情報の科学と技術
Vol. 54 (2004), No.9
特集=デジタル情報資源のアーカイビング


特集「デジタル情報資源のアーカイビング」の編集にあたって

 情報の有効かつ恒久的な利用は図書館の課題であるが,情報の電子化にともない,その収集,保存,提供のあらゆる場面で,新しい課題が現れてきている。本特集では,電子情報,特に電子的に作成され流通するボーンデジタル(born digital)な情報の収集・保存(アーカイビング)を中心に取り上げる。
 電子ジャーナルの普及に象徴される「所蔵からアクセスへ」の変化は不可避な流れであるが,コンテンツの恒久的な保存の必要がなくなったわけでない。インターネット上に公表されるWebページ群については,主として各国国立図書館の主導により,アーカイビングのプロジェクトが推進されつつあるところである。
 また,収集したデジタル情報を恒久的に保存,利用するためには,アーカイブに関する規格の標準化,エミュレーションやマイグレーションなどの技術の確立,記録媒体の耐用時間,メタデータの整備など様々な課題が存在している。さらに,分散環境において構築される電子的アーカイブ間で,相互運用を実現するための規格,技術も重要となる。
 アーカイブとは何かという本質論に言及しながら,デジタル情報のアーカイビングに関する政策,規格,技術の動向をレビューする。また,情報発信型のアーカイブとして,機関リポジトリ(Institutional Repository)の実例についても紹介したい。
(会誌編集委員会特集担当委員:大田原章雄,伊藤 淳,荘司雅之,松林正己)

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デジタル・アーカイブにおける課題と展望
武邑光裕
たけむら みつひろ 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻メディア環境学分野
 〒113−8656東京都文京区本郷7-3-1
 Tel. 03-5841-6332(原稿受領 2004.7.2)

 「記憶」がデジタル環境に記録され,デジタル・アーカイブは未来の記憶に資する可能性を提示する。言語を記述,印刷し,書籍という重量媒体を最終形とした情報資産の意味は変容し,テクストの深層にあるコードそれ自体が,デジタル情報の原資と認識される。累積と離散性,この二つの概念が合流するデジタル・アーカイブの概念を考えると,それはデジタル情報財の普遍的な格納を目指すと同時に,情報の流動化や創造性を促す装置でもあるといえる。累積・固定性と離散・創造性を前提に,近年のデジタル・アーカイブやレポジトリの概念を整理し,多様なデジタル情報資源をめぐる保存と利活用にかかわる新たなコモンズの役割を,個人のアーカイブ環境と次世代の知識創造という観点から概説する。

キーワード:デジタル・アーカイブ,デジタル・ジレンマ,機関レポジトリ,デジタル・ミュージアム,デジタル・コンテンツ,エミュレーション,パブリック・ドメイン,知識創造,クリエイティブ・コモンズ

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デジタル情報の長期的保存の政策―アメリカと日本
今野 篤
こんの あつし 国立国会図書館関西館事業部電子図書館課
 〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
 Tel. 0774-98-1472(原稿受領 2004.6.22)

 デジタル情報の長期保存への取り組みは,欧米豪では国立図書館を中心に行われている。全米デジタル情報基盤整備・保存プログラム(NDIIPP)は,米国議会図書館が主導する,約1億ドルという巨大な予算規模の包括的かつ戦略的な取り組みである。NDIIPPでは,国内の利害関係者を協力者として巻き込み,それら協力者のネットワークと,協力者の協働を可能とする技術的基盤を構築することにより,デジタル情報の長期的保存とアクセスの維持を実現できると考えている。日本では平成14年度より国立国会図書館が調査研究プロジェクトを開始したが,その他の機関による目ぼしい取り組みは見当たらない。

キーワード:デジタル保存,NDIIPP,ボーン・デジタル,協働,米国議会図書館,デジタル保存アーキテクチャ,国立国会図書館

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国のデジタル・アーカイブ・ポータルの構築
―国立国会図書館「電子図書館中期計画2004」の実施に向けて―
中山正樹
なかやま まさき 国立国会図書館 総務部 企画・協力課 電子情報企画室
 〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
 Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2004.6.22)

