「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.11

特集=「図書館員のための文書管理」

《追悼》 長山泰介先生を偲んで

固武技術士事務所 固武 龍雄

 元副会長の長山泰介さんは平成20年8月27日にご永眠された。亡くなられる数日前に電話で少しお話する機会があったので,亡くなられたという知らせには驚いた。永年にわたり親しくご指導いただいたので,惜しい方が亡くなられたという気持ちで一杯である。
 長山さんと私とのはじめての出会いは技術士国家試験の面接試験のときである。面接官は二人だったが,二人とも知らない人であった。一人の面接官は私の経験年数が短いことをおっしゃっていたが,もう一人の試験官・長山さん(当時は原研勤務)は「最近は変化が激しいから,あまり昔のことは参考にならない」などと,私にとっては有難い発言をなさっていた。幸いに合格させていただいたが,その頃,当協会は技術士試験の受験者のためのセミナーを毎年やり,合格者2 名が経験を話すことになっており,試験官だった長山さんのほかに,亡くなられた草間さんと私がその年の合格者として話をした。
 長山さんはその当時,協会の訓練委員会(現・研修委)の委員長をしておられ,その会場で,委員の中に特許情報に詳しい人がいないから,私に委員になってくれないかと依頼された。合格させていただいた方からの頼みなので,お礼奉公はしなければならないだろうと思って承知した。これが私が当協会のいろいろな行事に参加するきっかけになった。
 日本医薬情報センター(JAPIC)ができたとき,長山さんは第二部長に就任され,情報管理を担当された。工学部出身の方がJAPICにと少し意外であったが,充分に仕事を果たされ,理事長の久保さんとは専門分野が違うので,かえってよかったようだ。後に長山さんが話しておられたが,原子力とは関係のなかった自分が原子力研究所に入ったが,充分仕事ができたから,医薬と無関係の自分でもちゃんと仕事はできると思ったとのことであった。
 JAPICができて1年後に,JAPICが欧米医薬情報視察団を派遣したが,私もこの団員として参加し,長山さんも一緒だった。Excerpta Medicaを訪問したとき,午前中は,後に「会議英語」という本を出版されたような英会話に非常に堪能な方がすばらしい通訳をしてくださった。午後,数人の有志が残ってさらに討議をすすめたが,長山さん以外は英会話はろくにできない者ばかりだったので,長山さんが通訳の労をとられた。申し訳ないが,午前中と大分違うなと思いながら数時間を過ごしたが,緊張した故か,終わった時はさすがに疲れた。それでもその後は長山さんとアムステルダムの街の探訪にでかけた。
 長山さんがJAPICに来られて何年かした頃に,医薬情報についての解説を雑誌に発表されていたので,もうこんな記事を書かれるのかと思った。情報の分野では大先輩であるが,薬学出身で製薬企業に勤めている私にとって医薬情報なら自分の方が先輩のつもりでいた。この記事を読んでみたのだが,全部まともなことが書いてあり,文句をつけるところがなかったので,なにも言えなかった。  薬学会年会が熊本で開かれたときのことだ。長山さんも来られたので,交際費を使って熊本名物で一杯やろうと考えて長山さんを誘った。長山さんは少し躊躇されていたが,実は家内も来ていて,帰りに一緒に雲仙に行こうと思っているとのことだった。それならば奥様もご一緒にとお話し,ご夫妻で来ていただいた。
 長山さんは仕事ばかりでなく,各方面にいろいろと関心がある方であった。情報という言葉の起源を調べて発表されたり,玉川上水自然道を歩く会の会長をなさったり,JAPICのある渋谷のミニコミ誌を愛読されたり,情報仲間の「渋谷の会」と称する集まりにも参加されていた。JAPICの帰りには多少お色気のある夕刊紙を買って読むこともあるとご自分の著書「呟」に書いてある。この「呟」が長山さんの最初の著書らしいが,その後も「情報とともに」「久我山風土記」「老いを究める」「私の点鬼簿」等,何冊もこのような随筆を書かれている。これらを拝読すると,長山さんの生い立ち,過ごしてこられた人生もある程度わかってくる。若い頃は頑健そのもので,剣道で鍛えた身体で体力には自信があったとのことだが,戦争末期に結核にかかられ,手術をされたので坂道はつらいと話されていた。
 長山さんにはもうお会いできなくなり,誠に寂しい気持ちである。ご冥福をお祈り申し上げます

