情報の科学と技術
Vol. 51 (2001)  , No. 2
特集=情報公開の現状―情報政策の観点から―

特集「情報公開の現状―情報政策の観点から―」の編集にあたって
(編集担当委員 峯尾幸信,重田有美,遠山美香子,豊田恭子,豊田雄司)

 本年1月に省庁再編が行われ,国家レベルでの情報政策に変化が見られてきています。このような情勢のなか,国や地方自治体においても情報公開法が,本年4月から施行されます。この情報公開の波が押し寄せるなか,情報提供業務に携わる私達にとっても何らかの影響がおきているように思われます。
 そこで,今回の特集号では,情報政策の観点からみて情報公開はどのようになっているのか,現状を報告していただきました。さらに情報公開制度が今後,国や地方自治体の情報収集や提供にどのように係わってくるのか,また政府等での情報発信がどのように変化していくのかを報告していただきました。
 本号をお読みいただいて,私たち情報担当者にとって情報公開とはどのようなもので,どのような変化をもたらすのかという問題提起となれば幸いです。

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情報政策の観点からみた情報公開
宇賀克也*
*うが かつや 東京大学大学院 法学政治学研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel.03-5841-3262(原稿受領 2000.11.9)

 情報公開は,情報資源管理に係わる情報政策の一環をなす。情報公開に基づく開示請求とは別の行政情報流通ルートとして,行政情報の市販がある。これは能動的にアカウンタビリティを全うするという意義を有する。しかし,この場合,販売価格,販売網の点において,パブリック・アクセスを困難にしないように留意しなければならない。他面,特定の業者に多大の利益を与える行政情報の場合,受益者負担の観点から販売価格を設定することも正当化されよう。図書館や公文書館においては,一次資料,二次資料のデジタル化により,オンライン・アクセスを可能とするように努力がなされるべきであろう。

 キーワード:情報公開,情報公開法,情報政策,電磁的記録,著作権,公文書館,図書館

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情報公開制度と市民参加
川村陽彦* 
*かわむら はるひこ 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(2000年)
 E-mail:haru007@lily.ocn.ne.jp
(原稿受領 2000.11.29)

 市民参加のためには,行政が意思決定する以前で,市民がその情報を必要とするときにタイムリーに情報が公開されなければならない。情報開示請求権に基づく情報公開(受動的情報公開)は,文書化されていない情報は対象にならないことや,開示請求に時間と費用がかかる等の限界がある。そこで,行政は市民からの開示請求がある前に,能動的に情報を市民に提供するような方策(能動的情報公開)をとるようにするべきである。
 インターネットは,情報提供や市民参加の機会を広げるための手段として有効である。しかし,インターネットにアクセスしうる市民とアクセスしえない市民との間に不平等が生じないように,インターネットは既存の市民参加の手段を補完するものとして利用されなければならない。

 キーワード:情報公開,市民参加,インターネット,受動的情報公開,能動的情報公開

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アーカイブと情報公開について
小川 千代子* 
*おがわ ちよこ 国際資料研究所
 〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋1-32-4 佐々木ビル102
 Tel. 03-3411-8210 Fax 03-3411-8352,
 E-mail:dji@mxd.mesh.ne.jp(原稿受領 2000.11.20)

 情報公開制度は,2001年4月1日付で施行される。国の行政文書は制度の施行後は,原則請求に基づき開示されることになる。だが行政文書であっても情報公開制度の対象にはならないものがある。それは,歴史・文化的価値を認められた非現用文書である。こうした非現用文書=アーカイブが情報公開制度の外側でどのように取り扱われるのか,アーカイブの保存と提供を担当する公文書館や図書館,アーキビストや司書の役割とは何かについて,情報公開制度施行を前にICAのこれまでの歩みと情報アクセス権の考え方を含め考察する。

 キーワード:情報公開法,公文書館,図書館,専門家の役割,アーキビスト,司書,行政文書,文書の価値,文書管理,非現用記録,公文書館法,情報アクセス権

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証券取引法上の企業内容の開示制度の電子化について
石川庸一* 
*いしかわ よういち 金融庁総務企画部市場課企業開示参事官室
 〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-1-1
 Tel. 03-3506-6264(原稿受領 2000.11.24)

 先般の通常国会において成立した,改正証券取引法における企業内容の開示制度の電子化にかかる措置について,施行時期及び経過措置を含め,その内容について逐条的に解説する。

 キーワード:EDINET,電子開示手続,証券取引法,電子情報処理組織,任意電子開示手続

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地方自治体の公文書へのアクセス
森田 明* 
*もりた あきら 協同法律事務所
 〒231-0005 神奈川県横浜市中区本町3-30-7 横浜平和ビル602号
 Tel. 045-201-6133(原稿受領 2000.11.24)

 情報公開制度は,「透明,公平,平等」に情報を公開させるためのものである。コネ,力関係による不平等な公開がなくなり,リークによる情報操作を許さないためのものである。
 公文書へのアクセスの阻害要因として,@非公開条項,A文書の不存在,B実施機関の限定,C検索・文書特定の問題,D手数料,E期間延長等実施機関の怠慢などがある。
 それにもかかわらず,地方自治体の情報公開制度の活用は多くの成果を挙げてきた。近く施行される国の情報公開法とあわせてより積極的な活用により阻害要因を克服する必要がある。

 キーワード:情報公開制度,情報公開条例,非公開処分,文書不存在,情報公開制度の手数料

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IT革命下における研究開発の管理と効率化
―新薬開発を例として―

田中一雄* 
*たなか かずお 淑徳大学 国際コミュニケーション学部
 〒354-8510 埼玉県入間郡三芳町藤久保1150-1
 Tel. 0492-74-1511(原稿受領 2000.11.2)

 研究開発競争が世界的規模で展開されている現在,研究開発の効率化は,企業の生き残りをかけた重要な経営課題として浮上してきている。
 本稿では,新薬の開発をめぐる課題に着目して,研究開発の管理と効率化を実現するための革新的な情報科学技術,すなわち情報通信技術(IT)と科学技術の統合化について論ずる。具体的には,コンピュータ・ケミストリー実用上の課題を明確にするとともに,コンビナトリアルケミストリーとハイスループットスクリーニングの詳細を検討したうえで,統合すべき要素とその関係を明示した。

 キーワード:研究開発,支援システム,統合化,新薬探索,IT,コンピュータ・ケミストリー,コンビナトリアルケミストリー,ハイスループットスクリーニング

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図書館システムの現状と課題
―次期業務モデルと大学図書館間の協力体制の確立構想へ向けて―

入江 伸* 
*いりえ しん 慶應義塾大学メディアセンター本部
 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
 Tel.03-5427-1649(原稿受領 2000.12.5)
(注) この論文は,INFOSTAシンポジウム2000で発表されたものです。

 1998年10月に全塾を対象とした図書館基幹システムKOSMOSをリプレースしKOSMOSIIのサービスを開始した。1992年,KOSMOS稼動後から,システム性能に引きずられず業務効率を上げるため,業務の改善や周辺システムの開発を行ってきた。この過程は,図書館業務を機能単位に分割しながら最適な業務モデルとシステム環境を設定することであった。
 この経過とKOSMOSIIのコンセプトや構成を説明しながら,次期システムへ向けての業務モデルのフレームを検討する。特に,一大学ごとの図書館や図書館システムという枠組みを超えた新しい業務モデルの開発の必要性について提案する。

 キーワード:図書館システム,データベース,MARCフォーマット,業務モデル,外部委託

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