「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.2

特集=「分類をみつめなおす」

特集 :「分類をみつめなおす」の編集にあたって

 近年Webの世界で"Folksonomy"が話題になっています。これは,従来の単純な検索ではすくい切れない,情報探索のニーズを満たすために「分類」が必要だということの表れととらえることができるかと思います。
 しかし,Folksonomyには「分類体系」というものはありません。図書館情報学における分類は,ある一つの体系の下に学問を整理しようとする思想に基づくものであり,それにより,ユーザは自ら知識を持っていなくても学問の体系をある程度理解し,活用することができる,という意義があったはずです。
 ところが,分類記号が付与されている図書目録のデータも,OPACを介して触れていると実際にはその特長はあまり感じることはできません。分類記号も,件名やキーワードなどのその他の索引づけと同じように感じてしまっていることに気づきます。
 しかし,分類の思想は現在も,また今後も,情報の整理・利用にとって価値のあるものなのではないでしょうか。もっとわれわれの気づいていない活用の可能性があるのではないでしょうか。
 この特集では,分類の思想についてあらためて見つめなおしたいと考えました。様々な角度から分類を取り上げるという意図で,図書館・情報サービスにおける分類の意義について,図書館情報学以外の分野から同様に学問として分類を取り扱っている生物分類について,そして様々な分野の分類の実例についてお書きいただいたほか,コンピュータによる分類の手法についても解説いただきました。
 本特集がみなさまの新たな思考,新たなサービスに繋がることを願っております。
(会誌編集委員会特集担当委員:関戸麻衣,木下和彦,野田英明,広瀬容子)

図書館・情報サービスにおける分類的思考の意義

山崎 久道
やまざき ひさみち 中央大学文学部(社会情報学専攻)
〒192-0393 八王子市東中野742-1
Tel. 042-674-3744(原稿受領 2007.12.6)

 図書館や情報サービスにおいて,分類はどんな位置づけにあるのか,あるいは分類的思考というものがあるとすれば,それにはどんな意義があるのか。こうした点に関連して,分類することの意義,時間という経営資源の節約,情報検索における分類的思考の意味,情報サービスにおける分類的思考の効果,予見可能性を提供することの重要性,学問分野の俯瞰,語からの検索の限界,OPAC利用の問題点など,さまざまな視点から述べる。最後に,一般社会における分類的思考の問題点を示す。分類的思考は,図書館や情報サービスにおいて基盤的位置を占めるものと結論付ける。

キーワード: 分類,分類的思考,情報検索,予見可能性,学際性,OPAC

生物を分類するとはどういうことか

馬渡 峻輔
まわたり しゅんすけ 北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
Tel. 011-706-2750(原稿受領 2007.12.13)

 世界を認識するためには世界を分類しなければならない。生物の世界を認識する方法が生物分類学である。われわれは外界で出会う生物個体を類に分けて認識する。私は「男」「大学人」「老人」などの類に属する。生物個体をある1つのシステムに則ってその個体の属する類を設定し,その類で認識する科学が生物分類学である。その他の派生生物学は分類学の土台の上に建っている。

キーワード: 生物分類学,個物,クラス,多次元形質空間,自然淘汰,繁殖成功度,適応度,区別,類別

ICONCLASS:イコノグラフィー的分類システム

鯨井 秀伸
くじらい ひでのぶ 愛知県美術館
〒461-8525 名古屋市東区東桜1-13-2
Tel. 052-971-5511(原稿受領 2007.12.7)

 視覚資源および文化史の分野における用語法(terminology)の展開に関し,イメージの集合に基盤を置いて組織化されたICONCLASS(アイコンクラス)は,いわば西洋のイメージ集合のテクスト化という意味で,西洋表象文化というドメインにおけるオントロジーといっても過言ではない。イメージのコレクションにICONCLASSを応用することにより,重要機関を含む主要なICONCLASSのユーザーによって蓄積されたイコノグラフィーの知識という富の持つ有利な要因の利用が可能となる。