特集 :「図書館員のための文書管理」の編集にあたって

 本特集では,「文書(ぶんしょ)」にスポットを当てました。『情報の科学と技術』では,2006年にも「文書」に関連する特集を組んでいます(56巻 12号「資料・データを捨てる」)。2006年の特集では「文書の選別・廃棄」に注目しましたが,今回の特集は「文書・記録の利用」を考えてみたいと思います。
 文書管理・記録管理(以下,文書・記録を「文書」と総称します)の重要性が強調され,企業や大学などでも「文書」に正面から取り組むことが,今まで以上に求められています。日々発生する膨大な文書は,評価・選別のプロセスを経て,専門的知識と技能を有するアーキビストによって,適切に管理・保存されることが理想とされます。とはいえ,文書館を持たない,比較的規模の小さな組織などでは,文書管理の機能を図書館が担わなければならない場合もあるようです。
 組織にとって貴重な資源である文書を「コンテンツ」として捉えた場合,これらを適切に管理し,利用を促進するためには,どのような点に気をつければよいのか。内部統制制度の導入や文書のデジタル化など,文書管理を巡る環境の変化は,文書の管理と提供にどのような影響を与えるのか。文書の「利用」を巡るいくつかの論点を採り上げ,実際に文書管理を担っている図書館スタッフへの提言とすることを目指しました。
 まずは総論として,学習院大学大学院の安藤正人氏から,文書の管理とは,どのような意味合いを持つ事業であるのか,また,文書管理の体制をどのように構築すればよいのか,ご経験を元にご提言いただきました。
 日本における文書情報の提供では,公共の図書館・文書館が大きな役割を果たしてきました。公共の文書館におけるサービスのノウハウと図書館との連携について,寒川文書館の高木秀彰氏からご紹介いただきました。また,広島大学文書館の小池聖一氏には,組織の文書館におけるサービスの多様な類型とその戦略について,大学文書館を例としてご解説いただきました。
 文書そのものだけではなく,サービスの「場」そのものも電子化が進んでいます。これに伴い,文書を使ったサービスも新たな拡がりを見せつつあります。電子環境下でのサービスの可能性と問題点について,東京大学大学院の研谷紀夫氏に論じていただきました。
 内部統制制度が導入されたことで,文書を管理するシステムの整備が多くの企業で喫緊の課題となっています。とはいえ,どのような文書を,どのように管理しなければならないのか,十分に理解されているとは言い難いのが現状ではないでしょうか。弁護士の牧野二郎氏には,文書管理に係る法制度とその意味合いについて,「入門講義」をお願いしました。また,ヒューリット・マネジメント・フォーラムの石井幸雄氏からは,阪神・淡路大震災でのご経験を例に,組織の存続に関わる文書群を天災などのリスクから守るための,バイタルレコード・マネジメントについて論じていただきました。
 「図書は利用するためにある」
 文書もまた,利用するためにあるものだと,私たちは考えます。この特集が,実際に文書管理に携わっている読者の皆様の参考となりますことを,また,今まで文書管理には縁がなかった,という皆様にも,文書管理の世界に触れていただくきっかけとなりますことを,願ってやみません。
(会誌編集担当委員:野田英明(主査),川瀬直人,大田原章雄,加藤麻理)

レコードキーピングとアーカイブズ ―現代の記録管理を考える―

安藤 正人
あんどう まさひと 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
〒171-8588 東京都豊島区目白1-5-1
Tel. 03-3986-0221(代表)(原稿受領 2008.9.16)

 記録は,政府,自治体,企業,団体など,あらゆる組織体の活動の歩みを示す証拠であり,組織体がアカウンタビリィ(挙証説明責任)を果たすために,また新たな創造的活動を展開するために不可欠な情報資源である。それだけでなく,記録は時に人の命や人権を守るちからを持つ。記録を守りアーカイブズ・システムを整備することは,民主主義を支える土台である。本稿では,従来のレコード・マネジメント(記録管理)とアーカイブズを統合した「レコードキーピング」という新しい考え方を軸にしながら,中小規模の組織体において,いかに記録管理とアーカイブズのシステムを構築していけばよいのか,筆者の小さな経験を踏まえつつ考える。

キーワード: 記録,記録管理,アーカイブズ,レコードキーピング,アカウンタビリティ

図書館と公文書館の相互協力 −寒川町の場合−

高木 秀彰
たかき ひであき 寒川文書館
〒253-0106 神奈川県高座郡寒川町宮山135-1
Tel. 0467-75-3691(原稿受領 2008.9.16)

 神奈川県寒川町は,平成18年11月,寒川総合図書館と寒川文書館の複合館をオープンさせた。文書館は公文書館法にもとづき,寒川地域の記録資料を収集・保存・活用するために設置されたものである。開館にあたって両館は,資料の取り扱いについて協議した結果,地域の資料は行政刊行物も含めて文書館の担当と決めた。文書館ではこれを受け,資料の種類ごとにさまざまな提供サービスを展開している。さらに,レファレンス,検索システム,普及事業などにおいて,図書館との相互協力を実践しており,これが利用者にとって複合館のメリットとなっている。に資金調達の動向を中心に,そから資金調達を行う,米国公共