 国立国会図書館(NDL)が2004年2月に策定した「電子図書館中期計画2004」を紹介し,今後,国のデジタル・アーカイブ・ポータルを有用なものとして活用されるために何をすべきか,個々のデジタル・アーカイブを提供する組織,構築のための技術を提供する組織に何を期待するか等について考察してみたい。なお,意見にわたる部分は,筆者の個人的な見解であることをおことわりする。

キーワード:デジタル・アーカイブ・ポータル,e-JAPAN,情報探索,メタデータ,XML,OAI-PMH,RSS,セマンティックWeb,Webサービス

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OAIS参照モデルと保存メタデータ
栗山正光
くりやま まさみつ 常磐大学人間科学部
 〒310-8585 茨城県水戸市見和1-430-1
 Tel. 029-232-2560(原稿受領 2004.6.17)

 OAIS参照モデルは,デジタル情報の長期保存システム構築に関する有力な指針であり,国際標準規格ともなっている。本稿では,保存のためのメタデータに焦点を絞り,OAIS参照モデルに示された情報パッケージの概念と,それに基づいて行われているメタデータの枠組み規定の実際について論じる。OAIS参照モデルは,デジタル情報の保存活動を行っている諸機関で広く認知されているものの,それぞれが規定する実際の保存メタデータの枠組みは,OAISの情報パッケージの構成とはかなり異なった形でなされているのが実状である。個々のニーズと相互運用性・再利用性とのバランスが今後の課題となる。

キーワード:OAIS参照モデル,保存メタデータ,デジタル保存,情報パッケージ,メタデータの枠組み

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電子画像情報の利用と保存
肥田 康
ひだ こう (株)堀内カラー アーカイブサポートセンター
 〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2-6-14
 Tel. 03-3295-1203(原稿受領 2004.6.17)

 写真を専門に処理するプロフェッショナル・ラボとしては,業界で初めて,1999年にデジタルアーカイブの専門部署を創設した。次世代に継承すべき歴史的な資料や文化財を恒久的に記録・保存・運用するために,これまで様々な機関のデジタルアーカイブ構築に携わってきた。本稿ではこれまでの経験をもとに,デジタルアーカイブで制作された電子画像情報の保存について考える。 
 さらに,画像情報のより積極的な利用のために開発した研究支援ソフトウェア「iPalletnexusTM(イパレットネクサスTM)」について解説し,画像情報の「利用」と「保存」の相対的な関係についても考察する。

キーワード:デジタル化,銀塩写真,電子画像情報,デジタルアーカイブ,情報資源の利用,電子付箋,XML

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日本における学術機関リポジトリ構築の試み
 ―千葉大学と国立情報学研究所の事例を中心として―
尾城 孝一,杉田 茂樹,阿蘓品 治夫,加藤 晃一
おじろ こういち,あそしな はるお,かとう こういち 千葉大学附属図書館
 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町一番33号
 Tel. 043-290-2257
**すぎた しげき 国立情報学研究所
 〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
 Tel. 03-4212-2350(原稿受領 2004.6.30)

 近年,海外の大学図書館を中心として学術機関リポジトリと呼ばれる,インターネット上の電子公開書庫の設置が相次いでいる。学術機関リポジトリは,学術コミュニケーションをめぐる危機的な状況と大学からの情報発信強化という2つの問題に対する解決策として注目されている。本稿では,まず学術機関リポジトリの誕生の背景と問題の所在について概観し,その定義および成立要件について述べる。続いて,海外の代表的な事例を紹介し,さらに国内の状況について,千葉大学附属図書館と国立情報学研究所におけるプロジェクトを取り上げる。最後に,学術機関リポジトリの普及に向けた協調的活動の重要性について触れたい。

キーワード:千葉大学附属図書館,国立情報学研究所,学術機関リポジトリ,学術コミュニケーション,電子情報資源,情報発信,SPARC,セルフ・アーカイビング,オープン・アクセス運動

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連載:INFOPROのBOOKMARK(第6回)
東南アジアの特許情報を調べる
小川裕子
おがわ ゆうこ オルガノ(株) 法務特許部
 〒136-8631 東京都江東区新砂1-2-8
 Tel. 03-5635-5122(原稿受領 2004.7.7)

 アジアの特許情報データベースについて解説するとともに無料で質の良い情報を提供してくれるサイトを紹介する。

キーワード:中国特許庁,韓国特許庁,台湾特許庁,特許情報データベース,情報の共有化

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