情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.10
特集=ナレッジ・イノベーション―持続的な知識創造を支える組織と情報―


特集「ナレッジ・イノベーション―持続的な知識創造を支える組織と情報―」の編集にあたって

 最近再び目にするKM(ナレッジ・マネジメント)。しかしその中味は何で,その実際はどうなのか。図書館・情報センターではどう受け止め展開したらいいのか。本特集はこうした疑問にズバリ答えてくれる。
 本特集によれば,これまでのKMの目的は「組織における知識の最大化」であったが,今やKMそれを越えて,「組織を超えたイノベーション能力の最大化」へとパラダイム・チェンジしようとしているという。ここで組織とは企業,図書館などであり,イノベーションとは製品や図書館サービスなどにおける新たな価値(ベネフィット)のことである。また肝心なのはそれを継続的に与えていくことである。例えば,図書館のレイアウトの場合,これまでの閲覧のための場づくりから,人をつなぐ,活発な議論を促進するための場づくりへの発想の転換(価値創造)ということになる。
 こうしたことを,本特集の第一線の執筆陣がわかりやすく,具体的に述べ,そして深く考えさせてくれる。総論では,KMの歴史,実務,理論などを十分に咀嚼しながら各論のポイントを示し,かつそれらをリンクしている。各論では,コンサルタント業務での最先端の事例の紹介,IT企業などの事例をふまえた,(一般にわかりにくいとされる)「場」や「暗黙知」の噛み砕いた解説,さらにKMの科学的手法として,イノベーション能力の指標化や視えざる価値の可視化の試みが紹介されている。
 本特集によって,図書館・情報センターと企業,ライブラリアンと経営者が歩み寄り,シナジーが生まれることの必然性が無理なく理解される。そしてそこからそれぞれの未来の姿が仄見えてくる。
 本特集に対し読者からの反響をお待ちする。
(会誌編集委員会担当委員  岡谷 大,上村順一,松林正己,宮入暢子)

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ナレッジ・イノベーション―持続的な知識創造を支える組織と情報―
野村恭彦
のむら たかひこ 富士ゼロックス潟iレッジ・ダイナミクス・イニシアティブ(KDI)
 〒107-0052 港区赤坂2-17-22
 Tel. 03-3585-0640(原稿受領 2004.7.27)

 ナレッジ・マネジメントは,組織内の知識を共有・活用するレベルから,企業の競争力の源泉として明確に位置づけられるようになってきた。その好例は,プロフェッショナル・サービス・ファームの情報サービス部門で,ライブラリアンの未来の姿をそこに見ることができる。一方で,暗黙知の重要性認識はますます高まっており,図書館の果たす「暗黙知共有の場」としての役割について考えたい。そして最後に,知的競争力やイノベーション能力を可視化するアプローチを示し,知識企業として,組織の持つイノベーション能力に焦点を当て,企業価値の極大化を実現する経営アプローチについて考える。

キーワード:ナレッジ・マネジメント,知識創造プロセス,コミュニティ・オブ・プラクティス,場,イノベーション

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コンサルティング業務をささえる情報・図書館業務
西田治子 
にしだ はるこ マッキンゼー・アンド・カンパニーインクジャパン R&Iマネージャー
 〒106-8509 東京都港区六本木1-9-9 六本木ファーストビル9F
 Tel. 03-5562-2184(原稿受領 2004.7.20)

 マッキンゼーはその創業当初から,知の共有・創造を重要視し,業務遂行・組織運営面にそれを反映させてきた。その結果,コンサルティング業務を支えるライブラリー業務が拡大・発展し,情報収集・分析のスペシャリスト集団としてのリサーチ&インフォメーション部隊が形成された。本稿では,マッキンゼーにおける情報・図書館サービス業務の進化と現状を紹介するとともに,今後の新しい情報・図書館サービス業務のあり方として,ナレッジマネジメント,情報提供サービス,トレーニング機能を統合したナレッジサービスを提唱する。さらにそれに従事する,ナレッジサービス・プロフェッショナルに求められる役割,スキルについても考察する。

キーワード:ナレッジマネジメント,ナレッジサービス,コミュニティ・オブ・プラクティス,ラーニングオーガニゼーション,マッキンゼー,情報サービス,図書館業務,ナレッジサービス・プロフェッショナル

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ナレッジマネジメントとは何か―文書管理との違いを軸に―
吉岡 はゆる 
よしおか はゆる 且Y業再生機構情報管理グループ ナレッジマネジメント担当
 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル9階
 Tel. 03-6212-6803(原稿受領 2004.7.21)

