「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 59 (2009), No.6

特集=「外国雑誌再考」

特集 :「外国雑誌再考」の編集にあたって

 電子ジャーナルの本格的な普及から約10年。外国雑誌購読をめぐる環境は,かつての「冊子体を前提とする」時代からは大きく変化したとされます。確かに雑誌の価格体系ひとつをとっても,冊子体ベースの比較的単純な価格体系から,電子体を前提として複数の条件を組み合わせるような,複雑な価格体系を採用する雑誌が増加しました。電子ジャーナルの契約情報管理・アクセス情報管理など,電子化によって新たに生じた課題も少なくありません。また近年,BRICs 諸国に代表される,非欧米地域からの情報発信が盛んになっています。これは,図書館が取り扱う「外国雑誌」の範囲を,大きく拡大する可能性を秘めているように感じます。
 今回の特集では,外国雑誌をめぐる「実務」に焦点を当てました。電子化や多国籍化などによって,実務上どのような課題が生じているのか,また,以前と変わらず残っている問題は何か,いくつかの視点から論じていただきました。
 外国雑誌購読をめぐる環境の変化として,もう1点,雑誌実務を担うスタッフの「業務の継承」という問題も挙げることができるでしょう。今回の特集で私たちは,これから雑誌業務に携わるスタッフのための「テキスト」とすることも目標のひとつと位置付けました。『情報の科学と技術』としては異色の試みですが,読者の皆様に「○○さんに読ませたい」と思っていただけることを,そして実際にテキストとしてご活用いただくことで,皆様の業務の一助となりますことを,願ってやみません。
(会誌編集担当委員:野田英明(主査),加藤麻理,川瀬直人,權田真幸)

外国雑誌「初任者」のための基礎知識

冨岡 達治
とみおか たつじ 京都大学附属図書館
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
Tel. 075-753-2622(原稿受領 2009.4.13)

 本稿では,「外国雑誌」という資料を取り扱う上での基本事項を整理する。外国雑誌の購入業務は商習慣の違いが大きな壁となるが,図書館では代理店を仲介することにより,その差を吸収してきた。雑誌は継続的な購読が前提となっているため,年間スケジュールが比較的はっきりしており,期限に間に合うように必要な処理をすることが重要である。また,購読予約後はキャンセルが難しいため,事前の情報収集が欠かせない。さらに,契約データとして保持すべき情報や日々のチェックイン業務に際し,未着・欠号管理や他の業務と連携する上での留意事項についても触れる。

キーワード: 外国雑誌,雑誌管理,雑誌購読,代理店,図書館システム

電子ジャーナルの普及による雑誌購読モデルへの影響

川村 俊之,山田 尚
かわむら としゆき,やまだ たかし
葛I伊國屋書店 仕入流通総本部 雑誌部マーケティング課
〒153-8504 東京都目黒区下目黒3丁目7番10号
Tel. 03-6910-0532(原稿受領 2009.3.24)

 電子ジャーナルの普及は,学術雑誌の世界に様々な影響を与え続けており,その世界はますます複雑なものとなりつつあるように見える。このプリントからオンラインへ急速に進む移行に遅れずについていくためには,電子ジャーナルに関連するトピックを,できうる限り正しく理解することが極めて重要である。電子ジャーナルが与える影響は,あまりにも多岐に渡るため,全てを網羅的に取り扱うことは困難だが,本稿では,電子ジャーナルの普及の影響として,FTE価格,Tier価格,電子ジャーナルがプリント購読に与える影響,バックファイルと購読中止後のアーカイバルアクセス,長期保存モデルであるPortico とLOCKSS,図書館コンソーシアム契約を概観する。

キーワード: 電子ジャーナル,FTE価格,Tier価格,バックファイル,購読中止後のアーカイバルアクセス,長期保存モデル,図書館コンソーシアム

ERMSとリンクリゾルバーによる電子ジャーナル業務支援

増田 豊
ますだ ゆたか ユサコ
〒106-0044 東京都港区東麻布2丁目17番12号
Tel. 03-3505-3257(原稿受領 2009.4.6)

 電子ジャーナルは学術図書館における定期刊行物予算の多くを占めているが,その管理をどのようにシステム化するかに関しては模索が続いている。本稿では,電子情報資源管理システム(ERMS)とリンクリゾルバーが電子ジャーナルの業務にどのような効果をもたらすのか,代表的な製品であるEx Libris社のVerdeとSFXの機能を概説することにより考察する。また,ERMSとリンクリゾルバーとの連動,その他の図書館システムとの相互運用性や,出版機関との連携とその背景にあるデータの標準化の動向などを通じて製品の位置づけの現状を近未来も含めて報告する

キーワード: 電子情報資源管理システム(ERMS),リンクリゾルバー,Verde,SFX,電子ジャーナル,図書館システム,ALEPH,ONIX-PL,SUSHI,URM

