「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.5

特集=「図書館情報学の研究動向と新たな流れ」

「図書館情報学の研究動向と新たな流れ」の編集にあたって

 科学(学問)に理論は必需品である。理論は科学が対象とする諸現象を<学>のもとに,合理的に説明あるいは解釈し,記述する原理を提供する。図書館情報学においても,伝統的な印刷媒体以外にさまざまな媒体が登場し,図書館情報学に新たな理論が開発され,提唱されてきた。
 図書館情報学研究の最前線である大学院が日本でも拡充し,研究の質・量ともに向上している。併せて研究動向を俯瞰する入門書やハンドブックがいくつか刊行された。これらの入門書は主題領域を研究可能な単位に記述している。そこで本特集ではやや広めに領域をとり,動向を紹介していただくことにした。
 特集にあたり留意したのは,海外で展開する新しい理論研究を網羅的に紹介するには時間的にも人的にも限界があり,偏らざるをえないので積極的な取り上げ方を避けた。グローバルな動向を排するわけではないが,読者中心に問題意識を収斂させると日本における図書館情報学研究の<現在>をまず精確に認識できる総論の設定が必須である,と編集上の合意に達した。そこでここ約半世紀の理論研究の動向を展望いただき,デジタル時代における理論研究の意義を再度確認する議論をお願いした。総論としてはやや異質な設定だが,斯界の将来を鑑みれば最上の判断だと確信する。続く各論において進行中の新しい研究の試みや実践をご紹介し,現状を総合的に掌握することを試みた。
 編集子の視野にも限界があり,最新動向を着実に反映していない憾みを多数残していよう。読者諸賢のご批判と議論を切にお願いする次第である。末筆になったが,図書館情報学理論や概念の動向を議論する国際会議CoLIS 6(International Conference on Conceptions on Library and Information Science 隔年開催)が本年は8月にスウェーデンで開かれることを付記しておく。
(会誌編集委員会特集担当委員:松林委員(主査),大田原副委員長,葛城委員,川瀬委員)

デジタル情報空間における書誌コントロール論の位相

根本 彰
ねもと あきら 東京大学大学院教育学研究科
〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1
Tel. 03-5841-3975(原稿受領 2007.3.5)

 書誌コントロールとは,モノとしての文献資料とそこに含まれる知識を,テクストを媒介として結びつけるための手法,装置,制度の総称であり,近代図書館学の中核となる概念である。本稿はこのような概念規定を確認したあと,1990年代以降のデジタル情報環境下においてこれがなお有効性をもつのかについて論じる。情報技術は,文献資料を全文テクスト化して言語処理の手法をもってアクセス可能にすることで,従来の手法で不可能な検索を可能にする。しかしながら他方でこれは,テクストを通じた知識の生産,流通,利用のダイナミズムを見失わせる可能性をもっている。図書館情報学においては,今後とも書誌コントロールを通じて知識の全体的なプロセスを解明していく必要がある。

キーワード: 書誌コントロール,図書館情報学,知識生産,テクスト,図書館,デジタル図書館,大規模デジタル化プロジェクト

図書館情報学研究における「根拠(エビデンス)」

上田 修一
うえだ しゅういち 慶應義塾大学文学部
〒108-8345東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2007.2.27)

 BMからEBP,そしてEBL/EBLIPへという流れの中で,新しく始めた共同研究「エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立」では,研究におけるエビデンスとは何かの解明を目標に,図書館情報学研究における研究方法の再検討のためのワークショップの開催,EBL/EBLIPの導入などの活動を行っている。EBMに始まる根拠に基づいた進め方は広い支持を得ている。けれども,実際の場になると,検討すべき課題は多く,またエビデンスに対する考え方も多様である。

キーワード: 研究のエビデンス,研究の根拠,EBL,EBLIP,EBM,図書館業務,図書館評価,研究評価,論文評価

アーカイブとその倫理
−図書館情報学研究(LIS)と外部としての哲学−

鈴木 尊紘
すずき たかひろ 国立国会図書館
〒100-8924東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2007.2.13)

 図書館情報学と哲学の接点の一つは,図書館等のアーカイブ機能に関して倫理的な検討を行うことにあることを提示する。幾人かの図書館情報学研究者は,図書館が権力性を持ち,コミュニティー・文化・イデオロギー等を形成する力能を有することを指摘している。そうした認識を,ミシェル・フーコーや彼の哲学に大きく影響を受けたメディオロジーは共有しつつ,アーカイブという営為の権力性に自覚的であるための倫理学を提唱していることを説明する。各国国立図書館およびGoogle Book Search等が世界規模のデジタル・アーカイブを構築しつつある現在,こうした倫理学の存立は不可欠であるという主張を行う。

