2014. 10 特集=利用者のつながりを生む諸活動

特集 : 「利用者のつながりを生む諸活動」の編集にあたって

今月の特集は,「利用者のつながりを生む諸活動」をテーマにお届けいたします。
従来,図書館の機能の中心は情報=資料を用意し,必要とする人に届けるという,「本と人とをつなぐこと」でした。しかし近年では,利用者同士のつながりを生み出す場や機会の提供が新たに注目を集めています。公共図書館であれば市民との協働や図書館ボランティア活動,大学図書館であれば学生アシスタント等の活動は,図書館の運用に利用者が関わることで図書館に親しみを持ってもらうという目的と同時に,市民や学生といった利用者同士が関わりあう場の提供ともなっていると考えられます。
図書館が館種を問わず広く社会に開放される傾向にある昨今,図書館の場や本,読書活動を通じて人と人とのつながりを生み出す活動に関わることにどのような意味があるのか,コミュニティを支援する場としての図書館の可能性とはどんなものかを考えるため,本特集を企画しました。
総論では筑波大学の永田治樹氏から,英国の公共図書館の歴史を通じて,コミュニティにおける公共図書館の在り方が,どのように変化してきたのかを解説していただきました。また日本の現状においては公共図書館がコミュニティの中でどのような役割を求められているのか,についてもご指摘いただいています。
つづいて立教大学の中村陽一氏からは,社会デザインをご専門とされる立場から,「コミュニティをデザインする」とはどういうことかを論じていただきました。具体的な事例を多数あげていただき,コミュニティデザインの重要性が増す中で,図書館がどのようにコミュニティと関われるのか,多くの示唆をいただいています。
つづき図書館ファン倶楽部で活動されている福富洋一郎氏からは,図書館員ではなく,利用者・地域住民としての立場から,利用者同士のつながりを生み出す公共図書館を中心とした実践例をご紹介頂きました。図書館を通じて人のつながりを生み出す活動がもたらす具体的なメリットや効果が,より具体的にわかる事例のご報告となっています。
コミュニティ支援というと公共図書館に議論が偏りがちですが,帝京大学の上岡真紀子氏には,大学における学びを主とするコミュニティの支援についてご紹介頂いています。近年協同的な学びの場が注目を集める中,大学図書館にとっても,コミュニティ支援が重要な使命となりつつあることを最新の事例と共に論じて頂きました。
最後にプロジェクト・ワークショップの吉田新一郎氏からは,ブッククラブの運営や参加を通してご自身が感じられた,読書体験を共有することの意義を論じて頂くとともに,実際にどのようにブッククラブを運営しているか,どのような点に留意されながら活動されているかを詳しくご紹介頂きました。
以上,様々な観点から,図書館や読書を通じた,「人のつながり」,「コミュニティ支援」が何をもたらすか,そのために私たちインフォプロが何ができるか,何をすべきか,多くのヒントをいただける論考をご執筆頂くことができました。この場をかりて御礼申し上げます。本特集が読者の皆様が「人と人とのつながりを生む・支援する活動」に関心を抱くきっかけになれば幸いです。
(会誌編集担当委員:立石亜紀子(主査),小山信弥,中村美里,長谷川敦史)

公共図書館とコミュニティ:知識・情報伝達と人びとをつなぐ

永田 治樹
ながた はるき 筑波大学名誉教授
〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
Tel. 029-853-2111         (原稿受領 2014.8.6)
公共図書館は人びとの知識や情報を伝達する機能として,コミュニティとの関わりにおいて発展してきた。典型としての英国公共図書館の歴史を,「市民的」図書館の成立から今日の「コミュニティ図書館」に至るまで概観してみると,政策的課題や情報技術などそのときどきのコミュニティ状況によって,公共図書館に求められる働きが変化してきたことが確認される。その上で,現代期待されているソーシャル・キャピタルとクリエイティブ・キャピタルを基盤とする図書館を紹介する。また,「マイクロ・ライブラリー」へのコメントを最後に加えた。
キーワード:英国公共図書館,コミュニティ図書館,コミュニティ・ライブラリアンシップ,社会的包摂,ソーシャル・キャピタル,クリエイティブ・キャピタル,マイクロ・ライブラリー

