Vol. 55 (2005), No.8
特集=「機械翻訳」


特集「機械翻訳」の編集にあたって

 本誌は,1993年5月号で,『ドキュメンテーションと機械翻訳』と題し,その当時の機械翻訳の状況についてまとめています。当時は単体の計算機の能力も高くなかったことから,能力的に手元の端末で機械翻訳ができず,また,パソコン通信という,余り簡便でない計算機ネットワークを使った,集約的な有料翻訳サービスが展開されていることが紹介されています。
 しかし,今に至るその後の10年余で,計算機能力は飛躍的に高まりました。個人環境における機械翻訳は,いよいよ実用的な段階へ突入したと言っても過言ではないでしょう。
 今日では,プログラム内に辞書及びエンジンを持つ,日本語vs.日本語でない言語の機械翻訳ソフトが普通に市販されています。また,インターネット(WWW)を介し,無料の機械翻訳サイトも数多く存在しています。日常の業務に耐え得るソフトやサイトも散見されるようになってきており,読者の皆様も,そのようなツールを一度はお使いになったことがおありかと思います。
 手に触れることができる,特別なものでない機械翻訳のツールが増えてくると,より精度の高いもの,しかもより時間的・金銭的にコストがかからないものが必要になるのは当然です。従ってツールの評価が重要になってきています。その評価はどのようなものがあるのでしょうか。また,機械翻訳のプラットフォームが整備されていくと,当然ながら機械翻訳の方法についてもより一層の研究の進展があります。その進展はどのようなものがあるのでしょうか。
 翻訳と言うと,書かれた言葉を別の言語に置き換えることを想定しがちですが,話された言葉を別の言語に置き換える,「音声翻訳」分野も,計算機能力向上で飛躍的な進化を遂げています。
 そこで,過去の特集を踏まえつつ,自然言語処理の研究成果とも言える,機械翻訳の現状をまとめてみました。
(会誌編集委員会特集担当委員:上村順一,岡谷 大,高島有治)

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総論:機械翻訳の現状と課題
黒橋 禎夫*1,荒牧 英治*2
*1くろはし さだお 東京大学大学院情報理工学系研究科
*2あらまき えいじ 東京大学附属病院
 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-6689(原稿受領 2005.6.8)
 
 計算機パワーの増大と計算機ネットワークの発展に伴い,電子テキストが遍在する時代となった。これに伴い,人手で翻訳規則を与えるのではなく,電子的対訳データに基づく統計翻訳,用例ベース翻訳の研究開発が急速に進展している。これの現状,差異を議論し,さらに,機械翻訳の自動評価尺度,評価型ワークショップなどについても説明する。

キーワード:機械翻訳,統計翻訳,用例ベース翻訳,自動評価尺度,評価型ワークショップ

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日常業務で使う機械翻訳ツール
下畑 さより
しもはた さより 沖電気工業褐、究開発本部ユビキタスシステムラボラトリ
 〒541-0053 大阪市中央区本町2-5-7 丸紅大阪本社ビル4階
 Tel. 06-6260-0700(原稿受領 2005.6.10)
 
 日本に商用の機械翻訳システムが登場してから15年以上経ち,今日では様々な形態の機械翻訳システムおよび翻訳支援ツールが利用可能になっている。機械翻訳システムによる翻訳については,いぜんとして否定的な意見もあるが,その特性を十分に理解して使用すれば,非常に有用なツールである。本稿では,ビジネスシーンを対象に,機械翻訳の有効な活用方法を紹介する。業務における翻訳は,翻訳者のレベルも,翻訳の目的も,翻訳に求められる条件(スピード,コスト,翻訳品質)も様々である。それぞれの状況に応じてどのようなシステムが最適か,どのような利用方法が有効かについて考察する。また,急速に需要の高まっている英語以外の言語を対象とする機械翻訳の現状についても言及する。

キーワード
:機械翻訳,web翻訳,辞書,多言語化

 

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中国・韓国特許検索システム(CK-PRIME)の紹介
樋口 重人
ひぐち しげと 潟pトリス ソリューション事業部
 〒135-0043 東京都江東区塩浜2-4-29 住友不動産木場ビル
 Tel. 03-5690-5692(原稿受領 2005.5.19)
 
