2014. 7 特集=技術情報としての特許情報を探る

特集 : 「技術情報としての特許情報を探る」の編集にあたって

特許制度とは,新しい技術を公開した者にその代償として一定期間,一定条件のもとに独占排他的な権利を与え,他方第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与えると共に一定期間発明を模倣しない義務を課すことにより,権利者と公衆の利害を調和しつつ技術の進歩を図り,産業の発達に寄与するものであるとされています。このために,特許情報は権利情報であるのは当然ながら技術情報,あるいは他の情報と併せて経営戦略の策定に利用できる経営情報としての側面も持っています。そこで通常は権利情報として見られている特許情報について,技術情報としての観点から探ってみたのが今回の特集です。
各社が特許情報を技術情報としてどのように利用しているかについては,非常に興味のある点ではありますが,このような事例はあまり表には現れないものであり,今回の特集でもご執筆をお願いする際に苦労したところです。実際の利用においては特許マップなどをうまく利用して,他の情報とも併せて経営や研究開発の企画に生かすといった事はどこでも行っているようでした。また,特許情報と論文等の非特許情報との相関関係についても興味深いところですが,今回の特集ではあまり突っ込む事はできませんでした。
臼井氏には,総論として技術情報としての特許情報利用の現状と問題点について論じていただき,各論としては各企業の技術情報としての特許情報利用の実態について,自動車関連企業を代表して株式会社日産テクノの近藤氏,電気関連企業を代表して株式会社日本電気特許技術情報センターの井出氏,今野氏,五藤氏,北谷氏,嶋田氏,製薬関連企業を代表して持田製薬株式会社の松永氏,石川氏,化学関連企業を代表して帝人株式会社の佐藤氏に解説していただきました。また,大学の取り組みについて宇都宮大学大学院工学研究科の大庭先生に論じていただきました。
企業の方を中心に論じていただいたため,特許情報を経営等にいかに利用するのかといったお話がどうしても話題の中心になったようですが,特許情報は技術情報としての観点からも重要であるという認識は一致していると思われます。問題点としては,論文等と比較して特許情報はその量が比較にならない程多いため,この多量の情報をどのように取り扱うかという事がポイントになるようです。いずれにしても今回の特集が皆様方の特許情報利用の何らかのご参考になれば幸いです。
なお本特集は,情報科学技術協会パテントドキュメンテーション委員会と会誌編集委員会とのコラボレーション事業として企画いたしましたことを最後に付け加えておきます。
(会誌編集担当委員:パテントドキュメンテーション委員会(主査),中村美里)

技術情報としての特許情報

臼井 裕一
うすい ゆういち 一般社団法人情報科学技術協会
(INFOSTA)
Tel. 03-3813-3791        (原稿受領 2014.4.21)
特許情報は,特許制度の目的から必然的に権利情報と技術情報との側面を持っている。また特許情報は論文などと比較してその発行数の多さのゆえに研究者がその全てに目を通すことは困難である。研究者が読むべき特許を選別する者が必要と考える。また,多量の特許情報を用いて解析を行い,更に利用価値の高い経営情報を再生産することが可能であることを考慮しても特許情報は大いに利用すべきである。このために「知的財産情報プロデューサー」と仮に呼ぶような専門家集団が必要であると結論づけた。
キーワード:特許情報,権利情報,技術情報,特許制度,特許情報解析,知的財産情報プロデューサー,特許マップ

自動車技術情報として特許を探る

近藤 真吾
こんどう しんご 株式会社 日産テクノ 知財業務グループ
〒243-0021 神奈川県厚木市岡田3065 厚木アクスト 日産ビル5F
Tel. 046-220-4643        (原稿受領 2014.4.11)
『自動車技術情報として特許を探る』を主題として,自動車技術を取り巻く環境からその活用の実態を論じた。活用の実態は,(1)技術探索,特許から技術を学ぶ,(2)競合他社分析:特許情報を基にした開発動向のベンチマークから自社の研究・開発戦略策定,(3)新技術の市場投入時のリスク分析,(4)情報ネットワークとの連携と標準化。以上4つの各観点で,特許という技術情報の価値と活用シーンを解説した。
キーワード:技術探索,競合他社分析,ベンチマーク,研究・開発戦略,リスク分析,情報ネットワーク,標準化

電機業界における技術情報としての特許の利用例

井出 達徳,今野 亮介,五藤 智久,北谷 謙一,嶋田 明代
いで たつのり,こんの りょうすけ,ごとう ともひさ,きたたに けんいち,しまだ あきよ 株式会社 日本電気特許技術情報センター 情報ソリューション事業部
〒211-8666 神奈川県川崎市中原区下沼部1753
Tel. 044-435-1035         (原稿受領 2014.4.9)
特許の技術情報としての活用及び企業の経営戦略の策定に貢献する経営情報としての活用について電機業界での一例を紹介する。電機業界では,非常に多数の特許が事業に関与するため,個々の特許の質はもちろんのこと特許の量も事業遂行上,重要となってくる。特許明細書から得られる情報,特許のマクロな分析手法とマクロ分析から得られる情報について述べると共に,ベクトルを用いた新しい特許ポートフォリオ分析手法について紹介する。さらに,特許から得られる情報を補強するために様々な情報源,データベースも駆使して研究開発動向やビジネス情報等を総合的に分析する「総合調査」について述べる。
キーワード:特許,マクロ分析,活用,技術情報,経営情報,電機業界

