「情報の科学と技術」2017年5月号 (67巻5号). 特集= 第13回情報プロフェショナルシンポジウム

特集:「第13回情報プロフェショナルシンポジウム」を振り返って

情報プロフェッショナルシンポジウム(INFOPRO)は,2004年に科学技術振興機構と情報科学技術協会により,それまで個別に開催されていたシンポジウムや研究集会を統合して,お台場の日本科学未来館で初めて開催されました。それ以来,毎年開催され,昨年の12月の情報プロフェッショナルシンポジウムで13回目となりました。今回は,科学技術振興機構の東京別館で初めて開催されました。
本シンポジウムは,情報検索とその手法,サーチャーの業務,知財情報と価値評価,情報解析やデータマイニング,情報の評価,図書館業務と情報サービス,電子ジャーナル,電子化関連業務,インデクシング,情報の組織化,情報管理の方法とシステム,組織内情報共有化のためのシステム,情報マネージメント,情報リテラシー教育と情報調査・訓練・研修,情報担当者のプレゼンスなど,幅広く知識や情報にたずさわる関係者が全国から一堂に会し,日頃の研究成果の発表と討論を行い,情報を交換する場となっています。
これらの情報に携わる関係者からの研究発表のほか,その時期に適したトピックスを取り上げた特別講演やパネルディスカッションが実施されてきました。
この10年間で,各種情報のデジタル化は一層進展し,情報の専門家の役割も重要性を増し,また,業務の内容も大きく変わってきています。このような時期に,本年の特別講演では,「統計学が最強の学問である」の著者でもある西内啓(にしうちひろむ)先生から「ビジネスに活かす統計学‐エビデンスに基づく価値創造」について取り上げていただきました。医療の分野で始まった「エビデンス」すなわち科学的根拠に基づくという考え方が,現在は公共政策や経営学においても浸透してきているので,エビデンスに基づいた企業戦略を進めるためには統計学の知識が必須になってきていると指摘されました。参加者からは企業が効率的に価値を生み出すための統計学の活用について,具体的な事例を通じて紹介があったので,今後会社に戻って活用できる知識を得ることが出来たとの声が聴かれました。
また,トーク&トークでは,「情報社会から融合社会へ―仮想と現実が融合する社会での情報のガバナンスと信頼性を考える」をテーマにして,4名の話題提供者からの報告をもとに,活発な質疑が行われました。情報技術の発展により,個々の技術が融合し,新しいビジネスとして,タクシーに変わるUber(ウーバー),ホテルに変わるAirbnb,通貨に変わる仮想通貨Bitcoin(ビットコイン)などが生まれています。このような技術融合社会の中で,情報の信頼性をどのように担保するかなど,インフォプロの現代的な役割が問われています。現在,急速に変容するビジネスの形態について,情報の専門家として,この新たな状況をよく理解し,活用できる知識を身に着けるうえで大変参考になったとの意見が参加者から出されていました。
本シンポジウムの中心になっている情報の担当者や専門家による研究発表は,2016年のシンポでは2日間にわたり昨年より多い合計で33件があり,全体として活発な質疑が行われました。ポスターセッションでは,9名の発表があり,ポスターの前には多くの参加者が集まり,多くの関心を呼んでいました。
本シンポジウムは,情報担当者や専門家による実務経験や研究発表である「一般発表」による発表の場として,その時期に適した話題である「特別講演」からの刺激,参加者が質疑に参加できる「トーク&トーク」,ベンダーの方々による「プロダクトレビュー」や「ポスターセッション」など参加者が多面的に新たな知識を吸収できるようになっています。また,発表者,参加者,提供者が一堂に会する「情報交流会」は,特別講演の講演者である西内啓先生も参加してくださり,大変盛り上がりました。今後も,デジタル化・情報化の進展に対応したシンポジウムの在り方を探ることで,情報プロフェッショナルあるいはそれを目指している方々にとって,本シンポジウムがより有益な場となるように実行委員会一同願っております。
(INFOPRO2016実行委員会委員長 長塚 隆)

