2014. 5 特集=Web API活用術

特集 : 「Web API活用術」の編集にあたって

「Web API」と書いて「ウェブエーピーアイ」と読みます。5月号は「Web API活用術」特集です。
情報を扱う分野においてデータベースの果たす役割は大きく,図書館員やサーチャーを始めとした情報専門職は取り扱う情報をデータ化しデータベースとしていかに組織化/検索するかを専門性のひとつとしてきました。しかし,ウェブ時代の到来によってウェブ上で種々のデータベースが公開されるとともに各種データベースのデータを横断的に統合,あるいは単体のデータベースから必要なデータのみ選択的に利用した新しいタイプのサービスが登場してきました。こうした新しいタイプのサービスの裏側において各種データベースやウェブサービス間の障壁を取り除くために機能している仕組みとして代表的なものが「Web API」です。
高久雅生氏には,総論としてWeb APIの歴史や技術的な方式を整理し,その上でWeb APIがどのようなものなのか解説していただきました。さらに学術情報流通におけるWeb APIの活用事例についてレビューしていただくことによって本特集全体を俯瞰することができる論考となっています。
大向一輝氏からはCiNiiウェブAPIを題材としWeb APIの設計という観点から執筆していただきました。サービスとしてWeb APIを提供する上でのコンセプトから始まり運用上の課題や対策方法,Web APIコンテストの実施結果,アクセスログからの利用分析など今後Web APIでの情報発信サービスを考えている方にとって有益な内容となっています。
鎌田篤慎氏よりHack For JAPANとしての活動経験からデータを機械可読可能な形式で公開することの重要性を示していただきました。特に,コミュニティを基盤としイベント開催やデータ公開及びWeb API化の動きをそれぞれ相互作用させていくことで公開データやWeb API自体の存在が認知されるようになるというモデルは,先行するウェブサービス分野のみならず情報流通分野でも今後ますます重要になると思われます。
飯野勝則氏,井ノ上靖氏からは佛教大学図書館での事例をもとにWeb APIの活用事例を紹介していただきました。ポータルサイトやディスカバリーサービスなど既存のサービスが提供する情報とWeb APIによる付加情報を全体としてどのようにデザインしひとつのサービスへと収斂させていくのか,という同大学の先進的な取組みから得られるものは多いはずです。
川嶋斉氏からは野田市立図書館でのWeb APIを用いたOPACの拡張事例や業務用ツールの作成事例を紹介していただきました。特に,自作プログラムによる自館サービスの拡張への組織内合意形成が定常化するまでのプロセスや,組織を超えたコミュニティでの結び付きによる展開などは本特集を読んだ後「実際に活用したい!」という読者が各組織で一歩を踏み出した際にぶつかるであろう壁を乗り越えるための大きなヒントとなるでしょう。
前述したように,データをデータベース化し活用する,という従来の情報専門職が活躍してきたステージからさらに一段上に目を向けると,Web APIなどの仕組みを援用しつつデータベースや各種サービスの垣根を越えて自由にデータをハンドリングすることで新しい付加価値を生み出す,という次世代のステージが登場しています。そのステージ上で情報専門職としての私たちはいま何をできるのか,と問われているといっても過言ではありません。
本特集が,Web APIを活用してみたい,Web APIを通じてデータ公開したい,というきっかけとなれば幸いです。
(会誌編集担当委員 長屋俊(主査),池嶋千夏,上野友稔,權田真幸,齊藤泰雄,白石啓,長谷川敦史)

Web APIの過去・現在・未来

高久 雅生
たかく まさお 筑波大学図書館情報メディア系
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1394        (原稿受領 2014.3.18)
Web APIは情報サービスの,とりわけWeb上で提供されるサービスにおいて,縁の下の力持ちとして欠かせない位置を占めつつある。本稿ではWeb APIの提供と利用の両面から類型を示しながら,その歴史的な意義と機能を紹介する。学術情報分野を中心にWeb APIの提供事例とマッシュアップ事例を挙げるとともに,その利用目的やデータ形式,ライセンス,永続性といった点を取り上げて議論し,Web APIがもたらしている役割を解説する。
キーワード:Webサービス,Web 2.0,マッシュアップ,Linked Open Data (LOD),REST,SOAP