 本稿ではCK-PRIME(Chinese and Korea Patent Retrieval In Multilingual Environment)システムを提案する。
 本システムは,日本のユーザーが日本語を用いて中国や韓国の特許文献を検索することができ,日本語で閲覧が可能な言語横断検索システムとなっている。搭載した特許文献数は韓国特実で約160万件,中国特実および意匠で約245万件となっている。

キーワード:中国特許,中国意匠,韓国特許,検索,複合語翻訳,機械翻訳,キーワード翻訳

 

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機械翻訳の評価・比較
宮澤 信一郎
みやざわ しんいちろう 秀明大学総合経営学部企業経営学科
 〒276-0003 千葉県八千代市大学町1−1
 Tel. 047-488-2111(原稿受領 2005.5.31)
 miyazawa@cc.shumei-u.ac.jp
 
 機械翻訳の発展のためにはその評価が重要である。評価の種類としては,翻訳品質評価,機能評価,再現性評価,その他の評価(処理速度,移植性等)などがある。翻訳品質の評価研究は以前よりよく行われている。ここでは翻訳品質の人手評価と,近年注目を浴びている自動評価について述べる。機能評価と再現性評価については筆者が行った評価研究について概説する。機能評価は各機械翻訳ソフトが持つ機能を比較評価したものである。また機械翻訳再現性評価とは,Webを機械翻訳した時に,Web画面の構成を正しく再現できるか否かの評価である。その結果,各製品で機能,再現性ともに,かなりの開きがあることが判明した。

キーワード:機械翻訳,評価,翻訳品質,機能評価,再現性評価,人手評価,自動評価,Web

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音声翻訳研究の展開
中村 哲*1,佐々木  裕*2,菊 井 玄一郎*3,清水 徹*4
*1なかむら さとし ATR音声言語コミュニケーション研究所
*2ささき ゆたか
*3きくい げんいちろう
*4しみず とおる
 〒619-0288 京都府相楽郡「けいはんな学研都市」光台2-2-2
 Tel. 0774-95-1301(原稿受領 2005.6.10)
 
 音声翻訳は,日本語を喋ると英語やその他の外国語に翻訳して喋ってくれる,あるいは外国語を喋ると日本語に翻訳して喋ってくれるという技術である。音声翻訳を実際の生活のあらゆる場面で使えるものにするためにはまだ多くの課題が山積している。個別の技術で言えば,音声認識,翻訳,音声合成といった要素技術を,話し言葉を対象にいかにしてロバストで高精度にするか,そして,それらをいかに効果的に統合するかという音声翻訳特有の課題の解決が不可欠である。そこで,本稿では,ATRが現在研究開発を進めている旅行会話を対象とした音声翻訳システムの解説を中心に,音声翻訳研究の現状を紹介する。

キーワード:音声翻訳,音声認識,統計翻訳,用例翻訳,音声合成,コーパスベース

 

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投稿:医薬品の特許存続期間延長制度と延長情報の調査方法(日本編)
情報科学技術協会 OUG特許分科会
川田力(エーザイ梶j,石田由利子(第一化学薬品梶j,下川公子(味の素梶j,南田泰子(エーザイ梶j,石田洋平(第一製薬梶j,関口靖子(チッソ石油化学梶j,小川裕子(オルガノ)
 連絡先;南田泰子(みなみだ やすこ) エーザイ樺m的財産部
 〒112-0002 東京都文京区小石川4-6-10
 Tel. 03-3817-3760(原稿受領 2005.5.19)
 
 特許存続期間の延長は医薬品,動物薬,農薬などに適用される。今回,日本,米国,ヨーロッパにおける医薬品の特許存続期間延長制度をまとめ,特許満了日などの延長情報の調査方法について検討したので,3回シリーズで報告する。第1回目の本稿では日本の制度と調査方法について概説する。

キーワード:医薬品,特許存続期間,IPDL,PATOLIS, NRIサイバーパテントデスク

 

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