「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.12

特集=「ファインダビリティ向上」

特集 :「ファインダビリティ向上」の編集にあたって

 情報インフラの整備により,機関・個人が比較的安価に大量の情報を発信できるようになりました。そして,ネットワーク上にないもの,電子化されてないものは存在しないも同然という風潮が形成されつつあるように思えます。
 多くの情報が電子化され,ネットワーク上で発信されるようになった今,ただ電子化し,ネットワーク上に置いているだけのもの,利用者から見つけにくいものも存在しないものと同じになりつつあるのかもしれません。
 検索エンジンのように,さがす人に特殊なスキルが求められていないツールも出現し,利用者からの支持を集めています。会員の皆様は,情報の利用者であると同時に,量の大小はあれ情報の提供者であると思います。われわれ「情報提供者」は情報のプロフェッショナルでなくてもさがせるように,どのように情報を提供していくかを考え、実行しなければならなくなっているのではないでしょうか。
 本特集では,図書館の目録・OPACに留まらず,「情報検索一般・情報をさがす」ことの「ファインダビリティ向上」について考えたいと思っています。
 ファインダビリティとは,一言で言うと「情報の見つけやすさ」です。対象となる情報自体の見つけやすさ(識別のしやすさ),情報をさがすシステム自体のナビゲーションの見つけやすさといったものが含まれます。
 まずは,人が情報をさがすときにどのような行動をとるのか,各シーンでどのような手段による支援があるのかということを,みずほ情報総研の吉川日出行氏に分析いただきました。次に,「ユーザビリティ(使いやすさ)」がどう「ファインダビリティ(見つけやすさ)」に貢献できるのかをソシオメディア株式会社の川添歩氏らに述べていただき,ユーザ調査の結果,「ファインダビリティ」を向上させ,利用を増大させた例として,CiNiiの具体的な対応策とその効果を国立情報学研究所の大向一輝氏にご報告いただきました。3氏の論文から見えてくる共通点の一つは「ユーザを知ることの大事さ」であると思います。
 図書館の資源(所蔵資料,電子リソース)の「ファインダビリティ」を向上させる有力なツールである「次世代OAPC」について,大阪大学の久保山健氏には,特徴や導入状況のレビューに留まらず,日本で今考えなければならないこととして,方向性や提言を述べていただきました。北海道大学附属図書館の AIRwayプロジェクトからは,機関リポジトリというニッチな情報をより見つけやすくするための一つの手法として,AIRwayの詳細・利用分析についてご報告いただきました。東京大学の前田朗氏には,お金をかけなくても,ちょっとした着眼点と技術でファインダビリティは向上できることをご報告いただきました。
 情報の分野,種別,規模の差はあれ,本特集が「情報提供者」と「情報利用者」を結ぶものを考えるための一助となれば幸いです。
(会誌編集担当委員:服部綾乃(主査),木下和彦,大田原章雄,川瀬直人,広瀬容子)

情報検索行動からのファインダビリティ向上

吉川 日出行
よしかわ ひでゆき みずほ情報総研
〒101-8443 東京都千代田区神田錦町2-3
Tel. 03-5281-5430(原稿受領 2008.9.24)

 情報爆発時代に即したファインダビリティとはなにか。そもそもユーザが情報をさがす際にはどのようなシーンがありどのような行動を取っているのだろうか?本稿ではユーザの情報検索行動に注目し,検索シーンをいくつかに分類して各シーンの特徴を考察する。次に各シーンにおけるファインダビリティを向上させるための手段(ツール)について検討を行う。また,検索エンジンの利用時のプロセスとその際の支援ポイントについても分析している。ユーザの情報検索行動は常に変化するものであり,ファインダビリティ向上のためには,シーン毎の特徴やプロセス毎のニーズに合わせた支援方法を検討することが肝要である。

キーワード: 情報検索行動,ファインダビリティ,検索シーン,検索プロセス,情報爆発,検索エンジン

ユーザビリティによるファインダビリティの実現

川添 歩,嵯峨 園子,篠原 稔和
かわぞえ あゆむ,さが そのこ,しのはら としかず
ソシオメディア
〒162-0842 東京都新宿区市ヶ谷砂土原町3-4-2市ヶ谷グリーンプラザ032
Tel. 03-5206-6787(原稿受領 2008.9.30)

「ユーザビリティ=使いやすさ」の観点から情報の「ファインダビリティ=見つけやすさ」について論じる。まずはじめに,ユーザビリティとファインダビリティの関係について考察し,その後,ユーザビリティがどのようにファインダビリティを向上させうるかということについて「情報のカタチ」という概念を用いて述べる。続いて,ユーザーにとって見つけやすい情報とは何か,それを提供するためのシステムとはどんなものかということを改めて整理し,最終的に,ファインダビリティが優れたシステムを実現するための原則を提示して総括する。

キーワード: ファインダビリティ,ユーザビリティ,情報アーキテクチャ,ユーザー中心設計,ユーザー経験,情報デザイン

学術情報サービスのユーザモデルとファインダビリティ

大向 一輝
おおむかい いっき 国立情報学研究所
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2585(原稿受領 2008.10.22)