キーワード: アーカイブ,倫理,LISの歴史,象徴権力,ミシェル・フーコー,メディオロジー,Google

フォークソノミーの新奇性はどこにあるのか

緑川 信之
みどりかわ のぶゆき 筑波大学図書館情報メディア研究科
〒305-8550茨城県つくば市春日1-2
Tel. 03-6415-5200(原稿受領 2007.2.21)

 フォークソノミーという用語はフォーク(folkまたはfolks)とタクソノミー(taxonomy)の合成語である。Wikipediaによれば,フォークソノミーは,インターネット上での情報検索の方法論であり,協同的かつ自由に付与されるタグで構成されている。このタグによって,ウェブページやオンライン上の写真,ウェブリンクなどのコンテンツがカテゴリ分けされる。本稿では,フォークソノミーに関するいくつかの論文・記事を分析し,フォークソノミーの新奇性がどこにあるのかを明らかにした。

キーワード: フォークソノミー,タクソノミー,分類,索引,タグ付け,ソーシャルブックマーク

情報リアリズムが内在する情報単位の解体

郡司ペギオ幸夫
ぐんじ ぺぎお ゆきお 神戸大学理学部地球惑星科学科
〒657-8501神戸市灘区六甲台1-1
Tel. 078-803-5759(原稿受領 2007.2.26)

 Floridiの情報実在論から出発して,認識論的構造実在(SLMS−シェーマ)に見出される存在論的寄与の意義を考察し,進化・変化を含意する実在として,その描像の可能性を述べる。存在論的寄与とは,対象・認識間の齟齬を,理論内部に,抽象レベルとモデル間の齟齬として持ちこんだものである。ここではその齟齬が決して解消されないことをもって,情報単位の解体・内省が導かれるという点を論じ,生化学サイクルの観察・モデル化の事例を用いて,情報実在論が本質的に階層間齟齬を内在する動的階層構造であることを明らかにしている。

キーワード: 情報リアリズム,SLMSシェーマ,計算論的転回,タイプ・トークン,アジャンクション

投稿:電子ジャーナルのオープンアクセスと機関リポジトリ
−どこから来てどこへ向かうのか
(II)機関リポジトリと研究助成機関の動向

時実 象一
ときざね そういち 愛知大学文学部
〒441-8522愛知県豊橋市畑町1-1
Tel. 0532-48-0111(原稿受領 2007.2.26)

 最初のオープンアクセス出版社BioMed Centralが設立されてからすでに7年となる。その節目にオープンアクセスのさまざまな動きをまとめた。(II)では日本でも盛んになってきた大学・研究機関リポジトリ,NIH,Wellcome財団,RCUKなど研究助成機関のオープンアクセス支援などについて最近の動向をまとめた。 Wellcome財団やCERNが出版社にオープンアクセスのための費用を支払う方向を示したことが注目される。

キーワード: オープンアクセス,電子ジャーナル,学術雑誌,機関リポジトリ,オープンアクセス・オプション,研究助成機関,NIH,Wellcome財団,RCUK,CERN,学術出版,学協会

投稿:情報推薦機関としてのライブラリモデル
−情報プッシュ型に関する一考察−

松尾 徳朗*1,藤本 貴之*2
*1まつお とくろう 山形大学工学部情報科学科
〒992-8510山形県米沢市城南4-3-16
Tel. 0238-26-3334
*2ふじもと たかゆき 園田学園女子大学未来デザイン学部文化創造学科
〒661-8520兵庫県尼崎市南塚口町7-29-1
Tel. 06-6429-1201
(原稿受領 2007.2.19)

 本稿では,情報プッシュ型の図書館モデルのための具備すべき条件と方法論に関して議論する。大学図書館は,少なくとも教育的な立場においてその存在が弁護されうる。そこで,大学図書館としての学生支援に関して,教育的な配慮を達成できるシステムの整備が望ましい。そこで新しい情報プッシュ型の図書館モデルにおける図書推薦支援システムを提案する。具体的に学務情報処理システムにおける学生のデータと学術情報システムの連携だけではなく,一般に利用可能な商業サイトの図書情報や学生の嗜好に関するデータの特徴を含め論じる。

キーワード: プッシュ型情報提供,情報推薦,図書推薦,学術情報処理,学務情報処理

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