CiNiiのウェブAPI戦略

大向 一輝
おおむかい いっき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2585        (原稿受領 2014.3.12)
学術情報サービスに求められる多様なニーズに応えるための手段としてウェブAPIは有用である。国立情報学研究所が運営するCiNiiではサービスの機能とウェブAPIの機能との間に質的な差異を設けず,第三者がデータを活用しやすい環境を構築している。本稿ではCiNiiにおけるウェブAPIの戦略的な位置づけとともにこれを実現するためのシステム設計,実装ならびに運用方針について述べる。また,コンテスト等による利用促進とその成果について報告する。
キーワード:学術情報サービス,ウェブAPI,RESTful,Linked Data,コンテスト,ライセンス,Scholarly Information Services,Web API,RESTful,Linked Data,Contest,License

Web API活用の現在
~Hack For Japanの活動の事例から~

鎌田 篤慎
かまた しげのり Hack For Japan
(原稿受領 2014.2.20)
昨今,ビジネスの潮流を作っているWeb APIであるが,その歴史は意外にも古く,もっとも最初に企業が公開し,成功したWeb APIは米国のeBayが2000年に公開したものと言われている。それから十数年,インターネットに接続するデバイスの増加に伴い,これまでにない勢いでWeb APIの公開が進んでいる。また,政府が主導するオープンガバメントの流れを汲んだオープンデータもWeb APIで公開されることが増えてきた。そうした背景とHack For Japanの活動でも政府が公開したWeb APIを使ったHackathonにおける成果,また,より利用されるために提出した提言書などの紹介と共に,そこに存在する課題を説明する。
キーワード:Web API,オープンデータ,オープンガバメント,Hack For Japan,インターネット,オープンビジネス,オープン化戦略

図書館ウェブサービスにおけるWeb APIの活用
-佛教大学図書館の場合-

飯野 勝則*1,井ノ上 靖*2
*1いいの かつのり 佛教大学図書館
〒603-8301 京都市北区紫野北花ノ坊町96
Tel. 075-491-2141
*2いのうえ やすし        (原稿受領 2014.2.18)
図書館ポータルサイトにおいては,(1)ウェブスケールな学術情報と,(2)インスティチューションスケールな広報的情報の提供が求められる。佛教大学図書館の場合,(1)はウェブスケールディスカバリであるSummonが中核としての役割を担っているほか,ジャパンナレッジやCiNiiが提供するWeb APIを用いたウェブサービスを別途提供することで,利便性の一層の向上を図っている。一方,(2)については,Summon単独では十分に対応できない。このため,Web APIを通して,自館の他のサービスと連携し,その情報をSummonのユーザインターフェース上に合理的に表示させることで,問題の解決を図っている。今後Web APIは図書館にとって,情報提供という面での自由を担保する存在となるだろう。
キーワード:ジャパンナレッジ検索API,CiNiiウェブAPI,リンクリゾルバ,ウェブスケールディスカバリ,ディスカバリサービス,Summon,図書館ポータルサイト

図書館サービスをWeb APIで拡張する

川嶋 斉
かわしま ひとし 野田市立図書館
〒278-0035 千葉県野田市中野田市167-1
Tel. 04-7123-7611        (原稿受領 2014.2.19)
近年では国立情報学研究所や,カーリル,国立国会図書館などから,公共図書館でも活用できそうなWeb APIの提供が開始されている。このようなWeb APIを取り入れ,自館のWebサイトと他のサイトの連携を図ることによって,Web-OPAC設置以後,長く停滞してきた公共図書館のWebサービスを変えられる可能性がある。本稿では野田市立図書館を例に,JavaScript上でのWeb APIの利用方法と,公共図書館サービスでAPIがどのように活用されているかを紹介する。また,野田市立図書館がWeb APIを取り入れるようになった経緯について触れ,そのきっかけとなったゆうき図書館「新着雑誌記事速報」でも使われている,Google Feed APIを,JavaScriptでWebAPI活用の入り口として紹介する。
キーワード:Web API,Javascript,Web-OPAC,公共図書館,Google Books API,CiNii API,Web NDL Authorities,国立特会図書館サーチAPI

次号予告

2014. 6 特集=「図書館員のヒント」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論:図書館員という職業
  • 各論1:図書館員のシステム系のキャリアパス
  • 各論2:海外経験のすすめ
  • 各論3:図書館員のステップアップ
  • 各論4:図書館で働きたい人へ
  • 各論5:図書館員の研究支援
  • 各論6:図書館員の教育への関与
  • INFOSTA Forum (281)

など