科学技術情報としての特許情報の取扱の現状と問題点

松永 敦夫,石川 浩
まつなが あつお,いしかわ ひろし 持田製薬株式会社 知的財産部
〒160-8515 東京都新宿区四谷1-7
Tel. 03-3225-6322        (原稿受領 2014.5.19)
今日,主要国特許庁から特許公報の全文がデータベースとして提供されている。このデータベースを自らサーチし,また必要に応じ審査経過情報にもアクセスして,誰もが関連する特許情報を取得することが可能になっている。特許情報の科学技術情報としての利用促進は,特許制度の要である。しかしながら,特許明細書は,出願人が特定の意図をもって技術情報を開示するものであり,また,玉石混交であることから,その利用には注意を要する。特許情報の利用者は,特許制度を良く知り,また技術分野毎の戦略のパターンを知って,特許情報を評価することが重要である。小論では医薬品に関する特許情報の評価や利用例を中心に紹介する。
キーワード:特許情報,技術情報,審査経過情報,特許戦略,医薬品,評価

化学関連の企業における技術情報としての特許情報の利用

佐藤 貢司
さとう こうじ 帝人株式会社 知的財産部
〒100-8585 東京都千代田区霞が関3-2-1霞が関コモンゲート西館
Tel. 03-3506-4057         (原稿受領 2014.4.1)
特許は権利書としてだけでなく,特許情報自身が技術文献としての意義を有し,また,事業戦略等への更なる活用が可能である。近年,テキストマイニングを利用した特許分析ツールの開発が進んでいる。見える化の手段として利用されている特許マップツールや特許の価値といった独自の指標も提供されるようになってきており特許情報の分析は活発に行われている。
弊社においても,従来から行っている出願件数推移といった統計的な分析に加え,これらの分析ツールを利用し特許解析を行っている。また,従来から行っている先行技術調査等の調査に加え,さらなる解析を目的として分析ツールの拡大利用を検討している。本稿ではその一例を紹介する。
キーワード:特許情報活用,技術情報,テキストマイニング,分析ツール,特許マップ,価値指標,独自指標

大学教員から見た,技術情報としての特許情報

大庭 亨
おおば とおる 宇都宮大学大学院 物質環境化学専攻
〒321-8585 栃木県宇都宮市陽東7-1-2
Tel. 028-689-6147        (原稿受領 2014.4.15)
大学で化学を研究する立場から,特許に含まれる技術情報の受け止め方について私見を述べた。実際に実験を行う上で,実施例に記された実験方法やデータなどは参考になる。また,従来技術に関する記述は当該分野を俯瞰するのに役立つ。ただし,記述の形式こそ学術論文と似ていても,内容の事実性が審査されないまま公開されていることを考慮しなければならない。特許は技術文献ではあるが,より本質的には発明の技術的範囲を明示する権利書である。最小限の情報開示で最大限の権利を獲得しようとする結果として,明細書の記述に不充分さや曖昧さが含まれている可能性を,特許の技術情報を読む上では常に念頭に置く必要がある。
キーワード:特許,技術情報,技術文献,審査,公開,権利書,実施例,従来技術

投稿:特許の評価値付与および評価値を使用した戦略的な特許マップ

有賀 康裕
ありが やすひろ インパテック株式会社
〒435-0048 静岡県浜松市東区上西町115-1
Tel. 053-465-3555        (原稿受領 2014.2.17)
特許の価値を数値に表すことは金銭的な価値評価として発展してきた。その過程で手法論が編み出されてきている。特に,数値化に対して有力な情報は特許の経過情報である。この数値は,人的判断に近い計算式としてチューニングして組み立てたることより,自動的に特許1件毎に数値(重み)を与えることができるようになる。このようにして得られた数値情報を利用し,実例としての「クロスカップリング反応を伴う技術」を収集して適用した。この反応を伴う応用技術の中で,評価値を使った特許マップを作成することを試みた。その結果,評価値の効果は特許の棚卸だけでなく,アライアンスなどに係わる情報をもたらしてくれる。この解析結果は従来の特許マップでは難しい技術の中身に踏み込んだ解析結果と共に,特許戦略的な面を持つ特許情報となる。
キーワード:特許マップ,評価値,価値評価,特許戦略,特許情報,特許解析,クロスカップリング反応,経過情報

次号予告

2014. 8 特集=「ファンドレイジング」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論:ファンドレイジング活動とは何か?
  • 各論1:シャンティー国際ボランティア会の活動
  • 各論2:クラウドファンディングの最前線
  • 各論3:海士町中央図書館にみんなで本を贈ろう!プロジェクト
  • 各論4:アメリカにおけるファンドレイジング活動

など