2014. 4 特集=MANGA

特集 : 「MANGA」の編集にあたって

近年,日本のポップカルチャー(大衆文化)は,欧米で人気があるとされ,国内でも評価が高まってきています。その中で,マンガも2001年に日本マンガ学会が創設され,大学でマンガ関連の学部や学科が新設されるなど,研究が盛んになりました。マンガ関連施設も各地で相次いで創設されています。その一方で,読み捨てを前提とした雑誌形態,悪書として追放対象であったことなどから,既存の多くの図書館で体系的に収集・保存がされてこなかった歴史があります。本特集は,マンガ資料の収集・保存を中心にとりあげ,マンガ文化の保存=文化継承に図書館を含むマンガ関連施設がどのように関与していくのかを模索する契機となることを目指して企画いたしました。
なお,まんがの表記は,漫画,マンガ,MANGAで,指す内容が微妙に異なります。このたびの特集名は,あえて,和題・英題ともに「MANGA」としていますが,厳密に日本製マンガ,もしくは日本製風マンガを指しているわけではありません。
マンガに対する歴史観を持つことは,研究者のみならず,膨大なマンガ資料の中から何を収集するのか方針を立てることが求められるマンガ関連施設にとっても,重要であると考えます。出口氏には,派生文化も含めたマンガを巡る現状とその歴史的背景をご説明いただきました。漫画をライトノベルなどとともに広く絵物語として定義し,その文化史的な意義について触れていただいています。
池川氏,秋田氏には,文化庁「メディア芸術デジタルアーカイブ事業(マンガ分野)」をとおし,主要図書館のマンガ所蔵調査の結果とその活用につながるデータベースのメタデータ設計について,ご解説いただきました。非常に労力のかかるプロジェクトであると思われますが,保存の前提として,主要図書館においてどの程度のマンガが所蔵されているかといった現状把握は,重要なプロセスであると感じます。データベースが公開された際には,マンガ文化の保存や研究に大きく寄与することになるでしょう。
また,マンガ資料は,非常に劣化および破損しやすく,利用や保存の前提として,修理の必要性が生じてきます。国立国会図書館(NDL)の久永氏,高久氏には,NDLでのマンガ資料の所蔵および利用状況をふまえ,破損と修理の実例をご解説いただきました。両氏の所蔵調査ではマンガ単行本は対象から除外されており,池川氏,秋田氏論考の「メディア芸術デジタルアーカイブ事業」の調査ではNDLのマンガ雑誌が基本的に除外されています。そのため,NDLのマンガ資料数という点においては,これら2つの論考は相互補完関係にあると言えます。
そして,日本の文化を理解しようと考える場合,海外からの視点は欠かせません。椎名氏には,アメリカにおけるマンガ受容の歴史と共に図書館でマンガが受け入れられるようになった経緯を概観していただき,それに日本のマンガがどのように関わったのかを述べていただきました。出版エージェントのご経験から,アメリカにおけるマンガ流通の観点も加わった興味深い論考となっています。
漫画家の大石氏には,マンガの描き方の一例を前後編でお描きいただきました。マンガそのものを掲載することは編集委員会にとっても大きな挑戦でしたが,大石氏にはマンガ掲載に不慣れな委員とのやりとりに我慢強くご対応いただき,感謝申し上げます。
最後になりましたが,このたびの特集では,日本マンガ学会の皆様や当誌前編集委員長の野田英明様に御助言,御協力いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
(会誌編集担当委員:池嶋千夏委員(主査),權田真幸委員,長屋俊委員,中村美里委員,鳴島弘樹委員,高久雅生委員)

日本漫画と文化多様性-マンガをめぐる現状と歴史的経緯

出口 弘
*でぐち ひろし 東京工業大学
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1
(原稿受領 2014.3.3)
本稿では日本の漫画を広く絵物語のコンテクストの中で位置づけ,その文化史的な意義と可能性を明らかにする。日本の絵巻や浮世絵,絵草紙,漫画などの諸コンテンツは社会階級に依存せず創作され,また複製や二次創作を積極的に是認する文化を持つ。これは欧州型の,オリジナル作品にオーラがあるとみなし二次創作を是認せず,権威による作品の評価を基軸とするアートの文化とは大きく異なる。本稿では,絵物語の歴史を概観しながら,あらゆる社会の場から表出され,異なる立ち位置の人々の世界観を混淆循環させる力と多様性を持つメディアとしての絵物語空間に着目する。その上で,漫画の様な絵物語を日本のサブカルチャーではなくメインカルチャーとして位置づけその可能性を論じる。
キーワード:漫画,コンテンツ,文化多様性,二次創作,サブカルチャー,ライトノベル,絵物語,ナラティブコミュニケーション

