「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 60 (2010), No.12

特集=「メタデータの現在」

特集 : 「メタデータの現在」の編集にあたって

 Web2.0以降,急速に「メタデータ」という概念が普及もしくは再認識されているのではないでしょうか。そこでインフォプロとして,インターネット全盛の今日における「メタデータの現状」を確認しておきたいと考えたのが,本特集の企画趣旨です。情報量の増大と共にメタデータの量そしてバリエーションも増えつづける一方で,一般ユーザ側にはあまり意識されていないのではないかと思われます。一般社会生活にも深く関係しつつあるメタデータについて,学術界だけに留まらず広く民間企業等において,どのように活用されているかを報告したいと思います。
 そこでまず,谷口祥一氏に,メタデータについて定義,最近の重要トピックの紹介・解説をお願いしました。続いて栗山正光氏に,各国・国際レベルでのメタデータに関する取り組みについて触れていただきました。この二つの論文により,特に図書館関連領域における「メタデータの現在」を捉えていただけるものと確信しております。そして続く3つの論文において,それぞれ「学術業界の視点」,「一般生活者の視点」,「企業の視点」に基づき,大向一輝氏,深見嘉明氏,野村直之氏にご報告いただきました。この3論文により,メタデータの広がりを押さえて頂けるものと思います。
 本特集を企画してみたことにより,改めてその広がりと重要性に気付かされた一方で,多様化・複雑化そして集約化・単純化の「うねり」のようなものも感じました。メタデータは決して理解しやすいテーマではないと思いますが,インフォプロとして是非ご一読・ご一考いただければ,本特集を企画した側として幸いです。
(会誌編集担当委員:鈴木努委員(主査),權田真幸委員,齊藤泰雄委員,白石啓委員,野田英明委員,松林正己委員)

メタデータの現在:
最近のトピック,ダブリンコア,そしてセマンティックWeb

谷口 祥一
たにぐち しょういち 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
Tel. 029-859-1362(原稿受領 2010.9.28)

 メタデータについて,特に最近の重要トピックを取り上げ解説する。@RDFaを用いたメタデータの公開とサーチエンジンによる活用,ALinked DataとLinking Open Dataによるメタデータ公開,B国立図書館などによるRDF,SKOSを用いたメタデータ公開,Cその他 を取り上げる。併せて,ダブリンコアの現在の状況について解説を加え,いっそうの構造化,セマンティックWebへの志向性を確認する。最後に,セマンティックWebとメタデータの関係,RDF, RDFスキーマ,OWLなどの位置づけを整理し論じる。

キーワード: メタデータ,ダブリンコア,セマンティックWeb,RDF,SKOS,Linked Data,Linking Open Data

各国・国際レベルでのメタデータに関する取り組み

栗山 正光
くりやま まさみつ 常磐大学人間科学部
〒310-0911 茨城県水戸市見和1-430-1
Tel. 029-232-2560(原稿受領 2010.9.24)

 主に図書館界における世界各国および国際レベルでのメタデータに関する取り組みについて概観する。最初に国際的な取り組みの例としてダブリン・コア,次に国レベルというより国際レベルと考えられる米国議会図書館のメタデータ標準維持管理活動について述べる。さらに,イギリス,ドイツ,フランスの各国立図書館のプロジェクトを紹介し,EUの電子図書館ユーロピアーナ,オーストラリアおよびニュージーランドの活動についても紹介する。最後に日本の国立国会図書館と国立情報学研究所の活動について述べる。

キーワード: メタデータ,ダブリン・コア,DCMI,MARC,PREMIS,METS,ユーロピアーナ・データ・モデル,APSR,国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述,junii2

学術情報サービスのメタデータ・デザイン

大向 一輝
おおむかい いっき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2585 (原稿受領 2010.10.15)

 本論文では,学術情報サービスのメタデータ活用事例として,国立情報学研究所が運営する論文情報ナビゲータCiNiiにおいて,メタデータがどのように設計・提供されているかについて述べる。CiNiiのメタデータはウェブAPIとしての側面を重視し,OpenSearchやRDFなどのウェブ標準に基づいて設計されている。また,論文情報における著者名典拠が存在しない問題については,機械処理とユーザ参加による著者IDの自動生成を行っている。これらのメタデータは外部サービスとの連携や書誌情報の再利用のために用いられており,メタデータへのアクセスはCiNiiの総アクセス数の30%〜40%を記録するに至っている。

キーワード: 書誌情報,メタデータ,ウェブAPI,セマンティックウェブ,RDF

日常生活に浸透するメタデータ

深見 嘉明
ふかみ よしあき 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
〒252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322
Tel. 0466-49-3557(原稿受領 2010.9.21)

 図書館情報の関係者においては以前から重要視されてきたメタデータ,しかしその存在は専門家の間だけで認識されてきたものであった。しかし,ウェブの普及がこの状況を一変させた。e-commerceにおける商品レビュー,ソーシャルブックマークや写真共有サイトにおけるタグの活用など,一般生活者が自覚的にメタデータを生成,共有,活用するようになったのだ。本論文ではウェブというインフラの進化によって,日常生活にいかにしてメタデータの利活用が広がったのか,そのプロセスを概観するとともに,この変化への対応について検討する。

キーワード: ウェブ,データベース,User Generated Metadata,タグ,検索,unpackaged contents

ソーシャルメディアの時代に産業上の重要さを増す
メタデータ自動抽出技術

野村 直之
のむら なおゆき メタデータ(株)
〒112-0002 東京都文京区小石川2-1-2山京ビル7F
Tel. 03-3813-5447(原稿受領 2010.10.6)

 Web2.0と総称されたITへの人々の関わりとIT自身の変化により,前世紀にはありえなかったスケールの情報爆発が起こった。新興Webサービスに押される形で,先に変化した顧客側に引っ張られる形で企業が「2.0」的変革(エンタープライズ2.0ともグランズウェルとも呼ばれる)を起こし始めた。ライフログに象徴される大量の行動履歴や不定形のクチコミ,多量の写真や動画が一般ユーザからネットに投稿されるようになり,もはや産業界で,メタデータによる交通整理が待ったなしの状況になっている。本稿では,そこで必要となる5W1Hメタデータ自動抽出技術,その応用としての自動匿名化やカレンダー自動連携サービス,ツイッターを初めとするソーシャルメディアのサービス向上の可能性,そして,パーソナル広告など,関連の将来市場について論ずる。

キーワード: Web2.0,情報爆発,新興Webサービス,エンタープライズ2.0,グランズウェル,ライフログ,行動履歴,クチコミ,5W1H,メタデータ自動抽出,匿名化,カレンダー連携,ツイッター,ソーシャルメディア,パーソナル広告
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