情報の科学と技術
Vol. 53
 (2003), No.12
特集=電子図書館 Part-2


特集「電子図書館 Part-2」の編集にあたって

 1990年代初頭に世界中で大規模な電子図書館プロジェクトが開始されて以来,10年が経過しました。本誌1999年6月号の特集では,これらのうち,アメリカやイギリス,国内については国立機関の動向を中心にご紹介しました。
 各プロジェクトがとりあえずひと段落した現在,電子図書館事業に携わる人々は21世紀にふさわしい電子図書館像を模索しているように思われます。
 今回の特集では,中国や国内私立大学,企業などの動向も取り上げてみました。国内においても,電子図書館事業を一過性のプロジェクトで終わらせることなく,コンテンツ管理までを視野に入れた正式な研究運用組織を設置する機関が出現し始めています。また,これまで技術開発が先行してきた電子図書館は,図書館サービスとしても確実に定着してきていることが伺えます。
 電子図書館とは何かという根源的な問題に立ち返りながら,いわゆる電子図書館と呼ばれるものを現在どのように自己評価するのか,また,電子図書館を評価する枠組みとはどのようなものであるべきなのかを考えていただき,新たな電子図書館像を構築する上での一助としたいと思います。
 (会誌編集委員会特集担当委員:大田原章雄,荘司雅之,深澤剛靖,宮入暢子,茂出木理子)

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新たな電子図書館像の構築に向けて
杉本重雄* 
*すぎもと しげお 筑波大学・図書館情報学系,知的コミュニティ基盤研究センター
 〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
 Tel. 029−859-1348(原稿受領 2003.10.15)

 90年代のインターネットの爆発的な広がりによって我々の情報環境は大きく様変わりした。このことは 図書館の環境にも大きな影響を与え,電子図書館が注目され,研究開発が盛んに行われてきた。本稿では, これまでの研究開発を振り返り,電子図書館を指向した情報技術の研究プロジェクト,図書館を基礎にしたサービスにおける取り組み,インターネットの視点から見た電子図書館の取り組みについて述べる。その後,相互運用性,ディジタルコンテンツの長期保存といった電子図書館における課題について,メタデータ を中心にした視点から述べ,IFLAのFRBRモデルやOAIS参照モデルなどを紹介する。

キーワード:電子図書館,メタデータ,情報技術,インターネット,WWW,相互運用性,ディジタルコンテンツの保存

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中国の図書館と電子図書館プロジェクト―中国電子図書館プロジェクトを中心に―
安藤一博*
*あんどう かずひろ 国立国会図書館関西館資料部アジア情報課
 〒619-0287 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3
 Tel. 0774-98-1383(原稿受領 2003.10.6)

 1990年代中頃より中国の図書館は電子図書館の研究開発をすすめて きた。そして,研究,実験の段階を経て,本格的なデジタル図書館建設 を目的とした中国電子図書館プロジェクトが,2000年に立ち上げられ た。本稿では,背景となる図書館資料費の不足と情報基盤の普及を概観 し,中国電子図書館プロジェクトを中心に中国における電子図書館に対する取り組みについて考察した。

キーワード:中国,インターネットの普及,電子図書館,図書館情報資源の共有化,中国電子図書館プロジェクト

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デジタル・コンテンツの研究運用組織について
樫村雅章*
*かしむら まさあき 慶應義塾大学HUMIプロジェクト
 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
 Tel. 03-5427-1646(原稿受領 2003.9.22)

 慶應義塾は1996年にグーテンベルク聖書を収蔵し,それを機に慶應 義塾大学HUMIプロジェクトを創設して,貴重書のデジタルアーカイブに 関する研究とデジタル化の実践,デジタル画像を用いた書物学研究を進 めてきた。まずその活動ぶりをふりかえり,HUMIプロジェクトを継承・包含する形で,より広範な資源を対象にデジタルアーカイブをはじめと するデジタル・コンテンツの集積・管理・公開を行うことを目的とし て,2002年に慶應義塾大学デジタル・コンテンツ研究運用機構を創設するに至った経緯を紹介する。そして,デジタル・コンテンツとその研究や運用を行っていく組織のあり方について考える。