外国雑誌選定の際考慮すべきことがら

城山 泰彦*1, 小野寺 夏生*2
*1きやま やすひこ 順天堂大学図書館
〒113-0033 東京都文京区本郷2-2-26
*2おのでら なつお 筑波大学
〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
(原稿受領 2009.4.2)

 主に自然科学系の外国雑誌を対象に,電子環境を前提とした雑誌評価の考え方について考察する。まず従来から用いられている冊子体雑誌を対象とした雑誌評価について,考え方や評価指標を整理して特徴ある取り組みを紹介する。そのうえで,電子ジャーナル化が進行している中での雑誌購入戦略について検討する。最後に,引用雑誌の集中あるいは拡散の程度が,電子化により変化しているかを実データから分析する。冊子体の時代と違って電子ジャーナルは価格体系が複雑で,費用対効果を計算することが難しい。そのため本稿では,雑誌選定の判断材料となる事例の紹介を中心とした。

キーワード: 外国雑誌;雑誌購入;雑誌評価;価格体系;雑誌利用;冊子体雑誌;電子ジャーナル

中国雑誌の流通と電子化

川崎 道雄
かわさき みちお (株)東方書店
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-3
Tel. 03-3294-1001(原稿受領 2009.3.23)

 本稿では,中国の雑誌流通の特徴と海外から中国発行の雑誌を入手する場合の現状を述べ,今の中国で重加速的に進んでいる雑誌の電子化の現状と今後の展望を考える。

キーワード: 中国雑誌,刊号,電子化,雑誌流通,年間購読

タイの一次資料案内〜雑誌とウェブ情報〜

石井 美千子
いしい みちこ 日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館
〒261-8545 千葉県千葉市美浜区若葉3-2-2
Tel. 043-299-9711(原稿受領 2009.4.16)

 本稿の前半では,日本におけるタイ雑誌の収集状況を概観する。まず,日本における主要な地域研究専門図書館の一つとして,アジ研図書館(日本貿易振興機構アジア経済研究所図書館)のタイ雑誌の収集方法を紹介する。次に日本の図書館におけるタイ雑誌所蔵状況の概要を述べる。最近,「東南アジア研究逐次刊行物総合目録」が情報資源共有化研究会によって編纂されたが,ここではその目録編纂の目的を説明するとともに,タイの主要雑誌の所蔵状況調査結果を報告する。後半では,タイの一次資料へのアクセス方法を案内する。タイの学術文献はオープンアクセスが進んでいるとはいえないが,ここに現状で把握できたオープンアクセスジャーナルのリストを掲げる。最後に,様々な一次資料にアクセスする入口としてアジ研図書館のウェブサイトを紹介する。

キーワード: タイ,東南アジア,雑誌,図書館協力,学術文献,オープンアクセスジャーナル,一次資料,情報検索,ウェブ情報

投稿:産学連携のマッチング性分析におけるテキストマイニングの有効性

山本 外茂男
やまもと ともお 北陸先端科学技術大学院大学
〒923-1292 石川県能美市旭台1-1
Tel. 0761-51-1075 (原稿受領  2009.4.7)

 大学で産学官連携を支援するコーディネーターの多くは,自己の専門性以外の研究テーマ支援活動や,未経験の業種,土地勘のない地域での企業探索など,対応すべき課題がある。これらは,必ずしも個々の自己啓発努力だけでは解決せず,マッチングの質的向上や支援活動の効率向上が望めない状況にある。そこで,本論文では企業保有の特許と大学研究者の論文をテキストマイニング手法によって処理し,可視化することにより,マッチング性のマクロ的分析を支援することを試みた。この結果,コーディネーターが,自らの専門性外のマッチング活動においても,マッチング可能性の評価を踏まえた活動が可能となり,その有効性が示唆された。

キーワード: 特許,論文,テキストマイニング,産学連携,可視化,マッピング,マッチング

投稿(紹介):最近のUDCの動き〜UDCコンソーシアムの活動を中心に〜

戸塚 隆哉
とつか たかや
(原稿受領 2009.2.24)

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(15)
オンライン検索(JOIS,DIALOGなど)導入期の思い出

相川 進
あいかわ すすむ 且O菱化学テクノリサーチSP室
〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6(麹町東急ビル)
Tel. 03-5226-0873(原稿受領 2009.3.16)

 日本で1970年代半ばから始まったオンライン情報検索(JOIS,DIALOGなど)は,端末機,通信機器,回線利用料金,オンライン検索システムの機能とその利用料金,搭載されているデータベースとその蓄積量のいずれも,利用者から見れば,ハイコストかつローパフォーマンスであった。しかし,サーチャーに夢と期待を与えてくれた。80年代に進化を見せ,その後のハードウエア,ソフトウエア,インターネットなどの進化と低価格化により,30年後の現在,ローコストかつハイパフォーマンスな収穫(検索結果)を得られるようになった。オンライン情報検索は,利用者にさらなる夢と期待をもたせてくれる。

キーワード: オンライン情報検索,データ通信,JOIS,DIALOG,CAS ONLINE,CAC
ページの先頭へ Copyright (C) 2009 INFOSTA. All rights reserved.