「情報の科学と技術」 抄録

Vol. 57 (2007), No.1

特集=「韓国のいま」

2007年 年の初めに

社団法人 情報科学技術協会
会長 立花 肇

 明けましておめでとうございます。
 2007年のスタートにあたり,一言ご挨拶を申し上げます。
 わが国の景気もようやく上昇気流に乗り始め,各方面における情報活動も今年は大いに活発化することが期待されます。経済やビジネスの活発化により,ビジネスチャンスが多くなり,情報を目指す若者達も増加することでしょう。今年も会員の皆様をはじめ,関係者各位の大いなる活躍を期待してやみません。
 情報科学技術協会は,情報活動に携わる人達からなる団体であり,会員の皆様の情報活動を支援するために様々の活動を展開しております。情報活動に関心を持っており,まだ会員でない方は,ぜひ私達と一緒に活動すべく,入会されることをお勧めいたします。
 独立行政法人科学技術振興機構(JST)と共催で毎年開催している「情報プロフェッショナルシンポジウム」も昨年で3回目となり,各方面から多数の参加者を迎えて大変好評でした。今年も11月に第4回を開催する予定でおります。「サーチャー試験」の愛称でおなじみの情報検索能力試験も,おかげさまで年々受験者が増加し,受験のための講習会やテキスト販売も好評をいただいております。これらはひとえに皆様のご支援と関係者のご努力によるものであり,深く感謝いたします。
 当協会の会誌「情報の科学と技術」は情報科学をめぐる最新の話題やニュースをお届けしており,また会員の研究成果を発表する場ともなっています。本誌は会員の皆様に配布するほか,多くの図書館などでご購入いただいております。今後とも読者のご要望にお応えして,価値ある情報をお届けしたいと考えております。
 昨年はシンポジウム,セミナー,情報検索能力試験,会誌などを通じて多くの新入会員を迎えることができました。今年も当協会の活発な活動を通じて,多くの会員をお迎えし,ますます活発な協会となるよう努力する所存です。
 皆様の各方面でのますますのご活躍とご健勝を祈念いたします。

特集「韓国のいま」の編集にあたって

 韓国のIT環境は,すでに日本を抜き去っていると言われています。編集子の個人的感想かもしれませんが,図書館事情や情報の提供技術を議論するとき,どうしても欧米の成果に偏向する傾向があり,アジア諸国,とりわけ最も身近な国である「韓国」の図書館・情報化社会の現状については,まだ日本で十分に周知されていないように思われます。
 今回の特集では,総論として韓国の図書館情報政策を総括的に解説していただきました。そして,続く各論で様々な観点から韓国の現状と事例を紹介していただきました。韓国の図書館界,情報社会や情報環境を知る契機にしていただければ幸いです。
(会誌編集担当委員:深澤剛靖,木下和彦,塩見万里子,吉田拓也)

韓国における図書館情報政策

金 容媛
きむ よんうぉん 駿河台大学文化情報学部
〒357-8555 埼玉県飯能市阿須698
Tel. 042-974-7123(原稿受領 2006.10.16)

 図書館情報政策は国の包括的な情報政策の一つであり,国家発展に直結する情報資源の統括と,国民の情報アクセス権と知る権利の保障を目的とするものである。本稿では,韓国における図書館情報政策を,関連する法・計画,行政・政策決定機関,推進体制を中心に概観する。また図書館および情報化の現況や図書館・情報資源管理を取り巻く最新の動向について紹介する。図書館情報政策に影響を及ぼす図書館情報関連の専門団体,学会,教育機関等についても説明する。

キーワード: 図書館政策,情報政策,図書館関連法,知識情報資源管理,韓国

韓国国立中央図書館の現状
−図書館情報化推進策と公共図書館振興策を中心に−

゙ 在順
じょ じぇすん 韓国芸術総合学校 芸術情報館
〒136-716 韓国ソウル特別市城北区石串洞山1-5
Tel. +82-2-746-9100(原稿受領 2006.10.23)

 韓国国立中央図書館は,2005年を前後にして大きな変化を迎えている。2004年11月,文化観光部から図書館情報政策の執行機能が移管された以降,国立中央図書館は組織の改編とともに,政策ビジョンの公表,「小さな図書館振興チーム」の発足および「国立子ども青少年図書館」の開館,2008年開館予定の「国立デジタル図書館」の建設などを推進している。本稿では,ビジョン「国立中央図書館2010」について考察し,同館の推進政策を図書館情報化と公共図書館振興の推進に大別し考察する。また,今後設置される「図書館情報政策委員会」との関係定立および政策機能の再調整についても展望する。

キーワード: 国立中央図書館2010,小さな図書館,国立子ども青少年図書館,原文データベース,国家資料共同目録システム,RFIDシステム,国家電子図書館,OASISプロジェクト,国立デジタル図書館,図書館情報政策委員会

