「情報の科学と技術」2016年11月号 (66巻11号). 特集= 個人情報の活用と保護

特集:「個人情報の活用と保護」の編集にあたって

今月は,「個人情報の活用と保護」をテーマにお送りいたします。
2015年に個人情報保護法が改正されました。情報通信技術の発展に伴い,個人情報の収集や活用に注目が集まっており,今回の改正によって,個人情報を適切に保護しつつビジネスなどへの活用につながることに,期待が集まっています。
さて,インフォプロの方々は,日々の業務で個人情報の扱いなどに直面する機会が何度かあるかと思います。例えば,提供しているサービスを向上させるためにアンケートをとるといった場合,個人情報を組み合わせるとより詳細な分析やよりよいサービスを提供できると思われるかもしれません。しかしながら,個人情報の取扱を慎重に行うため,収集や活用を諦めてしまうというように,どちらかというと個人情報の保護に偏りがちなのかもしれません。そのため,活用ということにまで,一歩を踏み出せないという場合も少なくないのかもしれません。
そこで,今回の特集では,個人情報を適切に理解し,活用に向けての一歩を踏み出していただく事を目的に,専門家の方々に論じていただきました。
まず,新保史生氏には,図書館に視点を起きつつも,改正個人情報保護法の概要や配慮すべき事項について広範に論じていただきました。
さらに,図書館では個人情報と密接に結びつくことの一つに貸出記録との関係があります。山口真也氏には,最近,公共図書館で行われている利用者自身の貸出記録を記載する読書通帳サービスについて,個人情報保護と図書館の自由との関わりという視点から論じていただきました。
さて,近年,様々なところでデジタル・アーカイブの構築と公開が行われております。提供する資料の種類にもよりますが,資料によっては個人情報が含まれているという場合もあります。西山絵里子氏には,デジタル・アーカイブの構築に携わる現場で,資料をデジタル化して公開する場合,個人情報をどのように扱い,生じる問題点などをどのように克服しているのかということについて論じていただきました。
一方で,企業においては,個人情報の活用により新たなビジネスチャンスが生まれることが期待されています。影島広泰氏には,実際に企業において個人情報を取扱う上で必要となる知識や対応すべき事項について,具体例を挙げながら論じていただきました。
個人情報にはセンシティブな情報も含まれるため,個人情報の収集や活用を行うためには,個人情報の保護や匿名化は必要不可欠な要素です。高橋克巳氏からは,個人情報を活用する上で必要となる匿名化や保護について,技術的な側面から論じていただきました。
個人情報と向かい合う必要がある現場では,個人情報の専門家がいるという状況は少ないかと思います。本特集が,インフォプロの方々にとって,今後の業務において個人情報を扱う際,個人情報を適切に把握し活用するための一助となれば幸いです。

(会誌編集担当委員:田口忠祐(主査),長屋俊,鳴島弘樹,古橋英枝,南山泰之)

図書館における改正個人情報保護法対応の要配慮事項

新保 史生 情報の科学と技術. 2016, 66(11), 560-565. http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_560
しんぽ ふみお 慶應義塾大学 総合政策学部
〒252-8520 神奈川県藤沢市遠藤5322        (原稿受領 2016.9.8)
個人情報保護法及び行政機関等個人情報保護法が10年ぶりに改正された。法改正の影響は,すべての図書館に及ぶわけではないため,各図書館は改正による影響を受けるか否か確認が必要である。改正に伴い図書館が対応な必要な事項がある一方で,要配慮個人情報の取得制限が新たに定められたものの,当該情報に関係する個人情報関係資料を除籍対象資料に含める必要がないことはもとより,除籍基準の改定なども不要である。改正法の解釈により図書館における新たな過剰反応が生じないよう,改正個人情報保護法対応にあたっての要配慮事項について解説する。
キーワード:個人情報,個人情報保護法,図書館,個人識別符号,要配慮個人情報,プライバシー

読書通帳サービスにおける貸出記録の利活用をめぐる課題-個人情報保護・「図書館の自由」との関わりに注目して

山口 真也 情報の科学と技術. 2016, 66(11), 566-571. http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_566
やまぐち しんや 沖縄国際大学
〒901-2701 沖縄県宜野湾2-6-1 E-mail: yamaguchi@okiu.ac.jp        (原稿受領 2016.8.24)
本稿は,読書通帳サービスでの貸出記録の取扱について,個人情報保護,または「図書館の自由」との関わりから論じることを目的としている。読書通帳サービスには,履歴を残したいというニーズと図書館の理念との対立を解決する方法として評価できる面もあるが,これまでの貸出記録の利活用議論を生かしていない部分もあるように思われる。以上の問題意識の下で,導入事例のリソースや通帳の記載項目の分析,導入館への取材等をもとに課題を検討した結果,①通帳サーバーでの貸出記録の保有期間の短縮化,②選択的記帳機能の追加,③通帳上での貸出記録の保有期間や個人情報の管理責任に関する説明の記載,④価格欄の必要性の再検討,を提案した。
キーワード:読書通帳,個人情報保護,プライバシー保護,利用者の秘密を守る,図書館の自由に関する宣言,知る自由,知る権利