キーワード:デジタル・コンテンツ,デジタルアーカイブ,デジタル化,貴重書,電子図書館,デジタルミュージアム

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法政大学大原社会問題研究所におけるOISR.ORG構築の取り組み
若杉隆志*
*わかすぎ たかし 法政大学大原社会問題研究所
 〒194-0298 東京都町田市相原4342
 Tel. 042-783-2306(原稿受領 2003.9.19)

 法政大学大原社会問題研究所は,社会・労働問題の研究所であると 同時に専門図書館・文書館であり,文献情報センターとしても機能して いる。研究所は,1996年にWebサイトを立ち上げた。当初は研究所案 内,文献データベース,リンク集によって構成されていたが,その後, 研究所刊行物の全文情報,ポスター,書簡などの画像資料,史料類のリ ストなど所蔵資料,研究資源のコンテンツの公開に努めてきた。現在は社会・労働分野では代表的な総合サイトとしての評価を受けている。Web サイトの目的は研究所の諸活動の発信及び労働分野でのコア・サイトである。サイト構築にあたっては使い勝手のいいデザイン,検索の利便性 などを所内で議論しながらメンテナンスしている。

キーワード:労働問題,労働運動,社会問題,インターネット,法政大学大原社会問題研究所,オイサーオルグ,OISR. ORG,アーカイブ

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企業における電子図書館の公開
和地栄一*
*わち えいいち (株)NTTドコモ 社会環境室
 〒100-6150 東京都千代田区永田町2-11-1
 Tel. 03-5156-1440(原稿受領 2003.9.12)

 営業開始10周年を記念して社会貢献活動の一環として,社会的・文化的に価値があるにもかかわらず失われつつある日本文化をデジタルア ーカイブとして保存するというコンセプトのもと,事業活動である「情 報通信」のテーマも含めた電子図書館を構築した。本稿ではドコモ電子図書館のコンテンツ内容やユーザーからの反応について紹介し,今後の課題について述べている。

キーワード:電子図書館,移動通信,子ども,紙芝居,民話

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電子図書館の評価
谷口敏夫*
*たにぐち としお 京都光華女子大学文学部
 〒615-0882 京都府京都市右京区西京極葛野町38
 Tel. 075-325-5342(原稿受領 2003.9.29)

 日本においては,電子図書館を評価する枠組みがあまり論議されていない。本論は,電子図書館が提供するサービスの種類,コンテンツの重要度,人・資源・道具,ユーザビリティなど,評価の尺度をどのように設定すべきかを,事例を紹介しながらまとめた。の特許情報にアクセスする方法も検討した。

キーワード:電子図書館,評価,京都大学附属図書館,国立国会図書館,スタンフォード大学図書館

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寄稿:韓国の特許データベース「KIPRIS」
酒井美佳子*
*さかい みかこ (株)テクノクリエイティブズ 調査解析部
 〒392-8502 長野県諏訪市大和3-3-5
 Tel. 0266-52-7271(原稿受領 2003.9.24)
 (注)本稿は平成15年6月20日のINFOSTAシンポジウム2003での発表内容に加筆修正したものである。

 ここ数年,韓国企業の活発な活動ぶりが注目されている。設備投資や研究開発活動の旺盛さが目を引くとともに,韓国特許への注目度も年々高まってきているといえる。韓国特許の情報源は商用データベースや,英語で調査できる無料データベースなどが従来から利用されているが,英文に翻訳されるがゆえにタイムラグが大きい,審査情報を知ることが困難である,というのが現状であった。
 日本EPI協議会では,韓国語版の特許データベース「KIPRIS」の収 録情報の特色や利用方法をテーマに研究活動を行った。また,ハングル文字/韓国語の特許情報にアクセスする方法も検討した。

キーワード:特許情報,韓国特許,特許検索,KIPRIS,Webサイト,審査経過情報

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