 文書管理との大きな違いを軸に,ナレッジマネジメントは何かを紹介する。相違点として,1) 対象するナレッジ,2) データベース,3) コミュニケーションを取り上げるが,具体例としてMAKE(最も賞賛される知識企業)の上位に毎年ランキングされているあるコンサルティング企業を紹介する。6年に及ぶナレッジマネジメント専任としての経験で得たナレッジマネジメントの秘訣の一部を紹介する。

キーワード:ナレッジマネジメント,文書管理,アクセス権,利用目的の制限,データベース,コミュニケーション

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知が動く場づくり
−物理的環境と仮想的環境の相互作用−
妹尾 大 
せのお だい 東京工業大学大学院社会理工学研究科
 〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1
 Tel. 03-5734-2371(原稿受領 2004.8.3)

 情報は管理できるが,知識は管理できない。この考え方が,知識経営の基本的スタンスである。なぜならば,情報と違って知識には個人の価値観が含まれているからである。知識経営とは,知識を管理するのではなく,リーダーシップと場づくりによって知識創造プロセスを促進することである。
 本稿は,NTTドコモのオフィス改革の取り組みを事例として取り上げ,知識創造プロセスを促進する場がどのようにして創設・活性化されるかについて検討した。具体的には,「オフィスレイアウトの変更」を物理的環境の変更・整備,「イントラネットの構築」を仮想的環境の変更・整備と捉え,これらが場の創設・活性化にどのような影響を与えうるのかについて考察を加えた。

キーワード:知識創造,場づくり,オフィスレイアウト,イントラネット,組織変革

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イノベーション能力の指標化と組織学習
岡田依里 
おかだ えり 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科
 〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-4
 Tel. 045-339-3722(原稿受領 2004.7.27)

 本稿は,市場など外部の知を組み込んだ組織学習とイノベーション能力の拡張について,その指標化の試みから得られたインプリケーションを述べる。公的図書館業務の民間委託,業務効率化が論じられる一方,ベンチャー企業支援に役立つ資料や企業のネットワーキングを促進する場の提供を,図書館が行うようになった。これは,企業が知識や知的財産に関する戦略的な思考を組織全体に行き渡らせ,イノベーションを継続する仕組みを機能させ,成長の限界を乗り越えるのと類似する。本稿は経済社会にベネフィットをもたらす業態・仕組・製品・サービス等にかかる発明をイノベーションととらえ,図書館にとってイノベーション能力の拡張とは何かを考察する。

キーワード:イノベーション能力,組織学習,知識経営,自己変革,外部の知,内在的価値の指標化,組織の成長

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視えざる価値の可視化―IC RatingR
霜山純夫,胡子英基** 
しもやま すみお 元スカンディア生命保険椛纒\取締役社長・現潟Aクセル社外取締役
 東京都中央区8-9-11 銀座天国ビル8階
 Tel. 03-3574-0864
**えびす ひでき 東京電力
 東京都千代田区内幸町1丁目1番3号
 Tel. 03-4216-4253(原稿受領 2004.8.3)

 今日,価値を産む源泉は,土地や施設といった目に視えるものから,人材・経営者・ブランド・顧客とのネットワーク・業務プロセス・ビジネスモデルといった目に視えずまた帳簿にも記載されていないものに移行している。ピーター・ドラッカーが予見したような「知識だけが意味のある資源になる」という事態は現実のものとなってきている。それではこういった視えざる価値をどうやって定義し把握すればよいのだろう?本稿では現在開発されている手法のなかで最も優れていると考えられるIC RatingRについて慨述する。

キーワード:視えざる価値,無形資産,知的資本,通商白書,価値創造の源泉,IC RatingR

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連載:INFOPROのBOOKMARK(第7回)
MSDS情報
日暮理加 
ひぐらし りか 潟_イヤリサーチ マーテック情報センター 情報グループ
 〒102-0083 東京都千代田区麹町6丁目6番地麹町東急ビル4階
 Tel. 03-5226-0757(原稿受領 2004.7.7)

 化学物質およびそれらを含有する製品に添付されるMSDSに関する情報を得られるサイトを紹介する。
 近年インターネット上でも化学物質に関する多くの情報が公開されるようになり,日本語のサイト,無料のサイトも数多く存在している。今回は,化学物質の物性・有害性・取り扱いについて記載されているMSDSそのものを得られるサイトおよびMSDSがない場合の情報源となるサイトを無料のサイトを中心に紹介していく。

キーワード:MSDS,化学物質,化管法,労働安全衛生法,毒劇法,インターネット

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