情報の科学と技術
Vol. 53
 (2003) ,No.3
特集=人材育成


特集「人材育成」の編集にあたって

 昨今,第三次産業化が進んだ先進諸国においては,過去の第一次・第二次産業を中心とした時代のような目に見える経済成長の時期は終焉し,新たな成熟に向けた対応が望まれています。このような右肩上がりの変化は望み得ないような状況において,組織が保有できるリソースには自ずから限界があることを思えば,組織のパフォーマンス向上のための効果的な手段のひとつとして考えられることは,現有リソースの有効活用を図ることであると言えるでしょう。
 ヒト,カネ,モノと概略3分されるリソースにおいて,ヒトというリソースに関しては,パフォーマンス向上に直結するものとして人材育成があります。組織のミッションに他のリソースも含めていかに人材育成を統合していくかが,現在の厳しい競争的環境において積極的に取り組むべき今日的な課題として改めて浮上してきていると思われます。
 情報専門職の育成については,例えば大学・研究機関においては主題知識の専門職である研究部門スタッフと共働するなかで,情報部門スタッフには合意形成,流通改善,コスト管理,権利処理といった情報ブローカーとしての役割分担が期待されるようになって来ています。さらに企業等においては,営業事業部門への付加価値サポートの質が組織の明暗を分けるようなこともあるでしょう。しかしこのような需要に対して,専門職集団としての職能はまだ十分に認知されていないようです。
 本号特集では,人材育成に関して様々な切り口から迫ってみました。これから我々はどのように行動して行くのか,皆様の主体的なご判断の参考になれば幸いです。
 (会誌編集委員会特集担当委員:山本和雄,伊藤 淳,北島由紀子,新保佳子,都築埴雅,村上勝美)

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図書館界における人材の育成:現状と問題点
高山正也* 
*たかやま まさや 慶應義塾大学文学部
 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
 Tel. 03-3453-4511(原稿受領 2003.1.7)

 日本の情報問題の論議において図書館の視点が欠落しており,合わせて情報専門職論では図書館員について語られることが少ない。日本の図書館界での専門職として代表的な資格は司書である。司書の資格とは本来公共図書館員の資格であるが,専門の資格が存在しない大学図書館や専門図書館でも司書の資格が専門資格として利用されてきた。しかし,現在の進歩した情報環境の下で,司書の資格では公共図書館の世界でも十分ではなくなっている。そこで,大学図書館や専門図書館では国際的な水準に合わせた図書館専門職が必要になる。それ故,これからの図書館専門職の養成には,北米での養成のあり方が一つのモデルになると思われる。

 キーワード:情報専門職,司書,図書館員養成,司書講習,司書課程,図書館法,図書館学校,情報専門職団体

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人材育成のための諸要件
-組織,マネジメント,適正評価,モチベーションなど-

村橋勝子* 
*むらはし かつこ (社)日本経済団体連合会社会本部情報メディアグループ
 〒100-8188 東京都千代田区大手町1-9-4
 Tel. 03-5204-1611(原稿受領 2003.1.28)

 情報環境の変化・進歩に伴って,ライブラリアンの役割も拡大・高度化が望まれているが,あるべき姿と実際のレベルが乖離しすぎているきらいがある。人材育成にあたって重要なのは,仕事の意味づけであり,また,一般論,抽象論ではなく,具体的に考える必要がある。目標を明確に定め,教育機関,職能団体,現場と,三位一体となり,プログラムも常に更新しなければならない。
 モチベーションを高めるのは,風通しの良い,フラットな職場である。適正な評価の前提として教育機会を与え,業務分析も行う必要がある。そのためには管理職が果たすべき役割が大きいが,スタッフ以上に管理職の意識改革が望まれる。

 キーワード:ライブラリアン,司書,専門職,人材育成,マネジメント,管理職,組織,適正評価,モチベーション

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専門家集団のスキルアップ
松山裕二* 
*まつやま ゆうじ ゼファー株式会社
 〒228-0011 神奈川県座間市相武台1-4513-1 スタープラザ相武台駅前705号
 Tel. 046-259-2173(原稿受領 2002.12.15)

