「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.9

特集=「デジタルコンテンツの進展と図書館」

「デジタルコンテンツの進展と図書館」の編集にあたって

 机上のコンピュータで一次情報が入手できるようになってくると,わざわざ図書館に足を運ばなくても,必要な情報が入手できるようになります。
 そうなると,これまで,さまざまなサービスの形式を生み出しながらも,建物の中で職員がサービスを提供する,というスタイルを基本としてきた図書館のあり方はどうなっていくのでしょう。  あらゆるコンテンツが電子化されることは,さまざまな技術的制約や刊行にまつわる事情からおそらく不可能です。従って,名称はどうであれ,図書館の建物そのものは存在し続けるでしょう。しかしながら,図書館の役割は,業務にコンピュータが導入され始めたとき,そしてインターネットが巷に普及し始めたとき以上に,大きく変わってくると予想できます。
 近未来の図書館のあり方そのものにスポットを当ててみたいと思います。
 まず,図書館の本質と役割とは何かの議論に立ち返り,時代によって変化する側面と変化しない側面を明らかにしつつ,コンテンツの電子化進行後に起こる変化の中で図書館がどのようにあるべきかを考察していただきます。
 次に,コンテンツの電子化により,図書館の機能は「所蔵からアクセス」へシフトしていきつつあります。様々なコンテンツを提供する窓口となる情報ポータルは,図書館サービスの中核となります。ここではカナダの事例を現場の図書館員の方にレポートしていただきます。
 さらに,Web 2.0時代の中で,フォークソノミーやソーシャルブックマークなど,利用者の(無意識な)参加を促し,集合知として利用する技術やサービスが現れてきています。このような動きは,図書館とその利用者との関係にどのような変化をもたらすのかを考察していただきます。
 しかしながら,直接的にせよ間接的にせよ,また,来館型にせよ非来館型にせよ,図書館が提供するサービスには,図書館員が何らかの形で係ることになります。電子化進行後にも変わらない図書館員の役割とは何かについて論じていただきます。
 最後に,自宅や研究室等から居ながらにして情報を利用できるのは利便性の向上といえますが,「場所としての図書館」は本当に無意味になるのでしょうか。「場所としての図書館」の本質について,建築学者の視点から考察していただきます。
(会誌編集委員会特集担当委員:大田原章雄,上村順一,川瀬直人)

デジタルコンテンツの彼方に図書館の姿を求めて

竹内 比呂也
たけうち ひろや 千葉大学文学部
〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町1-33
Tel. 043-290-3023(原稿受領 2007.7.9)

 インターネット上で利用可能なデジタルコンテンツが増加し,伝統的な意味での図書館の資料蓄積・提供機能の重要性が相対的に弱体化している環境下において,これからの図書館のあり方について考察する。図書館を構成する基本要素である,図書館という場所,資料,図書館員について,「利用者の期待」「付加価値」「インタラクティブな関係性」という観点から考察し,これらの図書館に求められる場所としての図書館の特性,インターネット空間上での図書館のプレゼンスの強化,機関リポジトリの推進,図書館員の新たな役割について論じる。

キーワード: 大学図書館,インフォメーションコモンズ,デジタルコンテンツ,図書館員,リエゾン・ライブラリアン,機関リポジトリ,レファレンスサービス

大学図書館員からみた図書館ポータル

島田 貴史
しまだ たかし 慶應義塾大学日吉メディアセンター
〒223-8521 横浜市港北区日吉4-1-1
Tel.045-566-1040(原稿受領 2007.7.12)
keishi2g@lib.keio.ac.jp

 勤務校における中期海外図書館研修をもとにした大学図書館ポータルの報告。カナダ・トロント大学を参考に「図書館ポータルとは何か?」について,図書館員の立場で考察する。学術情報の電子的な提供と,図書館の持つ潜在的な学習機能の「二つのポータル」の可能性を検討する。

キーワード: 図書館ポータル,トロント大学図書館,Scholars Portal,場所としての図書館,学習ポータル

デジタル環境の進展による図書館と利用者との関係の変容
−レファレンスサービスの仲介的機能の展開を中心に−

齋藤 泰則
さいとう やすのり 明治大学文学部
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
Tel. 03-3296-2232(原稿受領 2007.6.18)

 電子化コンテンツの進行とWeb2.0のインターネット環境は,図書館と利用者との関係に大きな影響を及ぼしつつある。特に利用者と直接な関係を構築するレファレンスサービスはその仲介的機能の変容が迫られている。インターネット上で多様な情報の入手が可能となった今日,利用者が図書館に求める機能は,情報提供から利用者の問題解決のための学習支援へと変化しようとしている。本稿では,レファレンスサービスの仲介的機能のレベルに関するC.C. Kuhlthauの理論を取り上げ,デジタル環境の進展がもたらすレファレンスサービスの仲介的機能の意義を検討し,今後求められる図書館と利用者との新たな関係について考察する。

キーワード: レファレンスサービス,仲介的機能,利用者,図書館員,学習支援,問題解決,Web2.0

図書館員のあり方と電子化の進行:不安の昂進と専門職化の画策

薬師院 はるみ
やくしいん はるみ 金城学院大学文学部
〒463-8521 名古屋市守山区大森2-1723
Tel. 052-798-0180(原稿受領 2007.6.13)

 電子化の進行は,図書館員のあり方を変えることになるのだろうか。事によると,司書は不要になるのだろうか。この種の議論は,図書館界で,これまでにも何度か提出されてきた。本稿は,この現象自体に注目するものである。議論が反復された背景には,不安の存在を指摘することができるだろう。新しい情報技術が,従来のあり方や既存の価値観を覆そうとすることへの不安である。ただし,未だに司書職制度が確立しているとはいい難い状況下,司書の新たな役割だけを追求しようとすることは,往々にして司書不要論に結びつく。そこで,本稿では,変化が激しい今日こそ,司書固有の存在意義という視点から情報化という事態を考え直すことを提案する。

キーワード: 電子化,司書,専門職,情報化時代,司書職制度

場所としての図書館

五十嵐 太郎
いがらし たろう 東北大学工学研究科准教授
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-6
Tel. 022-795-7880(原稿受領 2007.7.5)

 建築デザインでは,情報やモノが行き交う現代的な場所として,ステーション,ライブラリー,カフェなどのビルディングタイプに注目が集まっている。大西麻貴は図書と住宅を,古谷誠章は図書と駅をかけあわせることで,新しい場所を創造した。OMAのシアトル中央図書館は,図書空間を軸にして公共の空間を再編成する大胆な実験を試みている。

キーワード: コールハース,シアトル中央図書館,リビング・ルーム,チューブ,駅

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