マンガのメタデータ設計と所蔵データベースの構築プロジェクトについて

池川佳宏*1,秋田孝宏*2
*1いけがわ よしひろ 株式会社 寿限無 文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業マンガ分野コーディネーター
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-30神保町ハウスR04
Tel. 03-3512-2761
*2あきた たかひろ 明治大学米沢嘉博記念図書館 日本マンガ学会 理事
〒101-8301 東京都千代田区猿楽町1-7-1
Tel. 03-3296-4555        (原稿受領 2014.1.21)
平成22~23年度の文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業マンガ分野において,国立国会図書館,川崎市市民ミュージアム,明治大学米沢嘉博記念図書館,京都国際マンガミュージアム,大阪府立中央図書館国際児童文学館の5つの機関のマンガ所蔵をデータベース化するプロジェクトが行われた。これに際し,どのような内容のデータを集め,どのような共通のメタデータ項目を設定し,どのようにデータを整理し書誌の同定を行ったかについて,実際の作業内容をもとに報告する。また,プロジェクトの成果として,現在,所蔵元が明確なマンガについて,その数量を明らかにした。
キーワード:メディア芸術,マンガ,データベース,図書館,博物館,文学館,メタデータ,書誌の同定

国立国会図書館におけるマンガの所蔵・利用状況,劣化・破損の傾向とその補修

久永 茂人*1,高久 真一*2
*1ひさなが しげひと 国立国会図書館収集書誌部資料保存課
*2たかく しんいち 国立国会図書館収集書誌部逐次刊行物・特別資料課
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331        (原稿受領 2014.1.17)
国立国会図書館では多数のマンガ単行本(コミックス)やマンガ雑誌を所蔵している。マンガ雑誌を中心とした所蔵および利用状況について踏まえたうえで,マンガの破損の実例とその補修方法について事例報告する。
当館で所蔵しているマンガ雑誌は約1200誌である。利用冊数が多い雑誌の上位15誌に,マンガ雑誌は6誌が入っている。マンガ単行本は,分類による抽出が十分にできないためリスト化が困難である。
作りが簡易であること,材料の質がよくないこと,利用が多いことから当館ではマンガの破損が問題となっている。破損したマンガ単行本は,主に無線綴じの綴じ直しの手法で補修している。破損したマンガ雑誌は,再製本したり破れたページを和紙で補修している。
キーワード:国立国会図書館,マンガ,マンガ雑誌の所蔵,マンガ雑誌の利用状況,マンガの破損,マンガの補修

アメリカの図書館はいかにマンガを所蔵するようになったか
-大衆文化の文化ヒエラルキーの変遷-

椎名 ゆかり
*しいな ゆかり 2014月3月まで,文化庁 芸術文化課メディア芸術交流係 研究補佐員 2014年4月から,東京藝術大学大学院映像研究科非常勤講師/翻訳者
(原稿受領 2014.1.21)
アメリカの図書館でマンガが所蔵されるようになったのは近年のことである。長い間マンガ,特に「コミック・ブック」と呼ばれるマンガの刊行物は,「子供向けの低俗な読み物」として時には規制運動も巻き起こるほど批判され,図書館はむしろ「コミック・ブック」に対して批判する側であった。その図書館が21世紀に入り,マンガを積極的に支持し,所蔵対象にするようになっている。本稿では,マンガが図書館に所蔵されるようになった歴史的経緯を概観し,この変化の起こった要因の一部に,マンガが「グラフィック・ノベル」として再発見された点や日本マンガ人気があった点を考察することにより,アメリカ社会におけるマンガの文化ヒエラルキーの変遷を検証する。
キーワード:アメリカの図書館,マンガ,グラフィック・ノベル,コミック・ブック,文化ヒエラルキー

次号予告

2014. 5 特集=「API活用術」
(特集名およびタイトルは仮題)

  • 総 論:Web API活用術
  • 各論1:CiNiiのWeb API戦略と活用
  • 各論2:Web API活用の現在
  • 各論3:Web-APIで図書館サービスを拡張する
  • 各論4:佛教大学におけるWeb API活用事例
  • INFOSTA Forum (281)

など