2014. 12 特集= 計量書誌学を超えて

特集 : 「計量書誌学を超えて」の編集にあたって

12月号の特集は「計量書誌学を超えて」と題してお届けいたします。
計量書誌学(bibliometrics)は,その名が示す通り,文献,特に学術文献の書誌情報を計量的に研究する学問です。特に引用に関わるデータは多くの場面で評価および分析に使用されており,研究者や研究機関の業績評価,また学術雑誌の影響力評価等において欠かすことができないものになっています。
一方,オープンアクセスの普及やプレプリントサーバの広まりなど,学術情報の流通形態も多様化し,これらが後続の研究に与える影響も無視できないものとなっています。このことは,同時に引用のみによる評価の限界をも示していると言えます。また他方では,ビッグデータの解析技術等,多面的な評価が技術的に可能になってきたという側面もあります。オンラインでの閲覧回数やダウンロード回数,またソーシャルメディアでの言及など,多様な側面を考慮に入れた「代替的な指標」としてのオルトメトリクスも研究・提唱され,サービスとしても提供が開始されています。
その適用の場面においても,計量書誌学は従来の研究者や研究機関の評価に加え,近年では科学技術政策の立案や研究開発への投資・助成にあたってもエビデンスを重視する潮流が高まっており,その存在感が増しています。このような変化は,上述した技術の進化とも相まって,計量書誌学の新たな展開を必然のものとしているように思えます。
総論では,林和弘氏に,こうした計量書誌学の現状と課題について俯瞰し,オルトメトリクスも含めた今後の展開,さらには「研究活動計量学」とも呼べるものへの発展の可能性を論じていただきました。吉田光男氏には,計量書誌学の新たな挑戦,特にオルトメトリクスの日本における実践例として,Ceek.jp Altmetricsサイトを構築,運営されている立場から,このサイトの開発に至った経緯,サービスの構成や技術,今後の展望などについて述べていただきました。五十嵐康伸氏ら「技術動向観測隊」の皆様には,データサイエンス・アドベンチャー杯への参加経験から,ビッグデータ解析技術を使った文献データの分析と,そこから導き出された,イシューの導出に焦点をあててその過程をモデル化するという「データ・イシューサイクル」の手法について論じていただきました。浅石卓真氏には,学校の児童生徒や教員の情報ニーズを反映した計量書誌学的データについて概観いただき,その活用可能性,課題や今後の展望等について論じていただきました。古林奈保子氏には,世界の主要学術誌の論文書誌情報およびその引用情報を保有し,それに基づいた研究の分析評価ソリューションを提供する企業の立場から,データに基づく研究の分析評価の考え方や事例などについて論じていただきました。
計量書誌学は,その技術の進化と適用可能性の広がりによって,その重要性が今後ますます高まっていくと考えられます。本特集が,計量書誌学に直接携わる方のみならず,ひろく学術情報に関わる皆様の参考となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:鳴島弘樹(主査),齊藤泰雄,中村美里,長谷川敦史,松林正己)

計量書誌学から研究活動計量学へ

林 和弘
はやし かずひろ 科学技術・学術政策研究所
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-2
Tel. 03-3581-0605        (原稿受領 2014.10.6)
計量書誌学は,学術ジャーナルを中心として発展し,引用をベースにしたネットワーク解析は,現在学術・科学技術研究のインパクトを測る上でもっとも信頼性が高い手法となった。
Webの情報流通基盤が整うことで,計量書誌学は,短期的にはデータベースの連携やリンクを中心としたインパクト分析が進む。一方,長期的には研究成果の公開の在り方そのものの変化に応じた手法が開発され,科学計量学の再構成が行われ,研究活動計量学と呼べるものに発展する可能性がある。
変動期にある学術情報流通基盤を踏まえ,短期的,長期的展望を能動的に持った上で,短いサイクルで行う実践と評価の繰り返しと新しい計量に対するコンセンサスの形成が求められる。
キーワード:学術情報流通,計量書誌学,科学計量学,altmetrics,オープンアクセス,研究活動計量学,ビッグデータ,オープンサイエンス

計量書誌学の新たな挑戦 -国産オルトメトリクス計測サービスの開発-

吉田 光男
よしだ みつお 豊橋技術科学大学 情報・知能工学系
〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
        (原稿受領 2014.11.4)
インパクトファクターやh指数など被引用数をもとにした指標により,学術情報の評価が行われてきた。2010年前後より,被引用数にかわる評価指標として,ソーシャルメディアなどにおける言及の利用が試みられている。この指標はオルトメトリクスと総称される。本稿では,オルトメトリクスの概要,および,筆者が開発している国産オルトメトリクス計測サービスCeek.jp Altmetricsの開発について述べる。さらに,ソーシャルメディアなどにおける日本語文献の言及動向を報告し,今後の展望について述べる。
キーワード:学術情報,オルトメトリクス,ソーシャルメディア,クローラ,ウェブAPI

