「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.2

特集=「統制語彙・シソーラスの現在」

特集「統制語彙・シソーラスの現在」の編集にあたって

 商用DBは,定められた用語,シソーラス,専門用語辞書で資源に含まれる用語を統制する機能を多かれ少なかれ搭載しています。
 これは,ある主題の情報を調べる際に,統制された環境下で統制された言葉で検索することがもっとも効率的で,かつ網羅的に調べられる方法であるからです。統制されていない検索語を用いることによって発生し得る,検索の漏れを防ぐこともあるでしょう。
 それに対し,エンドユーザが主に用いているインターネット環境では,対極的な立場を取っていると思います。すなわち,統制された用語辞書を持たず,投入された検索語をそのまま用いています。
 しかしながら,Googleに代表されるような上記のような環境は,現在多くの人々に使用されています。Infoproと呼ばれる,情報検索のプロフェッショナルをもその実力を認めているところです。
 果たして,専門用語辞書やシソーラスは,既に役目を果たしてしまっているのでしょうか。それとも,膨大な検索語を投入されているインターネット上の検索環境でも,それらの辞書類はやはり必要とされているのでしょうか。あるいは,両者で用いている辞書は使用法が異なるだけで,実際は同じものなのでしょうか。
 現在の検索環境の状況を踏まえつつ,シソーラス・専門用語などの統制語の世界と,その対極のインターネット環境の検索についての世界を概観してみました。
(会誌編集委員会特集担当委員:上村順一,深澤剛靖,松林正己,吉田拓也)

インターネット時代における統制語彙の意義と役割

岸田 和明
きしだ かずあき 慶應義塾大学文学部
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5418-6739(原稿受領 2006.12.13)

 本稿では,シソーラスや件名標目表をはじめとする統制語彙に関して,その基本的な機能や限界を整理した上で,インターネットが高度に発達し,サーチエンジンが広く普及した現在における統制語彙の意義と役割について議論する。具体的には,再現率向上および精度向上のための装置としての統制語彙の機能を確認した上で,検索実験や種々の実証研究等で明らかになっている,その限界について述べる。次に,その点を踏まえ,専門的データベースの検索におけるその意義,ウェブなどの全文検索におけるその意義,複数根拠を提供するための表現としての意義について議論する。さらに,今後の可能性として,シソーラスの自動構築や索引語の自動付与,オントロジやフォークソノミーとの関連についても触れる。

キーワード: 統制語彙,シソーラス,件名標目表,情報検索実験,全文検索,オントロジ

SciFinder-トピック検索の裏側-

上野 京子
うえの きょうこ (社)化学情報協会 駿河台大学文化情報学部
〒113-0021 東京都文京区本駒込6-25-4 中居ビル
Tel. 03-5978-3601(原稿受領 2006.12.7)

 研究者向けの情報検索ツールであるSciFinderには,化学物質検索や反応検索に加え,キーワードを使った雑誌論文や特許の検索機能(トピック検索)がある。トピック検索では,入力した検索語(ターム)に対して様々な処理が自動的に施され,検索に慣れないエンドユーザーであっても,適切な回答が得られるような仕組みになっている。本稿では,トピック検索における回答候補表示,入力タームに対する処理およびターム間の演算子の解釈などについて,実例を使って解説する。

キーワード: SciFinder,SciFinder Scholar,トピック検索,シソーラス,ブール演算,近接演算,同義語処理

国立国会図書館件名標目表(NDLSH)の改訂作業と今後について

嶋田 真智恵
しまだ まちえ 国立国会図書館
〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1
Tel. 03-3581-2331(原稿受領 2006.11.30)

 国立国会図書館件名標目表(NDLSH)は,「件名標目の数が少ない」「参照形の不足」「件名標目表の公開の遅れ」といった問題点があり,NDL- OPACによる検索には使い勝手の悪いものであった。国立国会図書館では,2004年から改訂作業に取り組み,「件名標目の数の増大」「件名標目および細目の付与基準の改訂」「参照形の充実」「件名標目のシソーラス化」によって,問題点の解消につとめた。現在では当館ホームページ上にPDFファイル形式で公開し,希望者にはテキストデータを提供している。

キーワード: 件名標目,国立国会図書館件名標目表,NDLSH,主題アクセス,シソーラス,「をも見よ」参照,「を見よ」参照,LCSH,統制語

統制語索引と自然語検索を補完するCitation Semanticの効用

棚橋 佳子*1,宮入 暢子*2
*1たなはし よしこ,*2みやいり のぶこ トムソンコーポレーション梶@トムソンサイエンティフィック
〒100-0003東京都千代田区一ツ橋1-1-1
Tel. 03-5218-6500(原稿受領 2006.12.17)

 本稿では学術文献に示される引用文献の意味的応用という点からデータベースWeb of Science内のKeyWords PlusとRelated Recordsに注目した。事例としてMeSHターム「Toll-Like Receptor 10」による検索結果をベースに,KeyWords Plusや被引用書誌の出現頻度を検証した。高頻度で共出現している単語や被引用書誌を組み合わせて,同じトピックについて追加検索を実施したところ,いずれも元のMeSHタームに関連する高い適合率を示した。引用文献の統計的解析は,著者によって使われた自然語から意味のある組み合わせを効果的に取り出せることが検証された。

キーワード: 引用文献,Web of Science,KeyWords Plus,Related Records,統制語,自然語検索

ExpressFinder/シソーラス辞書開発の目的および基本ルール

佐藤 久光
さとう ひさみつ エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ
〒210-0007川崎市川崎区駅前本町12-1
Tel. 044-210-3452(原稿受領 2006.12.21)

 エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社では,情報検索の支援ツールとしてEF/シソーラスを開発,販売している。検索漏れをなくす,文書の絞り込みに役立つ,適切な検索語を導き出す,ユーザ辞書構築の手助けをすることを目的とし,汎用性を重視した情報検索用の辞書構築,バージョンアップの重要性,システムで使うことの前提について述べる。辞書構築ルールでは同義語辞書,正式名称への置きかえ辞書,多義性のある用語の取り扱い等,辞書作成で避けられない項目について説明している。辞書利用の経緯については,20年前から現在までのデータベースをとりまく環境の変化に伴う検索と辞書の流れについて触れ,インターネットが主流になった現代において求められている検索用辞書についての現状とその取り組みを紹介する。

キーワード: シソーラス,同義語,類義語,データベース,インターネット,検索,辞書,表記,正式名称,情報検索

連載:HUMIプロジェクトの貴重書デジタルアーカイブ(第11回)
貴重書デジタルアーカイブと公開について

樫村 雅章
かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1646(原稿受領 2006.12.28)

 デジタルアーカイブとは,文化財のデジタル化によって得られる価値の高いデジタル情報を安全かつ確実に保存し,有効活用するためのシステムである。 HUMIプロジェクトでは,保存用のデジタルファクシミリのための内部的なデジタルアーカイブと,Web公開のためのデジタルアーカイブとを別々に構築し運用している。また,Web公開における画像の表示には画像配信サーバを利用している。今回は貴重書のデジタルアーカイブとその公開に関して概説し, HUMIプロジェクトが関係するいくつかのデジタルアーカイブのWeb公開事例を紹介する。

キーワード: 貴重書,デジタルアーカイブ,デジタル画像,デジタルファクシミリ,HUMIプロジェクト,画像配信サーバ

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