キーワード: アイコンクラス,イコノグラフィー,分類システム,視覚資源,ターミノロジー,主題アクセス,自然語,多国語化

HRAFと国立民族学博物館所蔵図書の分類

稲葉 洋子
いなば ようこ 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館情報管理施設 情報サービス課
〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1
Tel. 06-6878-8227(原稿受領 2007.12.19)

 世界の文化を比較研究するファイル資料としてアメリカ・イェール大学で開発され,現在も世界中で利用されているHuman Relations Area Files(HRAF)がある。国立民族学博物館は1976年HRAFの正会員となり,大学共同利用機関としてファイル情報の提供や利用法の研修会を開催し,利用促進や広報に努めてきた。また,館内においてはHRAFを研究に活かしていくだけでなく,標本資料や文献図書資料等所蔵資料の分類にHRAFの分類法の一つであるOWC分類を付与している。紙ファイルからWeb版に媒体変更しつつあるHRAFは会員数を着実に増やしているが,民博でもより研究に活かしてもらう方法を考える時期にきていると考える。

キーワード: 国立民族学博物館,HRAF,OWC,OCM,地域・民族分類,文化項目分類,eHRAF,主題分類,文化人類学,民族学

「分類」と「進化」

福嶋 聡
ふくしま あきら ジュンク堂書店 大阪本店(店長)
〒658-0052 神戸市東灘区住吉東町1-3-6 住吉川ダイヤハイツ404
Tel. 070-5582-3591(原稿受領 2007.12.6)

 配本された新刊書をジャンルに分け,しかるべき書棚に収める。購入した資料一点一点にコードを振り,配架する。書店員にとっても図書館員にとっても,「分類」は基本的な日常業務である。「本と読者を結びつける」という点では共通しながらも,書店と図書館には,「商品の販売」と「資料の貸し出し」という業務内容の大きな違いがある。その違いはそれぞれの書物の「分類」,具体的にはコード体系や作業工程の違いとなって現われてくる。そのことを検証するとともに,「分類」そのものの「困難」に触れながら,「困難」と表裏一体のものとして書物の「進化」をとらえ,近年の人文書の趨勢に,その実例を見いだしていく。

キーワード: 新刊書の「分類」,資料の選書,「実験場(ラボラトリー)」としての書店,「資料館(アーカイヴ)」としての図書館,図書館と書店の相補性,『分類という思想』,書物の「進化」,「オルタナティヴ」

計算機による分類概念の構築

市瀬 龍太郎
いちせ りゅうたろう 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系
〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
Tel. 03-4212-2000(原稿受領 2007.12.13)

 近年の情報通信技術の高度化により,人々が入手できる情報の量が飛躍的に増えている。そのような情報を効果的に利用するために,計算機で情報を分類する手法が必要とされている。また,分類のための概念体系を計算機で利用すると,情報を知的に処理することができるため,概念体系の取り扱い方法が改めて注目を集めている。本稿では,計算機を使った分類のための概念の構築方法について概説する。具体的には,分類概念を調べるための形式的概念分析手法,実際の分類を作り出すクラスタリング手法,作り出された分類階層を統合して新たな分類階層を作り出す手法を取り上げ,計算機による分類体系処理の基礎について説明する。

キーワード: 機械学習,意味的な情報統合,データマイニング,形式的概念分析,クラスタリング,概念形成,知識獲得

投稿:電子ジャーナルの長期保存−LOCKSSとPortico

時実 象一
ときざね そういち 愛知大学文学部図書館情報学専攻
〒441-8522 愛知県豊橋市畑町1-1
Tel. 0532-47-4467
tokizane@aichi-u.ac.jp(原稿受領 2007.12.8)

 電子ジャーナルの長期保存は災害,出版社の業務停止,購読終了時のアクセス保障などの観点から最近関心を集めている。米国スタンフォード大学のプロジェクトとして始まったLOCKSSと,その応用であるCLOCKSS,および米国の電子ジャーナルサイトJSTORが中心となって開発したPorticoについてその概要を紹介し比較する。

キーワード: 電子ジャーナル,長期保存,LOCKSS,CLOCKSS,Portico

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