「情報の科学と技術」2016年7月号 (66巻7号). 特集= 特許訴訟を調べる

特集:「特許訴訟を調べる」の編集にあたって

今月号は「特許訴訟を調べる」という特集です。
特許情報の調査は,侵害予防調査,無効資料調査,技術動向調査,先行技術調査など,呼び方や調査の手法に細かな差異はあっても,出願時,審査請求時,研究開発段階,製品発表時などの各フェーズで,日常的に情報の利用が行われ,それらを支える各国の電子図書館や,高機能の商用データベースにより,特許情報はいつでも・どこでも・誰でもが活用できる身近なものとなっています。
一方で,広義では特許情報に含まれていながら,情報の発生や流通,調査,利用方法が,良く知られていないものに「特許訴訟」や「特許審判」の情報があります。
化粧品業界におけるクレンジングオイルや整髪料,食品業界における切り餅や即席麺など,ネット,TV,新聞など各メディアでも,特許訴訟のニュースを目にする機会は多くなっていますが,その内容について正確な情報を得ようとして,どのように情報へアクセスしたら良いのか,迷われた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
今回の特集では,利用する機会は少ないが,知財関係者にとっては重要な情報である「特許訴訟」や「特許審判」の情報について,理解を深めていただくことを目的として企画いたしました。
はじめに,重田暁彦氏には特許情報や判例情報への長年の関わりから,最近の判例の動向と,それらを特許調査という実務へどのようにフィードバックするのかについて論じていただきました。
つづいて,藤井保夫氏には訴訟情報の内容と取得について解説をいただき,酒井美里氏には,プロのサーチャーの視点から,知財訴訟の種類の整理と,訴訟情報の入手と利用方法について,深堀をしていただきました。倉増一氏には米国の訴訟判例情報について,調査方法と読み方を,具体的な事例を題材として,詳細な説明をいただき,田中康子氏には化学分野における最近の身近な判例について,解説をいただきました。
最後に今回の特集が,「特許訴訟」「特許審判」に不慣れな方のみならず,既に情報を利用されている方にとっても,復習する機会や,新しい何かに気付くきっかけとなっていただければ幸いです。

(パテントドキュメンテーション委員会)

最近の動きと特許調査または発明の開示との関係

重田 暁彦 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 312-317. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_312
しげた あきひこ 日本パテントデータサービス株式会社,公立大学法人会津大学
〒105-0003 東京都港区西新橋2-8-6 住友不動産日比谷ビル
E-Mail: shigeta@jpds.co.jp        (原稿受領 2016.4.13)
知的財産の中でも技術関係の情報が中心となる特許関係の特許庁の審査・審判,更には訴訟に見る最近の動きを把握し,特許調査や発明を捉える際の影響などで考慮すべきことを述べる。特許庁の判断と裁判所の判例には微妙な違いが見られる。特許庁の審査は,ある程度の技術内容の開示があれば,比較的広い範囲での請求項が認められる。しかし,権利解釈などの裁判になると具体的な実施態様に限定される傾向が見られる。特許調査や発明を捉える際の影響を考えると,技術的内容を何処まで細かく,必要十分な範囲または観点で取り組むべきかが重要になる。調査であれば技術用語による全文検索を,発明開示であれば出来得る限りの下位概念をしっかりと実施態様に述べることが求められる。
キーワード:特許庁審査,特許庁審判,知財高裁判例,特許調査,技術用語,発明の開示

特許訴訟情報の取得

藤井 保夫 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 318-324. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_318
ふじい やすお 有限会社パテントヒンメル
〒102-0071 東京都千代田区富士見2-2-11 Inoue Bldg.
E-mail: info@s-nippo.com        (原稿受領 2016.5.28)
企業活動が技術革新により特許権に大きく依存していることから,企業が意思決定を行うに際して,特許権の個別的な実情を知ることが必要である。そのために,訴訟情報は欠かすことができない。日本の特許/知財訴訟情報の本体は,紙媒体上に存在する。その情報は,判決言渡しがない訴訟であっても,裁判の公開性の原則にしたがって,国民に公開されている。この訴訟情報を得るために訴訟番号と当事者名と管轄裁判所の担当部とを知る必要があるが,これらは,開廷された訴訟の情報を電子化してインターネット上にある「知財提訴データベース」から知ることができる。米国の特許訴訟に関する情報は,全てが,電子化されて公開されている。「米国訴訟日報」では,特許訴訟の管轄裁判所90カ所以上から,ほとんどの場合,提訴の翌日には,訴状など訴訟の内容を知る手がかりが得られ,裁判記録も,電子ファイルとしてインターネット上のデータベースから得られる。
キーワード:特許訴訟情報,日本,米国,電子化