キーワード: 図書館,公文書館,寒川文書館,情報提供,レファレンス,記録資料

大学文書館のサービス戦略

小池 聖一
こいけ せいいち 広島大学文書館
〒739-8524 東広島市鏡山1-1-1
Tel. 082-424-5894(原稿受領 2008.8.20)

 文書館(アーカイヴス)にとって最大のサービスは,収集・整理した文書の公開であり,その充実を図ることである。そのうえで,大学を背景とする大学文書館は,シンクタンク機能,講義,展示,研究,公開講座…,多様なサービスを提供することができる。そこで,本稿では,大学文書館を類型化し,各類型に伴う各種サービスを紹介する。そして,総合化する大学文書館にあって各種サービスの戦略的運用について広島大学文書館を一例にしつつ明らかにする。

キーワード: 文書館,アーカイヴス,大学文書館,大学,文書,史資料,サービス

図書館における電子化時代の文書管理

研谷 紀夫
とぎや のりお 東京大学大学院情報学環
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3500(原稿受領 2008.8.26)

 文書館制度の発達が図書館や博物館と比較して遅れた日本においては,図書館において歴史資料が保存される傾向が強かった。しかし,その情報の付与や秩序構成が図書とは根本的に異なる文書資料は,一般の図書刊行本とは別に扱われ,それら資料の認知や利用の簡便性も必ずしも高いものではなかった。しかし,近年のデジタルアーカイブやデジタルライブラリーの進展によって,図書館における文書資料の電子化が積極的に推進されている。これら電子化された資料は,文書資料の特性やBorn Digital Contentsに対応するメタデータの設計を行い,その他の資料や他の機関との相互連携の枠組みを発展させる必要がある。

キーワード: デジタルアーカイブ,ボーンデジタルコンテンツ,メタデータ,横断検索,ダブリンコア

内部統制時代の文書管理について

牧野 二郎
まきの じろう 牧野総合法律事務所弁護士法人
〒163-0430 東京都新宿区西新宿2-1-1新宿三井ビル30階
Tel. 03-5339-2776(原稿受領 2008.9.8)

 企業の業務活動の健全化と効率化のために内部統制が強く求められるが,その骨格部分を支えるのが文書・情報管理の仕組みである。過去の不祥事,粉飾事件を見れば,いずれも文書,データを偽造し,社会を欺いてきたのであり,こうした偽造,粉飾を許さない正確な記録,記録された文書の活用と厳格な保管など,文書管理システムを構築する必要がある。  情報が急増し,データ量が飛躍的に増加するとともに紙の使用料も激増している。こうしてデータと紙の両方が増加していることから,その合理的管理,利用環境の整備は必須であり,両者を徹底的に利用することで効率化が推進され,競争力に結びつくのであり,両者を包括する文書管理が求められる。  コンプライアンスはいまや商品,サービスの品質に直結し,その信頼の基礎になっている。コンプライアンスを厳格に守ることが競争力となるという新しい状況を正確に理解する必要がある。

キーワード: 文書管理,コンプライアンス,内部統制,見える化,業務効率化,競争力,情報大爆発

『バイタルレコードマネジメント』のススメ

石井 幸雄
いしい ゆきお ヒューリット マネジメント フォーラム
〒552-0012 大阪市港区市岡1丁目4番24号 住宅情報ビル6F
Tel. 06-6582-0590(原稿受領 2008.8.19)

 企業経営にかかわる大きな環境変化に伴い,企業を取り巻くリスクは複雑化・高度化している。また,わが国においては,自然災害も大きな脅威として存在している。本稿では,事業継続と情報資産保護の視点から「バイタルレコード」の重要性について述べる。次に,「バイタルレコード」の定義や抽出方法,活動の展開や維持管理の仕組み作り等々,具体的に組織活動として実践している企業の取り組みを紹介する。そして,企業が被災している間も,または被災直後であっても業務を継続し,あるいは再建し,組織および従業員,顧客と株主の権利を守る「バイタルレコードマネジメント」の有効性について提言する。

キーワード: リスク,脅威,自然災害,事業継続,情報資産,バイタルレコード,バイタルレコードマネジメント

連載:オンライン情報検索:先人の足跡をたどる(8)
ある繊維企業での情報検索活動:磁気テープを使ったCA Condensates SDIサービス

岡本 敏晴
おかもと としはる(元ユニチカ樺央研究所)
〒630-8424 奈良市古市町2236-4
Tel. 0742-61-2940(原稿受領 2008.9.1)

 ユニチカにおけるコンピュータを用いた社内技術情報のデータベース化,Plasdoc磁気テープのSDI検索から,CASのCA Condensates 磁気テープを用いたSDIサービスに至る開発の経験を述べ,その後のオンライン検索の利用にも触れる。

キーワード: SDI,CA Condensates,Plasdoc,オンライン検索,IBMカード,磁気テープ
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