ビッグデータ時代のイシュー導出マネジメント -データサイエンス・アドベンチャー杯の事例研究-

加藤 亮*1,坂口 誠一郎*2,林 浩平*3,五十嵐 康伸*4
*1かとう りょう,*2さかぐち せいいちろう,*3はやし こうへい,*4いがらし やすのぶ
*1株式会社金融エンジニアリング・グループ
〒104-0033 東京都中央区新川2-27-1 東京住友ツインビル東館10階
Tel. 03-5117-9000
*2国立情報学研究所
〒101-0003 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2000       (原稿受領 2014.9.30)
ビッグデータ時代に入り,ビジネス課題に対するデータ活用法(イシュー)を導出する方法論が企業では必要とされている。しかし,具体的なイシュー導出の過程や時間配分について記述している先行研究は殆どない.そこで本論文では,筆者等が参加し準優勝したデータサイエンス・アドベンチャーを事例とした事後分析に基づき,ビジネスにおける有用性及び実現性の高いイシューを導出する方法としてデータ・イシューサイクルを提案する。このサイクルは,探索期,調査期,調整期,実証期から成る。分析の結果,予測モデルの構築を行う実証期の日数は全体の1割以下であり,残り9割以上の時間はイシュー導出のための議論やデータの調査・加工を行う他3つの期間に割り当てられていたことが分かった。
キーワード:ビッグデータ,データサイエンス,イシュー,マネジメント,時間配分,ビジネス,コンペティション

学校図書館における計量書誌学的データとその活用可能性

浅石 卓真
あさいし たくま 東京大学大学院教育学研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3917        (原稿受領 2014.9.19)
本稿では,学校の児童生徒及び教員の情報ニーズを反映した計量書誌学的データを概観すると共に,その活用可能性を検討する。最初に,学校図書館における貸出記録,アクセスログ,児童生徒の学習成果物,レファレンス記録,相互貸借記録の5つについて,それぞれの特徴や得られる具体的な計量書誌学的データを整理する。次に,上述した計量書誌学的データの活用可能性を,図書推薦システムの開発,蔵書構成,教材用図書リストの作成の3つを例に検討する。最後に,今後の学校図書館研究に計量書誌学的データを積極的に活用していく上での課題を述べる。
キーワード:学校図書館,貸出記録,アクセスログ,レファレンス記録,相互貸借記録,図書推薦システム,蔵書構成

引用情報に基づく研究の分析・評価

古林 奈保子
ふるばやし なおこ トムソン・ロイター 学術情報事業
〒107-6119 東京都港区赤坂5丁目2番20号赤坂パークビル19階
Tel.03-4589-3102         (原稿受領 2014.10.9)
研究力の分析・評価の中でも論文情報の分析をする際には,多くの分析で引用情報が活用されてきた。引用情報の扱いには,ドキュメントタイプや分野分類など注意すべき点もあるが,今日ではURAなど多くの利用者が活用しており,公募の審査内容や大学ランキング等にも広く活用されている。その一方で引用情報の限界もあり,最新のトレンドを分析するためには,引用情報のみでは不十分との声もある。その中で,様々なツールや分析手法が新たに検討され,引用データを補完する形で活用されている。引用情報も新たに登場するデータも数値化できることで大きなインパクトを持つこともあり,利用者の視点やデータの扱いも非常に重要になってきている。
キーワード:引用情報,研究分析,研究評価,被引用数,インパクトファクター,データベース,Web of Science,InCites,URA

図書館・情報科学の第六法則の新提案 <人間の限界/人間の弱点を補完せよ!>
-Ranganathan & Fugmannへの讃辞-

長谷川 正好
はせがわ まさよし
〒166-0013 東京都杉並区堀の内1-8-3-321
TEL&FAX. 03-3311-2011     (原稿受領 2014.6.1)
RanganathanやFugmannなどの言うところの「人間の限界/弱点」を10ケ集めて議論した。さらに,コンピューターなどによる「人間の限界/弱点」の補完・支援策を検討した。この議論を基に,Ranganathanの五法則に追加する新たな第六法則を提案した。すなわち,<人間の限界/人間の弱点を補完せよ!>である。
キーワード:図書館情報学,第六法則,シソーラス,コンピューター補完/支援システム,全文検索システム,索引言語システム,リンク,人間の限界,人間の弱点,新提案

次号予告

2015.1 特集=「メディアとジャーナリズムの未来」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論: メディアとジャーナリズムの未来
  • 各論1: 雑誌ジャーナリズムの未来
  • 各論2: 知的自由とメディア
  • 各論3: 震災・原発報道における新聞報道の在り方
  • 各論4: 海外から見た震災・原発報道とジャーナリズム

など