2013. 10 特集=フリーペーパー

「フリーペーパー」の編集にあたって

今月は「フリーペーパー」を取り上げます。
フリーペーパーは無料で配布されており,定期購読可能なものや寄贈依頼により入手が可能なものもありますが,確実に入手することが困難な資料もあり,「灰色文献」としてとらえることもできるのではないでしょうか。図書館の所蔵対象としては,所詮無料の宣伝媒体であり,蔵書として馴染まないという考え方もありますが資料として貴重な情報が含まれていることも少なくないと思われます。17-18世紀に刊行されたパンフレットが,現在では研究用資料として重要な媒体として取り扱われていることも一つの例となるかと考えられます。また,地域に特化したフリーペーパーは地域のその時代を映す鏡として重要な資料となりうる可能性をも秘めています。フリーペーパーは無料で配布されるがゆえに散逸してしまうことが多く,図書館できちんと所蔵すべきものもあるのではないでしょうか。
そこで,フリーペーパーとは何か,その特徴や歴史を概観するとともに,保存のあり方や利用の実例,研究資料としてのフリーペーパーの重要性をご紹介いただく特集としました。
今号では,総論として久保まり子氏からフリーペーパーとは何かという視点で,無料の仕組みやフリーペーパーの特徴,発行部数などといった様々な事柄を整理しフリーペーパーというメディアの定義をしていただきました。戸邉俊哉氏からは,新聞社系フリーペーパーにおいて全国で800万部以上の発行部数を数え,日本の新聞社系フリーペーパーの先駆けであるサンケイリビングの歴史,社会への受容過程について論じていただきました。松江健介氏からは,雑誌の休刊が相次ぎWebによる情報発信が容易になった現在,なぜフリーペーパーに注目が集まっているのか,全国の多種多様なフリーペーパーを実際に見てきた立場からフリーペーパーの役割とこれからについて述べていただきました。稲垣太郎氏からはフリーペーパーの新たな可能性として大学での活用事例について述べていただきフリーペーパー専門図書館の設立について提言をいただきました。一方,フリーペーパーとは性格が少し異なりますが図書館での所蔵が少なく保存体制が整っていないと言った類似点が多いものにミニコミ誌があります。そこで,平野泉氏からは立教大学共生社会研究センターの所蔵するミニコミ誌の研究・利用の可能性について執筆をいただきました。
本特集がフリーペーパーについて再考するきっかけとなれば幸いです。
(会誌編集担当委員:小山信弥(主査),權田真幸,白石啓,中村美里)

フリーペーパーとは何か?

久保 まり子
*くぼ まりこ 日本生活情報紙協会 事務局長
〒104-0061 東京都中央区銀座7-4-17 電通銀座ビル4階
Tel. 03-3289-0181        (原稿受領 2013.7.23)
日本にフリーペーパーが登場して70年余りになる。今やフリーペーパーはすっかり暮らしに溶け込んで,広告の市場規模は雑誌と肩を並べるまでになった。しかし,メディアの特徴や社会的な位置づけなど,フリーペーパーに関する理解や研究はあまり進んでいない。そこで,その社会的意義や文化的価値を探るため,「フリーペーパーとは何か?」をテーマに「無料の仕組み」「定義」「メディアの特徴」「歴史」「分類」「発行部数」「広告の市場規模」「最新の動向」「地域貢献」「課題と未来」の10の側面から概観してみた。その結果,フリーペーパーは「生活者に最も近いメディア」として,また「地域メディアの核」として存在し,長く収集・保存する文化的価値を有していることが分かった。
キーワード:フリーペーパー,フリーマガジン,無料の仕組み,定義,メディアの特徴,歴史,分類,発行部数,広告の市場規模,最新の動向,地域貢献,課題と未来

新聞社系フリーペーパーの展開と読者の受容

戸邉 俊哉
*とべ しゅんや 近大姫路大学教育学部
〒671-0101 兵庫県姫路市大塩町2042-2
Tel. 079-247-7357         (原稿受領 2013.8.3)
近年様々な種類のフリーペーパーが発行されている中で,その転換点となったのは1970年代に新聞社によって発行されたフリーペーパーだとされる。本稿では,なぜ新聞社系フリーペーパーが発行され読者に受容されていったのかを,新聞社の収入構造における広告の位置という経済的要因,フリーペーパーの発行地域である都市郊外の新たな住宅地に住む家族のネットワークという社会的状況から考察した。また,この経済的・社会的要因を架橋するものとして,新聞社系フリーペーパーから生まれ出た「信頼」に関する独自の機制について言及した。特に,新聞社系フリーペーパーにおいて記事体広告が信頼の創出の一翼を担っていたことを,新聞記事と広告の関係を通じて指摘した。
キーワード:新聞社系フリーペーパー,コミュニティ,消費社会と報道,記事体広告,図と地,信頼の階級