第13回情報プロフェッショナルシンポジウム(INFOPRO2016)開催報告

情報の科学と技術. 2017, 67(5), 228-229. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_228
INFOPRO2016は,国立研究開発法人科学技術振興機構との共催により,2016年12月1日~2日の2日間,科学技術振興機構東京本部(東京都千代田区)において開催された。
約230名の参加者を迎え,特別講演,トーク&トーク及び一般発表等,今回も充実した内容となった。
また,今回も情報関連企業・機関の協力を得て,プロダクト・レビュー(プレゼンテーションと出展)を開催した。参加各社のプレゼンテーションをプロダクト・レビューとしてプログラムに加え,更に,展示コーナーでの商品展示を行うなど,好評を博した。
●特別講演
講師:西内 啓 氏(株式会社データビークル取締役製品担当)
演題:ビジネスに活かす統計学 ―エビデンスに基づく価値創造―
●トーク&トーク
テーマ:情報社会から融合社会へ―仮想と現実が融合する社会での情報のガバナンスと信頼性を考える―
●一般発表 29件
3i研究会,特許分析1~2,学術雑誌,情報解析・分析,アーカイブ,図書館・教育,特許検索,データベース,などの分野についてのセッションで発表された。
●プロダクト・レビュー
5社によるプレゼンテーションと展示コーナーでの商品説明などを行った。
一般発表については,各発表の概要を掲載しました。予稿集の全文は,科学技術振興機構(JST)のJ-STAGEからご覧いただけます。

特別講演「ビジネスに活かす統計学」を聴講して

屋ヶ田 和彦 情報の科学と技術. 2017, 67(5), 230-232. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_230
やがた かずひこ 住ベリサーチ株式会社
〒140-0002 東京都品川区東品川二丁目5番8号天王洲パークサイトビル Email: yagat@sumibe.co.jp       (原稿受領 2017.2.24)

一般発表概要

情報の科学と技術. 2017, 67(5), 233-240. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_233

トーク&トーク 情報社会から融合社会へ-仮想と現実が融合する社会での情報のガバナンスと信頼性を考える-

情報の科学と技術. 2017, 67(5), 241-250. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_241
◆開催趣旨;
ICT(Information and Communication Technologies)は,今や我々の日常の隅々にまで及んできています。ICTの発展により,個々の技術が融合し,新しいビジネスが生まれてきています。タクシーにかわるUber,ホテルにかわるAirbnbやBitcoinのような仮想通貨がその例です。このような技術融合社会において,情報の信頼性をどう担保するか,インフォプロの役割が問われています。ICTによる社会イノベーションにおいてインフォプロはどのような役割を果たせるでしょうか。これらの問題について,識者より話題提供をいただきました。

◆話題提供者:
・曽根原 登氏(国立情報学研究所情報社会相関研究系 研究主幹・教授)
現実世界の人・モノ・社会の過去・現在そして未来に起こる状態変化は,WebやSNS空間に投影され,情報の変化となる。その情報・データの変化を解析・シミュレーションをして,人やモノに対してふたたびフィードバックする。このことで,新たな価値を創成し,人々の生活をより良いものにする。この情報循環により,融合社会の新たな知的情報産業,知識サービス産業を創出するデータ駆動型の意思決定の科学的方法論について研究。
・宮澤 一洋氏(ウェルネット株式会社代表取締役社長)
黎明期にあったインターネットにおける決済サービスにいち早く参入し,2000年にはペーパーレスかつリアルタイムの現金決済をキオスク端末で行うという画期的なサービスを開発し提供。
・奥村 貴史氏(国立医療科学院研究情報支援研究センター特命上席主任研究官)
計算機科学,公衆衛生情報学の研究者。計算機科学というコンピュータの基礎研究分野の研究者であるとともに医師としても活躍。公衆衛生や臨床の現場において生じているさまざまな問題に対して,コンピュータやコンピュータネットワークを活用して解決について研究。
・北村 紗衣氏(武蔵大学専任講師)
シェイクスピア研究者で,質・量ともに史上最高の百科事典を目指して共同作業で創り上げるフリーの百科事典プロジェクト,Wikipediaの日本語版で活動するウィキペディアンである。大学において,学生が英語版からの翻訳により実際にWikipedia日本語版に記事を作成するという内容のプロジェクト授業を実施している。