社会デザインからみた図書館―つながりを編み直すワーク,活かすワーク―

中村 陽一
なかむら よういち 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科委員長・教授/社会デザイン研究所所長
〒171-8501 豊島区西池袋3-34-1 立教大学
Tel. 03-3985-4172(研究室)03-3985-2181(委員長室)
(原稿受領 2014.8.19)
本稿では,社会デザインからみた図書館を考察するため,まず,社会デザインのなかでのコミュニティデザインの可能性を探り,そこで行われている「つながりを編み直すワーク,活かすワーク」について,事例とともに考えた。続いて,社会デザインとしての事業取り組みモデルを紹介した後,コミュニティデザインの変容から「サードプレイス」としての場の可能性に言及し,公共ホール・劇場を例にとった。そのうえで,最後にソーシャル・インクルージョン,サスティナビリティ,ソーシャル・キャピタルという3つのキーワードと「野生の社会デザイン」の必要について述べた。
キーワード:社会デザイン,コミュニティデザイン,サードプレイス,ソーシャル・インクルージョン,サスティナビリティ,ソーシャル・キャピタル,野生の社会デザイン学

コミュニティの場としての公共図書館における取り組み

福富 洋一郎
ふくとみ よういちろう つづき図書館ファン倶楽部
〒224-0062
Tel. 045-532-9903        (原稿受領 2014.8.22)
近年,コミュニティの場としての公共図書館の活動が話題となっている。従来の図書館機能の中心は「本(情報)と人とをつなぐこと」であったが,最近は利用者同士のつながりを生み出す場としての機能が注目されている。筆者が所属している「つづき図書館ファン倶楽部」という図書館友の会でも,協働による活動を通じて都筑図書館を応援するとともに,市民グループと図書館とが協働する仕組みを模索してきた。
図書館は単なる読書の場ではなく,「人と人とがつながる」コミュニティが活動する場として大切であり,積極的に取り組む自治体が増えることが期待出来る。この動きの背景には何があるのか,実際に活動している市民が図書館に何を求めているのか等について,筆者の体験を紹介し,今後の展望を読者とともに考えていきたい。
キーワード:図書館,図書館友の会,ボランティア,協働,まちづくり,学校図書館,読み聞かせ

大学内のコミュニティ支援:カリフォルニア州立大学のMERLOTの事例

上岡 真紀子
うえおか まきこ 帝京大学高等教育開発センター
〒192-0395 東京都八王子市大塚359
Tel. 042-690-8171        (原稿受領 2014.8.11)
本稿では,コミュニティを支援するとはどのようなことなのかについて,コミュニティにおける学びへの分析視点をもたらす実践共同体の概念を参照しながらその要素を確認する。また,オンラインのコミュニティ支援を行い,その成果として自らも支援を行うオンラインコミュニティとして成長,発展した事例として,カリフォルニア州立大学のMERLOTのプロジェクトを紹介する。
キーワード:コミュニティ支援,実践共同体,カリフォルニア州立大学,MERLOT

ブッククラブ(読書会)という読み方

吉田 新一郎
よしだ しんいちろう プロジェクト・ワークショップ
〒183-0011 東京都府中市白糸台4-26-21
e-mail:pro.workshop@gmail.com (原稿受領 2014.7.18)
・そもそも個人的な活動である読書体験を共有することに,どのような「意識/メリット/効果」があるのか?
・ブッククラブは,実際どのように運営されているのか?
上記2点に絞って,その理論的な裏づけなども交えながら,ブッククラブという楽しく,かつ人とつながることで得られる読み/学びの広がりと深さを紹介する。
キーワード:読書家のサイクル,選書,楽しい,読むことが好きになる,大きな学びがある,人間関係=読みのコミュニティが築ける,読む力=考える力と社会人基礎力が身につく

