「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 58 (2008), No.1

特集=「シンガポールのいま」

2008年 年頭のご挨拶

社団法人 情報科学技術協会
会長 立花 肇

 明けましておめでとうございます。
 2008年のスタートにあたり,一言ご挨拶を申し上げます。
 2006年6月に公益法人制度関連法が交付され,法人の健全な発展を促進し,様々な問題に対応するための改革が推進されることになりました。さらに本年12月に新制度の施行が開始となり,5年間の移行期間の間に各法人は新法人に移行することになります。
 当協会も新制度への移行に向けて取り組みを進めるとともに,活動基盤の強化,セミナー,会誌,シンポジウムなどを通して活動の広がり等を推進していく所存ですので,各委員会および会員の方のご協力をお願いする次第です。
 本年も次の主要な事業を推進していきたく,積極的なご参加,ご協力をお願いいたします。
 会誌「情報の科学と技術」は情報科学をめぐる最新の話題やニュースをお届けしており,会員の研究成果を発表する場でもあります。本誌は会員の皆様に配布するほか,多くの図書館などでご購読いただいておりますので,読者のご要望にお応えして価値ある情報をお届けしたいと考えております。
 情報検索能力試験では,「基礎能力試験」のテキストに加え,昨年に「応用能力試験2級」のテキストである「情報検索の知識と技術」を発行しました。おかげさまで大変ご好評をいただいております。年々,受験者も大幅に増加しており,これらはひとえに皆様のご支援と関係者のご努力によるものと,深く感謝いたします。今年も11月に実施する予定でおりますので,多くの方の受験をお待ちしています。
 恒例の「情報プロフェッショナルシンポジウム」も,独立行政法人科学技術振興機構(JST)と共催で開催するようになってから昨年で4回目を迎え,各方面から多数の参加者を迎えて大変好評でした。今年も11月に第5回を開催する予定でおり,大勢の方々に参加していただけるよう時機を得た特別講演の検討,興味ある一般発表内容にするべく,準備を進めていきます。
 研修事業(セミナー)については,時機を得たテーマのセミナー開催,自己啓発のためのセミナー,東京地区の研修委員会と大阪地区の西日本委員会での連携企画セミナーなどで,会員の方への研修の場を充実していきます。
 研究会活動としての,SIG,OUGについても,各部会,分科会の体制の強化など,諸問題の整備などを行い,新委員の参加,活性化に向けて進めていきます。
 今年も会員の皆様をはじめ,関係者各位の大いなるご活躍とご健勝を祈念し,年頭のご挨拶といたします。

特集 :「シンガポールのいま」の編集にあたって

 東京23区ほどの小さな島に約400万人が暮らすシンガポールは,アジア有数のIT先進国となっています。これまで,「情報の科学と技術」誌ではアジアの現在を紹介する企画として,中国,韓国を取り上げてきました。そして今回は,シンガポールにスポットを当てた特集を企画しました。
 今回の特集では,総論としてシンガポールの図書館情報政策を総括的に解説していただき,続く各論で様々な観点からシンガポールの現状と事例を紹介していただきました。シンガポールの図書館界や情報社会,出版事情などを知る契機としていただければ幸いです。
(会誌編集担当委員:深澤剛靖,及川はるみ,広瀬容子)

シンガポール国立図書館の成立と現状−2007年

内藤 衛亮
ないとう えいすけ 東洋大学社会学部
〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20
Tel.03-3945-4446(原稿受領 2007.10.26)

 「シンガポール国立図書館」を紹介する。はじめにシンガポール共和国(Republic of Singapore)のプロフィルを述べて本稿の前提とする。次に「国立図書館」の概要,図書館システム開発の枠組みとなったシンガポールの国家情報政策,図書館情報政策と開発方向の特色とみることのできるいくつかの話題にふれ,おわりに印象を述べ読者の参考に資する。

キーワード: シンガポール国立図書館,国家図書館庁,NLB,国家情報政策,国家図書館情報政策,Library2010

シンガポールのIT政策

田辺 孝二
たなべ こうじ 東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科
〒108-0023 港区芝浦3-3-6,CIC910
Tel. 03-3454-8758(原稿受領 2007.10.26)

