情報の科学と技術
Vol. 51 (2001)  , No. 1
特集=E-Commerceと図書館

年頭挨拶 年の始めに
社団法人 情報科学技術協会   会長 權藤卓也

 新年 明けましておめでとうございます。
 当協会の創立50周年記念式典も昨年の秋に無事終了して,次の新しい51年目を迎えることとなりました。しかも,たまたま今年は21世紀の最初の年,いろいろの意味ですべてが新しくなり,これからの世界を見通して新しい旅立ちの時であります。
 このところわが国の政府も力を入れはじめたITの世界も更に加速してゆき,情報技術の進歩による社会のシステムや体制の再構成がますます顕著になり,すべてがきびしく見直しを迫られています。
 このような人から離れた情報の加工や,通信による移転などの処理はますます進歩するけれど,人と人との間の情報流通については,手段はともかく,内容の本質は本来変わらないはずです。しかし,手段が変わることによって,その内容や人自身も変わって行くかもしれません。今年から始まる新しい世紀がどのようなものになってゆくのか,それに従って人がどうなってゆくのか,当協会としては重大な関心を持たざるを得ません。
 生物は環境が変わると,この変化に追随して適合しうるように変化し,進化してゆきます。この50年間ですら,人々の生活の様式はもとより,考え方や意識,認識の仕方も大きく変わってきたように思われます。
 これからの情報環境の変化が,今後人々の思考や考え方・意識をどのように変えてゆくのでしょうか。その変化をどのように捉らえ,認識して対応していかなければならないのかが,当協会の今後の重大な課題であります。
 ITで流通処理される対象は,現在は言葉で表現される概念だけでなく,図形や音響,動画など,その他視覚や聴覚を通じて認識されるすべてのデータに拡大してきました。この範囲だけでも,当協会が取り扱うべき情報の管理・利用技術の研究開発にとって,どこまで拡大し,どう対処しなければならないのか,これも新しい世紀の課題でありましょう。
 新しい年を迎えて,我々も本当に新しい世界への第一歩を踏み出すことになります。皆様と一緒に大きく成長してゆきましょう。

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特集「E-Commerceと図書館」の編集にあたって
(編集担当委員 松林正己,棚橋佳子,田邊稔,山地博志)

 明けましておめでとうございます。21世紀がいよいよ始まりました。本年もよろしくお願いいたします。
 さて前世紀末にインターネットがもたらした情報技術(IT)革命が日常世界に浸透しつつありますが、日本ではさまざまな要因から普及する速度は予想以上に遅いと言われています。しかしIT革命がもたらすe化が今世紀を牽引するのは間違いないでしょう。特にビジネスでもE-Commerceと呼ばれている電子商取引が,個人生活の面でも定着しつつあります。なかでも書籍販売では国境を越えた書店がネット上に開設され,E-Commerceの代表的な存在になっています。E-Commerceの特徴は,いわゆる「中抜き」をすることによって,販売者とエンド・ユーザーを直接結びつけることで,経済効果を生みだして,従来のビジネス慣例を,大きく変化させようとしています。
 図書館界においても,デジタル情報資源を直接データベース出版社や商業学術出版社が販売し始めております。されあに知的財産権の観点から,知識の公共性とは相反する立場にもあります。図書館と言う公共性に基づいた時空間で,デジタル情報資源を提供するにはこうした様々な問題点を解決する必要がありそうです。
 そこで本特集では,図書館経営をe化の観点から多面的に再検討する視点で議論を始めていただき,続いて最も大きな争点を占めるであろうE-Commerceの法律的諸問題を国際的な枠組みで検討していただきました。次に現実のE-Commerceの現場からレポートをお願いしました。さらに電子ジャーナルや電子本が流通するための技術的な問題点としてDOI(Digital Object Identifier)やメタデータと連動するわけですが,こうした図書館経営のテクニカルな観点からの動向をもまとめていただきました。最後にE-Commerce現象を,すなわちe化が影響を及ぼす社会文化的な側面や具体的な現象予測として技術開発動向と図書館文化の問題をまとめてみました。
 以上十分な議論ができたかどうか些か心許ない部分もありますが,ご批判賜れば執筆者・編集担当一同の喜びとするところであります。