知財審判・訴訟情報調査入門~無料入手可能なソースを中心に

酒井 美里 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 325-330. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_325
さかい みさと スマートワークス株式会社
〒102-0074 東京都千代田区九段南1-5-6 りそな九段ビル5F
E-mail: info@1smartworks.com        (原稿受領 2016.4.25)
スマートフォン知財訴訟や体重計の意匠,腕時計の商標など,身近な製品に関する知財訴訟を目にする機会が多くなっている。また,平成27年より特許異議申立制度の運用が開始されるなど,審判制度にも新たな動きが発生している。
しかし日本だけを例にとってみても,審判や訴訟に関する情報としての審決公報や審判記録情報,判決文などは,その管轄が特許庁審判部,知財高裁,高等裁判所と多岐にわたり「ここさえ見ればすべての情報を簡単に入手可能」とはいかないのが現状である。したがって一般の特許情報利用者には,その入手や利用方法の把握が難しく,ましてや審判や訴訟の情報整理など,より敷居が高く感じられる,といった状況にもある。
本稿では日本及び米国を中心に,知財審判・訴訟に関する情報の種類ならびに情報入手方法を概説する。
キーワード:知財訴訟,審査,審判,J-PlatPat,データベース,米国付与後トライアル,提訴,訴訟,裁判例,ITC337条

米国特許訴訟判例の調査方法と判決文の読み方

倉増 一 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 331-337. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_331
くらます はじめ 株式会社トランスプライム
〒185-0012 東京都国分寺市本町2-23-5 ラフィネ込山No.3 602号
E-mail: kuramasu@transprime.co.jp        (原稿受領 2016.4.27)
米国では連邦巡回控訴裁判所に毎年100件を超える特許権侵害を巡る争いが控訴され,半数以上に特許侵害を認める判決が下る。判例主義の米国では,特許訴訟の判決も整理され,専門のウェブページで検索することができる。典型的な判決は専門書にまとめられており,当事者名が分かっている場合は,インターネットで直接検索して判決全文が入手できる。判決文に基づいて,明細書の記載を拘束する種々の自主規制(風説または都市伝説)が産まれている。しかし,判決全文を丁寧に読むと必ずしもそれらの風説が正しいとは言えない。代表的な判決例を参考にして,判決の読み方と企業が有効な権利をとるための方策を提示する。
キーワード:連邦巡回控訴裁判所,特許権侵害,特許訴訟,判決,風説,都市伝説

医薬・化学分野の判例情報の活用について

田中 康子 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 338-344. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_338
たなか やすこ エスキューブ株式会社/エスキューブ国際特許事務所
〒150-0001 渋谷区神宮前6-23-6石川ビル5F
E-mail: yasuko.tanaka@s-cubecorp.com        (原稿受領 2016.4.20)
近年,裁判所がウエブサイト上で判決文を公開するようになり,誰でも気軽に判例情報にアクセスできるようになった。またここ数年,食品や飲料等なじみのある製品や,後発医薬品に関する特許侵害訴訟のニュースを目にする機会が増えている。
判例情報は,学術文献や特許文献とは異なる特殊な文書であるため,法律や訴訟制度になじみのない特許情報利用者にとっては扱いにくい側面があるかもしれない。
本稿では,企業・大学等の図書・情報部門で情報を扱う業務に携わる方々,並びに製薬・化学企業で特許情報を扱う業務に携わる方々に向けて,判例情報の種類や判決文の構成を簡単に説明し,判例情報の入手方法と活用方法について解説する。
キーワード:判例情報,医薬,化学,判例情報の入手,判例情報の利用,裁判例情報,事件番号,判決文の構成

新事業創出のための3つの情報分析アプローチ~空気清浄機を事例として~

岡本 耕太1),清水 裕史2),津田 英隆3),仲 美津子4),伏見 祥子5),堀口 泰6) 情報の科学と技術. 2016, 66(7), 345-351. http://doi.org/10.18919/jkg.66.7_345
1)おかもと こうた 東洋製罐グループホールディングス株式会社
2)しみず ひろし 株式会社日本能率協会総合研究所
3)つだ ひでたか 国立研究開発法人科学技術振興機構
4)なか みつこ 住商ファーマインターナショナル株式会社
5)ふしみ さちこ 昭和産業株式会社
6)ほりぐち やすし TOTO株式会社
〒240-0062 横浜市保土ヶ谷区岡沢町22-4
Tel. 045-331-5161 E-Mail: kouta_okamoto@tskg-hd.com        (原稿受領 2016.4.18)
近年,企業活動における情報分析の重要性が大きくなっている。本稿は,筆者らは空気清浄機を開発,製造,販売する電機メーカA社の経営企画担当者であると仮定して,公開情報(製品,特許,論文など)を分析して新事業創出のための提案を作成する手法の検討を行った。手法の検討にあたっては,以下(1)~(3)の観点からのアプローチを行った。(1)A社空気清浄機技術の強み,(2)空気清浄機技術と既存技術の組み合わせ,(3)社会ニーズに対応する次世代技術
キーワード:情報分析,新事業,空気清浄機,公開情報,特許,論文

次号予告

2016.8 特集=「POPカルチャー保存機関」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 印刷博物館における収蔵資料の保存と管理
  • 映画(フィルム)の保存
  • お菓子の「おまけ」
  • KCIにおける服飾資料の保存
  • 小さな科学技術遺産の保存のとりくみ
  • 化粧品・制服の保存と活用
  • 連載:試験問題解説/著作権入門/情報分析・解析ツール紹介

など