OUG化学分科会(2004.05.11)           田中情報検索事務所 田中敏夫

2003年度情報検索応用能力試験の解答例トライアル

 

1級後半 専門問題:化学

先ず、論文に盛り込む内容について、それぞれのポイントを記述して置く。

★ 結果の入手:RegistryChemical NameC.I. No.の記載があった。

       タイトル:データベース成立以前の情報の検索

 過去の検索経験から、1級合格者の事例にふさわしいと考えられるものは、ただひとつある。データベース成立以前の文献検索を強いられたケースである。顧客から提示された化学構造式は複雑なものではなかった。STNRegistryファイルから分子式(MF)および部分構造名などから検索を行い、CAS登録番号を調査したが、CAPlusにも、CAoldにも情報がないことが判った。しかし、そのロケーションを見ると、EINECS登録がある。つまり、これはChemlistに しか情報がないことを意味し、Chemlistを見ると欧州と豪州にしか法規制関連の登録データがなく、僅かに、Other NameとしてColour Index構造番号の記載があった。

 国立国会図書館でColour Indexを読むとBIOS番号が判り、「PBレポート対象索引」から、PB Report No.を割り出すことができた。PB Report所在目録からマイクロフィルムのリール番号を調べ、借り出したマイクロフィルムをフィルムリーダーで目視検索した。

かなりの時間を要したが、当該文献を見出し、それがI.G.の色素製造ノウハウで、原料中間体と合成条件が判った。早速、その部分のコピーを依頼したが、フィッシュ形式でないため、数日間の複写時間も必要であった。この調査でデータベース成立以前の情報への配慮の必要性を痛感し、データベースが普及する前に成熟した技術、たとえば、染料工業などの早熟な技術分野の不幸を感じ取った。また、第二次大戦直後に、国際的に組織された高度な科学技術陣によって収録されたこのような科学技術情報のデータベース化が、 未だに、等閑視されていることに奇異の念を抱いた。遅まきながらでも、PBレポートはデータベースに収録されるべきであり、そのアッピールの意味も含めて、関係者から依頼された原稿に盛り込み「オンライン検索」誌Vol.22, No.3/4, p123-134に発表した。

 これから先は余談であり仮説である。

 何故、欧州と豪州に法規制上の登録があり、化審法やTSCAには登録されていないのであろうか? 専門家の中には、これは「隠しインキ」用の色素だと推論する人もいる。

 英国のポンド紙幣に贋札が多くなり、この「隠しインキ」によって、贋札防止が図られた時代があるらしい。時代は、未だに、大英帝国時代であり、豪州の紙幣にも、全く同じような贋札防止策が採用されたらしい。その後は、英国のポンド紙幣には、もっと有効な贋札防止方法が採用されたらしいが、豪州の紙幣には長く使われていたような話がある。

 過去に製造したことがあり、用いたことがある化学品も、法規制上の登録の対象となるので、欧州のEINECSと豪州のAICSにこの物質が登録されたと言う仮説である。