 近年,学術情報サービスには専門家だけではなく一般の人々に対する情報の提供という役割が求められるようになっている。国立情報学研究所では,論文情報ナビゲータCiNiiについて,ファインダビリティ向上を目的とした大規模なリニューアルを行った。リニューアルに際しては,新たなユーザである一般のウェブ利用者のユーザモデルに関する検討を行い,オープン化ならびにウェブ検索エンジンとの連携が必要であるとの結論を得た。これをふまえて2006年から2007年にかけてシステムの改良を行った結果,サービスの利用回数が従来と比較して3〜10倍程度に増加し,CiNiiの知名度を高めることができた。本論文では,学術情報サービスにおけるユーザモデルについて議論するとともに,CiNiiリニューアルで実施したファインダビリティ向上のための具体策とその効果,ならびに今後の展望について述べる。

キーワード: 学術情報サービス,ユーザモデル,ファインダビリティ,検索エンジン,メタデータ,パーマリンク

次世代OPACを巡る動向:その機能と日本での展開

久保山 健
くぼやま たけし 大阪大学情報推進部情報基盤課
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-32 大阪大学サイバーメディアセンター1F
Tel. 06-6850-6810(原稿受領 2008.10.9)

「次世代OPAC」と呼ばれるものが世界的に広がりを見せている。日本では,まだ検討が始まった段階で,導入の事例は見られないが,今後,リソースのファインダビリティの向上には欠かせないツールとなるだろう。本稿では,まず,次世代OPACの特徴や,北米などの導入状況,日本での検討状況を整理する。次に,次世代OPACのいくつかの機能を紹介し,求められる機能の試案を提示する。そして,次世代OPACのソフトウェアを一つ紹介する。最後に,次世代 OPACの方向性と,日本で次世代OPACを展開するため,大学図書館同士による連携を提案する。

キーワード: 次世代OPAC,ファセット,クラスタリング,ワードクラウド,適合度,BiblioCommons

機関リポジトリへのアクセス経路

紙谷 五月,野中 雄司,杉田 茂樹
かみや さつき,のなか ゆうじ,すぎた しげき
AIRwayプロジェクト
〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目 北海道大学附属図書館内
Tel. 011-706-2524 (原稿受領 2008.10.15)

 機関リポジトリは独自の集客力を持たず,外部の情報サービスシステムに集客を依存する。したがって,より多く利用されるためには,主たる閲覧利用者層として想定される研究者の日常的な情報探索行動の中で,収載文献が自然に発見されアクセスされるような経路の形成と誘導が必要となる。これを目的として実装され,リンク・リゾルバのための追加情報源として機能するAIRwayシステムを概観し,現在の被利用状況について述べ,今後の展望についてまとめる。

キーワード: 機関リポジトリ,リンク・リゾルバ,OAI-PMH,OpenURL,AIRway

ローコストでできるファインダビリティ向上

前田 朗
まえだ あきら 東京大学社会科学研究所図書チーム
〒113-0033 東京都文京区本郷7丁目3番1号
Tel. 03-5841-4911(原稿受領 2008.9.22)

 東京大学情報基盤センターが主催する「図書系職員のためのアプリケーション開発講習会」は,各受講生が企画・開発した図書館関連アプリケーションを Web上で試行公開している。つまり,職員の学習の場に留まらず,新しい利用者向けサービスや業務効率化のツールを内製によりローコストで提供する場としても機能している。講習会成果のうち,情報のファインダビリティ向上を実現するサービスには「東大版LibX」「東京大学OPACウィジェット」「My UT Article Search」「東京大学OPAC Plus"言選Web"」などがある。大学図書館において,ローコストでも実現可能なファインダビリティ向上の機会は多く,取り組みの意義がある。

キーワード: ファインダビリティ,ローコスト,アプリケーション,LibX,ウィジェット,Greasemonkey,言選Web,Solr

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(9)
回想:マルゼンDIALOG情報検索システム

高原 良文
たかはら よしぶみ (株)サンメディア(元・丸善(株))
〒164-0012 東京都中野区本町3-10-3
Tel. 03-3374-5836(原稿受領 2008.10. 27)

 丸善は,1960年代から70年代における学術情報流通の大きな転換期にあって,外国雑誌や洋書など印刷媒体の進化を伴う学術情報流通の多様化と市場環境の変化に対応すべく,1970年代中頃に情報産業への進出を図る。ロッキード社との提携に向けられた丸善の積極策が奏功し,1977年わが国に世界最大規模のオンライン情報検索システムDIALOGを導入する。本稿では,DIALOG導入に至った経緯,DIALOG日本センターとしてのMASISセンターの役割,情報検索サービスの普及活動,MARUNETの構築と通信回線事情,データベース作成機関との連携強化など30年前のオンライン草創期から 1980年代の発展期を振り返る。

キーワード: 学術情報流通,DIALOG,オンライン情報検索システム,オンライン検索,データベース作成機関,MARUNET,通信回線
ページの先頭へ Copyright (C) 2008 INFOSTA. All rights reserved.