情報の科学と技術
Vol. 52
 (2002) ,No.7
特集=海外の図書館情報学教育に学ぶ


特集「海外の図書館情報学教育に学ぶ」の編集にあたって
(会誌編集委員会特集担当委員:新保佳子,伊藤 淳,小陳左和子,都築埴雅,松林正己,村上勝美)

 パソコンやインターネットなどの情報機器・通信技術がめざましい進展を遂げ私達の生活に入り込んで来ている昨今,情報の収集・提供など情報の媒介者である図書館と図書館司書の将来について,様々な議論が交わされるようになっています。そして,それらを支える学問としての図書館情報学の教育についても,そのあり方が強く問われてきていると言えましょう。
 日本での図書館情報学教育は果たして,このような時代の波を読み取りつつ,充実した状況にあると言えるでしょうか。残念ながら開拓の余地がまだまだ必要かと思われます。
 その問題点は何か,どうしたらより良い解決法がはかれるのか,それを考えるために,今回私達は日本から一歩離れ,海外で行われている図書館情報学教育を知ることでヒントを得ることは出来ないかと考えました。
 最も充実していると言われる北米での事情や,隣国韓国での状況など,教育が進んでいる国での現況について報告して頂きました。また,4半世紀ぶりに改訂された国際標準IFLAガイドラインについての理解は逃せません。そして,更なる研鑚・実務経験後のステップアップの場として,留学を成功させた方の報告や,ユニークな活動を展開しているTFPLの紹介は興味深いものがあります。
 特集の題名は「海外の図書館情報学教育に学ぶ」です。では一体何を学ぶことができるのか,皆様と一緒に考えていきたいと思います。

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北米の図書館情報学教育の現況
酒井 由紀子* 
 *さかい ゆきこ 慶應義塾大学日吉メディアセンター
  〒223-8521 神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1
  Tel. 045-566-1037(原稿受領 2002.5.1)

  北米の図書館情報学教育の現況として,KALIPER(Kellogg-ALISE Information Professions and ducation Renewal Project)報告,米国図書館情報学教育協会(ALISE : Association for Library and Information Science Education)の統計をもとに筆者のノースカロライナ大学チャペルヒル校での情報学修士課程在学の経験を加え,図書館員に限定しない広範囲の情報専門職養成のニーズに応えたALA認定校のカリキュラムの変革,拡大の動きを中心に紹介する。また,米国図書館協会(ALA : American Library Association)の認定制度の見直しによる独立団体設置の動きについても報告する。

キーワード:図書館情報学教育,ALA認定制度,北米,KALIPER

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IFLA「図書館/情報教育プログラムのためのガイドライン2000」の翻訳と解説
鈴木正紀* 
*すずき まさのり 文教大学湘南図書館
 〒253-8550 神奈川県茅ヶ崎市行谷1100
 Tel. 0467-53-2111(原稿受領 2002.5.8)

 IFLA 「図書館/情報教育プログラムのためのガイドライン2000」を翻訳し,1976年に出された「図書館学校の基準」との若干の比較を行った。両者は四半世紀のあいだを経ており,その間の図書館をめぐる技術的環境変化,高等教育機関のおかれた社会的環境の変化によって,教育内容は大きく変化していることが見て取れる。

キーワード:図書館情報学教育,図書館員・情報専門職養成,情報専門職,図書館学校,カリキュラム,国際図書館連盟,IFLA

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韓国文献情報学教育の現状と問題点
―学部制導入による問題点を中心に―

崔 錫斗*,薛 文媛** 
*チェ・ソクドウ 梨花女子大学校社会科学大学文献情報学科教授
**ソル・ムンウォン 梨花女子大学校社会科学大学文献情報学科大学院後期課程修了研究員
 〒120-750 韓国ソウル特別市西大門區大.洞11番地
 Tel. 82+2+32772230(原稿受領 2002.4.30)

 韓国の文献情報学教育は4年制大学の学部教育を基本とする。1957年に始めて大学課程に図書館学科が設置されて以来,現在32大学に文献情報学科が設置されるなど量的発展をなし,22大学院で修士及び博士課程が運営されている。その過程で,学科名も図書館学科から文献情報学科へ改称された。また,教育の目標も既存の有能な図書館司書職の養成であったが,現在は情報の流通と処理の全般を包括する情報専門職の養成に変わった。一方,学部制という韓国政府の大学教育改革政策の影響で文献情報学はさらに大変革の時期を迎えることになった。本稿では韓国文献情報学の歴史を手短に調べ,特に学部制の導入と関わって浮かび上がった核心的な問題点,すなわち学問的実体性,専攻履修単位の最低基準の決定,教科課程の改編などについて論議を整理した。

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北米の図書館情報学科への留学ガイド
高橋 樹一郎* 
*たかはし きいちろう (財)伊藤忠記念財団
 〒165-0023 東京都中野区江原町1-19-10 東京子ども図書館気付
 Tel. 03-3565-7711(原稿受領 2002.4.15)

 本稿は,北米の図書館情報学科への留学を考えている人のための留学ガイドである。私自身のアメリカとカナダの図書館情報学科への留学体験を語りながら,これから留学計画を立てようとする人に役立つ情報を述べている。まず私がどのように出願先を決定していったかを述べて,願書を提出するまでに至るプロセスを説明し,その際に必要な具体的な情報(各大学の概要,ランキング,学費,生活費など)の集め方を説明する。
 また,私が留学していたマクギル大学の図書館情報学科の様子について触れながら,留学計画を立てる時に留意すべき点を指摘する。最後に,留学中に現地の図書館で働く方法についても簡単に述べる。

キーワード:北米の図書館情報学科への留学,出願手続き,図書館学科の選定方法,ランキング,学費,マクギル大学

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継続と変化:TFPLの歴史と発展
ナイジェル・オクスブロウ* 
*ナイジェル・オクスブロウ TFPL Ltd.
 Tel. 44-(0)20-7251-5522(原稿受領 2002.5.13)

 米国の図書館情報学教育の多くが,時代の変化とともに急速で革新的な発展を遂げたのと対照的に,イギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国の教育現場では,どちらかといえば変革は隠微な形でしか進まなかった。
 それは同時に,実業としての図書館情報学が,時代やビジネスの現場におけるニーズとの乖離を深めていくことを意味していた。その溝を埋めるために産まれ,そして驚くべき成功を遂げたのが,ここで紹介するTFPLというイギリスの会社である。彼らはどのようにして時代の変化を読み取り,インフォプロたちを支援し,かつ養成する一大組織へと転身していったのか。代表・ナイジェル・オクスブロウ氏に,その歴史と活動を語ってもらい,成功の秘訣を探った。

キーワード:TFPL,ヨーロッパ,ヨーロピアン・ビジネス・インフォメーション・カンフェレンス(EBIC),インフォプロ,研修,リクルート,コンサルティング,ナレッジマネジメント

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