2013. 11 特集=今後の学術情報流通

特集 : 「今後の学術情報流通」の編集にあたって

11月号の特集は「今後の学術情報流通」という壮大なテーマでお届けいたします。
学術情報流通の主要な手段の一つである学術雑誌をめぐっても,1990年代後半からのシリアルズクライシスによる価格高騰,電子ジャーナルによるビックディール契約,そしてオープンアクセスへの動きと大きく変化していて,様々な場面でも取り上げられているのを目にされることも多いかと思います。本誌でも2010年4月号で「オープンアクセス」についての特集を組んでいます。
今回の特集にあたっては,前回の特集以後の学術情報流通の潮流を展望するとともに,学術雑誌の枠だけにとらわれずに学術情報流通について考えてみたいと企画しました。
科学技術・学術政策研究所の林氏からは,本特集の総論として,今後の学術情報流通の動向について論じていただきました。新たな局面を迎えつつある中,学術情報流通関係者はどのようにあるべきか,そして鉄道の歴史から見えたものとは果たして?
文部科学省研究振興局参事官の長澤氏からは,国の施策の方向性,学術情報流通の主なコンテンツの課題を整理していただき,学術情報基盤の充実・高度化に向けて論じていただきました。
国立情報学研究所の吉田氏,高橋氏,木下氏,尾城氏からは,電子リソースの管理という観点で電子リソース管理データベース(ERDB)の構築のプロジェクト,海外の動向,学術情報流通に果たす役割について論じていただきました。近い将来,紙媒体の総合目録データベース(NACSIS-CAT)と電子リソース管理データベース(ERDB)のデータがCiNii Booksで一緒に検索できるようになるかもしれません。
神戸大学大学院システム情報学研究科の菊池氏からは,研究者にとっての学術情報流通について論じていただきました。理系,文系の研究者にとっての学術情報流通の違い,専門家間,専門家と非専門家との情報流通の違い,学問の二重基準など,研究活動と学術情報流通の多様性についてわかりやすく整理していただきました。
東京大学大学院理学系研究科の横山氏からは,科学コミュニケーションについて特にビッグサイエンスにおいて科学コミュニケーションがどのように貢献できるかを論じていただきました。科学コミュニケーションについては,第4期科学技術基本計画(平成23~27年度)の中でも,より一層積極的に推進していくことが重要であると指摘されています。科学コミュニケーションがどのように育ってきたのか,科学コミュニケーションの問題点にまで踏み込んで論じていただき,情報を伝えることの本質について考えさせられる内容になっています。
以上,様々な観点からご執筆いただきました。この場をかりて御礼申し上げます。それぞれの観点を同列で扱うことは難しいとは思いますが,学術情報流通には様々な側面があり,課題もあり,人も関わっています。編集上,紹介しきれていない点がありますことはお詫びいたします。本特集が少しでも学術情報流通の全体に目を向け,今後の学術情報流通についても考えるきっかけになりますと幸いです。
(会誌編集担当委員:齊藤泰雄(主査),上野友稔,立石亜紀子,長谷川敦史)

今後の学術情報流通 新しいフレームワークの構築に向けた一考察

林 和弘
*はやし かずひろ 科学技術・学術政策研究所
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-2
Tel. 03-3581-0605        (原稿受領 2013.9.13)
学術情報流通の革新は新しい段階に入り,17世紀から続いた,紙,印刷と物流を基盤として電子化対応を含めて発展してきた情報流通基盤の骨格がいよいよ崩れ,新しいフレームワークが形成され始める,あるいはその変化がこれまで以上に加速されることが推察される。
東京の都市交通の一時代を作った馬車鉄道の歴史を参照しながら,学術情報流通における変革を連続的変化と不連続的変化に分けて論じた。また,情報や関係者のリンクとネットワークが生み出す信頼性が新しいフレームワーク構築のキーワードであり,既存の関係者の保守化のリスクを指摘しながら,新しい情報流通基盤のデザインに繋がるポイントを考察した。
キーワード:学術情報流通,不連続的革新,電子ジャーナル,フレームワーク,オープンアクセス,altmetrics,馬車鉄道

学術情報流通の現状と課題

長澤 公洋
*ながさわ きみひろ 文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室長
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2
Tel. 03-6734-4282        (原稿受領 2013.8.28)
大学等の教育研究活動の成果である学術情報は,高度な教育研究の展開,将来の社会発展,国際競争力の強化につながる情報であることから,その流通基盤の整備は極めて重要である。国の施策の方向性として,第4期科学技術基本計画では,機関リポジトリの構築や電子化による体系的な収集・保存,オープンアクセス,第2期教育振興基本計画では,学生の主体的な学習のベースとなる大学図書館の機能強化,ICTを活用した双方向型の授業・自修支援を促進するとされ,世界的な流れとしては,オープンアクセスやオープンデータの必要性がクローズアップされている。学術情報流通における課題としては,主な要素ごとに,論文では,日本のジャーナルの国際発信力強化,図書については,電子書籍化への対応,データについては所在の把握・流通体制の整備,教材・講義については保存・共有の促進とともにオンライン教育の充実があり,全体的には,機関リポジトリにおけるコンテンツの充実やクラウド環境の構築による学術情報の効果的な流通・利活用の促進を進めるべきである。最近のICTの進展は著しく,学術情報流通に関わる環境変化も大きい。各大学がこうした流れを的確に把握し,大学としてふさわしい学術情報流通基盤の充実・高度化に大学全体で取り組むことが重要である。
キーワード:ジャーナル,科学研究費補助金,オープンアクセス,機関リポジトリ,電子書籍,データ,オンライン教育,J-STAGE,SPARC- Japan