フリーペーパーの多様化と未来

松江 健介
*まつえ けんすけ 株式会社Beatface代表取締役
〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15-1 SHIBUYA PARCO PART1
Tel. 090-5434-9390        (原稿受領 2013.7.31)
 有名雑誌が次々と休刊を余儀なくされる中でフリーペーパーへの注目は高くなり,発行元も地域もテーマも多岐に渡りより細分化された個性的なフリーペーパーが次々と登場するようになった。デジタルメディアが主流の時代において人々がフリーペーパーに求めるものは何であるのか。全国の多種多様なフリーペーパーを実際に見てきた立場からフリーペーパーの役割そしてこれからの動向を考察してみた。
キーワード:個のメディア,コミュニケーション,クロスメディア,電子書籍,AR(拡張現実),五感への刺激

フリーペーパー,新たな使命 ~大学講座に見る教育効果と資料保存の意義~

稲垣 太郎
*いながき たろう 朝日新聞社広告審査部 早稲田大学メディア文化研究所招聘研究員
〒104-8011 東京都中央区築地5-3-2
Tel. 03-3545-0131        (原稿受領 2013.7.16)
 広告と配送方法に依存するフリーペーパーの特徴を大学講座で知ることにより,学生たちは記事コンテンツの作成のみならず,広告営業と配送方法のマッチングの重要性を認識する。発行に挑戦する学生も多く,広告営業と配布活動を体験することで,社会人になるための大きな一歩を踏み出している。時代を映す史料としての役割は大きいが,大量に読まれては捨てられ散逸するフリーペーパー。どこが主体になり,どのようにして収集,保存すべきか考える時期に来ている。発行社や関連団体,大学の支援を仰ぎ,基金を設立して,少数のスタッフが運営する専門図書館を作るべきだろう。
キーワード:メディアの3要素,コンテンツと広告,配送方法,PUSH型とPULL型,日常性と嗜好性,フリーペーパー講座,早稲田大学,JAFNA,収集と保存,専門図書館

研究資源としての「ミニコミ」 ―立教大学共生社会研究センターの事例

平野 泉
*ひらの いずみ 立教大学共生社会研究センター
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
Tel. 03-3985-4457        (原稿受領 2013.7.22)
 本稿は,草の根の,営利を目的としない逐次刊行物であり,一般図書館等でアクセスしにくい「ミニコミ」について,研究資源としての可能性を示すことを目的とする。筆者の勤務先である立教大学共生社会研究センターが所蔵するミニコミ・コレクションと,それにまつわる試みとを事例として検討し,ミニコミが,書かれた文字以上のものを伝える,コンテクストと強く結びつけられたメディアであり,むしろアーカイブズ資料に近いものであることを明らかにする。そのうえで,そうした性質を持つミニコミを保存し,研究資源として利用に供することにまつわる課題等についても考察を加える。
キーワード:ミニコミ,灰色文献,研究資源,アクセシビリティ,メディア,社会運動,アーカイブズ

プロダクト・レビュー 創薬化学データベースReaxys Medicinal Chemistry

佐川 亜矢子
*さがわ あやこ エルゼビア・ジャパン㈱
〒106-0044 東京都港区東麻布1-9-15 東麻布一丁目ビル4階
Tel. 03-5561-5034         (原稿受領 2013.8.9)
 エルゼビア社は,ライフサイエンス研究の上流から下流までサポートする様々なソリューションを提供しているが,今回新たに医薬品開発を効率化するデータベースとして,メディシナルケミスト向けのReaxys Medicinal Chemistryを開発した。これは反応・化合物データベースとして定評のあるReaxysからは独立した別のデータベースである。化合物情報としてReaxysの収録情報を一部活用し,さらに新たに化合物情報を追加している。化合物データは標準化して収録し,メディシナルケミストが使いやすい情報として整理されている。本稿ではこの新しいデータベースの特長について紹介する。
キーワード:Reaxys Medicinal Chemistry,Reaxys,MedChem,メドケム,メディシナルケミスト,メディシナルケミストリー,創薬化学,薬剤候補化合物,オフターゲット,ドラッグリポジショニング

次号予告

2013. 11 特集=「今後の学術情報流通」
(特集名およびタイトルは仮題)

        • 総論:学術情報流通
        • 各論1:海外のKBプロジェクトとの連携構想
        • 各論2:国の政策と学術情報流通
        • 各論3:研究者にとって学術情報流通
        • 各論4:サイエンスコミュニケーションの動向
        • INFOSTA Forum(275) など

など