や教育IT環境,教育支援ソフトの立ち上げに,実際に専門分野の知識を有し,資料やIT関連の知識があり,教育研究のサポートができるスタッフが必要とされた事例として,その経緯や法科大学院における教育・研究支援活動についても紹介する

キーワード:研究図書館,比較法,法律データベース,法科大学院,授業支援システム
 

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東京都立中央図書館の情報サービスと
サブジェクトライブラリアンへの課題

奥村 和廣*1,瀬島 健二郎*2,土肥 さかえ*3,中山 康子*4
*1おくむら かずひろ 東京都立中央図書館情報サービス課
*2せじま けんじろう
*3どい さかえ
*4なかやま やすこ
 〒106-8575 東京都港区南麻布5丁目7-13
 Tel. 03-3442-8451 (原稿受領 2005.6.27)
 
 東京都立中央図書館は,都内公立図書館への相互協力センターおよび都民の調査・研究を支援する参考調査図書館として,主題別閲覧室制を特色とした情報サービスを行っている。特徴的な書誌・索引類の作成やホームページ等を通じての各種レファレンス情報の発信サービス,主題室単位のOJT等を紹介し,全体的なスキルアップと均質的なサービスの提供を図っている現状を紹介する。また新しい「ビジネス情報サービス」「医療情報サービス」を紹介する中で,専門主題司書(サブジェクトライブラリアン)の必要性と育成等の課題を紹介する。課題解決の視点は任用制度,異動基準,研修制度等の整備である。

キーワード:東京都立中央図書館,参考調査図書館,主題別閲覧室制,情報サービス,書誌・索引,情報発信サービス,ビジネス情報サービス,医療情報サービス,サブジェクトライブラリアン

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サブジェクトライブラリアン育成と課題:企業図書館

手塚久男
てづか ひさお 鞄月ナ 研究開発センター図書館 参事
 〒212-8582 川崎市幸区小向東芝町1番地
 Tel. 044-549−2097(原稿受領 2005.6.24)
 
 司書資格を有し,情報の収集,情報発信,レファレンス業務を本務としている人をサブジェクトライブラリアンとするならば,非常に数は少ないが,各企業にとって今一番必要とされ,大事にされる人材だと思われる。
 本論では,東芝研究開発センター図書館で取り組んだ電子図書館システム,企業内図書室横断検索システム,企業内図書室間の情報共有システム,WEBによる情報発信の運営,CSRへの貢献,レファレンス,新刊図書,名著の紹介,書籍の廃棄など業務改善を紹介するとともに,その業務改善に果敢に挑戦することで,サブジェクトライブラリアンと呼んでもおかしくない人材も育っていることを報告する。

キーワード:企業図書館,ライブラリアン,サブジェクトライブラリアン,業務改善,電子図書館システム,横断検索システム,情報共有ツール
 

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図書館員のスキルアップとサブジェクト・ライブラリアン:大学図書館員にとっての専門性

進藤達郎
 しんとう たつろう 滋賀大学附属図書館教育学部分館
  〒520-0862 滋賀県大津市平津2丁目5-1
  Tel. 077-537-7710(原稿受領 2005.7.12)

 近年大学図書館ではサブジェクト・ライブラリアンへの関心が高まっている。サブジェクト・ライブラリアンは現在大学図書館員が行っている職務の手薄な部分をカバーできるが,現状ではサブジェクト・ライブラリアンを養成する適切なプログラムはないと思われる。ただし,図書館員が従来行ってきたさまざまなスキルアップの手段を活用することで,必要な知識や技術を得ることは可能だろう。また,サブジェクト・ライブラリアンとして必要なスキルを持った人材を生かすには,サブジェクト・ライブラリアンとしての職務に集中できる環境の整備も必要である。

キーワード:サブジェクト・ライブラリアン,大学図書館,スキルアップ,研修プログラム,専門性
 

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投 稿
 医薬品の特許延長制度と延長情報の調査方法(米国編)

情報科学技術協会 OUG特許分科会
 南田泰子(エーザイ梶j,川田力(エーザイ梶j,下川公子(味の素梶j,石田洋平(第一製薬梶j,関口靖子(チッソ石油化学梶j,小川裕子(オルガノ),石田由利子(第一化学薬品梶j
 連絡先;
 南田泰子(みなみだやすこ) エーザイ樺m的財産部
  〒112-0002 東京都文京区小石川4-6-10
  Tel. 03-3817-3760(原稿受領 2005.5.19)

本稿では,医薬品の最大市場である米国における医薬品の特許存続期間延長制度やデータ保護などについて述べるともに,延長後の特許満了日やデータ保護期間の調査方法について概説する。

キーワード:オレンジブック,米国特許商標庁,米国食品医薬品局,特許存続期間,データ保護 

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