韓国データベースサービス産業の動向と展望

金 宣伶
キム ソンヨン 韓国データベース振興センター
韓国 ソウル 中区 茶洞 10
Tel. 82-2-3708-5415 (原稿受領 2006.10.22)

 2005年の韓国データベースサービス市場は4,739億ウォンと集計されており,これは2001年以降年平均30%も増加した数値である。本稿では,このように成長を続けている韓国データベースサービス市場の動向および利用現況と関連政策に対して概括的に紹介し,さらに更なる成長を続けるための現状の問題点と当面課題に対して見つめてみる。

キーワード: 韓国,データベース産業,データベースサービス,政策,オンラインデータベース,モバイルデータベース

韓国における知的財産権事情−模倣から反撃への変貌−

武藤 晃
むとう あきら 潟jッポンテクニカルサービス 代表取締役
〒102-0083 東京都千代田区麹町4丁目3番地麹町4丁目ビル
Tel. 03-3265-1955 Fax. 03-3234-1956(原稿受領 2006.10.23)

 世界知的所有権機構(WIPO)がまとめた世界各国の特許出願状況によると,2004年度の総数は159万9千件あり,日本の約54万件がトップ,2位はアメリカの約34万6千件,3位は韓国の約15万7千件だった。韓国における特許大国への変貌のきっかけは,1990年代後半の金融危機を克服するIT 産業界への政府のてこ入れに端を発した技術進歩と,模倣や輸出拡大に伴なう海外企業からの猛烈な特許攻勢に対する防御のための自前の特許取得への発起である。特許大国への強い志向は,過去から脱却し,やがて,世界に対して反撃に転ずる道を切り開くように見える。産業立国から知財立国へ舵をきった日本との対比において,韓国における知的財産権の急成長の背景を探る。

キーワード: 韓国,知的財産,特許大国,IT産業,特許攻勢,外資導入,模倣,反撃,知財立国,金融危機

韓国のネット利用と図書館情報化事情

竹井 弘樹
たけい ひろき iNEO(株)
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-5-16晩翠ビル2F
Tel. 03-5501-3232(原稿受領 2006.11.6)

 韓国では図書館サイトへインターネットを通じてアクセスし,いつでもどこからでも無料で電子ブックを貸出・返却できる図書館サービスが行われている。これはブロードバンドに対応できる国民の情報化において,地域差やIT習熟度による情報格差を解消する目的で,国家主導で始められた図書館サービスである。 21世紀知識情報化時代の中心的役割を担う利用者の便宜を中心とした図書館の新しい姿として登場した韓国のデジタル図書館。そのねらいとそれを実際に利用しているケースなど,現地のインターネット事情および環境的な背景,利用状況などと照らし合わせながら紹介をする。

キーワード: 韓国図書館,デジタルライブラリ,ハイブリット図書館,韓国インターネット,図書館の未来像,電子ブック,著作権,ユビキタス

投稿:英国の図書館情報学分野の専門職能力開発におけるポートフォリオ評価

呑海 沙織
どんかい さおり 奈良女子大学附属図書館
〒630-8506 奈良市北魚屋西町
Tel. 0742-20-3303(原稿受領 2006.10.24)

 「ポートフォリオ評価」(portfolio assessment)は,学習における個人能力の質的評価方法のひとつであり,学習者が学習過程において作成したものや獲得したものを収集・選択・蓄積し,自己・他者評価を行う評価方法である。英国では,大学等高等教育における図書館情報学教育および情報プロフェッションの専門職団体であるCILIPの資格認定制度において,ポートフォリオ評価が採用されている。本稿では,専門職能力の評価方法のひとつとして,ポートフォリオ評価を取り上げ,考察を行う。

キーワード: CILIP,ポートフォリオ評価,図書館情報学教育,資格制度,専門職能力養成,英国

連載:HUMIプロジェクトの貴重書デジタルアーカイブ(第10回)
HUMIプロジェクトによるデジタル書物学

樫村 雅章
かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
Tel. 03-5427-1646(原稿受領 2006.9.20)

 HUMIプロジェクトでは,貴重書のデジタル化によって得られる画像の研究利用についても活動初期の頃から取り組んでおり,書誌学をはじめとする人文科学系の研究分野において,デジタル画像の利用とコンピュータの活用によって進められる新しい方法による研究を「デジタル書物学」と呼んでいる。今回は HUMIプロジェクトによるデジタル書物学について,画像を利用する際のコンピュータの活用度合いに応じた3つのレベルに従って,研究事例の紹介を交えながら説明する。また,人文科学分野におけるデジタル画像の研究利用の一般化に向けて,考慮すべきことなどについて述べる。

キーワード: HUMIプロジェクト,デジタル画像,デジタル書物学,デジタルファクシミリ,貴重書,グーテンベルク聖書,奈良絵本,キャクストン,初期印刷本

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