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E-Commerce総論
〜図書館におけるE-Commerceを目指して

鈴木 寛* 
*すずき ひろし 慶應義塾大学SFC環境情報学部助教授
 〒252-8520 神奈川県藤沢市遠藤5322
 Tel. 0466-47-5111 ex.3056(原稿受領 2000.11.14)

 IT革命に対応して図書館のE化を進めていくためには,現行の著作権制度が障害になる。この問題を解決するためには,法律改正や,知的財産権流通市場を創設することなどもその方法の一つとして考えられるが,そうした方法は,時間と手間を要するという問題がある。これに対して,大学図書館などが利用者及び学者によるコミュニティを組織化し,著作者と利用者の双方にプラスとなる知識創造の新たな自発公共圏を生み出す可能性がある。

キーワード:電子化,電子図書館,デジタル・コンテンツ,E-Contents,著作権

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Eコマースのサイバー法的考察
山本順一* 
*やまもと じゅんいち 図書館情報大学
 〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
 Tel. 0298-59-1332(原稿受領 2000.10.20)

 本稿は,Eコマースのなかでも,とくにB to C(企業と消費者との間)のEコマースを対象として考察を加えた。このB to CのEコマースの多くは,インターネット利用の“通信販売”の姿をとっているところから,通信販売を規律する訪問販売法の適用対象とされている。しかし,ネットショップは“出店”“閉店”が容易でトラブル発生も多くなっており,安全な取引の確保に向けていくつかの新たな試みがなされている。
 インターネット上のB to CのEコマース成約への手続きは,ビジネスモデル特許の対象ともなりうる。また,Eコマースの対象商品がソフトウェア,データベース,デジタルコンテンツ等の場合は著作権法や不正競争防止法でも保護され得る。最近,アメリカでは,このようなデジタル情報商品を提供する契約を規律する州法の制定を促す“統一コンピュータ情報取引法”(UCITA)が作成された。その問題点についても論じた。

 キーワード:Eコマース,電子商取引,サイバー法,サイバーショップ,ネットショップ,電子署名,ビジネスモ
デル特許,統一コンピュータ情報取引法

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E-Commerceと学術雑誌
長谷川 豊 祐* 
 *はせがわ とよひろ 鶴見大学図書館
  〒230-8501 神奈川県横浜市鶴見区鶴見2-1-3
  Tel. 045-581-1001(原稿受領 2000.11.9)

 E-Commerceは,雑誌論文を提供する図書館サービスに大きな影響を及ぼす。E-Commerceと学術雑誌をとりまく話題として,雑誌のネット取引,電子ジャーナルやデジタルコンテンツなどの流通システム,E-Commerceにおける商品識別子やメタデータの現状を紹介する。

 キーワード:E-Commerce,学術雑誌,インターネット,ICEDIS,RoweCom,DOI,Indecs,CrossRef

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E-Commerceと書籍流通―BookWebを例として―
牛口順二* 
*うしぐち じゅんじ 葛I伊國屋書店 営業企画部
 〒150-8513 東京都渋谷区東3-13-11
 Tel. 03-5469-5911(原稿受領 2000.10.18)

 紀伊國屋書店は,1996年にBookWebというインターネット書店を立ち上げ,一般個人ユーザ向けに和洋書の販売を行っている。BookWebには,図書館など機関ユーザ向けのBookWebProというサービスがあり,従来のマンパワーによるサービスと組み合わせることで,請求書ベースでの決済をはじめ,機関ユーザの様々な要求に対応している。
 日本の書籍流通機構のなかで,ネット書店を成功させることは決して容易ではない。むしろ,現在,誕生しつつあるオンデマンド出版や,電子本の普及によって,書籍流通におけるE-Commerceは大きく変貌する可能性を秘めている。

 キーワード:インターネット書店,書籍販売,書籍目録,オンデマンド出版,電子本

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E-Commerceの動向と図書館:
サービス志向の電子図書館の実現

酒井由紀子* 
*さかい ゆきこ 慶應義塾大学
 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
 Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2000.11.9)

