「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 60 (2010), No.7

特集=「PubMed使い倒し」

特集 : 「PubMed使い倒し」の編集にあたって

 1997年の一般無料公開から13年,特に医学・薬学関係分野において,PubMedは文献調査のプライマリー・ツールとしての地位を確立しました。誰もが無料で,いつでもインターネットからアクセスできること,シソーラスや検索式を特に意識せずとも手軽に検索結果を得られることなど,その高い利便性から,今や多くの方が「Google感覚で」PubMedを使っています。しかしながら,果たしてユーザーはPubMedの機能を100%使いこなしているのでしょうか。統合インターフェース"Entrez"から検索できる多彩な関連データベースは,正しく使い分けることができているでしょうか。本特集では,あまりに便利なツールであるがゆえに見落としがちな,PubMedのちょっとディープな使い方にスポットを当ててみたいと思います。
 情報科学技術協会では2005年に,初級者向けのPubMed解説本『若葉マークのPubMed』を刊行いたしましたが,刊行後もPubMedは進化を続けています。大谷氏の論文は「カレント版の」PubMed解説という位置づけです。PubChemやGenBankといったPubMed関連データベースをご解説いただいた仲里・坊農両氏の共著論文とあわせ,PubMedおよびEntrezの「ちょっと便利な」使い方をご確認下さい。
 PubMedが有する豊富な文献情報は,医学・薬学だけではなく,幅広い研究分野で活用できるものです。山田氏の論文は栄養学分野におけるPubMed の有効性を確認するものです。また,PubMedをさらに利用しやすく,より活用できるツールとするための取り組みが,わが国でも数多く進行しています。柳元氏の論文はそのようなプロジェクトの最先端をご紹介いただくものです。読者の皆様にも,PubMedが有する限りないポテンシャルを感じていただけるのではないでしょうか。
 誰もが気軽に利用しているPubMedですが,どのような局面においても最適なツールである,ということではありません。藤島氏の論文は企業情報の保護という見地から,PubMedの安易な利用に警鐘を鳴らすものです。インフォプロとしていかにPubMedと向き合っていくべきか,弊誌でこの論文を掲載するができたことは,私たち担当編集委員にとって無上の喜びです。
 誰もが便利に利用できるツールだからこそ,改めて考えてみたい視点からの5論文。読者の皆様の一助となることを願ってやみません。
 (会誌編集担当委員:野田英明,鈴木努,矢田俊文,協力員:岡紀子,北島由紀子)

PubMedの基本的な使い方およびエビデンスに基づいた文献の検索

大谷 裕
おおたに ゆたか 東邦大学医学メディアセンター
〒143-8540 東京都大田区大森西5-21-16
Tel. 03-3762-4151(原稿受領 2010.5.24)

 PubMedをめぐる近年の大きな動向として2009年10月のインターフェイスの変更およびこれに付随した2010年2月の追加修正が挙げられる。本稿ではリニューアルされたPubMedの基本的な使い方および近年普及しているEBMの実践に必要なエビデンスに基づいた文献の検索について述べる。文献検索については,EBMの5つのステップを踏まえたPI(E)COの作成,MeSHを用いた検索タームの選択,エビデンスレベルを意識した研究デザインの絞り込みについて実例を交えて述べる。また併せて,日本語をMeSHに翻訳するフリーオンライン辞書 WebLSD(ライフサイエンス辞書)を紹介する。

キーワード: PubMed,文献検索,MeSH,EBM,PI(E)CO,診療ガイドライン,医学図書館員

文部科学省「統合データベースプロジェクト」とPubMedを中心とした関連データベース

仲里 猛留, 坊農 秀雅
なかざと たける,ぼうのう ひでまさ
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター
〒113-0032 文京区弥生2-11-16東京大学工学部12号館
Tel. 03-5841-6754(原稿受領 2010.4.23)

 PubMedはおよそ2,000万件のライフサイエンス系文献が検索可能なサービスで,この分野で最も使われているサービスの1つである。このような文献データは自然言語という障壁から他のライフサイエンス系データベースとは一線を画しているが,合わせての利活用が必要不可欠である。そんな中「統合データベースプロジェクト」では,大量のデータベースやツールを研究者がさらに利用し,研究にフィードバックできるよう環境整備を進めている。本稿では PubMedを中心とする生命科学データベースについて紹介しながら,ライフサイエンス研究を支える「オープンアクセス」文化について触れる。