 シンガポールのIT政策について,その歴史と特徴について解説する。80年代から開始されたシンガポールのIT政策はIT活用力の向上を推進し,20年ほどでシンガポールは世界最先端の情報社会となった。21世紀に入ってからも,電子政府を積極的に推進し,2006年には新たな10年計画iN2015を策定し,Infocomm(情報通信)を活用したさらなる発展に取り組んでいる。こうしたシンガポールのIT政策の特徴は新たな顧客価値の創造である。

キーワード: シンガポール,IT政策,電子政府,IT活用力,iN2015

図書館サービスの新たなる可能性に向けて:シンガポール国立図書館の取り組み

宮原 志津子
みやはら しづこ 東京大学大学院教育学研究科
〒113-0033 東京都文京区本郷7
Tel. 03-5841-3917 (原稿受領 2007.10.23)

 1995年の国立図書館庁発足後,シンガポールの図書館サービスは大きな発展を遂げている。その背景には国立図書館庁の法定機関としての財政・人事面での自主性や,各国の図書館や国内の各種機関との業務提携がある。今や国内には公共図書館がバランスよく整備され,国民は世界最高水準のサービスを日常生活の中で気軽に享受できるようになった。2005年の新国立図書館の完成後は,豊富な蔵書やオンラインデータベースなどの様々なコンテンツと高度な能力を持った専門司書による,レファレンスサービスや電子図書館サービスの開発を積極的に進めている。今後は情報提供のスピードと信頼性,司書の専門的能力の向上がより一層問われるようになるだろう。

キーワード: シンガポール,国立図書館庁,国立図書館,公共図書館,レファレンス,ビジネス支援,電子図書館

シンガポールの図書館におけるデジタル・リソースの提供と学術情報のオープンアクセス

呑海 沙織
どんかい さおり 京都大学医学図書館
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町
Tel. 075-753-4314(原稿受領 2007.11.2)

 シンガポールの図書館は,図書館を情報か社会における知識データベースと位置づけた1994年に発表の"Library2000"および図書館の知識経済社会への貢献を掲げた2005年の"Library2010"以降,大きく発展しつつある。本稿では,このような図書館政策が進行中であるシンガポールの国立図書館,公共図書館および大学図書館におけるデジタル・リソースの提供について述べる。また,学術情報のオープンアクセスについて,機関リポジトリ,オープンアクセス・ジャーナルそれぞれの観点から現状をまとめる。

キーワード: シンガポール,デジタル・リソース,オープンアクセス,電子ブック,電子ジャーナル

シンガポールにおける知的財産権事情

佐藤 恵太
さとう けいた 中央大学法科大学院教授
(原稿受領 2007.11.9)

 長い間イギリスの植民地支配を受けていたシンガポールは,法制度においても先進国並みの水準を維持していた。1965年の独立後もこの流れを汲み,途上国の中ではよく法整備が進んでいる。本稿では,こうしたシンガポールの法制度のうち,知的財産に関する法整備の状況について,知的財産権庁(通称 IPOS)の活動を中心に,特にITを積極的に駆使して提供されている様々なサービスについて概説する。

キーワード: TRIPs協定,知的財産権庁,IPOS,EZ-IP,ScopeIP,e@dr,知的財産権

シンガポール出版流通市場の動向

十河 宏
そごう ひろし シンガポール紀伊國屋書店
シンガポール共和国オーチャード通り391B ニーアンシティタワーB #13-06/07/08 238874
Tel. (+65)6276-5558 (原稿受領 2007.10.23)

 シンガポールはその歴史的,地理的条件を背景に,東南アジアで独特の政治経済発展を遂げてきた。人口468万人(2007年6月)という都市国家は,出版ビジネスの観点からは一見大きなマーケットのようには見えない。しかしながら,流動人口の増加,金融,物流,観光,教育,メディアのハブを目指す同国公共政策の現状を眺める時,国際的にもユニークな出版市場を形成していることが垣間見える。同国において過去24年間書籍流通業を営んできた紀伊國屋書店の視点から,特に最近の変化を踏まえてシンガポール出版流通市場の特徴を俯瞰する。

キーワード: 出版流通,シンガポール,アセアン,物流ハブ,公共政策,多言語文化,紀伊國屋書店

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