電子リソース管理データベース(ERDB)の現状と展望

吉田幸苗*,高橋菜奈子*,木下克之*,尾城孝一*
*よしだ ゆきなえ,*たかはし ななこ,*きのした かつゆき,*おじろ こういち 国立情報学研究所学術基盤推進部
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2322        (原稿受領 2013.8.23)
電子リソース管理は,その煩雑さにおいて,大学図書館にとって依然として問題であり続けている。その克服のために,現在,大学図書館と国立情報学研究所が連携して電子リソース管理データベース(ERDB)の構築を目的としてプロジェクトを行っている。ERDBは国内外の電子リソースを管理するためのナレッジベースであり,参加館の契約情報を結び付け,電子リソース管理の効率化を図るものである。ERDBは,データの整備に課題を抱えているものの,日本の電子リソースのメタデータ基盤を整理することにより,学術情報の流通に大きな役割を果たすことが期待される。本稿では,このプロジェクトの現状を報告するとともに,海外の動向を紹介し,電子リソースの管理をめぐる将来展望にも触れる。
キーワード:電子リソース,データベース,電子ジャーナル,契約,ナレッジベース,KB+,GOKb

数学と哲学における学術情報流通

菊池 誠
*きくち まこと 神戸大学大学院システム情報学研究科
〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1-1
Tel. 078-803-6453        (原稿受領 2013.8.26)
研究者にとって学術情報流通は研究成果の評価および研究活動の推進という観点から重要な役割を持つ。かつて,我が国の研究者には欧米の中心地から遠く離れて情報から孤立することによって様々な不利益を受けていたが,情報通信技術の発達と国際的な人的交流の活発化は,この学術情報流通の状況と我が国の研究環境を大きく変えている。しかし同時にその変化は学問の過度の均質化や競争,そして専門分野の孤立といった問題を生じさせる危険もある。本稿では数学と哲学における研究者にとっての学術情報流通の現状とその変革の可能性について論じる。
キーワード:学術情報流通,数学,哲学,情報通信技術,人的交流,国際化

ビッグサイエンスをいかに進めるべきか~科学コミュニケーションの立場から~

横山 広美
*よこやま ひろみ 東京大学大学院理学系研究科
〒113-0031 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-8856        (原稿受領 2013.9.20)
世界における科学コミュニケーションの潮流は,政策に寄与することに注目が集まっている。本稿では,日本の科学技術政策の中でも,その運営に注目が集まる「ビッグサイエンス」について,科学コミュニケーションの立場から,その歴史と問題点,課題を述べる。ビッグサイエンスが持つ,多様な側面において,科学コミュニケーションが関わる側面は限定的に見える。しかしここで指摘する,筋の通った戦略を練ることに,科学コミュニケーションは大きく貢献する可能性がある。
多くの科学が大型化する中で,限られた人材,予算の中,よりよい科学を育てるため,科学コミュニケーションがどのような貢献ができるか整理する。
キーワード:科学コミュニケーション,科学技術政策,ビッグサイエンス,マスタープラン,ロードマップ,トランスサイエンス,国際政治

投稿:科学技術分野における国内学協会出版物の刊行・納本状況-国立国会図書館 科学技術論文誌・会議録データベースに係るアンケートから-

中島 幸子

*なかじま ゆきこ 国立国会図書館利用者サービス部科学技術・経済課
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331        (原稿受領 2013.8.31)
国立国会図書館(以下,NDL)では2012年8月~9月に,科学技術分野の学協会を対象に,学会誌・論文誌,会議資料の刊行及びNDLへの納本状況について調査するため,アンケートを実施した。その回答から,学協会出版物は従来の冊子体での発行のほかに,CD-ROM,オンライン提供等,多様な形態で発行されていることが判明した。また,会議録の納本状況が良くないことがわかり,会議資料の収集強化に向けて,納本制度の広報等を一層進めていく必要性を認識した。さらに,NDLでは2013年7月からオンライン資料の収集を開始したが,当面の納入義務対象に含まれない学会誌・論文誌と会議資料が多いことも判明した。
キーワード:学協会,学術雑誌,オンラインジャーナル,会議資料,会議録,納本制度,科学技術論文誌・会議録データベース

次号予告

2013. 12 特集=「情報収集・発信活動」
(特集名およびタイトルは仮題)

        • 総論:情報の収集と発信
        • 各論1:ウェブでの情報収集の現在
        • 各論2:図書館系ニュースサイトの特徴
        • 各論3:情報発信と情報倫理
        • 各論4:情報発信と情報倫理
        • INFOSTA Forum(276) など

など