 世界のインターネットビジネスをリードする米国において,E-Commerceの急激な拡大は,情報消費者のWWWを用いたサービスへの期待に多大な影響を与えつつある。その対象はコマーシャルサイトのみならず,図書館を含む非営利組織のサービスにも及ぶ。本稿では,これらの消費者の期待に応える,サービス志向の電子図書館の実現状況を,米国の大学図書館の電子化を中心に概観し,E-CommerceにおけるB2C(ビジネス対消費者)すなわちカスタマー・サービスとの比較,検討を試みる。また,その他のE-Commerceの形態であるB2B(ビジネス対ビジネス),B2E(ビジネス対雇用者),C2C(消費者対消費者)の図書館サービスへの適用についても,既存サービスの電子化,新たな電子ビジネスの可能性の2側面から考察する。

 キーワード:電子商取引,電子ビジネス,電子図書館,図書館サービス,WWW

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E-Commerce Navigator:図書館情報学のためのITリテラシー
松林正己* 
*まつばやし まさき 中部大学附属三浦記念図書館
 〒487-8501 愛知県春日井市松本町1200
 Tel. 0568-51-1111(原稿受領 2000.10.30)

 IT(情報技術)革命の渦中にあって,我々にはこの革命が引き起こしつつある電子商取引現象をいまだ精確に認識できないでいる。ネット上で公開されている図書館情報学分野における電子商取引と図書館に関する情報源と研究動向の紹介をしたい。電子商取引と電子図書館が連動することで遠隔地教育のプロセスと組織構造が大きく変革される。今世紀の社会経済活動が知識中心に進み,その中核的なディシプリンの1つを図書館情報学が担う可能性がある。

 キーワード:電子商取引,電子図書館,遠隔地教育,図書館情報学,情報技術リテラシー

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創立50周年記念行事報告
記念講演:情報界のパラダイムシフト

三 輪 眞木子* 
 この講演は,2000年9月22日 情報科学技術協会創立50周年記念行事の記念講演として行われたものである。
*みわ まきこ 潟Gポックリサーチ 取締役 情報コンサルタント
 〒164-0001 東京都中野区中野2-7-12-106
 Tel. 03-3382-1384(原稿受領 2000.10.23)

 情報の世界を捉える視点の変化を,米国における研究・実業・教育の3つの領域におけるパラダイムシフトとして捉え,現在および近未来の情報プロフェッショナルに何が求められているかを展望。情報検索研究におけるマッチ%パラダイムからユーザ%パラダイムへの変化,情報サービス産業におけるメタデータ提供からコンテンツ提供への変化と,それに伴う新たな料金設定や流通システムの必要性,情報学教育におけるIT技能と目録%分類%索引技能の重要性を述べ,政府のIT重視政策により情報プロフェッショナルに新たな機会が訪れることを示唆。

 キーワード:パラダイムシフト,情報学研究,情報サービス産業,情報学教育,情報プロフェッショナル

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国会審議映像のインターネットVODサービス
―政策決定プロセスの無解説・無編集ビデオライブラリ―

薄葉威士* 
*うすば たけし 衆議院庶務部文書課企画調整室
 〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
 Tel. 03-3581-5170(原稿受領 2000.10.25)
(注) この論文は,INFOSTAシンポジウム2000で発表されたものです。

 衆議院では,本会議・委員会等の会議はほぼすべて,国会構内を初めとして霞ヶ関の中央官庁及び放送局,通信事業者,政党本部等に専用回線あるいはCATV網を通じてテレビ中継を行っている。また,そのテレビ中継される審議映像をインターネットでもすべてライブ中継している。そして,インターネットVOD(ビデオ・オン・デマンド)システムにより,過去の審議映像を,国民が端末を介していつでも自由に取り出して視聴できるようにしてある。
 同時に,オンラインでのアンケート等もホームページ上で常時行っており,寄せられた意見やアンケート等をもとに,利用しやすいように日々システムの改良を図っているが,それらシステムについての概要及び今後の課題について紹介する。

 キーワード:ADSL,RealPlayer,VOD,WindowsMediaPlayer,エンコーダ,ストリーム,衆議院,動画再生ソフト,ビデオライブラリ

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