キーワード: データベース,統合データベース,オープンアクセス,クリエイティブ・コモンズ,ライフサイエンス,ゲノム,遺伝子,DNA,GenBank,PubChem

栄養学とその関連分野におけるPubMedの活用例

山田 哲雄
やまだ てつお 関東学院大学人間環境学部健康栄養学科
〒236-8503 横浜市金沢区六浦東1-50-1
Tel. 045-786-7221(原稿受領 2010.5.17)

 PubMedは,医学・薬学系の関連分野である栄養学においても広く使われているデータベースである。栄養学とその関連分野におけるPubMedの利用法もまた,基本的には医学・薬学系における利用法と変わるところはない。本稿では,国内の学会誌に掲載されている論文で取り上げられているキーワードをもとに,栄養学とその関連分野でPubMedからどのような情報が検索されているのか,また検索結果がどのように研究に反映されているのかを調べた。栄養学とその関連分野は非常に広範囲な領域をカバーしているが,多くの領域でキーワード検索による関係文献の入手が可能であることが示唆された。

キーワード: 基礎栄養学,応用栄養学,栄養教育論,臨床栄養学,公衆栄養学,給食経営管理論

PubMedからの発展
−CSLS SearchによるPubMed情報の活用−

柳元 伸太郎
やなぎもと しんたろう 東京大学 保健・健康推進本部
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-2575(原稿受領 2010.4.27)

 PubMedは今日では生命科学分野の文献情報のデータベースとしてなくてはならないものとなっている。PubMedのデータベースとしてのインターフェースは年々進歩を遂げており,使い勝手もよくなってきている。われわれは,検索結果の活用の観点から,現行のPubMedのインターフェースから一歩踏み込んで,PubMedで得られる検索結果のクラスタリングを行うシステム,PubMedでの検索作業をパーソナライズする機能を実装したCSLS Searchを公開している。クラスタリングを活用することで,通常のキーワードによる検索結果からは見えにくい文献間のつながりや新たなキーワードが浮かび上がってくる。効率的な情報活用が期待される。

キーワード: PubMed,クラスタリング,文献検索,生命科学,データマイニング

企業から見たPubMed

藤島 嘉幸
ふじしま よしゆき 大正製薬(株)研究システム部
〒170-8633 東京都豊島区高田3-24-1
Tel. 03-3985-1181(原稿受領 2010.5.18)

 米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が運営する医学文献データベースであるPubMedは,アクセスのしやすさと高度な検索機能で,医学・生物学の専門家を含む一般のインターネットユーザーに広く利用されている。企業においても同様で,情報部門はもちろん,事業部門で広く利用されている。一方,PubMedを始めとするインターネットの公衆回線上で検索クエリーを投げることは情報セキュリティ上のリスクも大きいと言われ,企業の情報部門としてPubMedをどう位置付けて利用しているかは各社それぞれという状況である。本稿では,当社の事例を交えながら,企業の情報部門のPubMed への向き合い方などについて述べる。

キーワード: PubMed,MEDLINE,NLM,NCBI,製薬企業,情報検索,情報セキュリティ,著作権

CrossRef誕生小史(翻訳)

時実 象一 訳
ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1
Tel. 0532-47-4467(原稿受領 2010.05.24)

 CrossRef創立10周年記念のパンフレットを翻訳した。CrossRefの誕生のきっかけになったのは1999年10月のフランクフルト・ブックフェアであった。それに先立って,DOI利用についての検討,「炭素繊維」プロジェクトにおける引用文献リンクの提案などがおこなわれていたが,それらから学んだアカデミック・プレス社のPieter Bolmanとワイリー社のEric Swansonが中心となり,1999年に密かにMonzuプロジェクトを開始,一方米国出版社協会を中心としてDOI-Xプロジェクトが進められた。この2つの流れがブックフェアに合流し,一気に出版社の協同事業としてのCrossRefの創立が実現した。

キーワード: 電子ジャーナル,引用文献リンク,DOI,CrossRef,DOI-X,Monzu,Carbon Fibre,IDF
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