ポータルからプラットフォームへ:ユーザ参加型の新たなフレームワーク構築へ向けて(翻訳)

塩崎 亮,菊地 祐子訳
しおざき りょう,きくち ゆうこ 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331         (原稿受領 2014.7.4)
Europeana事業計画(2014年版)のスローガン「ポータルからプラットフォームへ」の引用元である,オーストラリア国立図書館のTim Sherratt氏の論考(※1)を翻訳した。ニュージーランド図書館協会の年次大会での講演記録である。DPLAやTroveを例に挙げ,ポータルサイトとして機能することに加えて,収集したメタデータのAPIを介した提供の重要性を説く。また,データのライセンス付与については触れられていないものの,プラットフォームとして機能するためには,デジタル化を推進するためのアドボカシー活動等も不可欠と指摘する。
(※1) Sherratt, Tim. “From Portal to Platform: Building New Frameworks for User Engagement”. LIANZA 2013 Conference, New Zealand, October 21, 2013.
http://www.lianza.org.nz/sites/default/files/Tim Sherratt – From portal to platform – Building new frameworks for user engagement.pdf [accessed 2014-09-04].
キーワード:Europeana,Trove,DPLA,API,プラットフォーム,ポータル

オープンアクセスの動向 (1)
オープンアクセスの義務化とその影響

時実 象一
ときざね そういち 東京大学 大学総合教育研究センター
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
E-mail. tokizane@aichi-u.ac.jp   (原稿受領 2014.6.26)
この記事は,ここ数年のオープンアクセスの動向について詳述するもので,前後編に分かれる。この前編では,はじめにオープンアクセスの定義と歴史について,特にゴールド・オープンアクセスとグリーン・オープンアクセスについて簡単に説明した。近年研究助成機関と各国政府のオープンアクセス志向が強まり,米国・英国など主要国で助成研究成果論文の無料公開が義務付けられている。なかでも,2013年2月の米国OSTPのメモ,2012年6月の英国のFinch Reportとその影響,ECの動向などについて解説した。さらに,米国では,この義務化に対応するための出版社の取り組みCHORUS,図書館の取り組みSHAREなどの動きがある。CHORUSはCrossRefのFundRefに支えられている。こうした,義務化を支えるインフラストラクチャーについて述べた。
キーワード:オープンアクセス,無料アクセス,公衆アクセス,リポジトリ,ゴールド・オープンアクセス,グリーン・オープンアクセス,エンバーゴ,研究助成機関,NIH,OSTP,PubMed Central (PMC),Finch Report,CrossRef,FundRef,ORCID,CHORUS,SHARE,APC,CCC

オープンアクセスの動向 (2)
新しいオープンアクセス・ビジネス

時実 象一
ときざね そういち 東京大学 大学総合教育研究センター
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
E-mail. tokizane@aichi-u.ac.jp   (原稿受領 2014.6.26)
この記事は,ここ数年のオープンアクセスの動向について詳述するもので,前後編に分かれる。この後編では,PLOS ONEの成功によってもたらされた,新しいオープンアクセス・ビジネスについて,PLOS ONE型メガジャーナル,カスケード型雑誌の2種類について,実例を挙げて解説した。また,人文・社会科学分野のオープンアクセス雑誌,学位論文のオープンアクセスの動きについて述べた。最後に,最近進みつつあるデータのオープンアクセスとそのリポジトリについて述べた。
キーワード:オープンアクセス,PLOS ONE,メガジャーナル,カスケード型雑誌,人文科学,社会科学,学位論文,データ,OSTP,データ・リポジトリ

次号予告

2014.11 特集=「デジタル時代の日本語」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論:デジタル時代の日本語
  • 各論1:EPUBにおける日本語対応
  • 各論2:日本語コーパスについて
  • 各論3:日本語クラウドソーシング翻刻に向けて
  • 各論4:日本語テキストデータの解析について

など