近現代公文書のインターネット公開における課題と対応~琉球政府文書デジタル・アーカイブズ事業を例として~

西山 絵里子 情報の科学と技術. 2016, 66(11), 572-578. http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_572
にしやま えりこ 公益財団法人 沖縄県文化振興会 公文書専門員(現:独立行政法人 国立公文書館 公文書専門員)
〒901-1105 沖縄県南風原町新川148-3(沖縄県公文書館)
現住所 〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3-2(国立公文書館)
E-mail: eriko.nishiyama.y5i@archives.go.jp        (原稿受領 2016.8.11)
沖縄県は,戦後から本土復帰前までの米軍統治下における琉球政府時代(1952年-1972年)の公文書約16万簿冊のデジタル化を平成25年度より進めており,デジタル化した資料画像をインターネット公開する事業を進めている。膨大な量の近現代公文書をデジタル化し,デジタル・アーカイブズシステムによりインターネットで公開する事例は日本国内で類を見ない。近現代の歴史資料のネット公開における課題は,個人情報や著作物等が含まれる資料をどのように取り扱うかという点であり,資料年度が新しい近現代の資料であるからこそその特徴は顕著に表れる。本稿では,平成27年度の資料公開で直面した課題整理とその対応方針,及び平成28年度の展望について記述する。
キーワード:沖縄県,琉球政府,公文書,公文書管理法,デジタル・アーカイブズ,個人情報,著作権,公衆送信,情報公開法制,記録管理,デジタル資料

企業における個人情報の取扱いの実務

影島 広泰 情報の科学と技術. 2016, 66(11), 579-584. http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_579
かげしま ひろやす 牛島総合法律事務所
〒100-6114 東京都千代田区永田町2-11-1山王パークタワー14階 E-mail: hiroyasu.kageshima@ushijima-law.gr.jp        (原稿受領 2016.8.24)
個人情報の実務で最初に行うべきは,どのような「個人情報」を保有しているのかの洗い出しである。個人情報とは「特定の個人を識別することができる情報」であり,改正個人情報保護法で「個人識別符号」がこれに加わった。個人情報保護法の主要な規制は,①取得の規制(利用目的の特定と通知等),②保管・管理等の規制(安全管理措置等),③第三者提供の規制(本人同意の原則とオプトアウト等),④本人の関与の4点である。改正法では,トレーサビリティに関する義務(取得経緯の確認と記録の作成保存等)と,海外にある第三者への提供への本人同意の原則が重要である。改正法の下での匿名加工情報はビッグデータとしての利活用が期待される。
キーワード:個人情報保護法,改正,個人情報,要配慮個人情報,匿名加工情報,利用目的,安全管理措置,第三者提供,トレーサビリティ,外国

個人情報の活用と保護の技術

高橋 克巳 情報の科学と技術. 2016, 66(11), 585-590. http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_585
たかはし かつみ 日本電信電話(株)NTTセキュアプラットフォーム研究所
〒180-8585 東京都武蔵野市緑町3-9-11        (原稿受領 2016.9.28)
個人情報の活用と保護の技術に関して,個人情報の取り扱いの原則を解説し,個人情報の定義を述べた上で,原則に基づいたデータ収集,データ処理,データ保管の技術的観点からの解説を行う。個人情報取り扱いの原則はOECD8原則やISO/IECプライバシーフレームワークを参照しながら,利用目的,データ最小化などという独特の概念を説明し,個人情報保護法が求める保護の技術的意味に迫る。さらにこれらに対してデータ最小化に貢献する匿名化技術や情報セキュリティに貢献する暗号技術の概要を解説する。
キーワード:個人情報,個人情報保護,プライバシー,匿名化,暗号,プライバシーフレームワーク

次号予告

2016.12 特集=「インフォプロの仕事術」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 日本マイクロソフトの「フレキシブルワークスタイル」
  • 多様性を活かしながら個性を発揮するアダプタに
  • やりたいことを仕事にしよう!ししょまろはん流仕事術
  • インフォプロであり続けるために ~一助としてのINFOSTA研修事業~
  • 連載:著作権入門/情報分析・解析ツール紹介

など