トーク&トーク 「情報社会から融合社会へ-仮想と現実が融合する社会での情報のガバナンスと信頼性を考える-」を聴講して

亀田 幸成 情報の科学と技術. 2017, 67(5), 251-252. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_251
かめた こうせい IOP英国物理学会出版局
〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町3-5-2大和屋ビル4F Email: kosei.kameta@iop.org        (原稿受領 2017.3.29)

3i研究発表を聴講して

田村 隆生 情報の科学と技術. 2017, 67(5), 253-254. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_253
たむら たかお 出光興産株式会社
〒299-0107 千葉県市原市姉崎海岸24番地4 Email: takao.tamura@idemitsu.com        (原稿受領 2017.2.24)

ポスター発表を見て

萬谷 衣加 情報の科学と技術. 2017, 67(5), 255-256. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_255
まんたに いか 獨協大学図書館事務課
〒340-0042 埼玉県草加市学園町1-1 Email: mantani_ika@stf.dokkyo.ac.jp        (原稿受領 2017.2.23)

プロダクト・レビューに参加して

情報の科学と技術. 2017, 67(5), 257-263. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_257
INFOPRO2016では,情報関連企業によるプロダクト・レビューを開催しました。
プロダクト・レビューは,一般発表セッションの中で発表していただき,またポスター展示コーナーを設け,多くの来訪者を迎えることができました。

欢迎到高知县!~地方創生に向けた観光施策の提案手法の検討~

3i研究会 第3期東京Bグループ 今井 康好*1,佐川 穣*2,土田 哲平*3,鷺谷 喜春*4,大野 晶子*5,重田 有美*6,武藤 亜弓*7 情報の科学と技術. 2017, 67(5), 264-270. http://doi.org/10.18919/jkg.67.5_264
*1いまい やすよし 株式会社ジー・サーチ
*2さがわ じょう 旭化成株式会社
*3つちだ てっぺい 日本化薬株式会社
*4さぎや よしはる 富士ゼロックス株式会社
*5おおの あきこ クラシエ ホールディングス株式会社
*6しげた ゆみ 株式会社富士通研究所
*7むとう あゆみ
〒108-0022 東京都港区海岸3丁目9番15号 E-Mail: imai.yasuyoshi@jp.fujitsu.com        (原稿受領 2016.10.1)
近年,地方創生の手段として観光がクローズアップされ,各地で観光に関する取組みを強化している。それゆえ,観光情報の提供といった従来の戦略だけでは観光客に満足してもらう事が難しく,地域の総合力を結集した戦略が必要とされている。本研究は自治体に向けた観光施策の提言を行うこと,また施策の企画に必要な分析プロセスの構築を目的として研究を進めた。結果,分析対象に選定した高知県について,現状把握⇒成功要因分析⇒課題把握⇒仮説作成・検証の分析プロセスで研究を進め,施策をまとめた。なお企画した施策は,県が進めている最新の計画に即した内容であり,本研究の分析プロセスが施策をまとめる上で最適であることが確認できた。
キーワード:地方創生,高知県,観光政策,中国人観光客,映画産業,クルーズ船,ニーズ,シーズ,プロモーション戦略,仮説検証

次号予告

2017.6 特集=「海外における日本研究」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総論・海外における日本研究:概観および近年の動向・課題と展望特別講演を聴講して
  • 海外における日本語電子資料の課題と展望
  • GIF(Global ILL/DD Framework)プロジェクトの現在について
  • チューリッヒ大学における,日本研究支援の現状
  • JALプロジェクト「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」2014- 2016―3年間の総括としてのアンサー・シンポジウムおよび「提言」への「応答」としての「提案」について
  • 日本研究支援と図書館サービス:国際交流基金の活動から
  • 連載:情報分析・解析ツール紹介

など