 政治やビジネスの世界では,制度や人材において時代の要求と現実にはずれがあることが数多くみられる。急激に変化する社会では,新しい時代を担う政治家や経営者は,現在とは全く違う環境で育った人々である。それらの人々が様変わりした時代を導いて行かなければならないとすれば,どのような工夫が必要であろうか? 科学技術や学術情報の世界も例外ではない。将来に対応できる人材の育成は時代の急務の一つとなっている。著者は,データベースや電子ジャーナルの教育を担当してきた。教育対象者は,情報専門家からエンドユーザーに及んでいる。特に,1999年以降に経験した電子ジャーナルのトレーニングを基にして標題について考えてみる。

 キーワード:専門家集団,スキルアップ,トレーニング,トレーナー,組織的対応

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企業内資料センターにおける人材育成
越山素裕* 
*こしやま もとひろ 清水建設梶@情報ソリューション本部 システム計画部
 〒105-8007 東京都港区芝浦1-2-3
 Tel. 03-5441-0122(原稿受領 2002.12.25)

 図書館・資料室は,予算削減,人員削減と非常に厳しい環境の中におかれている。そのような中,資料室の人材はどのような能力を必要とされているかが,この状況を打開する重要なファクターであるといわれている。そこで,過去の経験から,どのような能力が必要であるか,またそれはどのように身につけるか,また後輩に伝承していくかを考えていく。

 キーワード:人材育成,データベース,マーケットイン,資料室,図書館

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社会人が大学院を利用する人材育成プランの実際と対策
-社会と折り合いをつけながら如何に志を実現するか-

大矢一志* 
*おおや かずし 丸善
 〒103-8245 東京都中央区日本橋2-3-10
 Tel. 03-3272-7211(原稿受領 2002.12.24)

 大学院を利用した人材育成プランは,制度としてまだ社会に受け入れられていない。この状況下では,個人がプラン実現のために努力する必要がある。プランを上申するまでには,1) 大学院利用の教育プランの損得の整理,2) 個人資質の向上,3) プランについての誤解を解消する努力,4) 詳細な企画・計画書の準備などが必要になる。本稿では,これら準備や企画・計画書で書くべき内容のポイントを整理する。途中,いち事例を紹介し,最後に,心構えについてささやかな提案をする。

 キーワード:社会人,大学院,人材育成プラン,社会人学生,研鑽,研究,実学

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寄稿
インデクシングと検索の両視点から特許情報検索システムの今後の方向をさぐる(考察と提案)
-Fugmann(フーグマン)の自明な5原則ルールの示唆-
桐山 勉*1,長谷川正好*2,川島 順*3,玉置研一*4,吉田郁夫*5,辻川剛由*6
情報科学技術協会・パテントドクメンテーション部会
*1きりやま つとむ 樺髏l技術情報
 〒100-8585 東京都千代田区内幸町二丁目1番1号(飯野ビル)
 Tel. 03-3506-4450
*2はせがわ まさよし 元樺髏l技術情報
*3かわしま じゅん はやぶさ国際特許事務所
 〒104-0032 東京都中央区八丁堀1丁目4番5号,川村八重洲ビル4階
 Tel. 03-5541-8200
*4たまおき けんいち (財)日本特許情報機構
 〒135-0016 東京都江東区東陽町4丁目1番7号,佐藤ダイヤビルディング
 Tel. 03-3615-5511
*5よしだ いくお 元 三共
*6つじかわ たかゆき 鰹報管理研究社
 〒151-0053 東京都渋谷区代々木町2丁目6番8号,中島第1ビル6F
 Tel. 03-3379-5556
(原稿受領 2002.11.18)
(注) 本稿は平成14年6月のINFOSTAシンポジウム2002での発表内容に加筆修正したものである。

 フーグマンの自明な5原則ルールが示唆するところをデータベース作成側と検索者側の両視点から見直し,データベースを検索する際の再現率と適合率の両方を高めるためには特許情報検索システムをどうしたら良いか考察した。
 検索システムの改善のためと,支援ツールとインターフェースの実現のために,小職の7つの夢を紹介する。

 キーワード:インデクシング,分類,自然語,検索システム,再現率,適合率,質問シソーラス,文法,データベース

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